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■夏の日の想い出・新入生の秋(10)

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10月の1日(金)午後から3日(日)までは福島県の相馬市・浪江町・郡山から福島市までローズクォーツでドサ廻りをした。2日は郡山周辺5ヶ所で公演をして、温泉旅館に泊まった。
 
公演が終わって、とりあえず温泉に入って汗を流させてもらおうと思い、大浴場の方へ歩いて行っていたら、途中で12人ほどの女の子の集団と遭遇した。
 
「あれ?」とその中から私に声を掛ける子がいる。私もその子に見覚えがあった。「おはようございます、ともかちゃん」とその子に挨拶する。
「あ、ケイちゃんだ!」「おはようございます、さよこちゃん」
「あ、おはようございまーす、ケイちゃん」「おはようございます、まちこちゃん」
という感じで、その中のかなりの人数と挨拶を交わした。
 
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「こちらでイベントあったの?」
「うん。この隣の温泉センターで」と佐代子。
「私はすぐ先の公民館で歌った」と私。
「わあ、ニアミスだったんだ」
 
「でも、ひとりひとり名前を覚えてるって凄っ」
「あ、私わりと一度会った人は覚えてる」
「2年もたってるのに」
 
それはローズ+リリーのメジャーデビュー直前に、温泉でのイベントで一緒になった、リュークガールズの面々だった。その時、私たちは彼女たちの前座を務めたのであった。
「でも、見てない子が結構いる」
「かなり、メンバー入れ替わったからね」
 
「初めまして、よしみです」「初めまして、ローズ+リリーのケイです」
「初めまして、ひろこです」「初めまして、ローズ+リリーのケイです」
なんてことを、初めての子たちと握手しながらやっている内に浴場の入口に着いた。
 
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「ケイさんはどちらに入るんですか〜?」といたずらっぽい顔で朋香。「もちろん、こちらだよ」と笑って言って、彼女たちと一緒に姫様の方の脱衣場に入る。
 
「でも、2年前はごめんね〜。私の性別のこと言ってなくて」
「中身が女の子なら戸籍は関係無いよ〜。でもケイさんが脱ぐのをちょっと注目」
「あはは」
と言いながら、私が服を脱ぐと、「おぉー」という声が数人からあがる。
 
「性転換手術済みなんですね!」
「えっと、実はまだ完全には終わってない。でも9割くらいは女の子になったかな」
「どのあたりがまだ女の子じゃないの〜?」
「そのあたりは企業秘密ということで」と私は笑う。
「ま、とりあえず男湯には入れないよね」
「それはその身体では無理だね」
 
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みんなでわいわいやりながら浴室に入る。身体を洗ってから浴槽に浸かった。
「おっぱい触っていいですか〜?」
「いいよ。でも触られたら触り返すよ」
なんてことを数人の子とやる。
「あ、やわらかーい。シリコンですか?」
「そうだよ」
「ふつうのおっぱいの感触と変わらないね」
 
「うん。変わらないね」
「あれ?女の子のおっぱい触ったりするの?」
「マリのはいつも触ってるよ」
「あ、おふたりレズだったんでしたね」
「えー?それは違うけど」
「でも世間ではもっぱらそういう噂だけど」
 
「えーっと。。。でもみんな元気そう」
「私たち元気なのだけが取り柄だよね〜」
「うん。全然売れないけどね」
「売れなくても、私たち別にキャンペーンとかもしないし、給料なんて最初から無くてこういうところで歌ったら1人1回2000円というだけだから維持費も掛からないってんで、メンバーが全員卒業するか会社が潰れるまで続けるって社長は言ってる」
「温泉は温泉側のサービスだしね」
「遊園地のイベントだと終わったあと少し遊べるしね。乗り物代は自腹だけど」
「埼玉の◇◇デパートとか定演してるからファンからプレゼントもらえるしね」
「ああ、そういうのいいかもね」
 
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「ケイさんはお給料制ですか?」
「お給料は無いよ。印税とかライブやった時のマージンとかラジオの出演料とかだけ」
「じゃ、売れないとゼロ?」
「そそ。マリもだよ」
 
