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■男の娘モルジアナ(1)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-10-29

 
モルシードはホラーサーン(*1)地方の女奴隷の子供に生まれたので生まれた時から奴隷でした。主人はお金持ちでしたが、モルシードが4歳の時に亡くなり、その弟が資産の整理をしました。弟はミスル(エジプト)に住んでおり、金銀・宝石の類いは持って行くものの“かさばる”物は処分することにしました。
 
ロバの全て、ラバの内ミスルまで荷物を運ぶのに必要な分を除いては市場で売り飛ばしました。家具や調度は古物商に買ってもらいました。土地家屋も買い手が見つかりましたが、彼は30人ほどもいる奴隷の扱いに苦慮しました。取り敢えず年寄りの奴隷は全員解放しました。彼らは新しい主人に感謝して、わずかにもらったお金を持ちどこかに行きました。
 
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ミスルに連れて行けそうな、成人の男たちは連れて行くことにしました。荷物を運ぶラバの世話係にもなります。成人の女奴隷は奴隷市場で売り飛ばしました。それでモルシードは母と生き別れになってしまいました。
 

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(*1)ホラーサーン(Kholasan). khorは太陽、asanは上昇を意味し“日出処国”。中東世界でも東方の地域を指す。基本的にはアムダリヤ川とヒンドゥークシュ山脈に挟まれた地域を表す。現在のトルクメニスタン(トルクメン)の付近(*2)
 
「アリババと40人の盗賊」の一部のテキストには物語の舞台をペルシャと書くものもあるが、この言葉は誤解を招く。確かに昔はペルシャの一部だったこともあるが、現在のイランの領域からは外れる地域であるし、文化も異なる。
 
“イスラム帝国”の別称でも知られるアッバース朝はこの地域から興り、一時期は東はアフガニスタンから、西はリビア付近に至る広大な領土を持った(スペインやモロッコにまで一時進出したがすぐに失った。但し南スペインのイスラム文化はその後も長く続き、13世紀にはアルハンブラ宮殿なども建設された)。
 
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イスラム帝国では文学が隆興し、化学が発達して、後にヨーロッパにルネッサンスを引き起こす原動力ともなった。
 
比較的古い本の挿絵に見られるモルジアナの衣裳は、最近のトルクメン(*2)の伝統的な女性衣裳と似ている。ズボンを穿いた上にワンピースを重ね着する。顔は特に隠さないが、帽子から長いお下げのような紐を垂らす。トルクメンのズボンはバラクと呼ばれ、女性の場合、いわゆるハーレムパンツのように、裙を細くしぼる。これは蛇や蠍がズボンの中に侵入しないようにするためである(男性用は裾は搾らない)。
 

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(*2)トルクメン人のルーツは不明だが、もともと“トルクメン”という言葉が“トルコ”から来ているともいわれ、両者には関係があるのではとも言われる。トルコ語とトルクメン語も比較的近い関係にある。
 
なおこの地域はトルクメンと古くから呼ばれているが、ソ連支配下にあった時代は、トルクメン・ソビエト社会主義共和国となり、ソ連崩壊後はトルクメニスタンと称する。
 

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「お前たちをどうすっかなあ」
と、残った4人の子供奴隷を前に新しい主人は悩みました。4人の内の1人は女の子だったので、ハーレム(後宮)の雑用係を扱っている商人に売りました。そして残る3人の男の子たちに主人は言いました。
 
「すまんが、お前たちは去勢して売る」
「え〜〜〜〜!?」
 
奴隷の値段は、女より男が高く、男より中性がずっと高いのです。但し・・・昔の去勢手術は結構死亡率のあるものでした。主人の目論見としては、3人去勢手術を受けされば、1人くらいは死ぬかも知れないが、確率的に2人は生き延びるだろうから、それを売れば充分手術代の元は取れるというところでした。
 

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そういう訳で、モルシードは4歳にして去勢されることになりました。一緒に去勢される2人は11歳と12歳なので、去勢なんて嫌だぁ、ちんちん切られたくないよぉ、と泣いていましたが、モルシードは「去勢する」と言われてもよく分からず、何をするんだろうと思いました。
 
それでモルシードは最初に手術を受けさせられました(実は死んでも一番惜しくないから)。
 
服を脱がされ、裸になって、金属製のベッドに寝るように言われます。そして目隠しをされ!口の中に何か布を詰め込まれました。
 
息苦しい!
 
