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■私の二重生活(6)

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そんなことを言われて私が面接に出かけたのが、★★レコードであった。音楽的な素養のあるスタッフを求めていたようである。当時は私も知らなかったのだが、A&Rと言って、歌手やバンドなどを発掘したり、CD制作の企画を出したりする仕事のようである。
 
私が音楽教師コースではなく英語教師コースに在籍しているというのを聞いて面接の担当者は少しがっかりした様子ではあったが、声楽やピアノなどの講義を取っていると言うと好感してくれた雰囲気だ。
 
「君、歌はうまい?」
と訊かれたので
「じゃ歌ってみます」
 
と言って、私がアカペラで、さんざん在学中に鍛えたソプラノボイスを使い瀧廉太郎の「花」を歌ってみせたら、
 
「君、面白い芸を持っているね」
と言って気に入ってくれた感じであった。
 
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それで好きなアーティストは誰かとか、どういうジャンルの音楽を聴いているかなど訊かれ、また今後の日本のポピュラー音楽はどうなっていくべきかなどと尋ねられるので、私はどうせ顔を出すためだけに来たんだからと思い、開き直って自分の持論を述べた。すると向こうはしばしば頷いたり、時には悩んだりしながら私の話を聞いてくれた。
 

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「ところであなた、髪が長いですね」
「すみません。学生の気安さで伸ばしています」
「別にはげを隠すために伸ばしているとかじゃないのね?」
「長い髪が好きなので。本当は長い髪のまま仕事できるような職場があればいいんですけど」
 
「教師になる気はないの?」
「実はそれもあって教師の道は断念したんです。でも一般企業でも難しいでしょうね」
「いっそ歌手になる?」
 
「さすがにそこまでの実力はないことは自覚しています」
「そう?君より下手なプロ歌手はたくさん居るけどね。男であんなきれいなソプラノ出せるのはむしろかなりレアだと思うよ」
 
この時代は女声発声法の普及時期で「両声類」さんも今ほど多くは知られていなかったと思う。
 
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「楽器は何かするの?」
 
「いちばん自信があるのはギターで、中学時代にヤマハのFGを買ってもらってずっと弾いています。ピアノは一応大学で講義を受けていますしポップスとかならまあ弾けるかなというレベルです。自宅ではピアノが買えないのでポータブルキーボードを弾いていますが。ヴァイオリンも持っているので、時々弾いていますが、そちらは下手です」
 
「へー。結構色々できるじゃん。ヴァイオリンも弾くんだ?」
 
それは伊代が留学する時に置いて行った初心者用のヴァイオリンである。
 
「子供の頃、友だちが習っているのを見て自分も習いたかったんですが、ヴァイオリンなんて金持ちの娘がやる道楽だとか親に言われて、習わせてもらえなかったんです。それで大学生になってから練習しはじめたんです」
 
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「それは君って努力の人だね」
「努力が実ればいいんですけどね」
 

面接の人とは結局1時間くらい話していたろうか。最後は面接というよりただの雑談になってしまった感もあった。
 
そして一週間後、大学宛てに内定通知が来た。
 
「マジですか?」
と私は半信半疑で訊いた。
 
「気が進まないなら断ってもいいよ」
「いえ。そこに行かせてください」
「それから特にコメントが付いててね。君の髪だけど、さすがに今の長さは困るけど、肩につかない程度の長さまでで、きちんとまとめておくのなら、長めの髪でもいいよということらしい」
「わあ、それは嬉しいです」
 
「ああ、やはり何かの理由があって伸ばしていたのね?」
と教官は言う。
「ええ。ちょっと個人的な理由なのですが」
 
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さすがにこの教官の前で女の子の格好をするからとは言う勇気が無かった。
 

それで私は大学を卒業すると★★レコードの制作部門で仕事を始めた。最初の内は先輩に付いて雑用やお使いなどの仕事をたくさんこなした。その中で音楽業界の特殊な習慣や勢力関係なども把握していった。最初の内はちゃんと背広を着てネクタイをして仕事をしていたのだが、仕事で出て行く先の音楽事務所やスタジオなどで
 
「背広見ると暑苦しいよ」
「普段着でいいよ」
 
などと言われるので、次第に私はワイシャツの上にセーターを着ただけの格好、そしてネクタイも締めずに仕事をするようになった。その格好で会社に出て行っても先輩や上司は何も言わなかった。実際、同僚でもジーパンにポロシャツで仕事をしている人は多かったし、女子社員でもジーパン派、またノーメイク派がけっこう居た。正直、勤務時間が無茶苦茶な仕事なので、ていねいに化粧なんかしてられないというのが、本音のようである。
 
