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■夏の日の想い出・セーラー服の想い出(8)
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目次 8
時間索引 #
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「小学校の頃とか、男湯入ってたんでしょ?どうだった?」
「えっと・・・私、男湯には入ったことない」
「何〜!?」
「幼稚園の頃はお父さんに連れられて入ったこともあるみたいだけど、あまり覚えてないんだよねー。その頃もどちらかというとお母さんや伯母ちゃんに連れられて女湯に入ることが多かったみたいだし、小学生になってからは1度も男湯に入ったこと無いよ」
「ちょっと待て」
「だって混浴は幼稚園までだよ。小学生が男湯には入れないでしょ」
とボクは笑顔で言う。
「あのなあ・・・・」
と日奈が呆れた顔をしている。
若葉がハッとしたように言う。
「冬さ、小学校の修学旅行の時、間違って女湯に入っちゃったみたいな言い方してたけど、あれ最初から確信犯だったの?」
「あはは。あれはホント何も考えてなかったんだよ。旅館の人に尋ねて言われた通りの場所に行ったら、女湯だったというだけで。有咲が入ってくるまで女湯ということに気付かなかった」
「じゃ、有咲が入ってくるまでは男湯と思ってたの?」
「いや、何にも考えてなかった。これは本当」
「なんか怪しいなあ・・・」
やがて21時半頃、亜美が起きたので一緒にお風呂に行くことにする。
「剥がしたサロンパス、また使えないかなあ・・・」と亜美が言うが
「ああ、まだもう1箱あるから、あげるよ」と若葉が言うので、みんなサロンパスを剥がしてから、お風呂セットを持ち、4人で一緒に大浴場に行く。
エレベータホールの所でエレベータが来るのを待っていたら巡回中っぽい森島先生が通り掛かり「あんたたち、今からお風呂?」と訊く。
「さっきまで寝てたので」
「今日はさすがに疲れました」
などと言い合う。
「うん。気をつけてね。あまり遅くならないようにね」
と森島先生。やがて上行きと下行きのゴンドラが同時に来たので、先生は上の階行き(女子は8〜9階を使っていてボクたちは8階)、ボクたちは下の階行きに乗る。
B1で降りて右手女湯の暖簾が掛かっている方におしゃべりしながら歩いて行く。暖簾をくぐって脱衣場に入り、ロッカーはたくさん空いているので4つまとまって空いている所で各自服を脱いで、浴室に入った。身体を洗い、浴槽に入る。心地好いお湯に浸かりながら、私たちはのんびりとしたペースで、今日見た所や友人の噂話などをしていた。
その時、私は近くで湯船に浸かっていた30歳前後の女性と目が合ってしまった。ぎゃっ、と思って目をそらすが遅かったという気がした。
「あの、すみません」
とその女性は声を掛けてくる。
「はい?」と日奈が返事をする。
「あ、いやすみません。勘違いです。知ってる人と似てたもので。でもその子は男の子だから」と彼女。
「あはは、私たち女の子ですから」と日奈。
「そうですよね! 男の子が女湯にいるわけないし。ごめんなさい」
と言うが、彼女の視線はボクの方に固定されたままだ。ボクは開き直った。
「ご無沙汰、聖見(きよみ)お姉ちゃん」
とボクは笑顔で言った。
「あんた、やっぱり冬ちゃん!?」
「えへへ」
「なんで、あんたここにいるのよ?」
「あ、修学旅行。今日は京都市内で10kmくらい歩いてもう疲れた疲れた」
などと、ボクは平然として話す。
「どなた?」と亜美。
「あ、私の従姉。岐阜県に住んでるんだよ」とボク。
「あんたいつの間に女の子になっちゃったの?」と聖見。
