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■男の娘モルジアナ(11)

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イシムの事件から半年たった、4月(季節は夏:Hijri 241.4.1=Greg 855.8.22)アリとモルジアナは馬に乗ってラバを連れて例の岩山を訪れました。
 
「ところでモルジアナ、そろそろ君とムハマドの結婚式をあげようかと思うんだけど」
と道すがらアリは言いました。
 
「ムハマド様はまだ13歳です。15歳になるまで待ちましょう」
「彼がもう待ちきれないような顔をしているのだけど」
「困った子ですね〜」
 
最近時々自分の服、特に下着が紛失するのは、たぶんムハマドだろうな、とモルジアナは思っていました。女の服の試着は嫌がった癖に!
 
モルジアナとしては彼が15歳くらいになるまでの間に彼が好きになりそうな女の子を見つけて来て、彼のそばに仕えさせ、それで彼がそちらに“転ぶ”ようにしようという魂胆でいました。それでモルジアナはカシムが亡くなった後、何度か奴隷商人のところに行き、ムハマド好みの女の子がいないか見ていました。
 
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「君はムハマドのこと嫌いじゃないよね?」
「弟のような存在ですね」
「そうかも知れないね!」
 
「小さい頃からムハマド様には『僕の奥さんになって』と言われているし、結婚するのは構いませんけど、私は第2か第3の妻でいいですから、アリ様、トルクメン人かせめてペルシャ人の娘さんを見つけてあげてくださいよ」
 
(モルジアナはスーダン人の母とトルクメン人の父の子供なので、中間の肌の色をしている)
 
「今更、人種など気にする必要はないと思うよ。ムスリムはみな平等なんだから」
「そうですね」
 
と答えておいたが、実を言うとモルジアナはムスリムではない!ムスリムの生活習慣に合わせている異教徒(こういう人を“啓典の民”と言う)なのだが、このことは、本人以外は知らない。
 
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アリとモルジアナが“イシム”事件の後、半年待ったのは、実は盗賊の“人数”問題がありました。
 
最初に岩戸の所に行った時、アリは盗賊の人数を頭(かしら)以外に40人と数えました。頭(かしら)が油商人に化けてカシムの家にきた時、モルジアナが殺した手下の数は38人です。ということは、あと2人仲間がいるのではないか、恐らくはその2人はアジトで留守番をしていて襲撃に参加しなかったのではないかと、モルジアナとアリは想像しました。それで彼らの復讐に警戒しながら半年ほど様子を見ていたのです。
 
しかし一向に怪しい動きは無いので、ひょっとしたら頭(かしら)が殺されたのを知り、怖じ気づいて逃げてしまったのかも知れないと考えました。それでこの岩戸に行ってみようと考えたのです。
 
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岩戸の前まで行った時、小鳥の苦しそうな鳴き声を聞きました。
 
何だろうと思ってモルジアナがそのあたりを探すと、赤い小鳥が、木の枝に引っかかってしまっているのを見ました。トゲのある木なので、それが羽に引っかかって、身動きが取れなくなっているようです。
 
モルジアナは小鳥に
「今助けてあげるね」
と声を掛けて、小鳥の羽をトゲから外してあげました。小鳥は嬉しそうに飛んで行くと、まるでこちらに感謝するかのような声で鳴きました。
 
「優しいね」
とアリが言います。
 
「私、本当は優しい女なんですよ。戦わなければならない時は戦いますけどね」
 
「その性格がムハマドのパートナーとして最適だと思うんだけどね。商人は海千山千でないといけない。僕はそこまでうまく立ち回れない。ムハマドも性格的に優しすぎる。彼ひとりではきっと誰かに欺される」
 
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そうだね。きれいにイシムに欺されたからなあ、とモルジアナは思いました。彼が天使なら自分が悪魔にならなければならないのだろうか、と彼女は考えます。だから、非情にならなければならない所を引き受けるのが自分の役目なのかも知れないという気もしました。
 