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「コンピュータのソフトハウスなんかと雰囲気似てるかもね」
などといろいろアドバイスしてくれた北川奏絵さんなどは言っていた。
 
「SEさんたちも勤務がしんどそうですね」
「会社にもよるけど、若い会社では女性SEはスカートなんか穿かずにジーンズで仕事しているところも多いみたい。でもそういう会社でも事務の女の子はスカート穿いてこないと叱られるらしい」
 
と北川さんは言う。私は彼女がスカートを穿いている所を実は1度も見ていない。
 
「うちの会社も総務部とか営業部は服装規定厳しいみたいですね」
と私。
 
「うんうん。でも制作部は仕事さえできていれば服装はどうでもいいというスタンス。さすがに男子社員がスカート穿いて出てきたら叱られるかも知れないけど」
 
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「ああ、男子のスカートはダメですか?」
「男女差別かもしれないけどね。八雲君、スカート穿きたい?」
「えー?どうしよう?」
 

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アーティストのライブというのは金曜から日曜に掛けておこなわれるものが多い。それで自然と土日も勤務することになる。そこでその代休として月曜・火曜を休みにしてもらえるパターンが次第に定着していった。
 
私は、仕事に慣れてきた2年目の春頃から、この月火の休日をフルタイム女装して過ごすことを始めた。
 
だいたい日曜の夜にライブが終わって、帰宅するのはもう12時前後である。帰宅した所で足や脇のむだ毛などを処理して、女の子の服を着て寝る。月曜日の朝、目が覚めたら化粧水パックをして肌を起こした上で、しっかりメイクしてマニキュアをし、お出かけなどもして女の子ライフを満喫する。
 
町を歩いていると、たまにナンパされることもあったが、この時期はもうかなり女声で話すのもうまくなっていたので「待ち合わせ時間までの限定」などと言って30分程度割り勘でお茶を飲んで男の子との束の間のデートを楽しんだりすることもあった。
 
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そして火曜日の夕方まで2日間そういう生活を楽しんだ上で、夜、爪に塗っているエナメルをリムーバーで落とす。この儀式をしていて、しばしば私はため息を付いていた。
 
マニキュアしたまま会社に出て行ったらダメかなあ。
 
それとなく北川さんに訊いてみたことはあるのだが、
「個人的に休みの日にマニキュア・ペディキュアするのは構わないけど、会社では男性社員は遠慮して」
と言われた。
 
そんなことを言われると、自分は女性社員でありたかったな、などと思ったりもする。しかし会社にそんなことを主張する勇気は無いので、仕方なく火曜日の夜はエナメルは落とす。もちろんエナメルは落としても、やはり女の子のパジャマやネグリジェを着て寝るのだが。
 
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そして水曜日の朝にはワイシャツを着て、髪もきちんとまとめて会社に出ていくのである。出勤する時に紳士靴を履きながら、そばに置いているパンプスを恨めしく見るのが私のいつものパターンになっていた。
 

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その2年目の6月頃、上級主任の南さんから呼ばれた。
 
「君、今何かメインで担当しているアーティスト居たっけ?」
「いえ。だいたい秋月さん、北川さん、山村さんなどのお仕事の補助をしています」
「そうか。君って女性の担当者の補助が多いんだね」
「たまたまだと思いますが」
 
「いや、だったら女性アーティストにも随分関わっているでしょ?」
「ええ。富士宮ノエルちゃんとか、篠田その歌ちゃんとか、秋風コスモスちゃんとかのライブに同行させて頂いたり、企画会議や音源製作に立ち会わせて頂きました」
 
「もしかして男性アーティストの経験が無かったりして」
「えーっと、昨年春に大槻三郎さんのライブに3回ほど同行しました」
「誰だっけ?」
「えっと、○○プロさんの歌手なんですけど。あまり売れてないかも知れませんが」
「ごめん。記憶が無いや。でも女性アーティストの経験が多いんだったら好都合だよ。この子たちをしばらく担当してくれない?」
と言って南さんは封筒を渡す。
 
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「はい!やらせてください」
と私はその中も見ずに言った。
 
