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■夏の日の想い出・新入生の秋(12)

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7時半頃起き出すと、先生の奥さんが起きていて「朝御飯食べる?」などというので、政子も起こして、ついでにAYAも起こして、3人で今度は居間のほうにお邪魔して朝御飯を頂いた。
 
「すみません。長時間お邪魔して」
「いえいえ。あなたたちこそお疲れ様。結婚して最初の頃は私も付き合ってないといけないのかなと思って朝まで起きてたんだけど、そのうち開き直って夜12時くらいになったら、眠らせてもらうことにした」と奥さん。
「毎回付き合ってたら身がもたないですよね」
「そうそう」
 
「あれ?先生達そろそろ結婚2周年ですよね」
「うん。今月の12日が結婚記念日」
「わあ、おめでとうございます」と私たち。
 
「でも先生は睡眠時間はどのくらいなんですか?」
「睡眠時間というシステムがあの人無いみたい。疲れたら仮眠する、というのの繰り返し。ずっとお仕事ばかりしてる」
「わあ、それであの多作なんですね」
「ほんとよく書いているみたいね。たぶん年間500-600曲書いてるんじゃない?」
「いや、もっと行ってる気がします」と私。
 
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「じゃ、子作りしてる暇ないですね」とAYA。
「そうね。。。。。私との間には子供できないのかも」と奥さんが言った。私は何かそのことばの言い回しが気になった。
 
私たちが朝御飯を終えても、まだ先生は寝ているということだったので、よろしくお伝えくださいと奥さんに言って、3人で先生のお宅を辞した。
 
「ゆみは何時からレコーディング?」
「10時から。家に戻って着替えたらまたすぐ出なくちゃ」
「頑張ってね」
「うん。じゃ、コーラスの件よろしくね」
 
私たちは途中の駅でAYAと別れ、そのまま大学に出て火曜日の講義を受けた。さすがに眠かったがなんとか頑張った。
 
「冬〜。私やっぱり眠い。午後はサボって寝てるね」
と昼定食を食べ終わった政子は言った。
 
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「自分ちに帰る?」
「まさか。マンションの方で寝てる」
「うん。おやすみー」
「冬は午後の講義も出るの?」
「出るよ。仕事でサボらざるを得ないこともあるから、出られる時は頑張って出ておく」
「頑張るなあ。じゃねー」
と言って政子は学食から出て行った。
 
「昨夜はお仕事で徹夜?」と小春が訊く。
「そう。上島先生のところで朝まで。マーサはフィンランド語の文献の翻訳。その間に上島先生は私とAYAに渡す曲の作詞作曲。私もマーサと一緒にAYAに渡す曲を書いた」
「え?もしかしてAYAもいたの?」
「そそ。私たちとAYAと上島先生と4人で徹夜」
「わあ、今度会ったらサインもらえない?」
「そうか。小春、AYAのファンだったね。いいよ。近いうちにレコーディングで会うから」
 
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10月11日、クォーツの3人は盛岡で休暇を過ごしていたが、私は東京で政子と一緒にAYAのレコーディングスタジオを訪れた。AYAの新曲レコーディングは前日までにほぼ完了していたが、そこに私たちのコーラスを重ねるのである。
 
暫定ミクシング状態で聴かせてもらったが、ひじょうに良い出来だと思った。「なんか今度の曲は凄くヒットするような気がするよ〜」とAYAは言っていた。
 
コーラスのパート譜をもらい、ふたりで歌う。重ねたものを聴いていたところに上島先生がやってきた。
「うん。いい感じに仕上がったね」
と先生も満足そうであった。
 
「この『2度目のエチュード』の登録は、作詞:マリ、作曲:ケイでいいんだっけ?」
「えっと、作詞作曲:マリ&ケイでお願いします」
「そうかそうか、ごめん。全部そのクレジットだったよね」と上島先生。「ケイ&マリじゃなくてマリ&ケイという順序には意味があるの?」とAYA。「マリがローズ+リリーのリーダーだから」と私。
「え?リーダーとかあったんだ!」
 
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この時レコーディングしたAYAの『ラブロール/2度目のエチュード』は11月下旬に発売され、60万枚の大ヒットとなり、AYA初のダブルプラチナを達成した。
 
なお、このレコーディングの時、小春からAYAのサインを頼まれていたことを私たちはきれいさっぱり忘れていた。あとで小春から聞かれて「あ、ごめん」
と言い、結局翌月ラジオ局で遭遇した時に書いてもらって小春に渡した。
 
