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■女子大生たちの男女混乱(3)

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「そうだ。北原君のお姉さんが、帰国したんですよ」
と新島さんが言った。
 
「元々北原とのつながりは、そのお姉さん経由だったんだよね?」
と雨宮先生が言う。
 
「私が高校で合唱部に居た時の外部指導者だったんですよ。フランスでだいぶ鍛えられてきたみたいです。それで取り敢えず食い扶持が無いので、後輩を頼るのも悪いけど、どこかの伴奏とかの仕事でもないだろうかと言われたんですけど」
 
「どこかの大学の先生になるとかは?コンクールで結構優勝したんじゃないの?」
「ひたすらクラシックやってたら、反動でロックやりたくなったそうです」
「じゃ、次はアメリカに留学してくるとか」
 
「フランス留学で2000万円使って、お金が無くなったそうです」
「お金が掛かるものなのね」
 
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「学生ビザだからバイトできなかったんですよね。でもそもそもバイトなんかしてたら勉強の時間がとれなかったはずです。アパルトマンは最低家賃の所にしたけど、音楽自体の勉強にはお金を惜しまなかったみたいですね。だから、できた友だちがアフリカや中東からの出稼ぎ労働者の人たちと、フランスやスイスのお金持ちのお嬢様たち」
 
「両極端ね。まあいいよ。音源製作の仕事、どこかにねじこんであげるよ」
「ありがうございます」
 
結局、翌週から半月ほど掛けて行われたチェリーツインの音源製作で北原さんのお姉さん(北原春鹿さん)はキーボード演奏で参加し、雨宮先生の助手も務めたようであった。年明けに発売されたチェリーツインの新譜は12万枚売れて、チェリーツイン初のゴールドアルバムとなる。その後も春鹿さんは1年ほどチェリーツインのアドバイザーのような立場にあった。
 
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年が押し迫ってくると、ファミレスも忙しい。千里は本来、火木土の夜にシフトを入れているのだが、この時期はそれ以外の日でも臨時に頼むと言われることが多々あった。しかし千里は夜勤していても、お客様から呼ばれた時以外は眠っているので、あまり体力を消耗せずに済んでいた。
 
この時期、クリスマスが近いということで、フロア係の制服もクリスマス仕様の特別なものになる。男女ともサンタクロースなのだが・・・
 
「店長、これ広瀬さんが着てるのと同じ仕様じゃないですか?」
「ああ、これはユニセックスなんだよ」
「ボトムはまるでタイツみたい」
「それは靴下付きのレギンスだよ」
「そうですか? それにこの上着、腰まであって裾がふわっと広がっていて、ワンピースのスカートみたいだし」
 
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「サンタクロースの服って、外側のコートの裾が広がっているでしょ」
「ああ、そういえばそうかな?」
 
まあ、男子の場合はボトムはズボンを穿くんだけど、村山君の場合は女子と同じタイツでいいよなあ、と店長は内心思っていた。
 
ということで千里は他のフロア係さんと同様のサンタガールのコスチュームを着て、この時期、レストランで働いていた。
 

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ある土曜日の晩は、桃香が疲れたような顔で出てくる。取り敢えず奥の壁際の席に案内すると
 
「千里〜。何でもいいから栄養のつくもの持って来て」
などと言うので
「お客様、牡蠣雑炊でよろしいですか?」
「うん。それで」
などと言って、テーブルに顔を伏せて眠ってしまう。
 
『この子、どのくらい眠るだろう?』
『30分は目が覚めないよ』
『じゃ30分後にオーダー入れるか』
『それがいいかも。俺がその時刻になったら教えてやるよ』
『さんきゅ』
 
