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(C)Eriko Kawaguchi 2015-03-27
人気デュオのライブ、セカンドアンコールの曲の最後の音が、フェルマータで伸ばされ、やがて小さくなって消えていく。ホールが静寂を取り戻した次の瞬間、その静寂は割れるような拍手によって破られる。
ふたりが手をつないでステージの前面に立ち、お辞儀をする。会場をいっぱいにした観衆から惜しみない拍手と歓声が掛かる。
しかしその時点で、私たちスタッフはもう戦争のような忙しさで後片付けを既に開始していた。
運び出してよい荷物は全部既に車に積んである。バイトの子たちにイベンターの担当者が指示を出している。幕が下りる。客電が点いて、締めのアナウンスがされる。それと同時にセットを解体するスタッフがステージに飛び出して行く。私は2時間近く歌っていたふたりに「お疲れ様でした」とねぎらいの言葉を掛けて、飲み物を渡した。
男性のアーティストなら、ビールなどを要求する人が多いのだが、今回のツアーをしているのはステラジオという女性のデュオなので、オレンジジュースである。8月下旬の東北はもう夜になるとかなり寒いものの、2時間のパフォーマンスをしたふたりは汗だくだ。冷やしすぎていないオレンジジュースは、水分補給と、身体のほてりを冷ますのと、カロリー補給を兼ねている。リードボーカルのホシは結構カロリーを気にしていて、ふだんはブラックコーヒーやウーロン茶などノンカロリーの飲み物を好むのだが、さすがにライブの直後はカロリー補給が欲しいようである。
「美味しい!ノリちゃん、ありがとう」
と一気にそのジュースを飲んだホシが言う。
「今日は声が良く出ていたよ」
と私はこの日の感想を言う。
「やっぱり? 今日は自分でも調子いい気がしたのよね」
と彼女は答える。
「そうそう。ホシが調子いいから私も引きずられて調子良くなった」
と相棒のナミも言う。
「ナミちゃんも音程が凄く安定してたよ」
と私は彼女も褒めておく。女性デュオとの付き合いかたはなかなかデリケートである。ふたりは最大の親友であると同時に最大の敵(ライバル)でもある。それでもホシとナミのように歌唱力に明確な差がある場合はまだやりやすい。ふたりの実力が拮抗しているユニットだと、かなり神経を使う。駆け出しの頃に担当したあの2+2+3人のユニットとか大変だったなあと私は昔のことをふと思い出していた。
「ホシ特に高音がほんとに豊かに響いていた」
とマネージャーの舞鶴さんも言う。
「そうそう。いつもは自分でもちょっと辛いHigh-Eが今日は何だか余裕で出たんだよね」
とホシ。
「うんうん。『恋の迷い人』のサビのところ。あれ聞いて今日は調子よさそうと思ったよ」
と私。
そんなことを言いながら私は彼女たちを裏口に誘導する。舞鶴さん、イベンターの女性と5人で裏口そばに駐めてあるクラウン・マジェスタに乗り込む。イベンターの女性が運転席に座り、私が助手席、そして後ろにアーティスト2人と舞鶴さんが乗って、車は会場を抜け出し、郊外のビストロに向かった。そこで打ち上げを兼ねた食事をしてからホテルに連れていくコースである。それをしている間に会場の方では、セットや機材の片付け、客席の清掃などが大忙しで行われている。
「でもノリちゃんの担当になってから、私たち凄く活動がしやすくなった感じ」
とリーダーのホシが言う。
「売り上げも上がっているよ。昨年は年間CD売上シングル18000枚、アルバム2400枚、観客動員12000人だったのが、今年は6月までの半年だけで既にシングル48000枚、アルバム7000枚、観客動員40000人。恐らく最終的には昨年の5-6倍になるよ」
とマネージャーの舞鶴さんは自分のスマホを見ながら言う。
「お給料も上げてもらえるといいな」
などとナミ。
「それだけど、給料契約じゃなくて、マージン契約に切り替えたらどうだろうと社長が言ってたんだよ。ちょっと検討してもらえないかな」
「マージンって、つまり売れた分だけもらえるということですか?」
「そうそう。CD売上の1%をふたりで山分け。だから1200円のシングルが5万枚売れたら、容器代を除いて5400万円だから1%の54万円」
「それを2人で分ける訳ですか?」
「そうそう。ライブは今の実績なら1公演4万円かな」
「それを2人で?」
「うん」
「生活できないんですけど!?」
とホシが苦笑しながら言う。
「確かに今の実績では収入は半減する。でも今の10倍売れたら年収2000万円の世界」
「それって、2000万円稼げる状態になってから契約切り替えるの大変ですよね」
「大変なことはないけど、概して揉めがち。今なら会社側も喜んで応じる。でも君たちは今、上り坂だもん。絶対売れるようになるよ」
と舞鶴さん。
「今月いっぱいくらい考えさせてください」
「うん。OKOK。ふたりの契約は10月1日更新だから、その時に新しい方式を決めようよ」
ビストロのスタッフ更衣室を借りて2人に服を着替えてもらい、それからあらためてサイダーで乾杯して、打ち上げをする。
「ノリちゃん、いつもサイダーだよね。お酒飲まなくてもいいの?」
「僕は実はアルコール飲まないんですよ。飲めないことはないんだけど、飲まなくて済むなら飲まない方針」
「へー。こういうお仕事している人にしては珍しいですね」
「うん。酒もタバコもやる人が多いよね。この世界」
「そういうのもあるのかなあ。なんか前の担当者さんに比べて、垣根を感じなくて、それで結構私たち好きなこと言っている気がして」
