広告:ストップ!!ひばりくん!コンプリート・エディション2
[携帯Top] [文字サイズ]

■夏の日の想い出・胎動の日(3)

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
前頁 次頁 時間索引目次

↓ ↑ Bottom Top

そんな感じでその夜は更けていった。
 
この日のホテルでは一応、各個室にもバスが付いているものの、最上階に展望も効く大浴場があった。
 
「展望がきくということは、外からも見られるのでは?」
「やはりそこはタオルで隠して」
 
などと珠里亜さん、美来子さんと言い合い、結局3人で一緒にお風呂に入りに行こうという話になってしまった。
 
「和泉さんたちは?」
と珠里亜さんが声を掛けたが
 
「ごめーん。万一盗撮されたりしたら面倒だから大浴場は禁止と言われた」
と和泉。
「ああ、アイドルは大変ね」と私。
 
「君たち3人も今年中か来年くらいには、そういうことになるよ」
と和泉は言う。
「じゃ今のうちに大浴場を堪能しとかなくちゃ」
と美来子さん。
 
↓ ↑ Bottom Top

和泉は私の方を見てちょっと心配そうに
「冬、あれは大丈夫?」
と訊く。私は微笑んで
「うん。生理は昨日終わったから今日はもう大丈夫」
と答えた。
 
「ふーん」と和泉は少し楽しそうな顔をして言った。
 

↓ ↑ Bottom Top

私が大浴場に行ってくると言うと、同室の三島さんは「あ、行ってらっしゃい」
と言ってから
 
「ちょっと待って。蘭子ちゃん、お風呂はどちらに入るの?」
と訊く。
 
「どちらというと?」
「男湯?女湯?」
「私が男湯に入ろうとしたら、こっち違うといって摘まみ出されますよ〜」
「でも女湯に入れるんだっけ?」
「あ、全然平気です」
「もうそういう身体になってたんだっけ?」
「そのあたりは企業秘密で」
 
ホテルの最上階は半分がラウンジになっていて、半分が(冬の間は)大浴場になっている(夏はプールになるらしい)。私たちはラウンジ前で待ち合わせ、それからお風呂の方に行った。
 
お風呂の客とラウンジの客があまり混じらないようにするための緩衝領域となっているショップや展示スペースなどを横に見ながら私たちはお風呂の方に行く。3人でおしゃべりしながら「姫様 LADIES」と書かれた赤い暖簾を潜る。
 
↓ ↑ Bottom Top

服を脱ぐと珠里亜から
「蘭子ちゃん、おっぱい小さーい」
と指摘される。
「うん。私、胸の成長が遅いみたい」
と答える。
 
「まだ中学1〜2年の感じかな」
などと美来子にも言われた。
 
「ああ、私中1の時は小学4-5年生並みと言われたよ」
「なるほど−」
「蘭子ちゃんに歌では負けるなと思ってたけど、胸では負けないな」
「いや、ロリコンおたくには小さい胸の方がうけるかも」
「そのあたりの男性の趣味って何だかよく分からないね」
 

↓ ↑ Bottom Top

「でもいづみちゃんの歌唱力が凄いよね」
と珠里亜。
 
「うん。あの子は凄いよ。こかぜちゃんやみそらちゃんだって、かなりうまいと思うけど、いづみちゃんが音感もいいし、歌い方もうまくて、お手本にしたいくらい」
と美来子。
 
「私、みそらちゃんとこかぜちゃんのユニットだったら、私だって負けないと思ったと思うけど、いづみちゃんの歌聴くと、この人にはとてもかなわないという気分になる」
と珠里亜。
 
「まあそう言わずにレッスンに励もうよ」
と私は言う。
 
「そうだね」
「普通ならみそらちゃんのレベルでもソロデビューさせちゃうと思うけど、この3人を組ませるって凄い贅沢なユニットだよね」
「実際問題として、今回のデビュー曲、この3人には易しすぎる気がする」
 
↓ ↑ Bottom Top

鋭い指摘だと思った。実はそれは私も感じていたのである。もっと歌唱力を要求する歌を歌わせた方が、3人の魅力を引き出せる気はしていた。
 
「蘭子ちゃん、いづみちゃんとはお互い呼び捨てなんだね?」
「ああ。中学時代からの付き合いだからね。ふたりで一緒に歌の練習とかもかなりしたし、去年の夏から秋にかけては一緒にお仕事したし」
「へー」
 
