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■夏の日の想い出・セーラー服の想い出(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2012-10-24  
ステージはまだ始まったばかりのようで、ボクたちが来た時歌っていたのが最初の曲のようであった。彼女はMCをはさみながら、曲を歌っていく。そして5曲ほど歌いまたMCをしていた時だった。観客の中でひとりの女性が貧血でも起こしたのかバランスを崩して前の人にのしかかるようにして倒れた。
 
のしかかられた人が更にその前にのしかかって倒れという感じで、将棋倒しが発生する。キャーという悲鳴が上がった。観客の密度が高かったことから、誰もそれを途中で止めることができず、連鎖的に倒れて最前列まで及ぶ。そして最前列の人が思わず近くにあった広告の看板に倒れかかると、その看板が倒れて、ステージ後方でキーボードを弾いていた人を直撃した。
 
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キーボードが吹き飛び、その台も倒し、本人もうずくまった。更に悲鳴などが上がるが、青島リンナは一喝。
 
「静かにしなさい!!」
 
と低く大きな声で言った。それで観客はさっと静まった。
 
「その場を動かないように」
と彼女は更に言う。パニックを未然に防いだ、素晴らしい対応だった。ボクはちょっと、この人に惚れ込んだ。
 
「立てる人は立ち上がって」と言うと、ほとんどの人が立ち上がる。ただひとり最初に倒れた女性は意識が無かったので、商店街のスタッフらしき人が運び出した。倒れた広告看板も起こされ、少し遠くに移動された。キーボードの人も立ち上がるが、右手を押さえている。
 
「大丈夫?」
「すみません。右手を打っちゃって」
「ああ、それでは弾けないかな?」
「ええ。10分か15分も冷やしておけば治るとは思うのですが」
「しょうがないですね。ライブは中止にしましょう」
と言うと、リンナはマイクを持ち直して、観客に向かって言う。
 
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「皆様、ごらんの通り、ちょっとアクシデントがありましてライブを中止せざるを得ません。あと2曲ほどだったので最後まで演奏したかったのですが、私は弾き語りとかできないので。どなたか代わりにキーボード弾いてくださる方がおられましたら、続けられますが」
とリンナは笑顔で言った。
 
その時、隣に居た日奈が「はーい!」と大きな声を出して手を挙げた。ボクも亜美や倫代もびっくりする。
 
「君、弾けるの?」とリンナも驚いたような顔で尋ねる。
「私は弾けないけど、ここに弾ける子がいます」
と言って日奈はボクの手を取り高く掲げた。
「ちょっと、ちょっと」と言ってボクは焦る。
 
「えっと今から歌いたかったのは『憧れのローラ』と『ここにいるから』って曲なんだけど、弾けます?」
とリンナは訊く。ボクは微笑んだ。
「弾けます。今回のアルバム、前回のアルバムの曲、それからそれ以前のアルバムでも、タイトル曲・準タイトル曲クラスなら弾けます」
とボクは答えた。
 
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「なんか自信あるみたいね。じゃ、ここに出てきて弾く?」とリンナ。
「はい」
と言って、ボクは日奈に微笑むと、ステージに上がった。
 
キーボードの人が
「『憧れのローラ』のセッティングは7番、『ここにいるから』は8番に入ってるから」
と言う。
「了解です。ありがとうございます」
とボクは答えた。
 
「じゃ、可愛いピンチヒッターさんが出てきてくれたので、彼女の伴奏で残り2曲歌います」
と青島リンナは言った。
 

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彼女が笑顔でこちらを見るのでボクは7番のセッティングを呼び出し、キーボードの高音部・低音部で出る音を確かめる。譜面を斜め読みする。うん。これはCDに入っているのと同じアレンジのようだ。リズムをスタートさせる。
 
