広告:めしべのない花―中国初の性転換者-莎莎の物語-林祁
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■男の娘モルジアナ(4)

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実際には、モルジアナはカシムから性的な奉仕を求められたことはありません。カシムのことを尊敬しているので、求められたら応じてもいいと思っていましたし、口入れ屋時代に基本的なことは習っているので、寝たらちゃんとカシムを気持ち良くさせる自信はありました。でも「私の性別を知っているから」お誘いは無いのだろう、とモルジアナは思っていました。
 
モルジアナとカシムの間に“何もない”ことを知っているのは、たぶんダニヤとムハマドくらいだったかも知れません。
 
実はカシムはモルジアナを息子ムハマドの第2妻にと考え始めていたので、敢えて手を付けていなかったのです。モルジアナは自分の妻にするには年齢が離れすぎていました。
 
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カシムはお客様を自宅に招いたりすると、よくモルジアナに舞を舞わせ、またウードやケマンチェ、カーヌーン、ナーイなど(*12)を演奏させたり、歌を歌わせたりしました。なお、モルジアナが歌う時は、後輩の女奴隷で2つ年下のラーニヤがウードやカーヌーンを演奏していました。
 
「美人ですねぇ。歌も楽器も舞も上手いし」
と招かれた仲間の商人たちや貴人たちも言います。
 
「うちの息子の妻にもらえないだろうか?」
と打診する人もありましたが、
 
「この子はまだ幼いので」
と言って断っていました。
 
(*12) ウードは琵琶に似ており、琵琶やギターの源流となった撥弦(はつげん)楽器。ケマンチェは、ヴァイオリンや胡弓の源流となった擦弦(さつげん)楽器。カーヌーンは日本の和琴(わごん)や箏(そう)などと同様の琴の一種(むしろ和琴に似ている)で台形の箱の中に張った数十本の弦を持ち、ピアノ並みに広い音域を持っていた。
 
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ナーイは主として葦で作られたエアリードの縦笛である。構造・演奏法は尺八やケーナに似ている。つまり音が出るようになるまでにかなりの練習が必要である。同じ名前でもルーマニアのナイ(パンフルート)とは別の楽器。
 

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この年秋の、ある日、カシムは「ちょっと出掛けてくる」とダニヤと息子のムハマド、それにモルジアナに言い、ムハマドとモルジアナに「店番を頼む」と言って出て行きましたが、翌日になっても戻りませんでした。
 
(この時、モルジアナは16歳・ムハマドは12歳)
 
モルジアナは胸騒ぎがしました。涙がたくさん出てくるのはなぜだろうと思いました。
 
モルジアナは自分の手が血だらけになっている夢を見て、何度も夜中に目がさめました。
 

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カシムが3日も戻らないので、ダニヤが狼狽します。
 
「どうしよう?何かあったのかしら?」
とモルジアナに相談します。
 
「御主人様は何の用事で出掛けられたのですか?」
とモルジアナが訊きますと、ダニヤはこのような話をしました。
 
一週間ほど前、アリの妻・ザハラがダニヤの所に枡(ます)を借りに来ました。貧乏なアリ家でいったい何を枡で計るのだろうと訝ったダニヤは枡の底に蜜蝋(*13)を塗っておきました。やがて帰って来た枡を見ると、底に貼り付いていたのは、麦でも豆でもなく、金貨でした。
 
(*13) 蜜蝋(みつろう bees-wax)とは、ミツバチ(honey bee)の巣を精製して得られるワックスの一種である。化粧品のクリームの主成分。また古くより、接着剤・手紙の封蝋、またろうけつ染めなどに使われてきた。また料理ではバターと同様の調味料として使用された。古くは蝋燭(ろうそく)の原料にも使われた(物凄く高価な蝋燭になる)。
 
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ダニヤは接着剤として使用したのである。
 

ダニヤは仰天してこのことをカシムに言いました。するとカシムはアリの所に出掛けていき、やがて物凄い笑顔で戻って来ると
「とんでもない宝の山を見つけた」
と言いました。
 
「あんた悪いことはしないでよ」
と心配して言ったのですが
「悪いことではないから心配するな」
とダニヤに言いました。
 
そして丈夫なラバ(*14)を10頭も買い求めると、それを連れてどこかに出掛けたのだと言います。
 
(*14)オスのロバ(donkey)と、メスの馬(horse)の一代雑種をラバ(mule)と言う。ロバより身体が大きく、粗食に耐え、足腰が強い上に育てやすいので、中東世界では荷運びに重用された。基本的に繁殖力は無い(ごく希に子をなすこともある)。逆にオスの馬とメスのロバの子供はケッテイ(hinny)というが、ラバほど育てやすくもなく、体格的にも劣る(恐らく母親の子宮サイズの問題)こともあり、あまり育てられない。
 