「いづみちゃんは蘭子ちゃんのこと『冬』って言ってた」
「うん。本名は冬子だから」
「へー。冬に生まれたの?」
「冬に生まれる予定だったから、冬子という名前を準備してたのに、予定日より2ヶ月も早く生まれてきたということで」
「あらら」
「でも、名前はそれに決めてたからということで、そのまま付けられた」
「じゃ秋生まれなんだ?」
「そそ」
 
↓ ↑ Bottom Top

この3人での入浴で、それまでかなり緊張感のあった珠里亜と美来子の関係はかなりほぐれた感じがあった。
 

↓ ↑ Bottom Top

3人でお風呂をあがってから、談笑しながらエレベータの方に向かっていたら、「博多祇園山笠」の写真が展示してある所に和泉がいた。
 
「あ、冬、そろそろ上がる頃かと思った」
「何か?」
「うん。ちょっと」
 
というので、珠里亜と美来子は「じゃ、私たちは先に」と言って行ってしまう。
 
「ね、冬って作曲するよね?」
と和泉は言った。
 

↓ ↑ Bottom Top

翌朝、東京から飛行機で追加でコーラス隊に入ることになった短大生の穂津美さんが来て、本番前に簡単に合わせた。高校生の珠里亜・美来子からは少しだけ年が上であり、また歌唱技術も高かったことから、結果的に穂津美さんを中心に3人のまとまりが出来た。またバンドの方も、KさんとCさんが積極的に全体に融合してくるので、良い雰囲気になった。
 
それで福岡のイベントは結果的に東京や名古屋よりもうまく行ったような感じもあった。三島さんがステージで演奏するというのに慣れていなくてあがってしまい、最後の方でけっこうミスを連発したがPAさんがキーボードの出力を下げてくれたので、あまり目立たなくて済んだ。
 
それで新幹線で広島に移動する。
 
↓ ↑ Bottom Top

「あのお、もし良かったら私がキーボード弾きながらコーラス歌いましょうか?」
と今日コーラスに加わってくれた穂津美さんが言う。
 
「あ、穂津美さんキーボード弾ける?」
「エレクトーン6級ですから大したことないですけど」
「6級ならセミプロ・レベルじゃん! 私なんて初心者レベルの8級だもん。代わって代わって」
 
と三島さんが言うので、午後の広島のイベントでは穂津美さんがキーボードを弾きながらコーラスも入れるという形になり、昨日と同じ態勢での演奏となった。(松村さんの代わりに私が、私の代わりに穂津美さんが入った形)
 
広島での夕食は、牡蠣尽くしであった。
「今回はマジ、ホテルが安っぽい分、食事がいい!」
と相沢さんはご機嫌である。
 
↓ ↑ Bottom Top

「そのうち売れるようになったら、ホテルのランクも上げますから」
と社長も半ば照れながら言う。
 
「今の所売上はどうですか?」
「東京で200枚、名古屋で80枚、福岡で60枚ですね。枚数的には大したことなくても、今回のイベントに来てくれた人を中心に口コミが広がっていってくれたらと思うんですけどね」
 
「福岡はFM局にも出たのが効果出るといいですね」
「ええ。FM局はこういう音楽に好意的だから、機会があったらどんどん出してもらいたいですね」
 

↓ ↑ Bottom Top

その日は広島で夕食を取った後で新幹線で大阪に移動して泊まった。宿泊は昨日と同じ組合せであったが、穂津美さんだけシングルに泊めた。
 
そして3日目の朝が明けた時、畠山さんが頭を抱え込む事態が発生していた。
 
「じゃ、*君と*君は、繁華街に飲みに行ったの?」
「済みません。明日もあるんだからとか言って停めるべきでしたかね」
と相沢さんが恐縮する。
 
ベースの人とドラムスの人が朝になっても戻ってないのである。携帯に電話するも、電源を切っているか、あるいはバッテリー切れかでつながらない。
 
「10時までに現地に来てもらえれば何とかなりますが・・・」
と三島さんが言うが、
 
「いや。ここは2人が今日はもう参加できないという前提で考えるべきです」
と私は主張した。
 
↓ ↑ Bottom Top

「うん。そう考えるべきだろうね」
と畠山さんも厳しい顔で言う。
 
「とにかく金沢の方は現地でベース弾ける人とドラムス弾ける人を調達しましょうよ。社長、そちらのコネはありませんか?」
「ある。すぐ連絡する」
と言って、畠山さんは電話を掛けていた。
 
