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■夏の日の想い出・胎動の日(2)

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さて最初のイベント開始である。KARIONのデビューCDは1月2日に発売されはしたものの、ここまでの一週間でまだ1000枚しか売れていない。テレビスポットなども流していたのだが空振りの雰囲気だった。そこでセールスを最低でも5000枚には乗せたいということで今回のイベントは∴∴ミュージック単独で企画したものである。CDショップなどはこれまでのお付き合いの流れで無料で場所を提供してもらえるものの、15人が3日間動けば交通費・宿泊費も含めて費用は100万以上掛かる。ほんとうはこれで1万枚以上のセールスにつながらないと赤字だが、最低でも5000枚は売っておかないと、次のCDを出す話をレコード会社とすることができない。畠山さんとしても、KARIONがちゃんと離陸できるかどうかの、瀬戸際のイベントという気持ちであったらしい。
 
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その畠山さん自身が司会をして
「デビューしたて、ピッチピッチの女子高生ユニット、KARIONです!」
と紹介して3人が飛び出して行き
「こんにちは〜、KARIONの」
「いづみです」
「みそらです」
「こかぜです」
と各々自己紹介する。
 
私たちバックバンドやコーラスのメンバーもステージに駆け上がってスタンバイする。そしてデビュー曲『幸せな鐘の調べ』を演奏し始める。
 
ギター・ベース・ドラムスというロック系の基本楽器は入っているものの、キーボードはパイプオルガン系の音を出し、それにグロッケンの響きが入り、ヴァイオリンやフルートなどの音も入って、ポップクラシックに近い雰囲気の演奏である。
 
女子高生3人組ということで、アイドル路線を期待して来場してくれた観客が多かったようで、アイドル歌謡とは少し傾向の違うこの曲に多少の戸惑いはあったようだが、いづみ・みそら・こかぜの3人の可愛い容姿がとにかくも好意的に捉えられた感じであった。
 
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なんだか「いずみーん」「みそっちー」「かぜぼう」などと、即席の愛称を勝手に付けてコールしてくれる男の子たちもいて、本人たちもびっくりしていた。
 
それでも演奏が終わった後のサイン会にはけっこうな人数(8割くらいが高校生か大学生くらいの男の子)が並んでくれて、サインを書いてもらい握手もしてもらって、ご機嫌な雰囲気だった。この世代の中には、まだ知られていないアイドルのファンに率先してなることを楽しみにする子たちもいて、そういう層にも支えられている雰囲気があった。
 
ファンクラブ無いんですか?という質問もかなりあったので、畠山さんは
「近いうちに作りますので、ご住所と名前を書いていただけたら案内を送ります」と言って、私と三島さんが急遽、その受付をした。
 
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この東京のイベントでは取り敢えず手近にあった罫紙を適当なサイズにハサミでカットしたものに住所氏名を書いてもらったのだが、畠山さんは事務所に電話して、KARIONファンクラブ入会(仮)申込書というのを作らせ、取り敢えず100枚ほどプリントして、誰かが名古屋まで持参してくれるよう指示していた。
 

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イベント終了後、名古屋に移動するのにいったん東京駅に出る。ここで私はひとり他の人たちと離れて奈緒との待ち合わせ場所に行く。
 
「ありがとう、助かった」
と言って私はアスカからもう3年半借りっぱなしのヴァイオリンを受け取る。
 
「あれ?今日は高校の女子制服じゃないの?」
「うん。今回は伴奏スタッフだから、逆に制服が使えないんだよね〜。主役の3人が女子高生だから、他に女子高生がいるとファンが目移りするから。私の他にコーラス隊の2人も女子高生だけど、彼女たちも私服だよ」
 
「へー。でも同世代の女の子がスポットライトを浴びていると、嫉妬しちゃったりしないのかな?」
「それはすると思うよ。私の方がうまいのにとか思ったりするよ、きっと。だからボクは今回のイベントでは、そのガス抜きのためのおしゃべりを裏方2人に仕掛けるのもシークレット・ミッション」
 
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「へー。裏工作も大変だね。でも冬は嫉妬しない訳?」
「ボクは彼女たちと一緒にデビューしない?と散々誘われたのを断ったから」
「なんで断ったの?」
 
