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■夏の日の想い出・セーラー服の想い出(3)

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この時期、放課後はずっと女子制服で過ごしていたので、Sと遭遇したりしないよう、だいたい部活が終わったら教室には戻らず、音楽室からそのまま生徒玄関に行って帰宅するようにしていた。しかし、ある日ボクは教室に忘れ物をしたことに気付き、取りに行った。そして教室の後ろ側の戸から中に入ろうとした時、ボクは目の端にSが向こうからやってくるのを見た。やばっ!
 
ボクは中に入ると、大急ぎでワイシャツとズボンに着替えてセーラー服をスポーツバッグにしまった。そこにSが入ってきた。
「やぁ、今部活終わったの?」とボクは彼女に声を掛ける。
「あ。うん。あれ? 今誰か女子生徒がこの部屋に入って来なかった?」
「え? 知らないよ」
「あれ〜。誰か入るの見かけたんだけど、誰か知らない子のような気がして。誰だったかなあと思ったのよね」
「隣の教室じゃない?」
「あ、そうかな。見間違ったのかなあ」
 
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ボクは心の中で冷や汗を掻いていた。その日は久しぶりにSと一緒に楽しく下校した。しかしボクがワイシャツと学生ズボンで帰宅したのを見た姉が
「あんた、なんで男の子みたいな格好してるのよ?」
と言った。
 
「え?だってボク男の子だよ」
「嘘をついてはいけないなあ。もう冬子の男物の服全部タンスから没収しようかな」
「う・・・・」
「実際着てないんじゃない?」
「・・・そうかも知れない。でもタンスが空っぽになってたらお母ちゃんが変に思うよ」
「そろそろお母ちゃんにはカムアウトすべきだよ」
「うーん・・・」
 

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ボクが男子制服で帰宅したことは翌日には倫代に知られていた。ヘッドロックを掛けて攻められた上で
「二度と男子制服では下校しません」
という誓約書を書かされた!
 
「ね、ね、これ私たち、冬子をいじめてる訳じゃないよね?」
と日奈が少し心配したように訊く。
「冬子が女の子としてちゃんと生きていけるように導いてあげてるのよ」
と倫代。
「本人、嫌がってる?」と亜美。
「えー? 私はどっちかってっと、女子制服でずっと過ごしたい気分」
「だったら、そうすればいいのに!」
と3人から言われる。ボクはタジタジとなった。
 
「もっとちゃんと女子中学生としての自覚を持とうね」と倫代は言う。
「はいー」
「今回は罰として一週間オナニー禁止」
「・・・・オナニーなんてしないよぉ」
「あ、そういえばそんなこと言ってたっけ。前にしたのはいつ?」
「去年の8月に1度しちゃったかな」
「へー」
「だって、あまりアレに触りたくないもん」
 
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「何か冬子って私が思ってる以上に女の子なのかも知れないなあ。ね、おっぱいあるよね?」
「えー、そんなの無いよぉ。これはパッド入れてるだけだよ」
「ほんとかなあ」
「裸にして確認してみたいね」
 

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この時期、ボクは早朝セーラー服で学校に行き、放課後18時くらいにセーラー服で帰宅する以外は、日中ワイシャツと学生ズボンで学校では過ごしていたので、大半の同級生にはボクがセーラー服を着ていることは知られていなかった。先生たちも最初は気付いていなかったのだが、6月2週目のある日、夕方練習が終わって帰る時に、隣のクラス3年1組の森島先生(数学担当・女性)とバッタリ遭遇した。
 
「先生、さようなら」と挨拶したのだが
「あれ? 君誰だったっけ?」と訊かれる。
「ごめんね。生徒の顔と名前はだいたい覚えてるつもりだったんだけど、君の顔、記憶にあるのに名前が出てこなくて」
 
「あ、すみません。2組の唐本です」
「・・・・えー!?」と先生が叫ぶ。
 
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「なんでその制服なの?」
「えーっと・・・衣替えだから、夏服かなぁ、と。今月初めから、これで通学してます」
「え?そうだったんだっけ? あれ、でも授業では男の子の格好してなかった?」
 
「あ、通学だけこれで。授業中はワイシャツと学生ズボン着てます」
「へー! でもちゃんと制服なんだから、校則違反じゃないな」
「でしょ? じゃ、失礼しまーす」
「うん、さよなら」
 

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更に翌日は早朝から、担任の有川先生とバッタリ校門の所で遭遇してしまった。
 
「先生、おはようございます」
「あ、お早う。早いね」
「合唱部の朝練なので」
「へー。頑張ってるね」と言ってから、先生は
「ごめん。君、誰だったっけ? 名前がこの辺まで出かかってるんだけど、出てこなくて」と言う。
 
「あ、唐本ですよ」とボクは笑顔で答える。
「何〜!?」と先生は言ったまま絶句する。
 
「何ふざけて女子の制服とか着てるの?」
「あ、私、女の子ですから」
とボクは笑顔で言って、
「では、練習に行くので失礼します」
と言い、足早に生徒玄関の方へ行った。
 

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しかしその日の朝礼でボクがふつうに男子の格好をしているのを見て、先生は戸惑うような視線を投げかけた。そして昼休み、先生に呼ばれる。面談室に有川先生と森島先生のふたりがいた。
 
