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■夏の日の想い出・港のヨーコ(7)

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「信じられん!」
「上島雷太並みのスピードだね」
と特に用事もないのに出てきてショートケーキをつついていたSHINさんが言う。SHINさんはお酒もスイートも行ける両刀遣いだ。
 
「あの人、たぶん年間500曲くらい書いているから1日1-2曲ペースだよね」
と畠山さん。
 
「恐ろしい。どうやって発想を得てるんだろ?」
「ゴーストライターを多数使っているということは?」
 
「上島さんはゴーストライター嫌いらしいよ。そういうこと何かの番組で言ってた。多分若い頃、誰かのゴーストライターしてたんじゃないのかね。凄く不快そうだったもん」
「なるほど」
 
「作曲数自体は少ないけど、蔵田孝治も速いらしい。様々な歌手に提供している曲はアルバム1枚分10曲か12曲を3日くらいで集中して書いちゃうらしいから。その間はスタジオに籠もりっきりで電話やメールでの連絡も一切受け付けないらしいけどね。キャンペーン用の曲を依頼するのに連絡しようとした文部科学大臣を3日待たせたという伝説もある」
とSHINさん。
 
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「そういう深い集中ができるというのも凄いね」
とTAKAOさんは感心したように言う。
 
まあ、あの時は携帯がバッテリー切れになってることに蔵田さん本人も気付いてなかったんだよねー。でもその手の伝説ができるのも悪くないと前橋社長は当時笑っていた。
 

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その日私が事務所に出て行っていたのは、1月末から2月に掛けて行われる予定のKARIONの全国ツアーの最終打合せがメインだった。11月のツアーでも私と和泉は呼び出されていって事前打ち合わせに参加したのだが、今回のツアーの企画も年末に1度打ち合わせて方向性を決め、今回の打ち合わせで最終確定であった。そしてこの後、だいたいKARIONライブの構成に関しては、畠山さんと、和泉・私、TAKAO・SHINの5人で考えて決めていく体制が出来ていく。
 
「蘭子ちゃんはキーボード弾くよね?優視線の超絶技工披露」
と畠山さん。
 
「パスで」
「そうなの? 僕は蘭子ちゃんがキーボード弾いてくれるかと思って、今回のツアーにはキーボード奏者、手配してなかったのに」
「済みません。手配よろしくです」
 
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「じゃ弾かなくてもいいから、会場までは見に来てよ」
と和泉。
 
「そのパターン、絶対何か弾かされる!」
「ああ、蘭子も少し洞察力が出てきたか」
 

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KARIONの2月のツアーは11月より1回だけ多い13回だが、2月13日から27日までアルバム制作が入るので、ツアーは1月31日(土)から2月14日(土)までの前半と2月28日(土)から3月14日(土)までの後半に別れている。そしてツアーが終わった後は即次のシングル『恋愛貴族』の制作が入るということで、この時期のKARIONのスケジュールは密に詰まっていた。美空が「学校休みたいと言ったらお母ちゃんに両立できないなら歌手辞めろと言われた」などと言っていた。
 
「それって、文句言うなという意味じゃなくて、歌手辞めろという方に力点が入ってるよね?」
「そうそう。だから慌てて頑張る!と言ったよ」
「よしよし」
と和泉が美空の頭を撫でる。
 
(それで私も多忙だったので結果的には休眠中のローズ+リリーの音源製作は後回しになって4月から始動することになったが、それはちょうど「ほとぼりを冷ます」のにも都合の良い時間であった)
 
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「冬は芸能活動を自粛するとお父さんと約束したんでしょ? 何と言って出てきてるの? 性転換手術を受けに行きますとか?」
と美空が言う。
 
「そんな毎日性転換してたら性別が訳分からなくなるよ。伴奏の仕事に行ってくると言って出てきている。私が約束したのはあくまで歌手活動の自粛」
と私。
 
「詭弁っぽい」
 
「でもコーラスも伴奏の一種だよね?」
と小風。
 
「まあ、似たようなものかな」
と畠山さん。
 
「じゃ、この譜面あげるね。この譜面で S2 って書かれている所が、冬が担当するコーラス部分だから」
と小風。
 
S1は和泉、M1(またはA1)が小風、A2が美空のパートでコーラス隊は普通はC1,C2などである。
 
「メインボーカルじゃん!」
と私は抗議するが
 
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「いや間違いなくコーラス」
と和泉は言い切った。
 

ところで、もしローズ+リリーが2月のツアーを実施していたら、また両方のスケジュールが完全にぶつかる所で、丸花さんは「F15気持ち良かったろ?また乗せてあげるね」などと言っていて私は内心悲鳴を上げた。
 
「まあ両者のスケジュールを今回は無理なく掛け持ちできるように、★★レコード側と協議して決めたから」
と丸花さんは言っていた。12月中旬、大騒動の直前頃である。
 
「1月31日と2月1日はKARIONだけの公演。2月7日はどちらも札幌。8日はKARIONが福島でローズ+リリーは仙台、11日はKARIONが名古屋でローズ+リリーは横浜。名古屋と横浜が掛け持ちできるのは11月に実験済みだね」
 
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あれは実験だったのか!?
 
