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■女子大生たちの男女混乱(11)

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目が覚めたのは(土曜日の朝)10時である。千里は車をそのまま大阪方面に向ける。千里は勘に頼って車を走らせている。やがて吹田JCTに到達する。大阪に来る時はここで大阪中央環状線(府道2号)の西向きに入り、千里(せんり)ICで降りて貴司のマンションに行くことが多い。しかし今日は中央環状線の東向きに入って、一津屋で降り、摂津市内の道を走る。ガソリンスタンドを見かけたので給油して満タンにする。それで更に走っていると、やがて見知った人影を見て車を停め、声を掛けた。
 
「こんにちは」
 
その人物はびっくりしたようにしてこちらを見る。
 
「こないだのファミレスのウェイトレスさん?」
「覚えてくださってましたか。研二さんとおっしゃってましたよね?」
「うん。僕は美人は覚える。でも僕今日はこういう格好なのに」
 
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研二は可愛いブラウスに膝丈スカートを穿いてOL風である。足にも可愛いミュールを穿いている。お化粧もしているし、ウィッグだろう、髪も長い。でも言葉は男言葉だし、声も男声だ。
 
「女性同士って、服装やお化粧で雰囲気が大きく変わるのに慣れてるから認識能力を鍛えられるんですよね」
「ああ、そうかも知れない」
 
「どちらに行かれます?」
「阪急の駅まで行ってから大阪市街に出て、ブティックとかアクセサリーショップとか見て、ご飯でも食べようかと思っていた」
「じゃ、ちょっと乗られません?」
「え?いいの?」
「袖振り合うも多生の縁で」
 
向こうは千里が日常生活圏の外の人物なので恥ずかしがらずに気を許した感じもあった。
 
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さすがに助手席は遠慮して後部座席に乗り込む。それで車を出して少し会話する。
 
「申し遅れました。私、村山です」
「僕は沢居。君、あのふたり、両方知っていたみたいだった」
「どちらもお友だちですよ」
「へー。じゃ、あれ元々緋那と桃香が会っていたの?」
「お互いは面識なかったようです。別々にご来店なさって、混んでいたので相席をお願いしたんですよ」
 
「物凄い偶然だね!」
「沢居さんも、ご出張か何かだったんですか?」
「そうそう。仕事の打ち合わせが深夜に及んで。12時過ぎると飯食う所が激減するからね。かなり探した末にあそこに辿り着いた」
 
「それはお疲れ様でした」
 

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その後少し世間話をしていたが、沢居は基本的に男性的な話し方をする。この人はMTFという訳ではなく単に女装趣味なのかなと千里は思った。それにしては、お化粧もうまいし、不自然さが無い。多分女子トイレに入っていっても誰も変には思わない。
 
「ところで、この車、どこ向かってんの?」
「え? あれ? 私、どこに行ってるんだろ?」
「取り敢えずどこか阪急かJRの駅にでも行ってくれると」
「すみませーん」
 
バックミラーで見ると、沢居は女ドライバーって全く!みたいな顔をしている。あはは。そういえば私って、ふだんはあまり目的地意識しないで運転しているかも!?
 
ところがその千里の目の端に、チラリと見覚えのあるアウディA4が映る。ん?と思ってナンバープレートを見ると、貴司の車である。千里は静かにインプをそのアウディの真後ろに停めた。ここはモノレールの南摂津駅である。
 
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「ごめん。モノレールだと市街に出るのが不便だから、できたら阪急かJRの駅が助かるんだけど」
と研二が言うが、千里は
 
「沢居さん、ちょっと降りません」
と言う。
 
「うん。いいけど」
と言って、ふたりは車を降りた。
 
千里がアウディの運転席の窓をトントンとする。貴司がびっくりしたような顔をして運転席から降りる。
 
「千里、どうしたの!?」
と貴司は言うが、千里は
「その質問はそのまま貴司に」
と答える。
 
その時、研二がふと駅の方を見た。駅から、ライトグリーンの可愛いワンピースを着た女性が出てくる。そしてこちらを見て、びっくりしたような顔をする。
 
しばらく4人とも声が出なかった。
 
「緋那、可愛い服着てるね」
と最初に研二が声を出した。
 
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「研二も可愛い格好してるじゃん。女装はやめたと言ってたけど、まだやってたんだ?」
と緋那。
 
