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■夏の日の想い出・1羽の鳥が増える(8)
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2014年4月は、ローズクォーツ、槇原愛、貝瀬日南、南藤由梨恵の話題作がリリースされ、世間的にはそれらの曲で騒がしかったのだが、この月、ほとんど注目されていなかった1人の新人歌手がデビューした。
連休直前の4月25日(金)に∴∴ミュージックの新人歌手が◎◎レコードからメジャーデビューすると聞き、私は23日(ツアーの最終打合せも兼ねて)、和泉・小風・美空と一緒に事務所に出て行った。行ったらミルクチョコレートの2人に、青島リンナまで来ている。
「なんか強力新人らしいね」
とリンナが言う。
「へー。楽しみですね」
「マネージャーとして、妊娠出産で休職、というか事実上退職に近い状態だった望月ちゃんを呼び戻したんだよ」
「それは懐かしい」
「望月ちゃんを付けるということだけでも社長がその新人に期待しているということだし、うちのメインのアーティストのほとんどが所属する★★レコードじゃなくて、わざわざ◎◎レコードから出すというのは、つまり思いっきり既存のアーティストと競わせるってことでしょ?」
とリンナ。
「それはうかうかしていられないということですね」
と答えて和泉も顔が引き締まる。ミルクチョコレートの2人も緊張した顔だ。
やがて畠山社長が応接室から出てきて
「やあ、わざわざ来てくれてありがとう。マイちゃん、出ておいで」
と言って手招きする。
応接室から望月さんが出てきて、私たちの方を見て会釈するので私たちも笑顔で手を振った。そしてそれに続いて、高校生っぽい女子制服を着た女の子が出てくる。そして
「おはようございます。篠崎マイと申します。よろしくお願いします」
とその子は挨拶した。
が私はポカーンとして彼女を見る。
「小都花(ことか)ちゃん!」
「あれ?冬子さん、なぜここに?」と彼女。
「ん?知り合い?」と畠山さんが戸惑ったように訊く。
「私の従姪(いとこめい)です」と私。
「私の従叔母(いとこおば)です」とマイ。
「槇原愛の妹だよ」と私は和泉たちに説明する。
「えーー!?」
「蘭子ちゃん、槇原愛の親戚?」
と畠山さんが訊く。
「槇原愛とこの子は、私の従姉(友見)の娘です」
と私は説明する。
私が中学生の時に温泉に行ってて、彼女が私のことを「冬彦おじさん」と呼ぶので不審に思った温泉のスタッフさんが寄ってきたなどという事件?もあったが、当時小学2年だった小都花も今は高校2年だ。
「それは知らなかった!」
「まあ、私と槇原愛の親戚関係も公表してないですからね」
「そうだったのか」
「でも、槇原愛の妹さんなら、どうして同じ△△社や★★レコードを使わないんですか?」
とミルチョの千代子が訊く。
「槇原愛が同じ事務所・同じレコード会社では堂々と勝負できないから違う所にして欲しいと言うので、町添さんの仲介で、事務所はうちが引き受けて、レコード会社は◎◎レコードが引き受けることになったんだよ。当面は槇原愛の妹だということも公表しない。これはマイちゃんの希望なんだけどね。有名歌手の妹だと騒がれて売れるのでは嫌だからということで」
恐らくはそちらに預けるという形にして若干のバックマージンを環流させるのであろう。
「へー!」
「つまり槇原愛が脅威を感じるほど凄いってことか」
「この子は上手いよ」と畠山さん。
「この子、歌唱力凄いよ」と私。
「保坂早穂と芹菜リセ、松原珠妃と蘭子みたいなものだね」
と和泉が言う。
「でも冬子さんは、どうしてここに居るんですか?」
とマイが訊く。
「私、KARIONのメンバーだから」
と私。
「へ? ローズ+リリーを辞めてKARIONに加入するんですか?」
とマイ。
「ううん。私はKARIONが結成されて以来のメンバー。だから6年間、KARIONとローズ+リリーの両方を掛け持ちでやってきたんだよ」
「うっそー!」
とマイは本当に驚いている。
「世間であれだけ大騒ぎしていたのに知らなかった人もいるのか」
と美空。
