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■夏の日の想い出・港のヨーコ(10)

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この日のKARIONの公演は18:30開場・19:00開演であった。ギリギリで開演に間に合った感じだ。
 
和泉はこの日も昨日の東京公演と同様、同じ年にデビューした同じ年齢のユニットとして自分たちはローズ+リリーのトラブルに心を痛めており、早く復帰してくれることを祈るというメッセージを述べ、ローズ+リリーの『遙かな夢』
を演奏した。
 
昨日はこの曲を客席で聴き、自分がステージに行って歌いたい気分だった。今日は和泉たちが歌う後ろでずっとキーボードやピアノを弾いている。キーボードから離れて前面に出ていき、和泉たちと並んで歌いたい、いや政子を連れて来て、和泉たちを押しのけてふたりで歌いたい気分だった。
 
この日の公演は21時ジャストに終わり、明日学校がある私や和泉たち4人はアンコールが終わるとすぐに走って楽屋口の所に付けている望月さんの車に飛び乗り新大阪駅に行く。そして21:20の最終新幹線で東京に戻った。
 
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新幹線の中で、予め買ってあったケンタッキーのバレルで打ち上げとする。TAKAOさんたちは大阪に残った畠山さんと一緒に大阪郊外で打ち上げをするはずだ。
 
コーラで乾杯し、美空が嬉しそうにチキンを頬張るのを見て、私は微笑んだ。
 
「冬、ステージに立ったのは11月30日の東京ライブ以来だっけ?」
「その後、12月13日に《ロシアフェア》というので歌ったんだよ。だから50日ぶりくらいかな」
「昨日と今日の感想は?」
 
「和泉たちが『遙かな夢』を歌っていた時、そこに行って歌いたいと思った。昨日も観客席でそういう気持ちだったけどね。雰囲気的にマリも同じことを考えている気がした。あの歌聴いた後で凄く気合い入ったから」
 
「歌いたいなら出てきて歌えば良かったのに」
「いつか歌うよ」
 
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「でも顔を隠して演奏するというのは使えるなあ。来週は顔を隠して歌わない?」
「パス」
 
結局私が顔を曝してKARIONの公演に出たのは2008年11月のツアーが最後である。
 

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私はこの日帰宅してから姉に頼んで髪を黒く染め戻した(ドリームボーイズやKARIONのライブではウィッグを付けている)。パーマの方も処理したかったが、そもそも年末に連続してカラーとパーマを掛けているから、これ以上同時にやるのはダメと言われた。パーマは髪が健康を回復した後にすることにして、長さだけ肩に掛からない程度まで切ってもらった。
 
そして翌日、2月2日月曜日。私と政子は45日ぶりに学校に出て行った。初日は双方の母も付いてきてくれた。最初校長先生といろいろ話し、そのあと担任の先生も入ってしばらく話した。そしてその日の2時間目から授業にも出た。すると級友から言われる。
 
「なんで学生服なの?」
「へ?」
「1ヶ月半学校休んでいる間に、タイに行って性転換手術受けているんだと聞いたけど」
「だからてっきり女子制服着て出てくるものと思ってたのに」
 
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「それは根も葉もない噂というものではないかと」
 
「ほら、やっぱり私の言った通りだよ。冬は去年の夏休みに性転換したんだよね? だから女の子の身体になってからローズ+リリーとしてデビューしたんでしょ?」
 
「それも根も葉もない噂というものではないかと」
 
「もしかして冬ちゃん、生まれた時から女の子だったとか?」
「それは違うと思うけどなあ」
「なんか自信の無さそうな言い方」
 
「でも冬ちゃん、生理用品入れ持ってるよね?」
「持ってるよ」
「何が入ってるの?」
「生理用品」
「男性用の?」
「まさか」
「じゃ、女性用の?」
「そうだね」
「じゃ、生理があるんだ!?」
「えへへ、秘密」
 

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その日、体育の授業があったので、私はこれまで通り、男子更衣室に行って着替えようとした。するとギョッとする様子の男子のクラスメイトたち。
 
