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■夏の日の想い出・港のヨーコ(3)

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年明けの1月5日。音楽制作者の連盟の会議が開かれ、ローズ+リリー問題について、連盟は△△社からの説明を求めた。
 
かなり激しいやりとりがあったが、結局ここで、ローズ+リリーの「暫定契約」
が法的に無効であることが再確認されるとともに、「ローズ+リリーはこれまでどこの事務所にも属していなかったフリーのアーティストである」と認定された。
 
会議の後で、△△社の津田社長からは須藤さんが退職したことだけを聞かされた。∴∴ミュージックの畠山社長からはもう少し詳しい内容を教えてもらったのだが、某大手プロダクションが厳しい処分を要求した中で、△△社および須藤さんへの処分が軽いものに留まったのは、その他ならぬ畠山さんが某大手プロダクションに睨まれながらも、めげずに熱弁を振るってくれたおかげであることを、私は$$アーツの前橋社長から密かに教えてもらった。もっとも具体的な処分内容については畠山さんも前橋さんも「想像に任せる」とだけ言った。
 
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「でもその厳しい処分を要求した某プロダクションって、あそこですよね?」
と私は前橋さんに訊いたが、前橋さんも固有名詞は出さない。
「多分、君が想像している所」
「結構いやがらせを受けましたし」
と私は苦笑いして答える。
 

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そのプロダクションは数億円掛けて大々的なキャンペーンを組み9月頭に女子高生デュオを売り出した。テレビスポットもネット広告も大量に流したし、CDショップのみならず、化粧品の広告とタイアップして、コンビニやドラッグストアなどにも、その子たちのポスターが貼られていた。テレビドラマにまで出演して、雑誌にも多数の記事が載っていた。
 
彼女たちは、その直後にデビューしたローズ+リリーと、キャラ的にかぶっていた。そして、別に私達のせいだとは思わないが、彼女たちはほとんど売れなかった。ローズ+リリーの『その時』が20万枚以上、『明るい水』も10万枚売れているのに、彼女たちのCDは1万枚程度しか売れていない。
 
セールス的にはKARIONにも遙かに負けているのだが、それでも年末の各種新人賞を大量に取った。ネットでは「ごり押し酷いな」みたいな書き込みが目立った。
 
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それで私達は11月頃から、そちらの関係者から微妙な圧力を受けていたし、工作員っぽい人たちのネット書き込みも目立った。しかし、私達はそもそもテレビとかにも出ないので「共演拒否」のような嫌がらせの大半は空振りしていたし、ネットの書き込みも「工作員さん乙」みたいなコメントしかつかず、結果的にはローズ+リリーの味方を増やしただけだった。
 
『**とRPLのどちらが優れているかは聴いてみれば分かる』
『聞き比べたら明らかにRPLが上手い』
『マリちゃんって歌下手だな』
『**はふたりとも歌下手だな』
 
『RPLはケイしかメロディー歌えないけど**はどちらもメロディー担当できるから交替で歌っている』
『ひとりずつしか歌わないのはハーモニーが作れないから。RPLはマリちゃん下手だけど、長く伸ばす音符ではちゃんとケイちゃんとハーモニーになってる』
 
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彼女たちの場合、タイアップしていた化粧品に有害物質が含まれていることが判明し回収騒動になったのも不運だった。またドラマも脚本が酷くて視聴率が低迷し2ヶ月で打ち切られた。
 
ローズ+リリーが活動停止になると、向こうとしては絶好の挽回のチャンスと思ったようで、急遽新曲を出して大量のテレビスポットなどを打ったが、同時期大量に流れたKARIONのテレビスポットと比較すると、歌唱力の無さと楽曲の凡庸さを逆アピールする結果となった。関東ドーム公演を敢行したものの、客は5000人程度と悲惨で、しかもその半数以上はお金をもらって席に座っているサクラではないかと噂された。ドーム公演で客がスタンド席に全く居ないというのは異様な光景だったと行ってきた人がレポートしていた。(普通ならここまで売れないとアーティスト体調不良などの言い訳で中止するが、強行してガラガラ伝説を作ってしまった)
 