「いや、結構あの騒ぎに気付かなかった人は多いと思う」
とミルチョの久留美。
「プロ野球で楽天が優勝して楽天市場で大セールやってても、野球に興味の無い人は、どこが優勝したかも知らないからね」
とリンナ。
「たぶん、ローズクォーツのマキさんとか、UTP社長の須藤さんはあの騒ぎに気付いてないよ」
と小風。
「ああ、あの人たちは特に鈍いから」
と私も言っちゃう。
「多分マキさんはケイがローズクォーツを辞めたこと自体に気付いてない」
「ありそう!」
などと言っていたら
「え!?冬子さん、ローズクォーツ、辞めたの?」
とマイ。
「ほら、こういう人も多い」
と小風は楽しそうに言った。
畠山さんはその場で、マイナスワン音源を流し、篠崎マイにデビューシングルの曲2曲を歌わせた。
e&aという人の『モーツァルトは眠らない』という作品と御堂貴子という人の『夢見る人形』という作品であった。e&aは顔文字っぽくデザインされたロゴになっている。
「うまーい!」
と美空が声をあげる。
「声が凄くしっかり出てるね」
とリンナ。
「槇原愛と同じで民謡で小さい頃から鍛えられているから」
と私は言う。
「なるほど」
「でも新鮮な感覚の作品ですね」
と和泉は言う。
「まあ、このメンツだから言っちゃうけど、御堂貴子というのは篠崎マイちゃん自身のペンネームだよ」
と畠山さん。
「へー!」
「マイちゃんが作曲するというのは槇原愛からも聞いてた。でもきれいな作品を書くね」
と私は素直に褒めた。
「ありがとうございます。実は Imada Kotoka をアナグラムして Mido A. Takakoになったんですけど、作品を添削してくれたe&aのおふたりから『Aは要らん』
と言われて、Mido Takako になりました」
「へー。e&aはふたりですか?」
「実はe&aは線香花火のふたり」
と畠山さんが言うと
「えーー!?」
という声があがる。
「なるほど、エツコとアンナでe&aか」
と私はふたりの本名を知っているので言う。
「エツコ?あの人、ちずこさんじゃないんですか?」
と千代子が訊く。
「『干鶴子』と書いてエツコと読むのが本名。でも★★レコードに登録する時に名前を読み間違えられて『千鶴子』で登録されちゃったから、開き直って、あのユニットでは、『ちず』と名乗っている」
と私は字を書いて説明した。
「『干』の字を『エ』と読むんだ?」
「本来そういう読み方は無いらしい。お父さんの勘違いじゃないかと本人は言ってた」
「ああ」
「カタカナのエを書いたつもりが真ん中の棒が飛び出してしまったんだっりして」
と小風。
「それは相棒の杏菜の説」
「そういう説も既にあったのか」
「でも★★レコードとの専属契約は大丈夫なんですか?」
と小風が心配そうに訊く。
「元々町添さんが紹介して◎◎レコードに所属することになったので、彼女たちがe&aの名前でマイちゃんに楽曲を提供する件に関しても、問題にしないということで、★★レコードと◎◎レコードの間で話がまとまった」
「なるほど」
「でもマイちゃん、線香花火より売れたりして」
と美空。
「いや、この曲は間違い無く売れると思う」
と私は言った。
「同感。かなり行く」
と和泉。
「やはりそう思う?」
と畠山さん。
「遙香ちゃん(望月さん)をわざわざ呼び戻したので社長の期待度も分かります」
と和泉。
「私は子供の世話に少し飽きてきてたから、ちょうど良かったんですけどね」
と望月さんは言った。
篠崎マイが配った名刺を眺めていて小風が言った。
「マイちゃんの本名、今田小都花なんでしょ? 今田の苗字とマイの名前をくっつけると『今田マイ』になって回文になるね」
小風はこの手の言葉遊びが大好きである。
「『今田まい』なら、元ももいろクローバーの伊倉愛美ちゃんの昔の役名だね」
と私は言う。
「そんな役名があったんだ?」
「NHKの『ひとりでできるもん』という番組に出ていたんだよ。本人も『上から読んでもイマダマイ、下から読んでもイマダマイ』と言ってた」
「あ、あの子か!」
「私あの番組熱心に見てたー」と美空。
「さすが食事の番組には強い」と小風。
「でも、ももクロに在籍してたんだ?」
「初期の頃だよ」
「へー」