ということでそのまま放置して寝せておく。
 
それで他のお客様の対応をしていたら、玄関から入ってくる客がいるので飛んで行く。
 
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
と言ってから、目を丸くする。相手も目を丸くしている。
 
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「緋那さん」
「千里さん、ここで働いてるんだ?」
「うん。夜間のバイト。私学生だから、昼間のバイトだと授業出られないから。こちらは出張か何か?」
「そうそう。ビジネスフェアのキャンギャルで来たけど、やっとさっき片付けが終わって。席空いてる?」
 
ふーん。私が働いている店でもいいのかと思い、店内を見回すがあいにく全席ふさがっている。うーん。桃香を更衣室にでも放り込んじゃうかな、などと思ったら《こうちゃん》が肩をトントンとする。まあ、それでもいいけどね。
 
「禁煙席の相席でもよろしいでしょうか?」
と緋那に訊く。
「うん、いいよ」
 
というので案内する。
 
「こちらでよろしいでしょうか?」
「いいけど、この子、なんか熟睡してるね」
「たぶんあと30分は起きないと思いますから、放置しておいてください」
「もしかしてお友だち?」
「そうそう。同級生」
「へー」
「ではご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい」
「うん」
 
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と言ってメニューを取って眺め始めた。
 
厨房の方に行きかけたら近くの席から
「お姉ちゃん、追加オーダー」
と声が掛かるので、エプロンのポケットから端末を取り出してご注文をお聞きする。
 

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緋那が入って来た頃がちょうどピークだったようで、その後、席が空くまで玄関の椅子で待たせたりなどという対応をとるまでもなく、客は、はけて行く。桃香も無事30分後に目が覚めたので、ちょうど仕上げた牡蠣雑炊を配膳していった。緋那の方もキャンペーンで疲れたようで、頼んだハンバーグステーキをゆっくり食べながら半分ぼーっとしているようだ。
 
そこに20歳くらいの男性が入ってくる。禁煙席がよいというのでお冷やを持って案内する。ちょうど桃香と緋那がいるテーブルの横を通る。
 
その時であった。
 
「ひいちゃん!」
とその男性が声をあげた。
 
ここでテーブルは入口側から行くと、桃香は背中向き、緋那はこちら向きに座っている。
 
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「けんじくん!?」
と緋那もびっくりしたような声を挙げる。
 
それで桃香はつられてその男性を見た。
 
「けんちゃん!?」
と桃香が声を挙げる。
 
するとその男性は
「ももちゃん!」
と更に驚いたような声を挙げた。
 

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席に余裕があるので、U字型に席があるテーブルの所に3人を案内移動させた。男性がU字の底の位置に座り、向かい合う位置に桃香と緋那が座る。
 
「お知り合いだったんですか?」
と千里は尋ねる。
 
「高校の同級生」
と緋那。
 
「中学の同級生」
と桃香。
 
「僕、中学まで富山で過ごして、そのあと父の転勤で大阪に出てそちらの高校に行ったんですよ」
と研二は言う。
 
「同じテーブルに案内しちゃったけど、よかったのかな?」
 
「僕はこれでいい」と研二。
「私はどうでもいい。そちらの子とおしゃべりするならどうぞ」と桃香。
「私は無視しておく。そちらの子を口説くならどうぞ」と緋那。
 
「ではごゆっくり」
と言って千里はテーブルを離れた。伝票立ては研二側に2本とも寄せておいたが、後で研二の注文を取りに行ったら、2本とも反対側に移動されていた。研二の伝票は別の伝票立てに立てた。
 
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3人は最初は世間話などしていたようだったが、やがて桃香が自分の伝票を持って席を立ち「アパートで寝直す」と言って帰って行った。その後、研二と緋那は明け方まで何やら話していて、結局5時半頃ふたりで一緒に店を出て行った。会計は研二がまとめて払った。
 

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「ちんちん付いてるんだ!?」
「うん。だから君とはセックスできない」
 