「唐本、お前、なんでこちらに来るの?」
「え?ボク男子だし」
「ほんとに男なの?」
「そうだけど」
 
と言って、更衣室の中に入る。なんだかみんなこちらを注目している感じ。まあ、今更だしねー。
 
ということで、私は学生服を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、ワイシャツも脱ぐ。みんながギョッとする雰囲気。
 
私は下着は女物を着けていた。ブラジャーに支えられたBカップのバスト、ハイレグビキニタイプのショーツには、膨らみのようなものは無い。むろん、身体にも足にもむだ毛は生えていない。肩はなで肩で、ウェストはキュッと引き締まっている。まあ、ふつう女の子のボディラインにしか見えないだろうなと自分でも思う。
 
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周囲の視線が固まっているのを少し楽しみながら、私はふつうに体操服の上下を身につけた。
 

その日の体育はサッカーだった。私は走るのは得意だから、校庭いっぱい走り回って、プレイする。ゴール前で乱戦になる。私とボールを取り合った子が、勢い余って私と接触する、というかまともに私の胸にぶつかった。
「わっ、すまん!」と彼が謝る。「あ、こちらこそごめんなさーい」と私も答える。
 
ということで、その日の放課後、数人の生徒が先生の所に言って訴えたらしい。
 
「唐本に男子更衣室を使わせるのやめさせてください。あいつ、ほぼ100%女ですよ」
「おっぱいもあるし、チンコは無いみたいだし、あの身体で男子更衣室で着替えられたら、みんな立ってしまって、本能暴走しそうです」
 
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「校内レイプ事件が起きる前に何とかしてください」
「性転換してないなんて絶対嘘です。あれどうみても完全性転換手術済みか、そうでなかったら元々女だったかです」
 
「唐本を男子と一緒に体育させるの問題です。女子と一緒にさせた方がいいと思います」
「唐本、身体は完全な女みたいだから、サッカーとかラグビーとかバスケみたいに身体の接触の生じる競技は、男と一緒にさせちゃダメですよ」
「みんな唐本と接触しないようにするから、それで怪我したりする奴が出かねないです」
 
ということで、私は翌日体育の先生に呼ばれて、着替えは男子更衣室ではなく、面談室の空いている所を使うように言われた。まあ、いつもそこで女子制服に着替えたりしてたんだけどね!
 
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体育を男子と一緒にさせていいのか、女子の方に入れるべきかについてもかなり体育の先生達の間で議論されたらしいが、すぐには結論が出なかったらしい。
 

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でも同じクラスの琴絵・紀美香・理桜がやってきて
「冬、体育の先生たち、冬を男子の方に入れるか女子の方に入れるか悩んで議論してるみたいだよ。女子の方に入ってもいいように、このダンス覚えてよ」
と言って、音楽を鳴らして比較的リズム感の良い紀美香が踊ってくれた。
 
「こんな感じ?」
と言って、私が踊ってみせると
 
「なぜ1発で踊れる?」
「私達今日1時間ずっと練習してても、なかなかまともにならなかったのに」
 
などと言われた。
 
「冬って、そういえば1年の時もけっこう女子のダンスを速攻でコピーして踊ってたね」
「ダンスのセンスが良い〜」
 
「ね、ドリームボーイズのバックダンサーの柊洋子というのが冬なのでは、という説もあるけど、どうなの?」
「何それ?知らなーい」
 
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「やはり他人の空似なのだろうか?」
「私、中学の時の友だちに、あんたと同じ顔の人を10人知ってると言われたことあるよ」
「へー。そんなにありふれた顔なのかな?」
 

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私達が久しぶりに学校に出かけて行った日、授業が終わって帰宅すると自宅の周りは黒山の人だかりだった。また何かスクープでもあって記者が集まってきたのか?と思ったら、あちこちのプロダクションのスカウトたちだった。
 