「えへへ」
「私の見解では恐らく小学生の頃から」と亜美。
「私の推測では多分幼稚園くらいから」と日奈。
「私の想像ではきっと生まれた時から」と若葉。
聖見は笑っている。
「ちゃんとおっぱいあるんだね〜」
「ちっちゃいけど」
「身体も細いですよね。もっと食べなきゃと言うんだけど」
「体重は?」
「48kg」
「細すぎる」
「マックに行っても、冬ったらハンバーガー半分くらいしか食べないよね」
「ああいう脂っこいものは特に入らないんだよ」
「もうおちんちんも取っちゃったんだ?」
「あ、それはちょっと偽装工作」
「へー。でもあんた、雰囲気的に女の子だもんね」
「そうそう。私より女らしいかも知れん」と日奈。
「ねえ、伯母ちゃんやうちのお母ちゃんには内緒にしといて」とボク。
「あんた、親に黙って身体改造してるの?」
「うーん。何度かカムアウトしようとはしたんだけど、タイミングが合わなくて」
「ふーん。黙ってるのはいいけどさ」
「あ、やはり冬ってそれ身体改造してるんだ?」と亜美。
「してない、してない」とボクは言うが
「その胸、その声、なで肩、ほとんど無い喉仏。どう考えても改造済、というか男性化を停止させて女性化させてるでしょ?」と聖見。
「ああ、従姉さんから見てもそうですよね」と日奈。
「多分小学4〜5年生の頃から女性ホルモン飲んでるんだと思うんだけどね」
と若葉。
「そんなの飲んでないけどなあ」
「嘘つき良くない」
「何も改造せずに、男の子がこんな体つきになる訳無いよね。冬ってウェストもきゅっとくびれてるし」
「でもあんた、私の結婚式の時に婚礼衣装見て、着てみたそうな顔してたもんね」
「あはは」
「ああ、冬は花嫁さんになると思います」
「花婿さんってのは絶対あり得ないよね」
「月子ちゃん、もう幼稚園行ってるんだっけ?」
「まだ。来年入れるつもり。3年保育で」
「こちらへは旅行?」
「そうそう。旦那が久しぶりに休暇取れたから、親子4人で小旅行。子供ふたり旦那に見てもらってお風呂に来た」
「ああ、子供いたら交替になるよね」
「まあどっちみち男女で一緒には入れないし」
「確かに」
「でも冬がもし女の子と結婚したら夫婦いっしょにお風呂に入れるね」
「ああ、それっていいなあ」
「無理だよ。私、女の子には恋愛的な興味無いもん」
「いや、レスビアンの女の子となら、恋愛できそうな気がする」
「ああ、それはありそう」
その日は聖見も入れて5人でかなり長時間湯船の中でおしゃべりし、その後、みんなで聖見の部屋に行き、もう寝ている3歳の月子、まだ11ヶ月の星子の姉妹を「可愛い〜!」などと言いながらそっと鑑賞し、それから聖見の夫が交替でお風呂に行った間、聖見にジュースをおごってもらい、それを飲みながら小声でおしゃべりを続ける。
そして聖見の夫がお風呂から戻って来たところで、やっと自分たちの部屋に引き上げた。部屋に戻る時に(物音に気付いて)森島先生が廊下に出てきて
「あんたたち、今までお風呂入ってたの?」
などと言われた。
翌日3日目は、午前中男女で別行動になった。男子は太秦映画村でフリータイムということだったが、女子は西陣織会館に寄った後、祇園の街でフリータイムとなった。西陣織会館では十二単と舞妓さん衣装の着付け体験をする。各クラスから各1名ずつじゃんけんで選んで着付けしてもらったが、うちのクラスでは亜美が十二単、美枝が舞妓衣装に選ばれて楽しそうに着付けしてもらっていた。みんなで記念写真を撮った。
「楽しいけど、これ毎日は着たくねぇって感じだよ」と亜美。
「ああ、たいへんそう」
「肩が凝りそうだよね」
「なんかこれ自分の人相が分からないよぉ」と美枝。
「舞妓さんのお仕事は夜だから、夜でも顔が分かるように白塗りらしいよ」
「顔があることは分かるが誰かが分からん」