「だって、男だってバレたら、面倒じゃん」
「ああ」
と言ってから奈緒は言った。
 
「きっと冬はそう遠くない時期に、その男とバレて面倒なことになるって奴を体験することになると思うよ」
「そうかな」
「取り敢えず、女湯や女子更衣室で騒ぎにならないよう気をつけなよ」
「ああ、それは心配無い」
 
「冬・・・・ほんとにそれについては自信あるみたいね。もうアレ取ってたりしないよね?」
「付いてること確かめたくせに。機能チェックまでされたし」
と私。
「それは去年の春だもん。あれからもう9ヶ月経つよ」
と奈緒は言った。
「多分既にタマは取ってるよね?だってここ2〜3ヶ月、急速に女らしくなってきた感じだよ。夏休み中か秋くらいにタマを取ったから女性ホルモンの効きが良くなったんじゃないかと思って見てたんだけど」
 
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この時期、私が女性ホルモンを使っていることを知っていたのは多分奈緒と若葉くらいである。他の人からも散々疑われてはいたものの私は使用を否定していた。ちなみに私の女らしさが増したのは、女性ホルモン自体を増量したせいだ。
 
「えっとタマは多分あると思うけど」
「自信の無さそうな言い方だなあ」
 

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名古屋はショッピングセンターのイベント広場を使うことになっていた。控えのスペースで待機していた時、畠山さんが
 
「そういえば蘭子ちゃんのヴァイオリンって、僕は聴いたことがなかった。どのくらい弾くの?」
と言われるので、私はヴァイオリンをケースから取り出し、調弦してから、グレープの『精霊流し』を弾いてみせる。
 
「凄い!」と和泉。
「きれーい!」と小風。
「本職みたい」と美空。
近くにいた客からも拍手が来た。
 
「ねね、私より上手くない?」
とヴァイオリニストの松村さん。
 
「そんなことはありません。私はハッタリがあるから上手く弾いているように聞こえるだけで、注意して聴くと実は下手なのが分かります」
 
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「そうかな? ハッタリや誤魔化しが上手いなとは思ったけど、それ以上に基礎的な力もしっかりしてると思ったけど。それに、そのヴァイオリン自体も凄い。どう見ても私が使ってるのより高そう。そんなの使っているということはやはり相当弾いてるんだよね?」
 
「いえ、これは借物なんですよ。音大のヴァイオリン科に通ってる従姉が昔使っていたのを長期間借りていて」
 
「このクラスのヴァイオリンは弾く人を選ぶよ。下手な人には弾きこなせない。蘭子ちゃんも、それだけ弾けたらヴァイオリン科を狙えそう」
などと松村さんは言う。
 
「それはさすがに無理です〜。ヴァイオリンを始めてまだ3年だし」
「うっそー! たった3年でここまで弾けるようになるなんて信じられない。今高1?だったらあと2年良い指導者について練習したら、ほんとにヴァイオリン科行けるよ」
「うーん。そこまでやるつもりは」
 
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「ね、ね、そのヴァイオリンちょっと借りれる?」
「いいですよ」
と言って私はヴァイオリンと弓を松村さんに渡す。松村さんは『G線上のアリア』
を演奏した。
 
みんな大きな拍手をする。
「すごーい」
とみんな称讃の声を上げる。
「やはりプロの演奏は違いますね」
と私は拍手しながら言った。
 
松村さん本人も
「いや、この楽器も素晴らしい! やはりいい楽器使うと違うなあ。私も少し無理してもいいヴァイオリン買っちゃおうかなあ」
などと言っていた。
 
畠山さんは
「蘭子ちゃん、キーボードの技術は高いと思ってたけど、ヴァイオリンもこんなに弾きこなすとは知らなかった」
と本当に感心している風であった。
 
「じゃ、明日は蘭子はヴァイオリン弾きながらコーラスね」
と和泉は言うが
「ヴァイオリン弾きながら歌うのは無理」
と私は言う。
 
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「え?なんで?」
「ヴァイオリンを顎で押さえてるから、口が動かせないんだよ」
「えー? じゃ明日のコーラスは?」
「残りの2人に頑張ってもらうかな」
 
「いや、それは1人追加するよ。今それに気付いてよかった」
と言って畠山さんはすぐに事務所に連絡していた。追加のコーラスメンバーは明日の朝の飛行機で福岡に来てもらうことになった。
 