「あの店の主人は本当にいい人だけど、女房は悪魔だ」
とか言われるのもいいかもね!私が売掛金とかも、じゃんじゃん回収しちゃる。
 

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アリが岩戸の前に立ち、唱えました。
 
「ゴマよ、お前を開(ひら)け」
 
入口の所にランプがあるので、モルジアナは懐炉で携帯してきた火種で、それに点火しました。
 
洞窟内が明るくなります。
 
「かなり広いものですね」
「だろ?これは相当の量がある」
「これはあの盗賊が集めたものだけではありませんよ。相当昔から恐らく100年以上にわたって集めたものです」
 
「そうかも知れない。だとすると、元々は別の人が集めていたものかもね」
「その秘密をあの盗賊が知ったんでしょうね」
 
アリが以前入った時は気付かなかったのですが、この穴の奥に小さな通路があるようです。そこにあったランプにもモルジアナが懐炉の火種で点灯すると奥の方にも部屋があることが分かりました。
 
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「この部屋も宝物でいっぱいだ」
「凄い」
 
その更に先にも3つ目の部屋があり、その部屋の向こうに戸がありました。
 
開きません。
 
「ここも同じ呪文かしら」
「たぶんそうだ」
と言ってアリは呪文を唱えました。
 
「ゴマよ、お前を開け」
 

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扉が開きました。
 
その扉を開けた先には庭がありました。ここは明るく日が差しています。外と繋がっているのかと思って上を見るのですが、天井には岩があるので、この光がどこから入ってきているのか、よく分かりません。
 
しかしこの庭には多数の宝石の“花”が咲いていました。
 
ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンド、トパーズ、アメジスト、物凄くたくさんの“宝石の花”です。
 
「これはきっとワクワク島(*39)に生えているという仙境の植物だと思います。それをここに移植したんですよ」
とモルシアナが言います。
 
「ワクワクにだったらあるかも知れないなあ」
とアリも言いました。
 
(*39) ワクワクとは、中東の様々な伝説に登場する一種の桃源郷である。海上にあり、7つの島から成っていて、住民は女性ばかり。人間の形をした実の生る木がある(つまり住人は木から生まれる??)。黄金と黒檀が豊かで、住人の服や犬の首輪まで金でできている(重すぎて大変という気がする)。千一夜物語内の“ハサンの冒険”では、ハサンが住人の女性の衣服を隠し、その結果ハサンはその女性と結婚した(天羽衣型の物語)。
 
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ワクワクというのは実は“倭国”が語源で、わくぉく wakwoku→ wak-woku であるとする説が有力である(7つ:本州・四国・九州・北海道・淡路と・・・壱岐・対馬?)。インドネシアに比定する説もある。
 

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アリとモルジアナがその庭を歩いていると、その先に小さな家がありました。扉がありますが、これはモルジアナが普通に引くだけで開きました。呪文を唱えようとしていたアリは拍子抜けです!
 
家の中に入ると、1階には様々な服がかかっています。
 
「この服、素敵!このデザインもらっていいかしら?」
などとモルジアナが言います。
「持って行けば?」
「素敵なものが多くてとても持って行けません。ここにまたデッサンにこようかな」
「ああ、それはここに来て描き移すといいよ」
 
2階に登ってみると、多数の箱や壺が並んでいて、薬のような臭いがします。
 
「薬の箱や壺のようだね」
とアリが言っていた時、小鳥の声がします。
 
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見るとさっきの赤い小鳥です。
「お前、こんな所に入り込んだら出られなくなるよ」
と言って、モルジアナは小鳥を自分の手に留まらせます。
 
しかし小鳥はモルジアナの手から飛んでいき、ひとつの箱の上に留まりました。そしてモルジアナを呼んでいるようなので、行ってみます。モルジアナには「この薬を持って行きなよ」と言っているように感じました。
 
手に取ると、どうも中国の文字(漢字)で薬の名前と説明が書かれているようです。
 
「アリ様、この薬をもらってもいいでしょうか?」
「ああ、好きなの持って行くといいよ」
「はい」
 

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それでモルジアナはその薬を持って行くことにしました。
 
モルジアナはその後、小鳥を自分の肩に留まらせて、一緒に外に出ました。この日は、洞窟の中のものはそれ以外では、お店で加工して売れそうな織物を数点持ち出しただけです。金貨の類いは持ち出しませんでした。いつでも取りに来られると思うと、特に持ち出す必要を感じませんでした!
 