お股のあたりに何か液体が掛けられました。お酒のような臭いがします。
 
医師がちんちんを触っているので、モルシードは、あ、ちんちんの皮を切られるのかな?と思いました。
 
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イスラム圏では概ね6-10歳頃に割礼をおこなう習慣があります。
 
先輩たちも“ちんちん切られたくない”と言ってたし。やはり痛いんだろうなと覚悟します。
 
ちんちんに金属製のものが当てられる感触があるので、いよいよちんちんの皮を切られるのだろうと思い、少し覚悟をします。
 

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次の瞬間、ちんちんに激痛が走りました!
 
そしてモルシードは気を失いました。
 

どうもモルシードは1時間近く気を失っていたようです。
 
顔に水を掛けられ、モルシードは意識を回復しました。
 
もう目隠しは外され、口の中の詰め物もありません。
 
でも、お股が激しく痛い!
 
「手術は終わったよ」
と言われて、モルシードは自分のお股を見ました。
 
「ちんちんがない!」
「ちんちんと玉袋を取る手術だからね」
「そうだったんですか!」
 

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え〜!?でもちんちん無くなったら、ぼくどうしたらいいの??
 
「ちんちんなくなったら、おしっこはどうすればいいの?」
「ここに棒が1本挿してあるでしょ?」
「はい、なんだろうとおもいました」
「ここはおしっこが出てくる穴。君はもうちんちんが無くなったから、これからは女と同じように、穴からおしっこすることになるから」
 
「あなからおしっこするの?でもどうして、ぼうがささってるの?」
「手術の傷が治る時に、この穴がふさがってしまわないようにだよ」
「ふさがったら、どうなるの?」
「おしっこを出す所が無くなるから、死んでしまう。そうなるともう助けようが無い」
「え〜!?ぼく、しんじゃったらどうしよう?」
「大丈夫だよ。2人に1人はちゃんと穴は開くから」
「それって、ふたりにひとりはあながさがって、しんじゃうんですか」
「君は4歳にしては、なかなか頭がいい」
 
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「このぬいめは?」
 
ちんちんや玉袋があった場所に、縦に2筋の縫い目があります。
 
「それは傷が早く治るように、ちんちんや玉袋を取った後の皮膚を糸と針で縫い合わせた跡だよ。何ヶ月か経てば目立たなくなるから」
 
「へー、ぬったんですか?」
「そうそう。布を縫い合わせて服を作るように、皮膚を縫い合わせて傷を塞ぐ」
「なんか、おもしろいかも」
「これで1ヶ月も経てば、痛みは取れるから」
「いっかげつも、いたみが、つづくんですか?」
「君は本当に頭がいいいね」
と医者は、マジでモルシードに感心しているようでした。
 

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「さ、立って」
と言われて、モルシードはベッドから起き上がりそのそばに立ちました。
 
「これから丸1日は寝てはいけない」
「ひゃー」
 
そしてモルシードはお股に棒がささったまま、部屋の中をひたすら歩き回るように言われたのです。
 
動いていた方が、穴が塞がりにくいのだそうです。それで穴が塞がって死んではなるものかと、モルシードは頑張って歩き続けました。その内眠くなってきますが、死にたくないという思いで頑張って歩き続けます。
 
この部屋には医師の代わりに助手の人が来て、モルシードが歩くのを見ていました、助手は何人か交替しましたが、モルシードはひとり歩いていました。
 
我慢できなくなって、ふらっとして座り込んでしまうと、少しだけ座ったまま眠らせてくれました。でもすぐに顔に水を掛けられて起こされます。そしてまた歩き続けます。
 
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ついに丸一日歩き続けた所で桶に座るように言われました。医師がお股に挿した棒を抜きます。すると抜いた所から勢いよくおしっこが飛び出しました。
 
でもモルシードは凄く変な感じでした。今まではちんちんからおしっこが出ていたのに、ちんちんが無くなってしまい、身体から直接おしっこが出る感じです。おしっこも「飛ぶ」のではなく真下に「落ちていく」感じでした。
 