リズムパターン・リズムシークエンスは特にプログラムされておらず、普通のディスコのリズムだ。それなら歌手が途中で譜面と違う歌い方しても即応できる、とボクは踏んだ。そして譜面を見ながら、またCDに入っていた歌を頭の中で思い出しながら弾いていった。Aメロ、Bメロ、サビ、Aメロ、サビ、そして間奏を入れる。最初こちらの演奏にかなり神経を配りながら歌っていたふうであったリンナが、2度目のAメロのあたりから、気にせず歌うようになったのを感じた。
 
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そしてその間奏が終わって、2小節リズムのフィルインだけの小節があり、その後、Cメロが始まるのだが、リンナはチラッとこちらを悪戯っぽい目で見ると、いきなり譜面とは違う音の高さで歌い始めた。ボクは内心「おっ」と思いながらも、速攻で転調して伴奏を弾く。隣に控えていたキーボードの人が「うっ」という小さな声をあげたのを聞いた。
 
そしてリンナは何事も無かったかのように転調したままCメロ、Aメロ、Bメロと歌い、サビを3回リピートして、この曲を終えた。
 
拍手があり、リンナがMCをする。キーボードの人が感心したように首を振り、ボクに握手を求めた。ボクは8番のセッティングを呼び出し、ボリュームを絞って音色を確認する。そして最後の曲が始まる。
 
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こちらの前奏を聴いてからリンナは歌い始める。この曲では特に前の曲のような悪戯はしなかったものの、本来2番までで終わるはずが、CDにも入っていない3番まで歌ってから、リンナは歌を終えた。
 
物凄い拍手が来る。そして「アンコール!」という声がいくつもあがった。リンナはこちらをチラッと見たが、私は笑顔で頷く。今日歌ったラインナップを考えると、アンコールはたぶんあの曲だ。ボクはキーボードの人に
 
「『Daylight of Summer』はどこかにレジスト入ってますか?」と小声で訊いた。
「うん。15番で行ける」
「ありがとうございます」
 
ボクはリンナがアンコールのお礼のMCをしている間にそのセッティングを呼び出し、ボリュームを絞って音色を確認した。そしてリンナは3分ほどのMCの末に
 
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「それではホントに最後の曲『Daylight of Summer』聴いてください」
と言った。この曲はとても静かな曲でドラムスが入らない曲だ。歌手が結構自由なテンポで歌う。ボクはリズム無しで前奏を弾き始めた。左手に少し複雑な和音進行があるが、それをクラシックなチェンバロの音で弾いていく。
 
そして彼女はこの曲ではマイクのスイッチを切り、肉声で声を響き渡らせた。
 
ボクは彼女の歌を聴きながら、そのテンポの流れ・波動を感じ取りつつ、やや前乗りで演奏していく(歌を聴いてから音を出すと演奏側が遅れ気味になるので、逆にこちらの音を聴いて歌手が歌えるように、少し早めに弾くこと)。ボクは演奏していて、やはり上手な人の歌は心地好いなと思っていたが、本人も凄く気持ち良く歌っている感じだ。心理的にシンクロしているので、彼女がシンコペーションしたりフェルマータする所はこちらも事前に感じ取ることができ、連動してちゃんとその分ゆっくり弾いたり音を伸ばすことができた。
 
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そして終曲。
 
割れるような拍手。
 
ボクはキーボードの人と再度握手をし、リンナに促されて、ステージを降りた。
 

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リンナが
「ありがとう。君のおかげでいいステージになったよ。最後の曲とか物凄く歌いやすかった。名前聞かせて」
と言う。ボクは本名を名乗るのも恥ずかしかったので
「No one knows Kei です」
と言ったが、リンナは芸名と取ったようで
「ふーん。セミプロ? 転調に即対応したところで素人じゃないなとは思ったけど。でもきっとその内みんなが知ることになるよ」と言い、スタッフさんに言って色紙を1枚取ると「Everyone knows Kei さんへ」と書き、サインを書いてくれた。
 
