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■私の二重生活(10)

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打ち上げはかなり盛り上がった。しかしここにはうちの会社の売上の恐らく5割か6割に貢献しているアーティストが集まっているなと思った。ローズ+リリーの2人は歌手としてもソングライターとしても、今いちばん旬のアーティストだ。彼女たちだけでおそらくうちの売上の3割くらいを占めている。KARION, XANFUS も各々大きなファン層を持っている。しかしローズ+リリーのケイとKARIONの作曲者・水沢歌月が同一人物だったというのは度肝を抜かされた。あれ知っていたのは社内でも町添制作部長など、ごくわずかだったらしい。よく掛け持ちできていたものだ。
 
しかしこの子たちは素直な子たちだなと、私は彼女たちと話ながら思った。これだけ売れていたら、天狗になるアーティストが多いし、売れてるのをいいことにワガママし放題になるアーティストも多い。
 
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しかし見ていると、ケイちゃんって気配りが凄いし、凄く謙虚だ。恐らく自分が今ポピュラーミュージックの世界の頂点に立ちつつあることを全く意識せず、むしろまだ「若い挑戦者」であるかのように、更なる高みを目指しているように見える。マリちゃんとの関係は恋人だとも噂されているが実際はどうなのだろうか? この手の話には多分の演出が入っているから実態は分からないよなと私は思っていた。
 
確かこの子たち最初の頃「和製 t.A.T.u.」などと言われていたけど、その当のt.A.T.u.がレスビアンというのは実は嘘だったことを後に明らかにしている。
 
そういえばXANFUSの2人もレスビアンという話だけど、そちらはローズ+リリーの真似をしてやはり演出で言っているのでは?などとも思ってみるものの、こういうのは本当に分からない。
 
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会場を見回していて、ひじょうに強いオーラを出している女性がいるのに気付く。近くに居た、スタッフっぽい女性に「あの人誰ですかね?」と訊くと
 
「作曲家・醍醐春海の一部で、水野麻里愛さんです。芸大の修士2年生ですが、秋からしばらくフランスに留学してくるんですよ」
 
と言う。
 
「いや、なんか凄そうな人だなあと思って」
「彼女、ピアノ・ヴァイオリンどちらも物凄く上手いです」
「あれ? 親しいんですか?」
「ええ。同じ高校だったんです」
 
私は一瞬考えた。
 
「すみません。あなたは・・・・」
「あ、申し遅れました。私もその醍醐春海の一部で村山千里と申します」
と言って彼女は名刺をくれる。
 
《作曲家・醍醐春海》
と書かれている。
 
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「わっ、作曲家さんでしたか。すみません!」
と言って私も慌てて名刺を出して交換した。
 
嘘だろ?この子、とても音楽やるって雰囲気じゃないのに?どちらかというとそこら辺のマクドナルドかロッテリアでバイトしている、どこにでもいそうな女の子なのに。およそ、音楽家のオーラを持っていない。よくこれで曲とか書けるなあと思いつつ、醍醐春海って何だっけと必死に思い出す。
 
「あ、えっとKARIONの作曲家さんでしたっけ?」
「はい。KARIONに楽曲を提供しているソングライターは多いので、私はその4番手か5番手くらいですけどね」
 
良かった!半分当てずっぽだったけど当たった!!でも4番手か5番手くらいか。そうだろうなあ。何か大した作曲家には思えないもん。
 
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しかしこの醍醐さんという作曲家は何だか話が聞き上手で、私はあまりしゃべるつもりのないことまで結構しゃべってしまう。ふと気がつくとアーティストの育て方に関する持論まで話してしまい、それを近くにいた氷川主任が頷きながら聞いていた。
 
けっこう醍醐さんと話していた時に、彼女が唐突に言った。
 
「八雲さん、ホルモンバランスが凄く崩れている。疲れやすいでしょう?」
「ええ。ここ数ヶ月けっこうきついんですよ」
「イーク*ンはサボらずに毎日ちゃんと飲んだ方がいいですよ」
 
へ?
 