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「おしっこが出たね」
「はい。でもすごくくへんなかんじ。おんなのひとはこんなかんじでおしっこするの?」
「うん。女の人とほとんど同じだよ。でも慣れるしかないね。もうちんちんは無いんだから」
 
「はい」
 
「とにかくお前は助かった」
「よかったぁ」
「ただし、ちんちんが無くなったから、これから君は男ではなく中性だから」
「わかりました」
と答えましたが、実はモルシードは“男”とか“女”ということ自体まだよく分かっていませんでした。
 
「ところで、すごくねむいんだけど」
「ああ。もう寝ていいよ」
と医師は言い、モルシードを別棟に連れて行きました。
 
そして医師はお股の所に再度棒を挿してから、眠るように言いました。モルシードは丸一日歩いていて疲れたので、ぐっすり眠りました。この棒は一週間くらい、おしっこをする時以外は挿したままにされました。また、その一週間は、おしっこをする度にお酒を掛けられました。こうすると傷の治りが速いのだそうです。
 
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モルシードはその後、傷が完全に治るまで1ヶ月、医師の所で過ごしました。その1ヶ月の間に痛みもずいぶん取れました。
 
皮を縫い合わせた所は、縦に2本あった縫い目の間が凹んでしまい、2つの縫い目は隣接するようになり、結果的にその間が谷間のようになっていました。縫い目はその谷になる折れ目の所に来て、結果的に目立たなくなりました。
 
「お医者さんは目立たなくなると言ってたもんなあ」
とモルシードは思いました。
 
この形は、ちょっと見にはまるで女の子のお股の割れ目のようだったのですが、幼いモルシードはそれが女の人のお股に似ていることには気付きませんでした。
 
「ここ谷間みたいになってるんですけど、いいのでしょうか?」
とモルシードは医者に尋ねました。医者は
「うーん」
と少し悩んだものの
 
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「君の場合は多分問題無い」
と言いました。
 
モルシードはどういう意味だろうと思いましたが、深く考えないことにしました。
 

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モルシードは退院すると、口入れ屋に引き渡されました。ここでハーレムに入るための教育を受けることになります。なおモルシードに続いて去勢手術を受けた男の子2人ですが、2人とも手術は成功して、無事男性を卒業して立派な中性になりました(2人とも、ちんちんが無くなったのが悲しくてずっと泣いていた)。そして傷が治った所ですぐハーレムの雑用係として売られました。2人はまだヒゲも生えていないし、声変わりもまだだったので、ハーレムの女性たちにたくさん“可愛がられる”こととなります。
 
医者はモルシードには「2人に1人は死ぬ」みたいなことを言っていましたが、実はこの医者は名医で、この医者の去勢手術で死ぬのは年に1人か2人程度にすぎませんでした(但し手術代も高い!)。
 
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他の2人はすぐ売られたのですが、モルシードは幼くまだあまり教育を受けてないので教育を施してから売られることになりました。
 
モルシードが受けた教育は、ペルシャ語とアラビア語の読み書き、計算、地理・歴史などの学問、古典文学や音楽・舞踊などの教養、更には剣技や弓矢も教えられました。
 
これはハーレムは女だけの世界なので、警備は主として中性の奴隷が担当していたためです。また中性の奴隷はしばしばスパイとして諜報活動に従事しましたが、そのためにも剣技、特に短剣術は必須でした。
 
中性奴隷が諜報活動に従事したのは、ひょっとすると女装が可能だったこともあるかも知れません。普通の男が女装してもヒゲや声でバレますが、思春期前に去勢した場合、ヒゲはまだ生えていませんし、声はむしろ女の声に聞こえます。
 
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モルシードは音楽でも舞踊でも剣技でも優秀で、
 
「君ほどの子なら、皇帝の妻のガードに採用されるかも知れないね」
と口入れ屋さんから期待されました。
 
なおハーレムという場所の性格上、男性(とは限らない)の貴人の夜伽をする場合もあるので、モルシードは男性および女性!を気持ちよくさせるワザまで教えられました。
 

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