しかし、こうして私と政子はこの秋、自分たちのCDは出さないものの、様々なアーティストと関わり、音源制作にも参加した。そしてこの秋には更にもう1組、私たちが関わることになるユニットがあった。
 

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AYAのレコーディングがあった翌日、その日は完全にオフの予定だったのだが、お昼に学食でみんなと御飯を食べていたところに、ELFILIESのハルカから電話が入った。
 
「ケイちゃん、私やっぱり辞めることにした」
「何かあったの?」
「こないだ1度断ったのに、やっぱりヌード写真集を出そうって言われて」
「あぁぁ」
「もうやってらんないと思った。辞めたら向こう2年は名前変えても音楽活動できないらしいけど、しばらく休養するのもいいかなと思って。もう契約解除申入書は書いたし、出しに行こうと思った所でケイちゃんの顔が頭に浮かんで、先に連絡しようと思って」
 
「。。。ね、その契約解除申入書出しに行くの、夕方くらいまで待ってもらえる?」
「うん。いいよ」
 
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私は須藤さんに電話を入れた。今日のこの時間はまだ東京にいるはずだ。東北方面に移動するのはたぶん夕方からの筈。果たしてまだ自宅にいるようであった。
 
「みっちゃん、ELFILIESって覚えてる?」
「あ、えっと確かローズ+リリーのメジャーデビューの日にお世話になったね」
「わあ、さすが。それでさ、今彼女たちが引退の瀬戸際なのよ。って、後数時間したら引退確定なんだけどね」
「ふーん。ちょっともったいないな」
私はハルカたちの状況を簡単に説明する。
 
「そういう訳でさ、彼女たちを引き抜いたりできない?」
「うーん。興味ある素材だけどお金が無い」
「だから津田さんに引き抜かせるの」
「なるほど!」
 
須藤さんが津田さんにすぐに連絡を入れたところ、津田社長は興味を持ったようであった。彼女たちの映像が無いかと訊かれたが、ローズ+リリーのデビューの時のイベントのビデオが須藤さんの自宅PCに残っており、それの最後にスモークの中からELFILIESが登場して歌い始めるところが映っていた。須藤さんがそれを持って△△社を訪れると、津田さんは好感したようであった。甲斐さんが呼ばれる。
 
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「ELFILIES?あ、知ってるよ。何度かイベントで一緒になったもん」と言う。
「えー?引退?もったいない」
 
といった話になったらしい。私は須藤さんから連絡を受けるとすぐにハルカに電話し、こちらで何かできるかも知れないので、ヌード写真集の件の回答を引き延ばし、契約解除申入書の提出も1週間くらい待ってくれないかと言った。ハルカは了承した。
 
津田さんは調査会社などに依頼し、ELFILIESの4人の契約状況、活動状況、更に素行調査まで行った。4人ともごくふつうの女子大生生活を送っており、成績もそう悪くないこと、暴走族などとの付き合いは無いこと、あまり変な親衛隊は付いてないこと、交際中の男性はいないことなど、また彼女たちが今年に入ってから実質的にほとんど芸能活動をしていないことなどが判明した。
 
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また甲斐さんがハルカと内密に会って契約書を見せてもらった所、おかしな契約条項などは無いことも確認できた。
 
「もしうちに4人そろって移籍できたら、また歌う気ある?」
「やりたいです」とハルカは即答したということであった。
 
辞めたら向こう2年間活動できないと言われた件も、別に契約書にある条項ではないようであったが、こういう問題は揉めないようにきちんと話を付けた方が良い。
 
週明け、津田社長がELFILIESの事務所の社長に電話を入れ、何度かこちらに所属している歌手も参加するイベントで遭遇して、ELFILIESに興味を持っていること、彼女たちが今年に入ってから何も芸能活動をしていないことに気付いたこと、もし本人たちがよければ、こちらに移籍させてもらえないかということを申し入れた。
 
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向こうは驚いたようであったが、取り敢えず会って話しましょうということになった。ELFILIESの所属レコード会社は◎◎レコードである。先日SPSの件で私や須藤さんがそこのJポップ部門の担当課長・林葉さんと会っていたので須藤さんが連絡を取り、こちらで彼女たちの再生を試みたいということを話し、仲介役をお願いして同行してもらい、津田さん・甲斐さんと一緒にELFILIESの事務所を訪れた。
 