「そういえば、唐本さんって、わりと女性的な性格だよね」
と森島先生は言った。
 
「あ、そうですね。小さい頃からよく冬子ちゃんとかみんなに呼ばれてたし」
「へー」
「性同一障害とかいうんだっけ?」と有川先生。
どうも午前中ににわか勉強してきた雰囲気だ。
 
「あ、性同一性障害ですね」とボク。
「なの?」
「さあ・・・私自身は障害とか特に思ってないんですけど。特に何かで困っていることもないし。ただ性別の自己認識は物心付いた頃から一貫して女です」
とボクはにこやかに言った。
 
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「御両親とも話し合った方がいいのかしら? 女子の制服で就学したい?」
「私、親にはカムアウトしてないので。でも当面は通学と、クラブ活動だけ女子の制服で。授業中は男子の格好しておこうかな、と思っているのですが」
 
「うん。そういう状態が唐本さんにとって心地好いのだったら、それでもいいかもね」と森島先生は笑顔で言った。有川先生も頷いている。
 
「あなたトイレはどちら使ってるの?」
「えーっと、女子の制服着てる時は女子トイレ、男子の格好の時は男子トイレの個室を使ってます」
「女子トイレは・・・どうなんでしょ?」と有川先生は森島先生の顔を見るが「まあ、いいでしょうね」と森島先生も言う。
 
「下着はどちら着けてるの?」
「えっと、女の子のブラとショーツを着けて、その上にグレイのTシャツ着て下着の線が見えないようにしてます」
「なるほど」
「だから更衣室も男子更衣室で構いませんよ」
 
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「そのあたりもその内、ちゃんと話した方がいいのかなあ・・・・」
「本人がいいのなら、取り敢えずそれでもいいのかも知れませんね」
 
「じゃ、その件で何か悩み事とか、他の生徒とのトラブルとかあったら、僕か森島先生に相談してくれる?」
「はい、その時はお願いします」
 
ということで、ボクのこの「混合通学スタイル」は先生にも追認された。
 

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やがて6月18日。合唱部の地区大会の日がやってきた。
 
日曜なので父も母もゆっくり寝ている。ボクは朝ご飯を一通り作ってから、自分の分だけ食べ、それから部屋でセーラー服に着替えた後、まだ寝ている姉の部屋にそっと入り、ベッドで寝ている姉を揺り起こす。
 
「お姉ちゃん、ボク今日合唱部の大会だから出かけるけど、みんな起きたらお味噌汁を温め直して食べてね」
と伝える。
「うん。おっけー。行ってらっしゃい」
「行ってきまあす」
「でも、あんたセーラー服がホントに板に付いてるね」
「えへへ。じゃね」
 
バスを乗り継いで会場まで行き、他の子たちと合流する。
「よしよし、ちゃんとセーラー服で来たね」と倫代。
「なんで〜? 最近ずっとこれじゃん」とボク。
「もうその格好で出歩くの、慣れたでしょ」
「さすがにね」
 
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ボクたちが歌う曲目は、課題曲の『虹』と、自由曲の『モルダウ』である。モルダウは実は歌以上にピアノ伴奏がとっても難しくてボク(の男子モード)や倫代だとよく突っかかるのだが、美野里というピアノがとてもうまい子がいるので、美野里前提で使うことにしたのである。
 
この大会に向けて春からずっとこの2曲を練習してきたが、特に中核になる子たちはここ3週間ほど毎朝の朝練もこなしてきた。ただ、この地区は三市合同で公立私立あわせて25もの(合唱部のある)中学があるので、入賞などはできないだろうとは思っていた。ここ数年うちの中学の成績は、25中学の中でだいたい8位とか9位とかであった。公立校の中では比較的上の方だが、上位はいつも私立の中学が独占している。
 
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ボクたちの出番は25中学の中で22番目だった。課題曲はみんな同じ曲を歌うので、各々の学校の出来不出来がよく分かる。「私たちの歌もそう悪くないよね」
などと隣に座っている倫代・日奈と話したりするものの、「わあ。うまーい!」
と思う学校もある。やがて自分たちの出番まであと5校という所になってからボクたちはいったん会場の外に出て、ホールのそばの公園で一度課題曲と自由曲を歌った。気分転換とウォーミングアップの兼用である。
 
簡単な先生のお話を聞いてから、会場内に戻る。そしてそのまま舞台袖の方に向かう。2つ前の学校が歌っていた。ボクたちは緊張感を和らげるのに、お互いに手を握り合ったりしていたし、中には何人かハグし合っている子たちもいた。
 
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そのふたつ前の学校の自由曲もボクたちと同じ『モルダウ』だった。
「ああ、なんかいい雰囲気だね」
「曲をしっかり解釈して歌ってるね」
とボクと倫代はその歌を聴きながら言った。
 
やがて演奏が終わり、ボクたちのひとつ前の学校がステージに上がる。
 
「あちらはあちら、こちらはこちらだよ」
と倫代がみんなに言った。
 
『モルダウ』を歌った子たちが入れ替わりで戻ってくる。ボクたちの学校の生徒と少し交錯する。その時、ボクはひとりの子とぶつかってしまった。
「あ、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
と言い合ったが、ボクはその子が「美しい声」を持ってる子だなあ、と思った。
 

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■夏の日の想い出・セーラー服の想い出(3)

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