「14日はKARIONが岡山でローズ+リリーは広島。15,21,22はローズ+リリーのみ公演がある。28日はどちらも沖縄、3月1日はKARIONが福岡でローズ+リリーは小倉、3月3日と6日はKARIONのみの公演。3月7日はKARIONが富山でローズ+リリーは金沢、3月14日はKARIONが横浜でローズ+リリーは東京。今回はF15が出る幕無いね。残念」
 
などと丸花さんはむしろ自分がF15に乗りたいみたいな口調で話していた。
 

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1月23日(金)。当初の予定から1ヶ月遅れになった『甘い蜜』のCDが発売になった。発売記者会見を朝10時から開く。会見には、★★レコードの秋月さんと町添部長に上島先生が出てくださった。
 
私はそれを母と一緒に自宅でテレビで見ていた。
 
「本当はあそこにはボクが座って記者さんたちに説明しないといけないのに」
と私は正直な気持ちを言う。
 
「お父ちゃんがローズ+リリーの活動の停止をさせたからね。あんたが出て行く訳にはいかないだろうね」
 
「上島先生に借りを作っちゃった」
「そのうち、ちゃんと返せるよ」
と母は私をしっかり見詰めて言った。
 
「あ、それで今夜政子の家にまた行って、今夜は彼女を連れ出すから。帰るのは多分日曜の夜か、もしかしたら月曜になってしまうかも」
 
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「・・・ね、冬。あんた政子さんと、してるの?」
「まだしてない。でも今回は、しちゃうかも」
「遊びの気持ちじゃないよね?」
「ボクの気持ちは真剣だよ」
「だったらいい。でも・・・・」
 
「でも?」
「あんた、おちんちんあるんだっけ?」
「えっと・・・無くてもできることで彼女を満足させるつもりだけど」
「じゃ、やっぱりもう、おちんちん無いんだ!?」
「えっと・・・・」
 

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その晩は、記者の数が減っているのをいいことに、政子をこっそり脱出させてある場所に連れて行き、気分転換をさせるとともに、ふたりの関係を再構築するつもりでいた。正直、この週末の間にふたりの関係がどうなるかは、自分でも出た所勝負だった。
 
ところが、思わぬ事態が起きて、今夜政子を脱出させるのは困難になってしまうのである。
 

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「だったら、百道さんは、確かにマリさん、ケイさんの、双方と性行為をしたとおっしゃるんですね?」
 
その日の午後、都内のホテルで開かれた「緊急記者会見」の席で、記者たちの質問にロック歌手・百道良輔は彼のスタイルである不良ぶった口調で答えた。
 
「ああ。ふたりとも俺の股間のサターン・ロケットで昇天しちまってよ。きれいな人工衛星になって、凄い声で宇宙電波を発してたぜ」
 
何か「宇宙電波」の意味が分かってないんじゃないかと思って私は中継しているテレビを見ていた。
 
百道はかつては芸能界きってのプレイボーイと騒がれて、多数の女性歌手や女優との仲が週刊誌に報道され、その結果テレビ番組から降ろされたり、あるいは引退に追い込まれたり、アイドル路線からセクシー路線への転換を余儀なくされた人たちも居た(不幸になる人が多いので「下げチン」と呼ばれた)が、最近はあまり話題にされなくなっていた。
 
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「でも、マリさんもケイさんも18歳未満ですよ。淫行になりませんか?」
「同意の上でやったから、別にいーんじゃね? 全部で3回デートしたぜ。俺とやるのが嫌だったら2度は来ないだろ?」
 
この記者会見をネット配信で見て、ぶっ飛んだ政子の父はすぐその日の夜の日本行きの便を予約したらしい。
 
「あと、そもそもケイさんって、男の子だと思ったのですが」
 
「何かの勘違いじゃね? 俺とやった時は間違いなく女の身体だったぜ。性転換手術済みなのか、あるいはそもそも男だってのが嘘だったんじゃないの?ただの話題作りだったりしてな。ケイは1度潮吹きまでしたぜ。男が潮吹きする訳ないだろうし」
 
この百道の発言に「そうかも」と思ったローズ+リリーのファンが全国に500万人は居たという説もささやかれた。
 
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好き勝手、言いたい放題なことを百道が記者会見で話していた時、△△社の津田社長が記者会見場に入って来た。
 
「百道良輔さん、お電話が掛かっています」
「は? 今俺記者会見してるからさ、後にしてよ」
 
百道は津田社長のことを知らないようで、報道関係者か何かと思ったようだ。
 
「緊急の要件だそうです」
「何だよ?」
 
と言いつつ、百道は電話を取る。そしてしばらく相手の声を聞いていたようだが・・・・やがて顔面蒼白になった。
 
やがて電話機を投げ捨てた! そして発言する。
 
「すまん、記者諸君。今日俺が言った内容は全部冗談。俺、ケイともマリともやってないから」
 
そう焦ったような顔で言った百道良輔は突然席を立つと、走って会見場から飛び出して行った。
 
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記者たちがポカーンとして、その様子を見送った。中継していたワイドショーの司会者が「何?何が起きたの!?」と叫んだ。テレビで見ていた視聴者も訳が分からなかった。
 

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この時、百道良輔に電話して来たのが、百道良輔のかつての恋人で、彼との交際と妊娠により、アイドル歌手を引退するハメになった、須藤美智子であったことを、私は20年以上経ってから知ることになった。須藤さんはどうも百道と別れた後も、百道の歴代(?)の恋人から色々相談を受けたりしていたようで、百道が色々違法なこと(たぶん薬物。他にも恐喝の類い)をしている証拠を持っていて、ふざけたこと言ってると警察にタレ込むぞと言って会見を止めさせたのだろうと私は推測している。
 
私達はまた須藤さんに守ってもらったのである。
 

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百道の記者会見のテレビ中継を見て、私の母は大笑いしていたが、父は私の携帯に電話してきて
 
「お前、やはりもう性転換手術しちゃってるの?」
と訊いた。
「まさか。してないと思うよ。多分」
「多分ってのは何なんだ〜!?」
 

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夏の日の想い出・港のヨーコ(7)

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