「あまり私は腹芸は得意でないので」と向こうの社長さんは言ったという。
「ざっくばらんに。事前にこの子たちに接触しましたか?」
 
「済みません。イベントで何度も遭遇したことがあるもので、うちの所属歌手でそちらの子たちと親しくなっていた子が複数いまして。それで偶然町で会ってお茶でもと言って飲んで話していて、ずっと活動していないということを知り、それなら、いっそうちに来ない?なんて話をしたようです」
 
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「なるほどそうでしたか。いや、うちもこの子たちをうまく売り出せたら良かったのですが、なかなかうまく行きませんでね」
「まあ、この業界は水物ですからね」
 
「じゃ、君たちは移籍するのに異存は無いの?」と向こうの社長さん。「はい」と4人。
 
「では、どうでしょ?移籍金は4人合わせてこのくらいで」
と津田社長は折り畳んだメモ用紙を向こうの社長に渡した。社長は「え?」と小さい声を上げてから「OKです」と言い、4人の移籍が決まった。
 
そういう一部始終を私はその晩、最初にハルカからの電話で聞いた(後で甲斐さんからも聞いた)。
「ちょっとホッとしたけど、移籍金いくらくらいだったんだろう?社長が驚いた顔してたから凄い金額だったんじゃないかと思って。なんか申し訳い」とハルカ。
 
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「ハルカたちが気にすることないよ。別にハルカたちに請求したりはしないし。津田さんはそれだけの価値があると思ったから出したんだから」
「うん」
「それでさ、私が言い出したのが今回の移籍劇の発端だから、責任は取ってもらうよと津田さんに言われてて」
「え?」
 
「私がELFILIESの移籍第1弾シングルの楽曲書くからね」
「わー!嬉しい!」
「◎◎レコードの林葉さんからもぜひと言われたのよ。なんかプロデュースもしろって言われたから、甲斐さんと共同での制作にはなると思うけど、レコーディングの現場であれこれ言うと思うけどよろしくね」
「はい、よろしくお願いします、ケイ先生」
「うん、頑張り給え」
と言って、私たちは笑った。
 
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ELFILIESの4人は歌のレッスンに通い始めた。そして最初のシングルの録音はローズクォーツの西日本方面のドサ廻りと、ローズクォーツ自身のレコーディングの合間を縫って、11月7-8日に行われた。この2日間、ローズクォーツで借りていたスタジオに彼女たち4人と実務上のプロデューサーである甲斐さんもいれて、ローズクォーツの録音作業の合間に彼女たちの録音をしたのであった。伴奏はローズクォーツがやってくれた。更にサトが4人にけっこう親切に歌唱指導をしてくれたりした。
 
「でも冬ちゃん、8月頃は暇だ〜!とかこぼしてたけど、急に忙しくなったね」
と甲斐さん。
「取り敢えず今月を乗り切れば」と私。
「今月はまだ3週間あるけどね」
「あはは、頑張るのであります!」
 
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彼女たちの移籍第1弾CD用に私と政子が書いた曲は『Solitude』と『祭りの夜』
である。譜面を見た時にハルカが「わっ何だか久々にまともな曲もらった」などと喜んでいた。
 
どちらの曲も敢えて生ドラムスを打たずにリズムマシンの単調なシンバルとバスドラの音に乗せてリピートの多い軽快なディスコサウンドに仕上げた。いわゆるハウス系の作り方である。また、彼女たち4人の歌が各々楽器のひとつひとつのような扱いをして完成させた。これまで彼女たちはだいたいユニゾンで歌っていたので、ひとりひとり音程もリズムも違うパートを歌うというのに少し不安がっていたが(4人とも絶対音感は持っていない)、やっている内に「おもしろい」などと言い出した。
 
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なお、Solitudeでは中央アジアっぽいメロディなので、バンドゥーラの音で前奏を入れ、間奏ではホムスの音を入れた。バンドゥーラの音はハープの音をベースに作り、ホムスの音は琵琶の音から作った。祭りの夜は日本のお祭りをイメージして間奏やBメロに芦笛や三味線・和太鼓・鐘の音を加えた。このあたりはサトさんのシンセ大活躍であるが、一部は私がMIDIの打ち込みで音を加えた。
 
(翌年出したローズ+リリー『涙のピアス』のアレンジで下川先生がホムスを指定したのは、この曲を聴いた時に「やられた!」と思って、どこかで一度使ってみようと思っていたからだと言っておられた)
 
このシングルは12月中旬に発売され、ELFILIESとしてはこれまでで最大のヒットとなった。
 
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夏の日の想い出・新入生の秋(12)

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