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「やはり御主人様は、何か危ない橋を渡られたのでは」
とモルジアナは言います。
 
「そんな気がする。ああ、どうしよう?あの人の身に何かあったら」
とダニヤ。
 
「アリ様に訊けば、御主人様の行った先が分からないでしょうか」
「そうだね!」
 
それでモルジアナは男奴隷のアブドゥラーをアリの所に使いに出しました。アリが青くなって飛んできました。
 
「兄貴には分け前はいくらでもやるから、俺が行くと言ったんだけど、兄貴は自分自身で行くと言って聞かなくて」
と言っています。
 
「アリ様、いったい何があったのか、お教え頂けませんか?」
とモルジアナは言いました。
 

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アリの話は驚くべきものでした。
 
一週間ほど前、いつものように山で木を切り、薪を採っていたら、砂煙をあげて、馬に乗った一団がやってきました。それでロバを森の中に隠し、自身は木の上に登って様子を見ます。彼らは、隊商を襲ってまんまと積み荷をぶんどってきたことを興奮気味に話しており、盗賊の一味かと理解しました。盗賊達は、俺は何人殺した。俺は何人殺した、とどうも殺した人数を自慢し合っている様子で、アリはこんな奴らに見つかったら大変だと震え上がりました。
 
その内、盗賊どもの頭(かしら)と思われる男が岩山の前に立ち叫びます。
 
「ゴマよ、お前を開(ひら)け」(*15)
 
すると、岩山の一部がまるで戸のように開き、盗賊は盗品を手に中に入っていきました。そしてやがてまた全員出て来ます。アリは入っていくのを見ながら人数を数え、また出てくる時も数えてみましたが、頭(かしら)のほかに盗賊は40人も居ました(*17).
 
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(*15)この呪文は、アントワーヌ・ガラン(Antoine Galland)の『千一夜』 (Les Mille et une nuits) に収録された"Ali Baba et les Quarante Voleurs"の中で"Sesame, ouvre-toi"(胡麻よ、汝を開け:ごまよ、なんじをひらけ)という形で出たのが初出である。
 
「アラディンと魔法のランプ」でも述べたが、アラディンの物語とアリババの物語は、対応するような“アラビア語の原典が見当たらず”、おそらくはガランに親しい人物が(フランス語で)、アラビアン・ナイト風に創作した作品であろうと考えられている。
 
シンドバッドも元々は千一夜物語には無かった作品だが、これは中東起源である。ただ、ガランは最初シンドバッドをフランス語に翻訳していて、中東の知人から「それはもっと大きな物語の一部にすぎない」と言われ、千一夜物語を知ることになった。
 
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この呪文 "Sesame, ouvre-toi" は英語に直訳すると Sesame, Open thee(*16) となるが、一般には Open, sesame という形で記載されることが多い。日本でも「開け胡麻(ひらけ・ごま)」と記載されることが多い。
 
(*16)「ロミオとジュリエット」でも述べたが、thou は英語の二人称単数代名詞。主格は thou 所有格は thy (母音の前ではthine) 目的格は thee .だいたい17世紀頃以降は日常会話では使われなくなり、youに置き換えられた。基本的には古い言葉であり、日本語訳ではしばしば「汝(なんじ)」とか「そなた」と訳される。
 

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(*17) 盗賊の数が頭(かしら)を入れて40人なのか、頭以外に40人なのかは文献によってまちまちだが、ここでは比較的信頼度の高い東洋文庫版に従い、頭以外に40人、つまり頭まで入れると41人という解釈にした。
 
舞台では40人も登場させるのが大変なので、しばしば forty thieves が forteen thieves, あるいは極端な場合 four thieves になっていたりする。
 
盗賊はフランス語の原典では voleurs だが、英語版では thieves あるいは robbersとなっている。
 
私が高校時代に英語劇でアリババを演じた時は Ali Baba and fourteen robbers.にしていた。英語部員が8人くらいしか居なかったので、友人を掻き集めて14人揃えた。モルジアナに殺されるシーンでは台本は無視して1人1人個性的な死に方をしてくれて会場は爆笑の渦となった。なお、私はカシムの妻の役を演じた。
 
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アリは盗賊たちが去った後、おそるおそる岩の前まで行きました。そして自分でも唱えてみたのです。
 
「ゴマよ、お前を開け」
 
するとどうでしょう!
 
