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■男の娘モルジアナ(3)

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カシムはモルジアナが10歳になった頃から「これを飲むように」と言って、薬を与えていました。するとモルジアナは少しずつ胸が膨らんできたので、まるで本当の女の子みたいと思いました。体臭も女の体臭がするようになりました。
 
「これは・・・女の素(もと)のようなものですか?」
とモルジアナはカシムに尋ねました。
 
「まあそのようなものだ。妊娠中の牝馬(めすうま)のおしっこから採った薬で牝精という」
 
「きゃー」
 
おしっこが材料と聞いてモルジアナは驚きます。でも8歳の時以来女として暮らしているのに、自分の身体が女らしくないことに劣等感を持っていたので、自分の身体をより女らしく変えてくれる薬はモルジアナとしてもありがたい思いでした。それで彼女はちゃんとこの薬を飲むことにしました。
 
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この頃は先輩女奴隷の内、年上のカーナは、解放されて別の商人の妻となっていましたが、若いバーナからは
「あんた女性的な発達が遅いと心配してたけど、ちゃんとおっぱい膨らんできたね」
などと言われました。
 
モルジアナには本当は月の者は無いのですが、カシムに言われて、毎月1度自分で月の者の日を決めて3〜4日は“女の小屋”で過ごすようにしていました。モルジアナにとっては休暇のようなものでした。
 

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モルジアナが11歳の時、ムハマドは7歳でしたが、割礼を受けさせられることになります。彼は、かなり怖がっていました。
 
「痛いのかなあ」
「私は受けたことないので分かりません」
「女はいいなあ。割礼とかしなくてよくて」
 
私はちんちんの皮どころか、ちんちん丸ごと切られちゃったけどね!
 
「頑張って我慢したら、手にキスしてあげますよ」
「手じゃなくて額にしてよ」
「分かりました。額にキスします」
「じゃ僕頑張る。ちんちん全部切られる訳じゃないし」
「外国では、ちんちんをかなり切るので割礼されると、立っておしっこができなくなり、女のようにしゃがんでおしっこしなければならなくなる国(*9)もあるらしいですよ」
 
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「え〜!?僕、そこまで切られないよね?」
「メルヴでは普通そこまでは切らないみたいですね」
「よかったぁ」
 

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割礼は男の試練なので、むろんその現場をモルジアナは見ませんでしたが、ムハマドは痛みを我慢し、泣き叫んだりもしませんでした。
 
モルジアナは、ご褒美に約束通り、彼が自分の部屋に戻ってから、額にキスをしてあげました。
 
「まだ痛いよぉ」
「その内、痛みも取れますよ、多分。ムハマド様は男の子なんだから頑張りましょう」
「うん。頑張る」
 
とムハマドはモルジアナの前では涙を浮かべて痛みに耐えていました。
 
(*9) オーストラリアのアボリジニの一部の部族の割礼は、陰茎の尿道を全切開してしまう(尿道割礼)ので、割礼された後は、陰茎の先端から排尿することができなくなり、女と同じように、しゃがんで排尿することになっていた。同様の形式の割礼は、アマゾン盆地やケニヤの一部でも見られた。現在はどの地域でもこのような割礼は行われていない。
 
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(陰茎の根元から尿は出る:性交しても精液は根元から出るので全て膣外射精になる!)
 
中東地域で割礼という習慣が普及したのは、水が得にくいためであるとも言われる。水が無いと、包茎の陰茎はその内部を洗浄できないため不潔になりやすい。そのため亀頭が露出するようにして、水が無くても清潔を保てるようにしていたのである。
 
日本のような水の豊かな地域では理解されにくい話である。
 
なお現代では、性転換手術を受ける場合、割礼している人は陰茎皮膚の長さが足りなくて充分な長さのヴァギナを作ることができない場合がある。
 

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西アジア地域には、水がかなり貴重品とされる地域も多いのですが、メルヴはムルガブ(Murghab)川のほとりにあり、水の豊かな町でした。それでこの町には公衆浴場もありましたし、豊かな家では沐浴設備を持つものもありました。
 