西陣織会館を出てからは、バスで三条の木屋町通りのところで降ろされ、そこから、自由に南下していく。お昼に八坂神社集合である。
私たちは、日奈・亜美・倫代・若葉・貞子・美枝・協佳、といった集団でおしゃべりしながらしばしば立ち止まったり、お店を覗いたりしながら、道を下っていった。
やがて気分で右折し、河原町通りを横断して新京極まで行く。お土産物屋さんがあったので、日奈が興味を持って中を覗き、他のメンツも一緒に何気なく見ていた。
「あ、なんかきれいな笛があるね」
「ああ、漆塗りが美しいね」
それは朱塗りの横笛であった。
「冬、横笛とか吹かないの?」と亜美。
「吹いたことないよ」とボク。
「じゃ、これ買って練習してみたら?」
「なんで〜?」
「冬、いろんな楽器できるじゃん。これもレパートリーに加えなよ」
「そんなにできないけど」
「でもギター弾けるよね?」
「コードいくつか押さえられるだけ。CとFとG7とEm,Amくらい」
「それだけ押さえられたら、何の曲でも弾ける」
「全部ハ長調に移調しちゃうのね?」
「そうそう。私、シャープとかフラットとか嫌い」と亜美。
「こないだ、ブラス部に行ってクラリネット吹いてたよね?」と倫代。
「マウスピースだけ自分の持ってるんだよね。中1の時に買ってもらって音出す練習してたんだよ。本体は持ってないから運指が怪しい」
「へー」
「フルートとか篠笛とかは吹いたことないの?」
「横笛系は練習したことない」
「じゃ、買って練習しよう。これ1000円だよ。クラリネットのマウスピースより遥かに安い」
「確かにそうだけどね」
そんな感じで私はみんなに乗せられて、その朱塗りの横笛を買った。
「早速吹いてみよう」
などと言われるが、音が出ない!
「ファイフも吹いたことないの?」
「うん。ファイフ持ってない」
「この横笛が吹けるようになったらファイフも吹けるよ。少し練習したらファイフも買って、練習してみたら?」
「そうだね〜」
「あ、その横笛吹いてる振りしてるところ、写真撮ってあげる」
と日奈が言うので、私は新京極通りで、セーラー服姿で横笛を吹いてるみたいにしてる所を、自分のデジカメで撮ってもらった。日奈と倫代も自分のデジカメで撮っていた。このようにして私の中学の女子制服写真はけっこう増殖した。
土産物店で貞子は日本刀の形をした傘を買っていた。
「そんなの持ち歩いてたら、お巡りさんに捕まりそう」
「そんな時はさっと、開いてみせればOK」
「刺されるかと思って撃たれたりして」
「そこは弾丸受けの天技で」
「へー。うちのお父ちゃんがエアライフル持ってるけど、受け止める練習してみる?」
「いや、遠慮しとく」
ふつうに生八つ橋を買っている子が多い。若葉は和菓子屋さんで干菓子を買っていた。
ぶらぶらと集団で歩いていたら、歌声が聞こえてくる。何だろうね?などと言いながらそちらに歩いて行くと、結構な人だかりができている。見ると20歳前後の女の子の歌手が、キーボードの人の伴奏で歌っていた。
「あれ?見たことあるね、あの人」と美枝。
「青島リンナだね」と亜美。
「へー、有名な人?」と倫代が訊く。
「うーん。。。地道に売ってるという感じかな。R&Bファンの間では評価高いけどね」と亜美は言ってから
「冬は知ってるよね?」と訊く。
「うん。今歌ってるのは4月に出たアルバムの曲だね」とボクは答える。
「よくアルバムの曲まで知ってるね」
「いや、この人はシングルは出さないんだよ。アルバムを年に2回くらい出す」
「へー」
「20代以上の固定ファンには、その方がありがたいだろうね」
などと言いながら、ボクたちは何となく立ち止まって彼女の歌を聴き始めた。
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