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■夏の日の想い出・胎動の日(4)

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穂津美さんの「にわかベース」も、1時間半前に初めてベースという楽器に触った人とは思えない、しっかりしたベースラインをキープしている。実は弦1本のみ使用して弾いているのだが、注意して見ていないと分からない。しかしベースパートを演奏すること自体はエレクトーンでさんざんやっているからこそできたことだろう。
 
その日は名古屋に来ていてこちらにも来ていた人が混じっていたこともあったろう。会場が物凄く盛り上がり、歓声も凄かった。予定の3曲を演奏したあと、アンコールの拍手が起きてしまった。
 
ステージ上の演奏者が急遽集まって協議する。
 
「AKB48の『会いたかった』なんてどう?」
「あ。それなら分かる」
「Cさん行ける?」
「ずっとハイハット打ってればいいよね?」
「うん、この曲はそれでいいと思う」
「エレクトーンで弾いたことあるからベース分かると思う」
 
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ということでアンコール曲が急遽決まり、『会いたかった』を演奏した。
 
すると集まっている客層がだいたいAKB48を聴いている世代なのでこの曲もまた物凄く盛り上がり「いずみーん、会いたかったよお」などといった声までも掛かり、アドリブのグロッケンパートを弾きながら歌うという脳みそフル回転状態であった和泉も思わず笑みがこぼれた。
 
物凄い拍手の中、KARIONは客席に向かってお辞儀をして演奏を終えた。サイン会では列がショップ内に収まらず、階段にまで並んでもらう事態となる。私と三島さんがファンクラブ入会の受付をし、社長と相沢さん・黒木さんが列のチェックをした。相沢さん・黒木さんはこういう仕事までする必要は無いのだが行方不明になった2人を停めなかったのが申し訳無いなどといってボランティアしてくれた。
 
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ファンクラブの受付をしていた時、ひとりの男の子から私は
「名古屋ではキーボードを弾いておられましたよね?」
などと言われた。
 
「ええ。でもヴァイオリンの人がお忙しくて今日は来られなかったので私が代わりにヴァイオリンを弾いたんですよ」
「名古屋でのキーボードも今日のヴァイオリンも上手いなあと思って聴いてました。お名前聞かせてください。事務所のスタッフの方ですか?」
 
などというので私は三島さんに目で確認を取ってから
「柊洋子です。事務所のバイトなんですよ」
と言った。彼から握手も求められたので握手してあげた。
 
(蘭子という名前は基本的に外には出さないことにしている。またこの日は大人っぽいメイクをしていたので、女子高生であることは気付かれなかったかもと思っている)
 
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結局この大阪ではCDにサインした人だけでも500人、CDの売り上げはこの日だけで1000枚を越えたのであった。
 

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サイン会が予定より長引いてしまったので、お昼は金沢への移動のサンダーバード内で駅弁で食べることになった。金沢に到着次第、KARIONの3人が出演することになっていたコミュニティFM局に三島さんと一緒に行き、他のメンバーは直接会場のショッピングモールに移動した。
 
朝からの連絡で、金沢在住の畠山さんの知人が、ベース奏者とドラムス奏者を手配してくれていたので、その人たちと現地で落ち合う。
 
「譜面は読んで一応自宅で音出してきましたが、一度合わせてみたい気分ですね」
とベースの人が言う。
 
「社長、リハとかしてもいいんですか?ここ」
「ここで演奏したのが店内に流れてしまうので、聞き苦しくないものであればOKと言われている。あと本番で歌う歌手は本番以外では歌わないでということ」
 
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「あ、じゃ蘭子ちゃん、歌ってよ。KARIONの3人が放送局に行っているし、ちょうどいいや」
「はい」
 
ということで、現地のベースとドラムスの人、相沢さんのギター、黒木さんのサックス、Cさんのグロッケン、Kさんのフルート、穂津美さんのキーボード、そして私の歌と珠里亜・美来子・穂津美さんのコーラス、という形で演奏しようとしたのだが・・・
 