その日、モルジアナ(12)はお許しをもらって沐浴をしていたのですが、その時、唐突にムハマド(8)の声がして
「お母ちゃん、こないだの件だけどさ」
と言いながら、沐浴室のドアを開けてしまいました。
 
「あっ」
「あっ」
 
ムハマドはモルジアナの裸をまともに見てしまいました。一瞬驚いたように目を見張り、それから真っ赤になり、それから
「ごめん」
と言って、後ろを向き、浴室の外に出てドアを閉めました。
 
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「僕、何も見てないから」
 
いや、しっかり私の裸を見てたじゃん、とモルジアナは思いましたが
 
「何も起きませんでしたよ。ムハマド様はそのドアを開けませんでした」
「そうだよね、僕は開けなかった」
「お母様はお店の方に呼ばれてバーニャさんと一緒に行かれましたよ」
「ありがとう!」
 
と言って、ムハマドは浴室を離れましたが、彼の目には、モルジアナのまだ小さな乳房、そしてお股の所に何もぶら下がるものは無く、ただ1つ縦の筋がある様子が焼き付き、それからしばらく彼の心をドキドキさせました。
 
それは彼がモルジアナを初めて“女”として意識するようになった日でした。
 

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モルジアナは元々はカシムの家に仕える奴隷だったのですが、計算が得意だし、教養も高いことから、カシムはしばしば商売上のことをモルジアナに相談するようになっていました。
 
カシムは商売上の問題を以前は妻のダニヤに相談することもあったのですが、ダニヤは商人の娘(材木屋の娘)ではあっても、商売のことはさっぱり分からないようでしたし、ファッションも適当だったので、あまり相談相手になっていませんでした。しかしモルジアナは頭が良いし、良い服を見分けるセンスもあったので、カシムも充分参考になる意見を聞くことができました。
 
それでモルジアナが12歳になった頃から、カシムは彼女をお店にも連れて行き、モルジアナはお店の女奴隷たちから、お店の仕事も習うようになりました。若い彼女はすぐにお店の看板娘になり、お客さんたちに愛されますが、お店の女奴隷は、わりと入れ替わりが早い(実は仕立屋からの無償!派遣もいる)ので、やがてモルジアナ自身が新人の教育係になってしまいました。
 
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この当時のお店の女奴隷頭はアビダといいましたが、彼女は虚弱体質で、特に朝に弱い性格というのもあり、いつしか午前中はモルジアナがお店の会計係を務めるようになっていました。
 

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カシムの所にはしばしば弟のアリ(*10)がやってきて、お金を貸してほしいというので、カシムは毎回用立ててあげていました。
 
ある時、モルジアナはカシムに尋ねました。
 
「アリ様は暮らしに困っておられるのでしょうか?」
 
カシムは弟のことをモルジアナに教えました。
 
「俺とアリは織物商人をしていた父親から、半分ずつの遺産を受け継いだ。俺はその資産とコネを使って衣服を売る商売を始め、弟は絨毯を売る商売をした。しかし弟は俺のようには商才が無かったようで、数年の内に店はたたんでしまった(*11)。わずかに残ったお金でロバを3頭買って、山に入り木を切って薪を売る生活をしている。まあそれで何とかなっているみたいだが、どうしても足りない時もあるみたいだから、その時は用立ててやってる。『貸してくれ』と言ってくるけど、返してくれることはあてにしてないし、あげるつもりで金は渡してるよ」
 
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(*10)一般に「アリ・ババ」と訳出されているが、“ババ”は“父さん”という意味の敬称なので、ここでは単に「アリ」とする。
 
(*11) カシムの商売の成功には、実は妻のダニヤ(材木商の娘)が高額の持参金を持って来てくれたことから、その資金力によるものもあったが、そのことは言わない。アリの妻・ザハラは貧乏人の娘で持参金は無かった。ただやはりアリはあまり頭が切れないので、本当に商才が無かったかも。
 