「インディーズのアーティストなんだけど、CDの流通をうちが取り扱うんで、その義理で、細々としたことのお手伝いも発生すると思うんだよ」
「分かりました」
 
と言いながら私は封筒から書類を出した。チェリー・ツインという名前が書かれており、可愛い女の子2人の写真が出ている。20歳くらいだろうか。
 
「この子たち双子ですか?」
「そうそう。よく似てるよね。僕は2−3回会っただけだけど、全く区別がつかない」
「声質も似てるんですか?」
「あ、この2人、声が出せないんだよ」
「え?」
「言語障碍らしくてね。何もしゃべることができないし、もちろん歌も歌えない」
 
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私は困惑した。
 
「この子たち歌手じゃないんですか?」
「そうだよ」
「無言歌ですか?」
「この子たちの代わりに別の女の子ふたりが陰で歌う。それがこちらの2人。事情があってこの2人は絶対に顔出しNGなのでこの子たちの写真が決してどこにも流出しないよう注意して欲しい。この写真の撮影やコピーも不可」
「分かりました!でも面白いですね」
「うん。ちょっと面白いよ、このユニットは」
 

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後から考えると、南さんは私を独り立ちさせるためにその準備運動として作業量も少なく、あまりわがままも言わなそうな委託扱いの新人ユニットを担当させてくれたのではないかと思う。
 
彼女たちは普段は北海道に住んでいるということで、来週新たなCDを制作するために東京に出てくるということであった。それでその週は秋月さんに付いて、サイドライトという女子大生5人組のユニットのライブの仕事をした。水木は東京のスタジオで音源製作をして、金土日は東京・金沢・福岡でライブをした。
 
「集客力のありそうな東京を土曜日にはしないんですか?」
と私は秋月さんに訊いた。
 
金曜日は勤めが終わってから行く必要があり、日曜は翌日が仕事であまり遅くはなりたくない人が多い。夕方からライブをするなら、土曜がいちばん人を集めやすい。
 
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「売れているアーティストならそうなんだけど、結果的に土日は箱の競合がきつくなる。会場代も高い。だから売れてないアーティストは土日を地方都市にした方が採算が取りやすいんだよ」
と秋月さんは説明した。
 

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確かに金曜の東京でのライブハウスの公演では観客がまばらだったし、反応もにぶかった。たまたま通りかかったので入ってみた客かなという人が半数程度をしめている感じだ。みんな飲食やおしゃべりに夢中で、ライブは全然聴いてない雰囲気であった。サイドライトの5人もこういう反応に慣れているのか、MCも適当で、淡々と歌っていく。
 
「ヤコさんって、もしかしてトークが下手ですか?」
と私は秋月さんに尋ねた。
 
「そんな気はするね」
「あれ、その場の思いつきでしゃべろうとしてるでしょ。台本を書いてあげたほうが良くないですか?」
「ふーん。じゃ、八雲君、書いてみる?」
「僕がですか?」
「いいのができたら、明日の金沢はそれを渡してみよう。あの子、実際毎回ネタ考えるのに悩んでいるみたいだし、書いてあげるのはひとつの手だと思う」
「やってみます! 曲順は明日も同じですか?」
「うん」
 
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それで私はその晩ひとばん掛かりでMCの台本を書いてみた。朝東京駅で秋月さんと会った時に渡してみてもらう。
 
「八雲君、前に一緒に仕事した時も思ったけど、けっこう性格が女性的だよね」
「え?そうですか」
「これ褒め言葉」
 
私はほんとに内心嬉しかったのだが、あまりそういう感情を出してはいけないかなあと思い、できるだけ平静を装っていた。
 
「女言葉がちゃんと使えているよね。それにヤコちゃんの口癖みたいなのまでうまく取り込んでいる。あの子たち気に入ると思うよ」
 
秋月さんは幾つか避けた方がいい言葉を修正してくれたり、「これはむしろこの曲のあとがいいかも」と場所を移動したりもしたが、だいたい私が書いた台本を9割方そのまま使ってくれた。
 
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金沢でサイドライトの5人と合流して、MC台本を見せると
「わ、こういうのあると助かります」
とヤコが嬉しがっていた。それで読んでいたが
「きゃー、これ私がいつも言ってることだ!」
などと言って喜んでいる!?
 
それでその日の金沢ライブでは、この台本でうまく客を乗せることができて、随分盛り上がったのである。東京のライブではアンコールも無かったのに、この日はアンコールの拍手があって、本人たちが「何も考えてなかった?何を演奏する?」などと言って慌てていた。
 

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■私の二重生活(6)

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