「可愛い君にこんなもの似合わないよ」
「でもあると色々便利なんだよ。女の子は喜んでくれるし」
 
「そんなことはない。君自身がとても可愛い女の子なのに」
「でもちんちん付いてるよ」
 
「こんなの切っちゃえばいいんだよ」
「そう簡単に言わないで」
 
「でも僕は君とセックスしたいから、これ切っちゃうもんね」
 
そう言うと彼は自分の荷物の中からガッシリしたカッターを取り出すと、そのおちんちんの根元に刃を当てて、すぱっと切り落としてしまった。
 
「これで君はもう女の子」
 

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連休明け。珍しく桃香が朝から出て来ていた。桃香は前期には1日中出て来ない日がよくあったものの、後期になると、取り敢えず出ては来るようになった。それでも朝には間に合わないことが多いので、だいたい1時間目は真帆や朱音が代返してあげている。
 
千里が
「桃香、朝から居るって珍しい」
と声を掛けると、
「いや実は昨夜からずっと起きてた」
などと言う。
 
「明日が危ないね!」
「うん。実は心配している」
「今日は早めに寝た方がいいよ」
「私、寝るのが下手なんだよねー」
「それで朝が苦手な訳か」
 
「でも不思議なんだよ。夏頃までは何だか凄く疲れて朝どころか夕方くらいまで寝ていることもあったのに、10月の下旬くらいからかなあ。そんなに疲れることが無くなった」
 
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「関東に出て来て、北陸と色々習慣の違いで疲れていたのかもね」
 
桃香は少し沈黙していたが
「ちょっといい?」
と言って、千里を連れて外に出る。隣の教室が空いているようなのでそこに2人で入る。
 
この日はまだ他の女子が来ていなかった。
 
「研二のことでさ」
「あの人と何かあったの?」
「まあ、わが人生唯一の汚点というか」
「恋人だったんでしょ? そんな感じに見えたけど」
 
「まだあの頃は自分がビアンだという認識が弱かったんだよ。他の女の子同様、男の子と恋をする自分をイメージしていた」
「それで恋人になったんだ?」
 
「でも思っていたのと違ってさ。恋愛ってこんなものだったの?とか思って」
「それで自分の恋愛指向を再認識したと?」
「そんな感じ」
 
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「彼から口説かれた?」
「実は昨日デートした」
「朝まで一緒に居たんだ?」
「うん」
「どうだった?」
「4年ぶりにしてちょっと懐かしい感覚だったけど、やはり、私は女の子とする方がいい。私はバイではないようだ。研二にもそう言って、彼は納得してくれたと思う」
 
「それでいいんじゃない? でも桃香、タチだよね?」
「私がネコな訳ない」
「男の子相手が合わなかったんじゃなくて、ネコ役したから違和感あったのだったりして」
「う・・・」
 
と声を挙げて桃香は悩んでいた。
 
「だけどちんちん付いててネコ役になる男の子っているのか?」
「うーん。ボクも分からないなあ」
と千里もイメージがつかめなかったので答える。
 
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「でも研二さん、緋那さんとも関わりあったみたいね」
と千里は気になっていたことを尋ねる。
 
「私が中学の時の恋人で、あの子が高校の時の恋人っぽい」
「ふーん」
「実はあの子をデートに誘ったけど振られたと言っていた。土曜日というか、既に日曜になっていたけど、あの日はホテルの前までは行ったものの、そこから逃亡されたらしい」
「ははは」
 
「千里、あの子と関わりあんの? 元恋人とか?」
「恋のライバルだよ」
「あ、そうなんだ」
 
と言ってから桃香は少し考えている。
 
「どうすれば男と女で恋のライバルになるんだ?」
「それは桃香なら分かるはず」
 
うーん・・・・と言って桃香はまた悩んでいた。
 

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「そういえば、千里、土曜日はなんで女の子のコスチューム着てたの?何かの罰ゲームとか?」
「え? あれはクリスマスのサンタの衣装だよ」
「うん、サンタガールだよな?」
「男女共通だけど」
「いや、私には女の子のサンタにしか見えなかったが」
「そうだっけ?」
 

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