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彼女たちは結局2枚のCDを残して芸能界を去ることになる(引退して大学に進学した)。10億円近い投資をして売上は2000万円にも満たず、プロダクションの担当役員とレコード会社幹部が飛ばされたようである。
 
一方、★★レコードの町添部長は活動停止したはずのローズ+リリーで、むしろ社内での地位を固めていくことになる。
 

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しかしとにかくも、この5日の会議で、私と政子の業界的な位置付けは確定した。それは「事務所には所属していない★★レコードの専属アーティスト」というものであり、その後1年半にわたり、私達の事務取扱は、★★レコードの秋月さんがしてくれることになる。
 
ところでそもそもの発端となった週刊誌報道であるが、そのネタを売った人物が○○プロの調査部の調べで判明した(調査部のスタッフは全員元警察官や自衛官だが、それでもこんなのを調べ上げてしまう能力が恐ろしい)。私も津田社長も、恐らくは例のライバルのデュオを抱えていたプロダクション関係者かと思っていたのだが、なんと政子の元婚約者・花見さんだったのである。
 
「なんか浦中さんが、怖い言葉を口にしてたよ」
と津田社長は私に小声で言った。
 
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「どんな言葉を言ってたんです?」
「知らない方がいい。この業界が怖くなるから」
「あははは」
 
「花見さんの消息は、冬ちゃん聞いてない? 浦中さんには言わないから」
「知りません。分からないんですか?」
 
「どうも実家には居ないみたいなんだよ。最初は居留守かと思ったが、お母さんが捜索願を出したのが判明した」
「なんで、そういうの全部分かっちゃうんですか?」
「まあ、君は知らない方がいい」
「うーん・・・・」
 

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1月6日(火)。まだ冬休み中だが、さすがに年も明けて、私や政子の家の周りで張っている記者の数も減ったので、この時期は夜間になら結構こっそり出かけられる場合もあった。それで私は深夜こっそり家を抜け出し、政子の家に行ってきた。携帯はこの日やっと父から返してもらった。早速パソコンに保存していたアドレス帳やメモをロードした。メールのパソコンへの転送設定も解除して、また携帯で受け取れるようにした。
 
私は黒いセーターに黒いズボンを穿いて、深夜自宅の窓から出て、家の裏の崖を静かに登って裏道に出る。そのまま少し歩いて大きな通りに出てからタクシーを呼び、政子の家の裏側の通りで降ろしてもらう。そっと政子の家のそばまで行く。裏側から隣の家との隙間をそっと歩き、一応メールした上でウッドフェンスの下の隙間から敷地内に侵入する。もう空き巣の気分だ。
 
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政子の家の庭には、防犯砂利が敷かれているので、知らずに歩くと大きな音を立てる。ところが1箇所、庭に埋められている幾つかの石の上に足を置くことで、防犯砂利に触れずに家屋のそばまで寄れる場所がある。私は2階窓から漏れる僅かな明かりを頼りにその上を慎重に歩き、建物の傍に寄る。そのまま勝手口まで行きトントンとノックする。
 
「合言葉を言って」と政子の声が聞こえる。
 
合言葉って何だよ!?
 
「マーサは最高の美人」
「よろしい」
 
ということで中に入れてもらえた。
 
政子のお父さんは1月4日にタイに戻って、お母さんだけが残っていたのだが、私が家の中に入ると、お母さんが見ている前なのに政子は私に抱きついて泣いた。
 
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お母さんが微笑んで2階の寝室に下がり、私と政子をふたりきりにしてくれたので、私たちは居間のソファに座り、たくさん話をした。
 

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少しおしゃべりしていた時、私はふと変な気配に気付く。見回すと居間の棚に、そこにはふさわしくないような変な形の人形がある。
 