「いや、それで僕もホシちゃん、ナミちゃんの考え方に沿って営業の政策を立案してるから」
と私は答える。
「うん。そのおかげで、今年は伸び伸びと活動できた気がするんですよね。変な言い方だけど、女性の担当者と話しているみたいに気楽に話せるんですよ」
とホシ。
「ああ、僕は昔から女の子の友人の方が多かったから、女性と話し慣れているのかもね」
と私。
「それって凄くもてたってこと?」
「逆逆。安全パイと見られていた感じ。だから、好きな男の子にラブレターを渡す役とか、随分してあげたよ」
「なんかそれって、辛くないですか?」
「友だちの女の子から頼まれるのは普通に平気。こちらも友だちとしか思ってないから」
「もしかしてホモですか?」
「うーん。むしろアセクシュアルかもという気はする。僕ってあまり性欲無いんですよ。誰かを好きになったこともないし」
「へー!」
「大学生の頃は随分女子会に参加してましたよ」
「ほほぉ」
「僕自身、男子の友人とお酒飲みながら猥談とかするより、女子の友人たちと甘いものでも食べながら、ファッションのこととか、ジャニーズの子の品定めとか話す方が楽しかったし」
「あ、ノリちゃんって、ジャニーズJrの子の名前、ほぼ把握してますよね?」
「ほぼじゃないけど、目立つような子はだいたい分かるかな」
「でも女子会に出てたら、女子もけっこうHな話するでしょ?」
「するけど男子たちがする話ほどどぎつくないから、僕はそちらの方が気楽」
するとナミが少し考えるようにして言った。
「ノリちゃんって、ホモじゃないんだったら、もしかして、女の子になりたい男の子ということは?」
「中学の頃、そんなこと言われてセーラー服を着せられたことあるけど、二度と着せられなかったから、たぶんその傾向は無いのではないかと」
と私は笑いながら言っておいた。
「へー。ノリちゃん、女装させたら似合うような気もするのに」
ツアーは金土日に大きな都市を回る形で3週間で全国9箇所を回った。そして最終日の東京公演では、3200人収容の東京スターホールでほぼ満員という快挙を成し遂げ終了した。私はこの子たちは絶対売れると確信した。
最後の打ち上げを日曜日の夜12時近くまでやってからホテルには1時近くになって入った。東京なので自宅に戻ってもいいのだが、この時間に自宅まで戻ろうとしたらタクシー代が高額になるので、ホテルに泊まっていいことになっている。この分までちゃんと出張費で落とせる。
私はホテルの部屋に入ると、とりあえず服を全部脱いで全裸になった。バッグの内ポケットから2種類の錠剤シートを取り出すと、3錠ずつ飲んでたっぷりの水で喉に流し込む。
それからベッドに横になり、足を曲げて自然に広げる。旅行バッグに入れたピンクの化粧ポーチを取り出す。その中から鉛筆型の消しゴムを取り出す。直径1.5cmほどもある太いタイプだ。ポーチの中に入れている花柄の生理用品入れの中から1枚避妊具を取りだし、その消しゴムにかぶせる。この時、避妊具の♂マークの付いている側を消しゴムにかぶせるので外側は♀マークの付いていた側になる。ドキドキしながら、それでしばらく遊ぶ。自分は♀側に居るんだということを意識すると心臓の鼓動が速くなりその音が耳に響く。
たぶん10分近くやっているうちに到達したような気分になる。そこで今度は自分のお股の前の方にある敏感な器官を指で押さえ、ぐるぐると回転させる。
男の子的にフィニッシュさせる場合に比べて、女の子としてフィニッシュさせるのには物凄く時間がかかる。かなり長時間やっていたものの逝くことができず、私はピンクローターを取りだした。当ててスイッチを入れる。
凄く気持ちいい。こういう快感って男の子は知らない快感だよなと思う。かなり長時間やっているが、これで逝けないことは知っている。
かなりその高揚感を味わった上で、ローターを停め、また指で刺激する。かなりの時間を掛けて、やっと逝くことができた。VモードからCモードに切り替えてから多分20分くらい。最初からだと30分くらい掛けて、ここまで到達する。自然に眠くなるので、そのまま軽く睡眠する。
30分くらい寝たようだ。私はベッドから出るとシャワールームに行き、ゆっくりと熱いシャワーを浴びた。足にせっけんを付けて、カミソリで剃りむだ毛を全部取り除く。排水を詰まらせないように、剃ったむだ毛はトイレットペーパーに取り、ビニール袋に入れてゴミ箱に捨てるようにしている。
髪もきれいに洗って、コンディショナー、トリートメントと掛ける。こういうのをしているだけでもけっこう女性的な気分になれる。
お風呂からあがると、今日はレース使いがとってもフェミニンなハイレグのショーツを穿き、おそろいのブラジャーを付けた。スリップを着け持参のスカートを穿き、ポロシャツにトレーナーを着る。部屋の鏡の前で化粧ポーチを取り出して化粧水・乳液を塗った上でファンデーション塗る。今はファンデはコンパクトを使うだけだけど、昔はリキッドを塗った上で更にコンパクトで二重塗りしてたよななどというのも思い出す。「顔のむだ毛の剃り跡」を目立たなくするには二重塗りする必要があったのである。
それからアイカラーを塗り、アイライナー・アイブロウを入れる。アイブロウは今日は時間があるので丁寧に毛の1本1本を描いていく。マスカラを付けてビューラーでカールを付ける。それからチークブラシを使ってチークを入れる。最後にお気に入りのエスティローダーの口紅を取り出し、丁寧に唇に塗る。口角にもしっかり塗っておく。
部屋の鏡に自分の全身像を映す。
うん。いい女だよね!