「高校時代だけで卒業するつもりだったんだけどねー。女の格好して外を歩くのって、ストレス解消にいいんだよ。女子トイレに籠もってちょっとおいたするのとか病みつきになりそうだし」
 
「今度、研二が女子トイレに居る時に通報しよう。でも女装を唆したのは私だからなあ。少し責任は感じるけど。でも、今日はどうしてこういうメンツが集まっているのよ?」
と緋那。
 
「偶然。緋那さん。私のインプ使っていいよ」
と言って千里は自分の車のキーを緋那に渡す。
 
「ガソリンはさっき満タンにしたから大丈夫と思うけど、足りなかったら適当に入れて。ETCは差したままだから、高速代はあとで貴司に適当な額を渡しておいて。車は貴司のマンションの来客用駐車場に返しておいて。合い鍵持ってるから、車庫に入れられるよね?」
「あ、うん」
 
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「じゃ、後はよろしく〜」
と言って千里は貴司の腕を引っ張ると、自分はさっさとアウディの助手席に乗り込んでしまう。
 
貴司が慌てて運転席に座り、アウディは発進した。
 
緋那と研二が取り残される。
 
「あ、えっと・・・」
「取り敢えずどこかで御飯食ぺない?お昼にはまだ早いけど」
 
緋那はチラっとインプの車内を見る。
 
「私、MTは教習所出たあと運転してない。研二、運転できる?」
「うん。大丈夫だよ。助手席に乗りなよ」
「うん」
 
それでふたりも千里のインプレッサに乗る。研二はミュールなのでそれを脱ぎ裸足でペダルを操作して車を発進させた。
 

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一方のアウディの車内。
 
「もう緋那は室内には入れてないからも何もあったもんじゃないね。外でデートしてるんなら、そりゃ室内に入れる必要ないかも知れないけど。指輪返すよ」
 
と怒ったように言って千里は自分のバッグの中から先日もらったアクアマリンの指輪を出すと貴司の膝の上に乱暴に置く。
 
「ごめん。本当に緋那とはもうデートも何もしてない。今日は折り入って相談があると言われて、相談だけならといって会うことにしたんだよ」
 
「もう少しマシな言い訳考えたら?二股男さん。緋那にも指輪買ってあげたんじゃないの?今日は素敵なホテルに行くつもりだった?」
 
「そんなことない。決して二股はしてない。僕が結婚したいと思っているのは千里だけだよ。誓って、ほんとに緋那とは何もないんだから」
 
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千里は貴司を殴りたい気分なのをぎりぎりで抑えていた。
 
「だったらマンションの鍵は返させなよ。それとも私が鍵を返した方がいい?」
「分かった。返してもらう。千里は持っていて欲しい」
「携帯に着信拒否を掛けてよ」
「うん。そうする」
 
「ついでに**ちゃんとも**ちゃんとも別れて欲しいんだけど」
「なんでその名前を知ってるの〜!?」
 
「新大阪駅まで送って。私、帰るから」
「だけど千里、さっき自分の車を緋那に貸したじゃん。それを受け取らないといけないのでは?」
 
くっそー。レンタカーにすべきだったか?
 