目の前の岩がまるで扉を開けるかのように開いたのです。
 
アリは盗賊の誰かが留守番などしてないかと思いながらも、おそるおそる中に入って見ました。上質の油が燃えた臭いがします。入口から射し込む光で、ランプがあるのが分かりましたので、アリは火打石で点火しました。
 
洞窟の中が明るくなります。
 
そこにあったものを見て、アリは驚きのあまり、しばらく動けませんでした。
 
岩戸が勝手に閉まりますが(*18)、それにも気付かず、アリはそこにあったものに見とれていました。
 
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大量の金・銀・宝石の入った壺、絹織物や陶磁器・漆器などが所狭しと置かれています。布でふたがされ、紐できつく縛った壺や、小箱なども多数置かれていて、各々に何やら字が書いてありますが、あまりまじめに勉強していなかったアリにはその文字が読めませんでした。そもそもアラビア文字ではないものもあります。
 
(*18)アリババの物語の中には「開け胡麻」で岩戸を開け、「閉じよ胡麻」で閉じるという本と、「開け胡麻」で開けるが、しばらくすると岩戸は勝手に閉まるという本とがある。
 
東洋文庫版では岩戸は勝手に閉まることになっているので、今回の翻案でもその方式に従った。
 
それに「閉じよ胡麻」で閉じるのであれば、カシムがわざわざ岩戸を閉じた理由がよく分からない。
 
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(高校時代にやった英語劇では、その場に出てない部員が岩戸の陰で手動!で開け閉めした)
 

アリは考えました。
 
これは盗賊たちが他人から奪ったものだ。それを取っても罪にはならないだろう。それにこんなに大量にあるのだから、少しくらい取っても盗賊たちはきっと気付かない。それでアリはできるだけ奥の方にある壺から、ひとつの壺からは2〜3枚ずつ金貨を取り、自分の持っている小物入れの中に詰めます。
 
これだけ詰めたらもう充分だろうと思ったところで洞窟を出ようとしますが、この時アリは岩戸が閉まっていることに気付きました。一瞬どうしよう?と思いましたが、たぶん内側からも同じ呪文で開くのではないかと思い
 
「ゴマよ、お前を開け」
と唱えました。
 
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すると岩戸が開いたので、アリはランプを消して外に出ました。
 

そして金貨の入った小物入れはロバに積み、帰って来たのです。
 
アリが持ち帰った金貨を見て、妻のザハラは青ざめました。そして言いました。
 
「あんた、どこから盗んできたの?私が付いてってあげるから自首しよう。自首すれば、死罪だけは免れるかも知れないよ」
 
しかしアリが事情を話すと
 
「盗賊の物ならいいか」
と彼女もアリの行為を容認しました。盗賊が被害届を出すはずもありません!
 
容認するとザハラは急に余裕が出てきて
「金貨がどのくらいあるか計ってみようよ」
と言い出します。
 
そんなことしなくていいと言ったのですが、ザハラはダニヤの所に行って、枡を借りて来ました。それで金貨の量を量ってから、金貨は壺に移して地面の下に埋めました。
 
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「私はアリの家で枡で計るようなものがあるって何だろう。大麦か小麦か豆、あるいは何かの種かと思ってさ。枡の底に蜜蝋を塗っておいたんだよ。それで枡が帰って来てからも見たら金貨がくっついているから私も仰天してさ」
とダニヤは言います。
 
「それで兄貴は金貨のことを知ったのか」
「それでアリの所に話を聞きに行ってくると言って出かけて行った。カシムはアリが盗みでもしたのではないかと思って、場合によっては自首を勧めると言っていた」
 

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カシムに問い糾されたアリはこの金貨は盗賊たちの宝の隠し場所から取ってきたものだということを話しました。
 
アリは兄さんも必要なら自分がまた行って取ってくると言ったのですが、カシムは自分で取ってくるからその場所を教えろと言ってききません。
 
それでアリは仕方なく場所と岩戸を開く呪文を教えたのですが、彼に注意しました。
 
・取るのは少しに留めること。
 
・取ってくる時は盗賊たちに気付かれないように、あちこちから少しずつ取ること。
 
・できるだけ短時間で出ること。
 
・絶対に岩戸を開く呪文を忘れないこと。
 

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「あの人はラバ10頭連れて行ったよ」
とダニヤが言うと
「最悪だ」
と言ってアリは頭を抱えました。
 
「ひょっとして御主人様は盗賊たちに見つかったのでは」
とモルジアーナは言いました。
 
「その可能性はある」
 
「アリ様。そこに私を案内して下さい」
とモルジアナは言いました。
 
「女は危険だ。誰か男の奴隷を」
とアリは言いました。さすがにダニヤの前では口に出来ませんが、女にはとても見せられないものを見ることになるかも知れないとアリは思ったのもあります。
 
しかし、ダニヤは言いました。
 
「モルジアナは剣技も得意ですし、多少の荷物なら持てます。いつも落ち着いていて物事に動じませんし、何よりも口が硬いです。他の奴隷を使ってこの話が漏れてはいけまん」
 
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「分かった。だったらモルジアナ、一緒に来てくれ」
「はい」
 
 
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