「ありがとうございます」
「また会う機会がありそうな気がする。See you」
と彼女は言った。
 
ボクはお辞儀をして、日奈たちの所に戻る。スタッフの人が追いかけて来て、ボクにポチ袋をくれた。「ありがとうございます」と言って受け取った。
 
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「お疲れ様〜」と言って日奈たちに拍手で迎えられる。若葉がハグしてくれる。
「あ、それ、御礼?」
「みたい。何だろう」
と言って中身を確認すると、5000円も入っていた。
「おっ。すごい、ケーキか何か買ってみんなで食べようよ」
と私は提案した。
 
しかしリンナからは「See you」とは言われたものの、彼女と1年後に再度話をする機会がくるとは、この時思っていなかったし、ずっとずっと未来に、彼女が産んだ子供を自分が育てることになるとは、夢にも思わなかった。
 

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ボクたちはお菓子屋さんを探していたのだが、ケンタッキーがあったので、チキンを人数分8本買って、1本ずつ食べた。
 
「でも凄いね。あの曲、練習してたの?」と倫代が訊くが
「ううん」とボクは答える。
「あの人のCDはお姉ちゃんが全部持ってて、私は何度か聴いただけ」
とボクは説明する。
 
「へ? それであんなに弾けるの?」と倫代が驚いて言う。
「冬は、一度聴いた曲なら歌えるし、ピアノやエレクトーンで弾けるよね」
と日奈。
「うん」
とボクは笑顔で答える。
 
「さっき、亜美との会話で、知っている風だったから、知ってるなら弾けるはず、と思って手を挙げた」と日奈。
「いや、さすがに私もちょっと不安だったけど、譜面もちゃんとあったしね」
と私。
 
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「不安があるにしては自信のあるような受け答えしてたね」と美枝。
「ああ、それは私のいつものハッタリ」と私。
「自信無さそうな言い方したら、使ってくれないでしょ?」
と私は笑顔で言う。
 
「冬、優秀な営業マンになりそう」と美枝。
「いや、優秀なセールスレディでしょ」と貞子が修正する。
 
「負けた〜。冬が初見・即興に強いのは知ってたけど、何度か聴いただけの曲をあそこまで弾けないよ、私は」と倫代。
「リンナさん、途中でわざと転調したよね。冬を試してみた感じだった。あの曲には本来転調は無かったはずなのに」
と亜美。
 
「うん。ちょっとびっくりしたけど、転調して弾くのは別に問題無いから」
と私。
「初見に近い状態で弾いてて、即興で転調演奏までしたの!?」
と倫代が呆れている。
 
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「冬は聴いた曲をまるで録音しているかのように覚えてるよね」
と日奈。
「うーん。むしろMIDI的に覚えてる感じかな。ドレミで記憶してるよ。私の記憶はだからサウンドデータじゃなくて文字データ。でないと、頭の記憶容量が足りないよ。それに、そもそも私って絶対音感無いから、音名じゃなくて階名での記憶になるんだよね。でもお陰で転調しても、新しい調のドレミで弾ける」
と私。
 
「負けた。ホントに負けた」と倫代は言っていた。
 

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その後、ボクたちはまたおしゃべりしながら、集合場所の八坂神社の方へと歩いて行った。新京極で時間を食ったので、結局祇園の街までは行かなかった!
 
八坂神社で女子全員が集合した後、近くの京料理の大衆食堂という感じの店でこの修学旅行最後の食事をする。重箱に入ったきれいなお弁当だ。修学旅行中、毎回全部食べきれずに、少し若葉や日奈などに手伝ってもらっていたボクも、この最後の食事だけは、女性向けに加減した量だったので、全部食べることができた。庶民的な雰囲気だったが、料理自体は上品な味付けで、美味しかった。
 
バスで東寺に移動して最後の見学をする。本来はここで男子と合流する予定だったようであるが、男子の方が遅れて、男女時間差見学になった。
 
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■夏の日の想い出・セーラー服の想い出(9)

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