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■八犬伝(7)

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小文吾が翌朝、顔を洗おうと縁側に出て手水鉢(ちょうずばち)を使おうとすると木の葉が1枚浮かんでいました。手に取ってみると裏に何やら文字が書かれています。
 
《分け入りし栞絶えたる麓路に流れも出でよ谷川の桃》
 
(山奥に分け入って、道しるべの栞も分からなくなってしまった。この谷川の桃よ、どうか麓への路に流れ出て、私を導いておくれ:つまり自分を導いて欲しいという女からの熱烈なラブレター)
 
(水に落としても文字が消えないということは、顔料を使用したことになる。黒色の顔料は煙煤(本当は烟炱と書く。烟は煙の異体字。炱は煤と同義)と言って、松などの木を燃やしてできた煤(すす)を使用したものが日本でも古代から使用されている。室町時代は中国から輸入された高品質の顔料も一部では使用されていた)
 
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語り手:小文吾はこの歌を書いたのは、あの旦開野(あさけの)ではなかろうかという気がしました。
 
「それにしても女性的で美しい字だなあ」
と言って、ネオンは(ではなくて)小文吾は思わずその木の葉を胸に抱きしめました。
 
それを密かに見詰める目があることに、小文吾は気付きませんでした。
 
(つまり小文吾が気付かないほど自分の気配を殺しているということ)
 

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それから10日ほど経った日、小文吾が甲夜の頃(20時頃)に少しうとうとしていたら、部屋の外で何か小さな音がします。ハッとして目を覚まし、傍の刀を取ったのですが、障子の向こうに人影があったのが「う」という声を残して倒れてしまいました。
 
小文吾は少し様子を伺ってから、そっと障子を開けます。すると馬加の四天王のひとり、卜部季六(花園裕紀)が倒れていました。死んでいるようです。そして首の後ろに白銀の簪(かんざし)が刺さっていました(撮影は人形使用)。
 
これは旦開野の物だと思います。きっと卜部が自分を殺しに来たのを旦開野が助けてくれたのだろう。
 

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それよりも問題は卜部の遺体です。これをこのままにしておくと、きっと馬加は自分を卜部殺しの下手人として捕まえ処刑するだろう。となると、この遺体は隠すに限る、ということで、卜部の遺体を井戸の傍まで運んでいき(人形でないとあまり腕力の無いネオンにはとても運べない)、重しになりそうな石をたくさん服の中に入れると、簪(かんざし)は回収した上で井戸に放り込んでしまいました。
 
その時、庭で何か動くのに気付きます。
 
曲者(くせもの)か?と思い、無言で刀を抜いて斬りかかりますが、相手はさっと飛び退いて刀を交わすと
 
「犬田様、私です」
と女の声がします。
 
(小文吾の刀をかわしたのは物凄く腕が立つということ)
 
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雲の間から差してくる灯りで、それが旦開野であることに、小文吾は気付きました。
 

旦開野は小文吾に、あなたのことが好きになったと言います。それであの木の葉の手紙も書いたのだと。しかし小文吾は彼女を、馬加が自分を女色で籠絡して仲間に引き込むための回し者ではないかと疑います。旦開野はそんなことを疑うのであればどうぞ私を殺してくださいと言います。それで小文吾は刀を抜き、振り上げるのですが、旦開野は目を瞑って静かに合掌しています。
 
(ここは万一小文吾が本当に斬ろうとしたら、その刀をかわす自信があるので、このような殊勝な真似をしている。旦開野の方が1枚も2枚も役者が上)
 
小文吾はここまでして逃げる様子を見せないということは、この女、本当に自分に惚れたのかも知れないと思い、刀を鞘に収めます。そして彼女に簪(かんざし)を返してから言います。
 
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「そなたの思いは分かったが、私は囚われの身だ。いつまで命を長らえることができるとも知れない。そなたと添い遂げることは難しい」
 
「でしたら、私と一緒に脱出しましょうよ」
「それは無理だ。よしんばこの邸を脱出できたとしても、城の城門を突破することはできない」
 
「私たち一座はここ10日ほど城内に滞在していますが、城下に出て芸をするのに城門の通行証を発行してもらっています。仲間が増えたと言えば、新たな通行証をもう1枚くらい調達するのは可能です。それで私たちの一座に紛れて外に出ませんか」
 
「そなたたちの一座と言っても、私は男だから、女の格好をして女田楽に紛れるのは無理だ」
「あら、女田楽にも男の下働きとかもいますよ。もちろん女に化けたいなら、お化粧とか手伝いますが」
 
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女に化けなくてもいいのなら、その手はあるかと小文吾も思います。
 