「珠里亜さんと美来子さんはどこ?」
「あれ?さっきまで、その辺にいたのに?」
「トイレかな?」
 
というので少し待つが来ない。本人たちの携帯に電話するが電源を切っているのか、つながらない。
 
「今日はどういう日なんだ?」と畠山さん。
「このショッピングモール広いから、迷子になってたりして」とCさん。
 
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「仕方無い。取り敢えずコーラスは穂津美さんだけで演奏してみましょう」
と畠山さんが言い、リハーサルを始める。
 
まずは『幸せな鐘の調べ』を弾いてみる。上手い人ばかりなので一発で合った。
 
「蘭子ちゃん、物凄く歌がうまい」
と相沢さんから言われた。
 
「ここだけの話だけど、実は蘭子ちゃんもKARIONのメンバーとして私は考えてたんですよ。でも本人がまだ自分は実力が足りないなんて言って辞退するもんだから」
と畠山さん。
 
「実力が足りないなんて無いでしょ? 和泉ちゃんとふたりでツインメインボーカルでいい」と相沢さん。
「いやー、すみませーん」と私。
 
「KARIONって、元々4つの鐘という意味なんですよね。4人で企画していたのに蘭子ちゃんが辞退するから、仕方無く来年くらいに別のユニットでデビューさせることを考えていたラムちゃんって子をここに入れようかと思った時期もあったんですけどね」と相沢さん。
 
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「お父さんの海外転勤でインドに行っちゃったんですよね〜。あの子、私より上手かったと思うんだけど」
「あら」
「で結局、名前は4つの鐘だけど、3人でデビューさせることになってしまって」
 
そんな話をしていたのだが、珠里亜と美来子は一向に戻ってくる気配が無い。
 

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仕方無いのでコーラスはキーボードを弾きながら歌う穂津美さんだけの状態で、そのまま残り2曲を更に私のボーカルで演奏した。そしてお店のスタッフの人が
 
「ただいま流したのは15時から○○棟の○○広場で行われます、デビュー仕立ての新人ユニット、KARIONのリハーサル風景でした。KARIONは先ほどラジオ**にも出演して、現在こちらに向かっている最中です。ご期待下さい」
というアナウンスをした。
 
私と穂津美さん、Cさん、Kさんの4人で店内の女子トイレ、休憩室なども見て回り、声かけなどもしたが、珠里亜さんと美来子さんは見つからなかった。やがてKARIONの3人が放送局から戻ってきた。
 
「仕方無い。コーラスは穂津美さん、ひとりでお願いします」
「分かりました」
 
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しかしまあ、たった3日間・6回のイベントで、最後まで伴奏に参加したのは結局、相沢さん・黒木さん・Cさん・Kさん・私の5人だけということになった。10人の内半数脱落というのは凄い。
 

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車を運転しながらFMを聞いている人が多いので、近くの道を走っていて、放送を聞き、こちらに休憩を兼ねて立ち寄ってくれた人が結構いた感じであった。また買物に来ていた客、休日なので家族連れで来ていて、先ほどのリハの音を聞いた人たちが、結構来てくれた感じであった。
 
それで金沢の会場に集まってくれた人は圧倒的に30代が多かった。子供連れもいたが、お店では「もし泣いたりした場合は連れ出してください」という注意だけして、入場させた。男女比も半々くらいであった。午前中の大阪とは全く異なる客層である。
 
何となくバンドリーダー的な雰囲気になってしまった相沢さんの合図で現地調達のドラマーさんがチッチッチッとスティックを鳴らし、それから全員一斉に演奏を始める。前奏に引き続き、KARIONの3人が歌い出す。
 
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客の年齢層が高いので歓声や手拍子などもないが、耳を傾けて聴いてくれている雰囲気が伝わってきた。演奏が終わると拍手をもらえる。
 