「だったら後で連絡してよ。車だけ取りに来るから」
「それ大変すぎる。今夜どこかに泊まる? ホテル代は僕が出すからさ」
 
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何だか物事が全然噛み合ってないぞ。だめだこりゃ。一度自分を冷静にしないと、とんでもないことを言ってしまいかねない。
 
「どこのホテル?」
「じゃ奮発して帝国ホテル大阪」
「緋那と行くつもりだったの?」
「そんなことしてないって」
 
「大阪帝国ホテルじゃないよね?」
「さすがにそこまではケチらないよ!」
 
帝国ホテル大阪は東京の帝国ホテルと同系列で1泊5〜6万円くらいする。大阪帝国ホテルは安いビジネスホテルで6000円くらいで泊まれる。
 
「ホテル代もったいないから、貴司んちに泊めてよ。その代わり豪華松阪牛のロースでも買って来て。それ焼いて私ひとりだけで食べる」
 
千里は《ひとりだけ》というのを強調して言った。
 
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「分かった。じゃマンションに寄せるよ」
 
それで貴司がアウディを自宅マンションに向ける。そして中に入ると千里はベッドに入って「寝る」と宣言して布団をかぶって眠ってしまった。
 

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目が覚めたらもう夜の12時近くである。半日以上寝ていたことになる。
 
起きてトイレに行くと、居間で貴司がバスケ雑誌を読んでいる。貴司ってもう少し色気のある雑誌は読まないのかね〜。メンズ・ノンノとか読んでもいいだろうに。服装はいつも適当だもんな。きっと頭の中の95%くらいがバスケのことなんだ。でも女の子に対して無防備すぎるんだよね。言い寄られると取り敢えずお茶飲んだりしてしまう。
 
「お早う。牛肉買って来たけど」
と言って貴司が見せるのは、グラム3000円のお肉、300gである。まあ良さめのビジネスホテルに1泊するくらいの値段か。
 
「御飯あるんだっけ?」
と言ってジャーをのぞく。御飯はあるが・・・
 
「これいつ炊いた御飯?」
「忘れた」
 
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うむむ。見た感じ、とても人間が食べられる代物ではなくなっている感じだ。ひからびすぎて、もう糊にでもするしかない感じ。
 
「じゃ、御飯炊こう」
と言って千里はお米を3合研ぐと、炊飯器に入れ、早炊きでスイッチを入れた。
 
「付け合わせの野菜あるかなあ」
と言って冷蔵庫や棚を見るが、何にも無い。
 
「ちょっとコンビニまで行ってサラダでも買ってくる」
「うん」
 

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それで鍵を持っていることを確認してマンションを出て近くのコンビニに行く。そしてサラダとティラミス2個入りに冷凍ピザを買う。それで戻ろうとしていたら、千里のそばに車が駐まる。
 
自分のインプだ!
 
緋那が運転席の窓を開けて
「ちょっと乗りません?」
というので、千里はインプの助手席に乗り込んだ。緋那が車を出す。千里ICに乗る。中央環状線を西行する。
 
「今夜泊まるんですか?」
と緋那が訊く。それ答える必要無いんだけど。
 
「泊まるけど私がベッドで寝て、貴司は居間のソファかな」
 
緋那が笑っている。
 
「研二さんとは?」
「広島まで行って、牡蠣フライとお好み焼き食べてきた」
「ああ、牡蠣もいいなあ」
「女同士で行動するのって便利なのよー。トイレにも一緒に並べるし」
「それは確かに女同士なら便利かも」
 
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といいつつ、千里は貴司が緋那に惹かれた理由が少し分かった気がした。
 
「ついでにMTの運転の仕方も習って、帰りは交互に運転してきた。私教習所出たあと、きれいに忘れてたんですよ」
「ああ、使ってないと忘れますよね」
 
「恋人になってくれと言われた」
「どうするんですか?」
「こないだ千葉で会った時も言われたけど、あれは2年ぶりに会って突然だったから拒否したんだけど」
 
「けど?」
「今日は、自分には好きな人がいるから受け入れられないと返事した」
「そうですか」
「研二は諦めないと言った」
「それ、高校時代からずっと緋那さんのこと、思っていたのでは?」
 
「そう研二は言ってたよ」
「男の人って、相手と離れていても思いを持続できるみたい」
 
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「女はそれ苦手だよね」
「そうですね」
 
と言って、笑ったら、少し緋那と親近感が出た。
 

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