私は一瞬何を言われたのか分からなかったのだが、何か聞き返そうとした時、彼女はKARIONのいづみに呼ばれて「済みません。失礼します」と言って向こうに行ってしまった。
 
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はっ。
 
と思って私はあたりを見回す。幸いにも近くには他に人が居ない。今醍醐さんが言ったことばは誰にも聞かれていないと思った。
 
しかし・・・・確かに私はイーク*ンを飲んでいる。でもでも・・・私、そのことを言ったっけ?? いや言っていないはずだ。よしんば私が女性ホルモンを飲んでいることに何らかの形で気付いたとしても。。。ふつう最初に出てくる名前はプレマ*ンだ。そのジェネリックを飲んでいるとしても、有名なのはエ*トロモンとかプ*モンとかである。私はエ*トロモンの味が嫌いなので少し高いものの飲みやすいイーク*ンを使っているが、イーク*ンはプレマ*ンのジェネリックの中では割とマイナーな方である。なぜ彼女はイーク*ンという名前を出したのだろう?
 
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待て待て。
 
もしかして、私が隠れオカマだって、あの人、気付いたの〜〜〜!?
 

8月のお盆すぎはステラジオもこの夏のイベントを全国各地でこなすので、それについてあちこちを飛び回っていた。彼女たちは確実に人気が上昇してきた。特にホシが高校時代に書いていた『私はピエロ』という曲を、私が「これ絶対いいよ」と言って、事務所側の「こんなの売れませんよ」という反対意見を押し切って楽曲制作させ、とりあえずgSongsで公開させたのが、ライブで演奏したのを機にダウンロードされるようになり、そのダウンロードが増えるにつれライブ会場に来てくれる客が増え、ライブに来る客が増えるとダウンロードがまた伸びるという、きれいな相乗効果を示していた。
 
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8月初めに公開してから既に7万ダウンロードもされており、ひょっとしたら10万行ってしまうかもという状況になってきた。
 

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「八雲君、今抱えているのは誰と誰だったっけ?」
と9月頭に加藤課長から尋ねられた。
 
「いちばん大きいのは丸口美紅ちゃんです。それからステラジオ、にゃんじーら、タイトソックス、カンツォン、魔羅Ich(まらいひ)くらいかな。まともに稼働しているアーティストでは」
 
「ステラジオはブレイクしそうだね」
 
「彼女たち行くと思います。できたら年末に全国ツアーさせたいんです。予算もらえませんか?」
「検討しよう。丸口美紅ちゃんは安定してるよね?」
「ええ。もうこのまま行くと思います」
「じゃ、美紅ちゃんは今里君に引き継いでくれない? 彼女にも言っておく」
「分かりました。誰か新人ですか?」
 
「うん。ちょっと面白い素材がいてね。この春に高校を卒業してもうすぐ18歳なんで、アイドルとして売るには微妙なんだけどね。丸山アイちゃんって言うんだよ」
 
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「シンガーソングライターですか?」
「結構いい曲は書くけど、楽典とかの知識が乏しいみたい。スコアとかを作る技術は無いんで、多少の補作を含めたスコア整理係は必要。でも年齢が年齢だから、シンガーソングライターの線で売ろうと思っている」
 
「なるほど」
「あ。ちょっと会議室に行こう」
 
と言うので一緒に空いている部屋に入る。入社1年目の照枝ちゃんと目が合ったので合図をする。コーヒーを持って来てくれるはずだ。
 

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「これが彼女の資料」
と行って大きな封筒を渡される。中の資料を取り出すが私は戸惑った。
 