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名古屋でのイベントが終わってから、松村さんは新幹線で東京に戻り、残りの14人で福岡に移動する。セントレアから福岡空港に入る。セントレアまではスタッフまで含めて全員特急ミュースカイの特別車両席を使ったが、これが好評であった。心地良いので眠っているメンバーもいた。私はコーラスの1人珠里亜さんと隣の席になったので、ひたすら彼女とガールズトークをしていた。コーラスのもう1人美来子さんは寝ていた(ように見えた)。
 
また福岡行きの飛行機の中では今度はその美来子さんと隣り合わせの席になり、今度は彼女とたくさんしゃべりまくった。
 
そして私は気付いてしまった。
 
珠里亜さんと美来子さんは相性が悪い!!
 
そこで空港に着いてから三島さんを引っ張り出してそのことを言う。
 
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「うーん。。。女の子同士ってこういうの面倒だよね」
「全く」
「ちょっと部屋を組み替えるか」
 
ということで、最初は珠里亜さんと美来子さんを同室にする予定でいたのだが、珠里亜さんはフルートのKさんと、美来子さんはグロッケンのCさんと同室にすることにした。実はKさんとCさんの相性もあまり良くないのに三島さんが気付いていたのである。新しい組合せの相性は未知数だが、年齢差があると、何とかなるのではと考えた。なお、私は性別問題があるのでそれに配慮して三島さんと同室ということになっていた。
 

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福岡での夕食は天神の海鮮料理の店だった。
 
「このグレードの仕事で、このクラスの料理が食べられるとは思わなかった」
と相沢さんが嬉しそうに言ってから
「これ各自払うんじゃないですよね?」
と心配そうに三島さんに訊く。
 
「大丈夫。事務所持ちですよ。お酒も明日に響かない範囲でお好きなだけどうぞ」
と畠山さんが言うので、
「よし、飲もう」
と言って嬉しそうに、博多の地酒を注文していた。
 
私はこの夕食の席では今度はKさんとCさんの間に座って、ふたりと話していた。
 
「蘭子ちゃんって、雑用とかしてるみたいだけど、事務所のスタッフ?」
「いや、時々顔を出しているだけです。去年の夏から秋にかけて数ヶ月、この事務所を通してお仕事もらったりしてたんですけどね。あと、KARIONの今回のデビュー曲の音源製作にも参加してたんで、今回のイベントにも出ない?とお声が掛かって」
 
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「ああ、そうだったんだ」
「なんか便利に使われてます」
「あ、確かに便利屋さんっぽい。コーラスしてるの聴いても歌が凄く上手いし」
「あ、私も思った。ソロデビューできるレベルだと思う」
 
「ええ。私、そう遠くない時期にデビューするつもりでいますから」
「おお、強気」
「こういう強気な子って好きだ〜」
 
「スターになれる性格だ」
「別の事務所の社長からも言われたことありますよ。自己主張できる子だけがスターの座に就くことができる。でも自己主張できるからといってスターになれるとは限らない」
「まあ、たしかになれるのはホントに一握りだ」
「性格もあるけど、運も強くないとダメだよね」
「でも確かに自己主張しない控えめな子は絶対にスターにはなれない」
「あ、でも他の事務所からも目を付けられてるんだ?」
 
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三島さんも言っていたように確かにKさんとCさんの相性はあまり良くないと感じた。しかしバンドの女性メンバーの間に感情的な緊張があるとセッションに影響する。実際今日の演奏でも私はこのふたりちょっとやばいかもと思ったのだが、ヴァイオリンの松村さんが人当たりのソフトな性格だったので今日は何とかまとまったのだ。私のその時間の目的は私という存在を媒介にして、明日・明後日の演奏でふたりが少しでも融和してもらえるようにすることだったが、私の八方美人的な性格で、ある程度それはできたような雰囲気もあった。
 
「蘭子ちゃん、歌がうまくてピアノ弾けて、ヴァイオリンも弾けるんなら1人で多重録音で音源作ってCD出しちゃいなよ」
「あ、私フルートは吹いてもいいよ」
「私もマリンバ打っていいよ」(Cさんの本職はマリンバ)
 
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という感じで、私を「ダシ」に使うことで、ふたりも割と良い雰囲気になった。(ふたりとも取り敢えずこの週末は仲良くしなければならないことは頭では分かっている)
 

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