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「お優しいんですね」
 
「俺は誰にでも優しいつもりだが。もっともアリも無闇に金を無心する奴ではないし。今回は女房が身体を壊して薬を買うのにお金を貸してくれと言うから渡したけどな」
 
「奥様、お身体が悪いのでしょうか」
 
「あれの女房・ザハラは、病気というわけではないけど、元々虚弱体質みたいだな。子供も産んでないし」
とカシムは言いました。
 
「私も子供は産めない気がしますが」
 
とモルジアナが言いますと、カシムは笑って言いました。
「元は男でも、子供が産めるようになる秘薬も存在するらしいけどな」
 
「そんなものがあるんですか!」
 

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「それは“キャファブ(cafab)”という薬だ。遙か東方、地の果てにタン(Tang:唐)という国があるが、その更に東方の海上に、わが国ホラーサーンと同様に“陽が昇る国”とも呼ばれているパンライ(Penglai:蓬莱:日本語読みすると“ほうらい”)という国がある。その国にのみあると言われている」
 
「地の果てまで行って、その更に先があるのですか?」
「地の果ての先はひたすら海が続く。その海の中にある島国だよ」
「なんか凄い場所ですね。でも海の先には何があるのでしょう?」
「ひょっとしたら西方の海につながってたりしてな」
「まさか!」
 
「しかしパンライには、不老長寿の薬もあるらしいから」
「そんなものが本当にあるんですか?」
 
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「300年生きた漁師とか、800年生きた尼さんもいたらしいぞ。まあ、俺もタン(唐)との交易商人から聞いただけだからなあ」
 
「へー」
 
「パンライ国近くの海には“海の馬”と呼ばれる生き物が住んでいる」
「海に馬が居るんですか!?」
「なんか不思議な国らしいよ。黄金で作られた神殿があるというし」
「まるで魔法の国ですね」
「そうかもね。ドラゴンとルフ鳥とザラタン(大亀)と白い虎が国を守っているらしいし」
「わぁ」
 
「で、その“海の馬”は、オスが子供を産む」
「え〜〜〜!?」
 
「その海の馬のオスの子袋から作られた薬らしい。これを飲むと、男でも子供を産めるようになり、実際に子供を孕むと、完全な女の形に変わってしまうらしい。しかしパンライ国でも貴重なものらしいから、この付近ではまず手に入らないだろうな」
 
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「すごーい」
 

やがてモルジアナは16歳になりました。カシムの所に来てから9年の月日が経っています。先輩でモルジアナをよく指導してくれたバーナも解放されて他の商人と結婚し、お店の女奴隷頭だったアビダは病気で亡くなっており、この時点でモルジアナはカシムの家の女奴隷頭とお店の女奴隷頭を兼任していました。朝御飯の支度をしてから、カシムが出勤する時はそれに同伴し、お店で若い売り子たちを指揮します。そして午後にはカシムより先に帰宅して、夕飯の支度に従事するという生活をしていました。なおモルジアナが帰宅した後の会計は、しっかりした性格のマルヤムが担当していました。カシムとしては元々会計係は(相互牽制のため)複数制にしておきたかったようです。
 
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女奴隷頭として、他の女奴隷をお店の方で4人、家の方で3人指導していました。お店にも家にも自分より年上の女奴隷もいましたが、みんなモルジアナに従っていましたし、また頭がよく実行力もあるモルジアナを頼りにしていました。
 
もっとも、みんなモルジアナのことをカシムの事実上の第2妻なのだろうと思っている雰囲気もありましたが、気にしない!ことにしていました。
 
モルジアナは家と店の女奴隷頭を兼任していることから特別待遇として個室を頂いていましたが、みんなは、その部屋というのはモルジアナとカシムが夜を過ごすための部屋なのだろうと思っているようでした!!
 

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