「あの人形何?マーライオンのミニチュアの隣のやつ。こないだまでは無かったよね?」
 
「ああ、お父ちゃんの会社のタイでの取引先の人がインドネシアで買ってきた人形なんだって。今回帰国する時に持って来たんだよ。元々は呪術とかに使うものらしい」
 
先月下旬にお父さんが帰国した直後にここに来た時は見なかったので、その時はまだ荷物の中に入っていたのであろう。
 
「それでか。何かちょっと怖い感じがした」
「うん。怖いことにも使えるとは聞いた。使い方は聞いてないけどね」
 
「へー。でもよくそういう人形を平気で置いておくね」
「捨てると祟られそうな気がしない?」
「それはとても迷惑なお土産だな」
 
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「私に悪い虫が付かないように見張り役だとかお父ちゃん言ってた」
「悪い虫ってボクのことかなあ」
「お父ちゃんは冬のこと気に入ったみたい。遠回しにセックスしたのか?と訊かれたから、私と冬は深い信頼関係で結ばれていると答えた」
 
「それって、絶対やったと思われてる!」
「セックスしてると思われたら迷惑?」
「全然構わない。ボク政子のことは、自分が生きている限り責任を持つつもりだから」
 
そんなことを言ったら、政子は何も答えずに頬を赤らめた。珍しい反応だと思った。
 

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「ところで、なんでスカートじゃないのよ?」
「スカート穿いては通れないような場所を通ってきたからね」
「私の家と冬の家の間に秘密の地下鉄でも作れば」
「ドラえもんでも居たら頼みたいね」
 
「お土産無いの?」
「お土産か。じゃ、これあげる」
と言って私は政子の唇にキスした。
 
「この状況でキスがお土産だなんて、冬はプレイボーイだ」
「まあボーイかどうかが怪しいけどね」
 
「ね、キスしたならキスの責任取って」
「どうするの?」
「ベッドで私を抱くこと」
「いいよ」
 
それでふたりで、この時期事実上政子の寝室と化していた居間の隣の部屋に入る。後にグランドピアノを置いた部屋である。政子はローズ+リリーの活動でくたくたになって帰宅した時、ベッドのある2階まで上る気力も無かったのでこの部屋に布団を置いていた。
 
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ファンヒーターのスイッチを入れると、ほどなく部屋は暖かくなる。政子の布団は敷きっぱなしになっていたので、お互い下着だけになり、一緒に布団に入って、約束通り政子を抱きしめた。
 
「抱いたよ」
「・・・・普通、抱くといえば、セックスまでしない? 避妊具持ってないならあるよ。生で入れてもいいけど。私、冬の赤ちゃんなら産んでもいいし」
「ごめんね。ボク、女の子だから、マーサの中に入れられるようなものが付いてないんだ」
 
「冬って自分の都合の悪い時は女の子を主張する」
「うふふ」
 
そのまま布団の中でくっついて寝たまま、たくさん色々なことをお話しした。政子もそれで少しは元気になった感じであった。
 
暗い内に政子の家を脱出しなければならないので午前4時に退出したが、一緒のベッドに寝ていても、私にHなことを仕掛けてこなかった(普段ならお股を触ってくるし、しばしば勝手にタックを外して中までいじり始める)ので、全然本調子では無いなと思い、心配だった。お母さんには、政子さんのことで気になることがあったらいつでも呼び出して下さいとメールしておいた。
 
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明け方政子の家を出た私は、ネットカフェで仮眠(この時期はまだ身分証明書などの提示が不要だった)した後、都内のスタジオに行き、ドリームボーイズの練習に参加した。1月11日(日)に関東ドームライブが行われるので、その事前打合せと練習である。
 
先に来ていた葛西(樹梨菜)さん、松野(凛子)さん、梅川(アラン)さんが
「ね、ローズ+リリーのケイって、洋子なの?」
などと話していたらしい。
 
「似てるなとは思った」
「本人だと思う」
「洋子って《男の娘》だったんだっけ?」
と梅川さん。
 
「うん。私と同じく女装男子だよ」
と葛西さんが言うので
「ジュリーって男なの?」
と梅川さんが訊く。
 
「私は心が男で身体は女。でも普段は女を装っている。洋子は心が女で身体は男だけど、このダンスチームの中では女として活動している」
と葛西さんは説明するが
 
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「難しい!」
と梅川さんに言われる。
 
「だから私はFTMのゲイ、洋子はMTFのレズだよ」
と言うと
「ますます意味分からん!」
などと言われる。
 

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