私と政子が「どこのプロダクションにも所属していないフリーのアーティスト」
と連盟から認定されたことから、どこのプロダクションも自由に私達と交渉してよいことになったということだった。その交渉解禁日が2月2日だったのである。
 
私はそのスカウトたちにもみくちゃにされながら、何とか自宅の玄関まで辿りつき中に入って硬くドアを閉じたが、政子は恐れをなして逃げだし、詩津紅の家に保護してもらった。私は玄関まで辿り着く前に名刺を10枚くらい受け取ってしまった。
 
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私は政子と携帯で連絡を取りつつ、何事なのか事態を把握するために丸花さんや畠山さんと連絡を取って、やっと状況が分かった。それで政子のお母さんと携帯で連絡を取り、話は一緒に聞こうということになった。
 
取り敢えず整理券を配った上で、ホテルの会議室を2つ確保して、1つを話を聞く部屋、1つをスカウトさんたちの待合室にした。お茶や軽食などまでサービス(私の自腹)したので、スカウトさんたちから感謝の声があがっていた。話を聞くのは結局私と私の母、政子の母に、弁護士さんの4人ということにした。
 
話を速やかに済ませるため問診票?のようなものを作り、スカウトさんたちに配って記入してもらった。そして順番に1社10分くらいの見当で朝まで13時間掛けて話を聞いた(夕方6時から朝の7時まで)。
 
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さすがにクタクタになった。うちの母と政子の母はそのままそのホテルに部屋を取り、寝ると言っていたが、私は学校があるので出て行く。
 

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「あれ、スカウトさんたちどうしたの?」
と今日は詩津紅の家から出てきている政子が訊く。
 
「全員のお話聞いたよ」
「すごー! 50人くらい居なかった?」
「全部で80社あったね」
「それがみんな私達と契約を望んでいるの?」
 
「大半は社長に言われたんで出てきたけど、きっと獲得できないだろうな、という雰囲気のオーラをにじませていた」
 
「それだけあったらこちらも選びたい放題だね!」
「とにかく昨夜話を聞いたので、こちらの基準で残ったのは15社。他の65社にはお断りの手紙を書かなきゃ」
 
「65通か。プリントするの大変そう」
「印刷じゃなくて、手書きで書くから」
「へ?」
「ボクが文章は書くから、政子、署名して。政子のお母さんも」
「65通に署名!?」
 
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「冬、65通も直筆の手紙を書くつもり?」
と詩津紅から言われる。
 
「きっちりお断りするのに印刷じゃ申し訳無いでしょ? だから手書きするよ。だって、お断りするプロダクションのタレントさんたちとも、今後の付き合いがあるんだからさ」
「冬、偉ーい」
 

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この65社の中には、例の私達のライバルのデュオを売っていた大手プロダクションも入っていた。ライバルのアーティストを持っているのに、こちらのスカウトに来るというのは凄い根性だ。でもそのくらいの根性が無いとこの業界では生き残っていくことはできないのだろう。
 
そういう訳で、私は2月3日、夕方から、お断りの手紙を書き始めた。この作業は1社20分で合計22時間の作業となった。学校を5時間目で早引きさせてもらい、帰宅後少し仮眠してから書く。16時頃から午前3時頃まで11時間ほど書き続け、2日で全てのお断りの手紙を書き終えた。それに私自身、私の母、政子、政子の母の4つの署名を添える。こちらの署名まで書き終えた分を随時姉が車で政子の家まで運んでくれた。また宛名も姉が書いてくれて、2月5日朝に郵便局に出したので2月6日金曜日には全て到着したはずである。
 
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ひとつひとつのプロダクションにそこ専用の文章を書いた(そこの所属のアーティストを褒めたり、療養中のアーティストや幹部さんを気遣ったり)ので、このお断りの手紙を受け取ったプロダクションは皆驚き、私たちの評価がマジで上がったようであった(実際の文章のネタは実は★★レコードのスタッフに分担で提案してもらった)。町添さんは、冬ちゃんはやはり戦略家だと楽しそうに言っていた。
 

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夏の日の想い出・港のヨーコ(10)

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