「ももクロも最初の頃はメンバーがコロコロ変わってるから」
「デビュー前に辞めた子もいたね?」
と和泉。
「うん。弓川留奈ちゃんだね」
「KARIONもデビュー前にラムコが辞めたからなあ」
と小風。
「へー。そんな人がいたんですか」
とマイ。
「ラムコ、まだインドに居るのかなぁ」
と美空が言うと
「こないだお手紙来てたよ。お父さん1月にセネガルに転勤になって家族みんなで移動したらしい」
と畠山さん。
「どこだっけ・・・?」
と小風。
「ダカールのある所だよ」
と和泉。
「ああ、自動車レースのある所?」
「そうそう」
「ダカールでやってたのは2008年までで、今はリマからサンティアゴまでに変更されてるんだけどね」
と和泉。
「・・・・どこだっけ?」
と小風。
「南米?」
と美空。
「まあ、そのあたり」
ところで前日、4月24日の夕方、私は蔵田さんに頼まれて松原珠妃に渡す(できたばかりの)新曲のデータとスコアを持ち、ζζプロに珠妃を訪ねていた。
珠妃と事務所内で落ち合い、会議室に入ってMIDIと樹梨菜さんが入れた仮歌を聴こうとしていたら、昨年末に社長に昇格した観世さんに呼び止められて、「KARIONの件は僕もびっくりだったよ」などと言われ、そのまましばらく立ち話をする。
するとそこに、しまうららさんがやってきた。
「ケイちゃん、私もびっくりしたよー」
などと言われ、話していたが、長くなりそうな雰囲気。
それで結局、私と珠妃、しまうららさんの3人で会議室に入った。事務所の若い子がケーキと紅茶を持って来てくれる。それであれこれ話ながら曲を流していたら、しまうららさんが唐突に言い出した。
「これ凄い、いい曲ね」
「そうですね。蔵田さんが会心の作だと言ってました」
「これ私にちょうだい」
「え?」
「たまにはいいじゃん。珠妃ちゃんのはまた作ってもらえばいいよ」
「あはは」
しまうららさんに言われては仕方無い。珠妃は別に構わないと言うので、私が蔵田さんに電話した。スピーカーモードにして会話する。
「そういう訳で『ギター・プレイヤー』をしまうららさんが歌いたいとおっしゃっているのですが。珠妃は他に曲をもらえるなら、それでもいいと言っています」
「そうだな。だったら、しまさん、ギターを弾きながら歌ってくれるならOK」
と蔵田さん。
しまさんを見る。
「蔵田くーん、ギターくらい頑張って練習するよー!」
としまうららさん。
「だったらいいですよ。じゃ、珠妃ちゃんに渡す代わりの曲は、洋子、お前書いて」
「えーーー!?」
「冬、それ明日(25日)の朝までに作ってね。明日録音するつもりだったから。連休は私もあちこちでライブやるからさ」
と珠妃が言う。
「うーん。。。。」
そして4月26日(土)。この日、ローズ+リリーは千葉市・幕張のイベントホールで、一方KARIONは同じ日横浜市の横浜エリーナで、各々春のツアーの幕開けとなる。今回のツアーはどちらも全国20ヶ所。ローズ+リリーにとってもKARIONにとっても、デビュー以来最大規模のツアーである。
時刻はKARIONが13:00、ローズ+リリーは19:00の開演である。なお、この日、ローズクォーツは東京赤坂の火鳥ホールで18:30の開演、また渡部賢一グランドオーケストラは札幌きららホールで14:00の開演というスケジュールになっている。
ともかくも最初にスタートするのはKARIONである。12,000人の横浜エリーナは満員の客でぎっしり詰まっている。やがて1ベル、2ベルが鳴る。
「OK, Let's Begin!!」
という小風の声とともに、ドラムスの音が鳴り響き、ギターやベースの音も鳴り出す。それとともに緞帳が上がり始め、観客は総立ちになって、大きな拍手と歓声が上がる。『春風の告白』の歌が始まる。
そして緞帳が上がった時、観客がステージに並んでいるのを見たのは・・・・
左から、こかぜ・いづみ・みそら、の3人がマイクを持って歌っている姿であった。
ここに絶対、らんこも並んでいるだろうと多くの観客が思っていただけに歌の最中であるにも関わらず、大きなざわめきが起きた。
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