「しかしそれではあなたの一座に迷惑を掛けないか?それに見とがめられたら城門破りの罪人として処分されるだろう」
 
「といって、何もせずに居たら、今夜のようにまた刺客を送られたりして、あなたはますます危なくなりますよ」
 
小文吾は考えた。旦開野の言うことはもっともである。それに卜部を倒したことはどっちみちすぐにバレる。
 
「分かった。その話に乗ろう。ただ、私には果たさなければならない使命がある。それを果たした後でなら、そなたと夫婦(めおと)になってもいい」
 
「はい、お待ちします」
と言って、旦開野は小文吾に抱きつきました。女の香りを間近に感じて女性経験の無い小文吾はドキドキしました。
 
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それで旦開野は邸の塀をひょいと乗り越えると去って行きました。小文吾は凄い身のこなしだと思って、彼女が去った方角を見ていました。
 
(なおビーナはこのシーン、一貫して女声で話している。結局、女声・男声の両方が使える人でないと毛野の役は務まらないので、ビーナが毛野を演じることになったのである。当初毛野役にアサインされていた舞音が「頑張ってボイトレに通って男声をマスターします」と言ったが、ゆりこは「舞音ちゃんが男の声で話してたら、ファンが1000万人減るからやめて」と言った)
 
(塀の上に飛び上がるのはトランポリンを使用している。ビーナが地面からジャンプするシーンときれいに編集でつないだ。昔の忍者物のドラマでよく使われたビデオの逆回しでは、髪の毛や服の布が上にたなびいてしまう)
 
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(1479年)5月15日は、馬加常武の息子・鞍弥吾の誕生日だったので、馬加は城内外の様々な人を招いて、宴を開きました。宴はお昼頃から真夜中まで続きます。旦開野たち女田楽も歌や踊りを披露し、賑やかな宴が続きました。小文吾は宴には出席していませんが、旦開野が通行証を確保してくれたらすぐにも出る必要があると考え、旅支度をして待機していました。
 
宴に出席した人たちはだいたい子二刻(23:30)頃になると大半の客は帰りますが、酔い潰れてその辺で眠ってしまっている者も結構ありました。
 
四更の頃(午前2時頃)、人の声が聞こえたような気がしました。しかし騒ぎはすぐに収まったようです。何だったんだろうかと小文吾は思いました。酒に酔っての喧嘩だろうか。
 
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それで様子を伺っていると血だらけの服を着た女がこちらに歩いてくるので驚きます。
 
「旦開野!?」
 
「小文吾様、通行証でございます」
と言って、旦開野は手形を小文吾に渡しましたが、彼女が左手に持っている物を見て仰天します。
 
それは馬加大記常武の首だったのです。
 

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夕方まで時間を戻します。
 
旦開野はみんなが酒で酔い潰れている今夜こそが決行の時と考えました。女田楽の座長(米本愛心)に今夜本懐を遂げるつもりだと言うと、座長も
「死んだらいけないよ」
とだけ言ったので、涙を流して水杯を交わしました。旦開野は万一の場合に一座が巻き込まれないよう、退団届けを書き、座長に渡しました。
 
旦開野は多くの招待客が子二刻(23:30)頃には帰ってしまうので、その後、みんなが寝静まった丑二刻(1:30)頃、普通の(女物の)小袖に着替えて、対牛楼のハシゴを静かに登りました。
 
上の階で、馬加大記常武(花咲ロンド)がだらしなく着物の裾が少しはだけた状態で寝ています。隣に息子の鞍弥吾(直江アキラ)も寝ています。近くに四天王の(卜部以外の)3人、渡部綱平・白井貞九・坂田金平太が寝ています。渡部(長浜夢夜)が旦開野の入ってきた気配で目を覚ましますが、旦開野が笑顔で目配せしてから、馬加のそばに添い寝するようにすると、渡部も微笑んで目を瞑り向こうを向きました。艶事を見るのは野暮だと思ってくれたのでしょう。
 
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渡部が目を瞑り向こうを向いたのを見た旦開野は、小袖の内側に隠し持っていた名刀・落葉をそっと取り出すと静かに振り上げ、馬加の首に思い切って振り下ろしました。一瞬で馬加の首は胴体から離れます。
 
(花咲ロンドのフィギュアを使用しているが、本人は「フィギュアでも自分の首が切られるのを見るのはあまり気持ち良くない」と言っていた)
 
たちまち四天王の3人が飛び起きます。息子の鞍弥吾も目を覚まします。渡部が素早く旦開野に斬りかかってきますが、これを一刀のもとに斬り伏せます。
 
鞍弥吾が無謀にも自分の刀を抜いて突きかかってくるので、子供を殺すのは気が咎めるものの、彼を生かしておくことは禍根を遺すことにもなります。身をかわしてから後ろから首を落としました。できるだけ苦しまない殺し方です。
 