「古い知人に頼んだ。何とか使えそうな人を見つけてくれるということだ。三島君、ここに譜面をFAXして」
「はい」
と言って、三島さんは譜面を取りに行く。
 

↓ ↑ Bottom Top

「さて、午前中のライブまで1時間半しかない。これを何とか乗り切らないと」
と黒木さんが言う。
 
「Cさん、元々がマリンバなさるのでしたら、ドラムス打ったことありません?」
と私は訊いた。
 
「ある。でもあまり自信は無いよ」
「打てるようなドラムスで打ちましょう。難しいドラムスワークは無し」
「単純な8ビートなら何とかなるかな」
「それで行きましょう」
 
「Cさんにドラムスを打ってもらって、グロッケンは?」
と相沢さんが訊く。
「和泉が歌いながら叩く」と私。
「うーん。叩くだけならできるけどそれで同時に歌うのは・・・」
と和泉は言う。
 
「グロッケンの代わりに電子キーボードでなら弾き語りできない?」と私。「あ、それならできるかも」と和泉。
「ということで、社長、電子キーボードをもう1台調達しましょう」
「うん。分かった!」
 
↓ ↑ Bottom Top

と言って急いで電話をしている。
 
「ベースはどうする?」と相沢さん。
「穂津美さん、キーボードあれだけ弾けるなら、単純に根音だけでならベース弾けません? エレクトーンのペダル鍵盤を弾くのと同じ要領」と私。
 
「できるかも知れないけどやったことない。そもそも私、エレキベースなんて触ったことないよ」
「今、覚えましょう」
「俺が教えるよ」と相沢さんが言う。
 
「穂津美さんがベースを弾いたらキーボードは?」
「三島さん、頑張ってみましょう」
「うん」
 

↓ ↑ Bottom Top

そういう訳で急いで相沢さんが穂津美さんにベースの弾き方を教える。幸いにもすぐ音階が分かるようになったので、それで簡単に合わせてみるとさすがエレクトーン6級である。勘で根音が分かるので今日イベントで演奏する3曲だけなら、何とかなる感じであった。
 
それで泥縄状態で、私たちはイベントの行われるCDショップに出かけて行った。結局電子キーボードはこのショップが所有するものを好意で貸してもらえることになったが、和泉は結局ぶっつけ本番である。ただ音源製作の時にさんざん今日やる曲のグロッケンは弾いているので、弾くべき音は頭に焼き付いている。
 
場所はCDショップのフロア内にある小ホールで定員500人の所を少々オーバーしている雰囲気もあった。お店のスタッフの人が会場整理を手伝ってくれて、若い人2人がステージ前に客の方を向いて立ってくれた。
 
↓ ↑ Bottom Top

畠山さんが司会をしてKARIONを紹介し、3人が出てくる。観客の中に名古屋でも見た男の子がいる。もう熱心なファンになってくれている! 私たちも各々の位置について楽曲スタート!
 
ドラムスぶっつけ本番になったCさんは最初不安げに打っていたが、少し経つと調子が出てきたようで、格好良いフィルインを入れたりもしてくれた。和泉もグロッケンパートの弾き語りなどというのは初めてであったが、さすが和泉はスターである。いつもやっているかのような顔をして堂々と演奏し、堂々と間違う! しかし間違っても平気な顔をしているので、後ろでキーボードを弾いていた三島さんがあれ?あれ?という顔をしていた。このあたりの和泉の舞台度胸はさすがだなと思いながら、私はヴァイオリンを弾いていた。
 
↓ ↑ Bottom Top

↓ ↑ Bottom Top

前頁 次頁 時間索引目次

[*前p 0目次 8時間索引 #次p]
1  2  3  4  5  6  7  8  9 10 11 12 
夏の日の想い出・胎動の日(3)

広告:彼が彼女になったわけ-角川文庫-デイヴィッド-トーマス