和泉が短いMCを入れたら、最前列にいた小さい女の子が「お姉ちゃん頑張って」
という声。母親が慌てていたが、和泉は微笑んで客席に寄り、その子と握手した。
 
ほのぼのとした雰囲気の中、2曲目に入る。
 
やはり集まった客の中にポップス系のコンサートを若い頃に経験していた人たちもいたのだろう。最初は遠慮がちにだが手拍子が入り出した。すると和泉たちも、バンドメンバーも乗ってきて、良い雰囲気で演奏を終えられた。
 
3曲目もとてもノリの良い雰囲気で演奏し、それで「最後まで聴いて下さってありがとうございました」と和泉が言って、下がろうとしたのだが・・・・
 
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アンコールの拍手が来てしまった。
 
急いで集まり話し合う。
 
「なんか子供が多いから『大きな古時計』とかは?」
「ああ、行けそう、行けそう」
「よし、それで」
 
ということで短時間で曲目が決まる。
 
「これ、先頭に蘭子ちゃん、ヴァイオリンソロ入れてよ」
と相沢さん。
「了解。では適当なタイミングでドラムスをスタートしてください」
「OK」
 
それでそれぞれの位置に付いてから、私はヴァイオリンでAメロのモチーフを利用した、少し懐古的な雰囲気のソロを入れた。少しずつテンポを落としていき最後の音を伸ばした所で、勢いよくドラムスワークが入る。
 
そして全員の演奏が始まり、続いてKARIONの3人が歌い出す。
 
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客席から手拍子が来る。気持ちいいー! 
 
私たちは昂揚した気分で演奏を終えた。和泉が「みなさん並んで並んで」というので、KARIONの3人の後ろに、8人で並び、一緒にお辞儀をして演奏を終えた。
 
ファミリー層が多いので、ライブが盛り上がった割にはサイン会に並ぶ人はそう多くなかったが、それでも200人くらいの列ができた。ファンクラブの入会申込みの方もあまり列はできなかったので、そちらは三島さんに任せて私は社長とふたりでサインに並んでいる人の周囲で待機して、色々質問に答えたりしていた。
 
そんなことをしていた時、やっと珠里亜と美来子が戻って来た。畠山さんは怒鳴りたかったろうが、客の手前、そんなことはできない。
 
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「ごめんなさーい」
「どこ行ってたの?」
と平静に訊く。
 
「済みません。道に迷ってしまって」
 
ふたりはリハをやることを知らなかったので、14時くらいまで本屋さんにでも行ってようと思ったらしい。
 
それでお店の人に本屋さんの場所を尋ねた所「道を渡った所にある」と聞き、それで道を渡ったのだが、どうも間違って反対側の道を渡ってしまったらしい。それで見つからないので「あれ?あれ?」と思いながら歩いていたら、その内ブックオフがあったので、ここを案内されたのかと思い、本当は新刊書店を探していたのだが、まあいいかと思い、古い漫画などを物色していたらしい。それで1時間前になったのでそろそろ帰らなきゃと思ったものの、どちらから来たのか分からなくなってしまった。
 
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それで来たタクシーを停めて「ネオンの金沢店まで」と言ったら、全然違う所に着いてしまった。それで「ここじゃないみたい」という話に運転手さんはふたりの言う話を聞いてみて「ああ、それはネオンタウンの金沢店ですよ」と言い、改めてこちらに連れてきてくれた。しかし日曜の午後で道が渋滞していて、結局時間を大幅にオーバーしてしまったのだということであった。
 
温厚な畠山さんがかなり怒っている雰囲気はあったが、言葉は冷静だ。
 
「君たち携帯は?」
「すみません。午前中のライブの前に電源を切ったまま、再度電源を入れるのを忘れていました」
 
しかしこの日はサイン会の人数は少なかったもののCD自体は800枚ほど売れたので、畠山さんもその枚数を聞いて気を取り直していた。
 
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なお、大阪で行方不明になったベースとドラムスの人は、泥酔して警察に保護されていたということで、畠山さんは2人に厳重注意をした。(ギャラは2日分だけ払うと言ったのだが、2人は恐縮して返上するといったので、結局新潟県中越沖地震の被災地に寄付したらしい)
 
 
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夏の日の想い出・胎動の日(4)

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