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白井貞九・坂田金平太が左右から旦開野に対峙しています。この時、何か異変があったかと、階下にいた馬加の妻・戸牧がハシゴを登ってきました。すると、女が入ってきたので、白井貞九(鈴原さくら)はてっきり、旦開野の仲間かと思い、速攻で斬ります。斬ってから馬加の妻だったことに気づき「あっ」と声を出しますが、もう遅い。斬られた戸牧は転落し、下にいた娘の鈴子(古屋あらた)に衝突。鈴子は潰されて圧死してしまいます。
 
(転落するのとぶつかるのはむろん人形だが、新人の古屋あらたは「わぁい!私の人形だ!」とはしゃいでいた)
 
旦開野は、白井が戸牧を斬ってしまい狼狽している隙を狙って斬り伏せます。そして残る坂田金平太(立山きらめき)と対峙しますが、彼が斬りかかってきた所を一瞬で身をかわし、カウンターで斬り倒しました。
 
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これだけの人数を1本の刀で斬るのは、名刀・落葉だからこそできることです。この刀は粟飯原胤度が千葉介自胤から託された刀で、いったんは船虫に奪われたのですが、毛野はこれを取り戻しており(*26)、敵討ちを終えたら千葉介自胤に返却するつもりでいました。しかし馬加もまさか自分が奪わせた刀で斬られることになるとは夢にも思わなかったでしょう。
 
(*26)ここは原作と少し話の順序を入れ替えている。原作では、落葉は籠山逸東太から盗んだ船虫が売り飛ばしてしまい、それを小文吾!が買い、古那屋での出会いの時に刀を失って困っていた信乃に譲り、刑場破りの後、荘助に渡し、荘助は越後で没収され、馬加大記の甥・馬加郷武が入手し、郷武がこの刀で毛野の友人を試し斬りしたことに毛野が怒って郷武を斬り、結果的に毛野が落葉を入手した。
 
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つまり毛野が落葉を入手したのは原作では対牛楼事件よりかなり先のことである。
 

旦開野は馬加の首を手に持つと対牛楼を降りて何事も無かったかのように小文吾の部屋まで歩いて来て、そこで小文吾に声を掛けられたのです。
 
小文吾は旦開野が馬加の首を持っているので仰天します。
 
「そなたそれはどうしたのだ?」
 
「小文吾様は、自胤様が当主になられた時に、馬加が籠山逸東太に粟飯原胤度を殺させた企みのことをご存じですか」
 
「うん。聞いている。」
 
「寛正六年(1465)11月、馬加大記の悪巧みにより、粟飯原胤度は籠山逸東太に斬られ、正妻の稲城、息子の夢之助、幼かった娘の玉枕まで殺されました。ただ1人妾の調布(たつくり)だけが、子を孕んでいるように見えるものの、3年前からその状態ということで、妊娠ではなく腫瘍なのだろうと言われて助けられました。しかし調布は12月、子供を産みました。その子供が私なのです」
 
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「そうか、調布(たつくり)殿が女の子を産んで、馬加はその行方を捜したが見つけきれなかったとは聞いた。その娘がそなたであったか」
 
「私は本名は毛野と申します。犬坂村で生まれたので、犬坂毛野と名乗るよう母は言いました」
 
「そうだったのか。しかしよく見つけられなかったな」
 

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「私と母はあちこち移動しておりましたから。女1人で子供を育てるのは大変だったと思いますが、母は鼓を打つのが上手いので、やがて女田楽の一座に入り、それで生計を立てながら私を育てたのです。それで私も物心ついた頃から女田楽を覚えました」
 
「それで母上は元気か?」
 
「私が13の年(*27)に亡くなりました。その時、母は私の出自について語ったのです。実は私は小さい頃から、剣の腕も鍛えさせられていました。女田楽でも剣は扱いますが、母は腕の立つ武士に頼んで、私に実戦で使える剣を覚えさせていたのです。自分は女なのに、なんでこういうことを覚えさせられるのだろうと思っていたのですが、追っ手が掛かったような場合に、剣の腕が無いとやられてしまうからだったと母は今際の際に言いました。でも私は母が亡くなり父や兄姉の無念を知った時、自分はいづれ父たちの仇を討とうと思いました。そして今回、とうとう馬加の近くまで寄ることができました」
 
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「おお」
 
(*27)毛野が生まれたのは寛正六年(1465)12月と言っているので13の年は1477年。現在は1479年5月なので、毛野は現在15歳ということになる。満年齢で言うと13歳半である。
 

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八犬伝(7)

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