赤い小鳥は洞窟の外に出ると、どこかに飛んで行きました。
 

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帰宅したモルジアナは洞窟から持ち帰った薬に添えられていた中国語!の文章を解読しようとしましたが、これが大変な作業でした。
 
モルジアナは中剌辞典 (Chinese Arabic Dictionary) を持っていましたので、それを使って何とか解読しようとするのですが、中国語の文字(漢字)がとても複雑な造りをしていて、ひとつひとつの文字が、辞書に載っているどの文字なのか特定するのに、物凄い時間が掛かったのです。最初は辞典の引き方自体分からず苦労しましたが、3日目くらいに“部首”というものを理解して、やっと引けるようになりました。
 
説明書はわずか300文字程度なのですが、モルジアナの解読作業は1ヶ月!掛かりました。しかしこの薬の説明書にはこのようなことが書かれていました。
 
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“化娘物”(ファーニャンブー)は、人を女に変える薬である。
 
東方の日本近海で十年に一度穫れる女人魚の卵巣から作られる薬である。これを飲むと男人は女性になり、中人も女性になり、女人も女性になる。
 
この薬は本来男を女に変えるのに必要な量を三分割して丸薬としてまとめているので、女になりたい男は三錠飲む必要がある。ただしまとめて三錠飲むと身体が変化に耐えられず運が悪いと死亡する場合もあるので、一錠飲んだら最低一日空けるのがよい。
 
男が一錠飲んだ場合、睾丸が消失し、膣が生じる。
 
更に一錠飲んだ場合、陰嚢が陰唇に変化し、子宮が生じる。
 
更に一錠飲んだ場合、陰茎が消失し、卵巣が生じる。
 
卵巣ができた人はだいたい半年程度で乳房が膨らみ完全な女になる。
 
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思春期前の男人または思春期前に去勢した元男の中人がこの薬で女性に変じたら、二年も経てば子を産むこともできる。
 

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モルジアナはこれはカシム様が言っていた“キャファブ”なのではと思いました。
 
カシム様が言っていたのは、中国東方のパンライ(蓬莱)で、雄の海馬の子袋から作るという話でしたが、この説明分では、中国東方のリーペン(日本)で、雌の人魚の卵巣から作るとあります。この程度は話が伝わっていく内に微妙に変化してしまったことが充分考えられます。それに“ファーニャンブー”という名前は“キャファブ”と似ている気もします。
 
そういう訳で、モルジアナは金曜日が始まる晩、取り敢えず1錠飲んでみました!
 
飲んでから30分もすると、物凄く気分が悪くなります。取り敢えずベッドに潜り込みましたが、私死ぬかも〜、と思いました。実際翌日は金曜日(*40)であるのをいいことに「少し疲れが溜まったかも」と言って一日寝ていました。
 
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(*40)1日の始まりは深夜0時ではなく日没。
 
イスラム社会では金曜日は“合同礼拝の日”で、お仕事はお休み(仕事をする人もいる)。お店なども多くは休店日となる。ユダヤ教の安息日(土曜日)やキリスト教の“主の日”(日曜日)と類似の扱い。現代では週休2日制の会社では木・金が休業日になる。
 
イスラム教の金曜日の扱いはキリスト教の日曜日の扱いに近く、ユダヤ教徒の安息日(労働禁止なのでエレベータのボタンさえも押せない)ほど厳しくない。わりと任意である。但し多分宗派や地域にもよる。
 

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