「男女のデュオですか?」
「違う。それどちらもアイちゃん」
「どういうことです?」
 
「このことは他言無用にしてもらいたいのだけど、彼女は戸籍上は男性なんだけど、実際には男性と女性の二重生活を送っている」
 
ドキッとした。それって私みたいじゃん。
 
「中学時代に去勢して高校3年の夏休みに性転換手術してしまったらしい。法的な名前は久保佐季(くぼ・さき)と言って、元々男女どちらでも通用する名前なんだけど、法的な性別も20歳になったらすぐ女性に直すらしい」
 
「最近は時々そういう子がいますね。ローズ+リリーのケイちゃんとか」
 
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「うんうん。あの子は公称では19歳で性転換手術したということになっているけど、町添さんとかの話聞いてると、どうも彼女も実は高校時代に性転換しているような気がするね。不確かだけど」
と課長は言う。
 
「ケイちゃんは不自然さがないから、かなり若くして去勢とかもしたんだと思いますよ。私はあの子が高校3年の時休養していたのは性転換手術を受けたからでは想像していたんですけどね。ローズ+リリーの印税が入ったんで手術を受けたんでしょ?」
 
「うん。そういう説もあるよね。まあそれで丸山アイちゃんもMTFなんだなと思ったんだけど、本人は自分はMTXだと言うんだよ」
「なるほど」
 
「僕もMTXって言葉を知らなくてね。氷川君に聞いたら教えてくれたけど、実はいまいちよく分からない」
「私の知り合いにMTXの人が居ますから、だいたい分かります」
 
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「ほんと?それは助かる。でも要するにこの子、男の子という状態に違和感を持っていたので男性器を除去したけど、本当に女の子になりたいというのとはまた違うらしいんだよね。だからおっぱいは大きくしていないらしいし、男の格好で出歩くこともあるらしい。そのあたりが僕はよく分からないんだけどね。男としても生きるのなら男性器は持っておけばよかったのにと言ったら氷川君から理解が無さすぎると叱られてしまった」
 
「自分の曖昧な性別をそのまま受け入れているんだと思います。男性器を除去したのは、つけたままにしていると否応無しに身体が男になってしまって、女の自分を生きるのに辛かったからだと思います。じゃ、この子、男の格好をさせたり、女の格好させたりするんですか?」
 
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と言いながら、そんなタレントを売り出すのはかなり難しいぞと私は思った。どうしても世間的には「色物」と見られてしまう。例えばIVANみたいな位置付けは、このタイプはおそらく好まないだろう。
 
「その問題についてね。僕も悩んだんで、ある人物に相談したら、男と女の両方で売ればいいというんだよ」
 
「えっと・・・」
 
「丸山アイという名前は女性シンガーソングライターとして売る。一方で高倉竜という名前を作って、こちらは男性演歌歌手として売る。両者は一切関わりを持たせないようにする。高倉竜はメディアには顔を一切露出させない」
 
「それは面白い」
 
「彼女としては女性でいる時間と男性でいる時間の両方を持っておきたいというんだよね」
「そのあたりはなんとなく理解できます」
「そう? そのあたりから僕の理解の範疇を超えているんだけどね。いや、八雲君に担当してもらおうかなと思ったのは、君、以前チェリーツインを担当してたよね」
 
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「もう随分前ですけどね」
「あれの実質ボーカルの少女Yこと桜木八雲ちゃんがFTXだと言っていたなと思ってさ」
「ええ。彼女はそうです。彼女は純粋女性寄りのFTXなんですよ。女性として暮らしている部分の方が大きいけど、男として生活する自分も持っている」
 
「彼女の名前が八雲と君の苗字が八雲で、実はそこからふと君のことを思いついたんだけど、確か実際に担当していたこともあったよなと思ってね。FTXの子を担当した経験があるなら、この子も何とかならないかと思ったのが実際のところなんだよ」
 
私は苦笑した。当時「八雲さん」と呼ばれると、桜木八雲と私が同時に返事したりしていたものだ。
 
「分かりました。ぜひやらせてください」
 
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と私は言った。正直、こういう微妙な性別の子を、この方面に理解の無い人には担当して欲しくないと思って引き受けた部分が大きかった。
 

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