「マリちゃん、今日は来てないの?」
「うん。今日はローズクォーツで来たから」
「ローズクォーツ?」
「あ、知ってる。男の人3人と組んでバンドもやってるんだよね」
「うん。とりあえず公式には私はそちらがメイン」
 
「そういえばローズ+リリーのCDしばらく出てないよね」
「うん。年末に1枚出す予定だったんだけど、あれこれ他のスケジュールが割り込んできて、今3月くらいかな?って所までずれ込んでしまってて。どっちみち5月か6月くらいにはアルバムを発売できそうなんだけど」
 
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「へー。でもこないだ私、ローズ+リリーの新曲をカラオケで歌ったよ。有線でよく流れてるから覚えちゃった。『恋座流星群』っての」
「うん。あれは有線・カラオケや放送局でのリクエストのみ。CDやダウンロードでは売ってない。今月から着メロも解禁したよ」
「えー?でもローズ+リリーならCD出しても売れそうなのに」
 
「でもリュークガールズもCD出さないよね」
「うん。私たちはこういう温泉とかデパートの屋上とかでのイベント限定」
「え?そうなの?以前テレビのバラエティとかにも出てたのに」
「テレビはもう2年近く出てないよ」
「そうだったのか」
「私あまりテレビ好きじゃなかったなあ。変な事ばかりさせられて。お客さんの前で歌う方が楽しい」
私は彼女たちのステージをあらためて見てみたい気がした。
 
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「デビューした頃はCDもあったよね」
「うん。でもプレスした分を売り切った後、作ってくれないね」
「だって1000枚プレスしたの売るのに2年かかったもん」
「でも、けっこうそういうもんじゃない?」と私。
「CDは出さないけど、新曲は毎年3〜4曲覚えさせられてる」
「それって、けっこう事務所から大事にされてるんじゃないの?」
「そうかも」
 
彼女たちと浴室の中でかなり話し込んでしまったので、私がいつまでもあがってこないことから、須藤さんが途中で様子を見に来たくらいであった。
 
私は彼女たちの数人と携帯の番号とアドレスを交換した。なんだかこの時期、こんな感じて、私の携帯には同業者の登録がどんどん増えていった。
 
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10月4日・5日の月火はローズクォーツはお休みで、マキたち3人は仙台で休暇を過ごしていたが、私は東京に戻り大学に出る。水曜から金曜にできるだけ自由に動けるように3時間目までで講義が終わるようにしているので、その代わり月火は五時間目まで入れていた。
 
4日の日、政子はふつうに四時間目で終わっていたのだが、私が講義を受けている間に今日の晩ご飯の買い物をしてくれていた。一緒にマンションに帰って、夕飯の支度をしかけていた時、私の携帯に上島先生から着信があった。
 
「おはようございます。ケイです」
「やあ、ケイちゃん。実は僕、昨日までフィンランドに行っててね」
「それはお疲れ様です」
「いろいろ面白そうなもの仕入れてきたんだけど、僕フィンランド語は読めないから、どうもよく分からなくて」
「はい」
 
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「君、フィンランド語できたっけ?」
「私は読めませんが、マリなら読めます」
「ああ、そうか。マリちゃんの方が20ヶ国語くらいしゃべれるんだったね」
「ええ」
「いや、こないだ夏フェスで会った時に、そんな感じのことを話したような気がしたんで電話してみた。それで、もし良かったら時間の取れる時でいいから、ちょっと来てこれ読んでみてくれない?今からでもいいけど」
「今すぐお伺いします。19時頃着くと思います」
 
私たちは衣まで付けて揚げる直前だったトンカツを冷蔵庫にしまい、ふたりで一緒に簡単な片付けをしてから、電車で先生のお宅まで行った。フィンランド語と、念のため(先生が他の言語と誤認している可能性を考えて)スウェーデン語・ノルウェー語・ポーランド語の辞書も持った。駅まで行く途中で須藤さんに電話をしたが繋がらなかったので、メールを入れておいた。
 
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上島先生の自宅に着き、奥さんの案内で応接間に行くと、AYAがいてこちらに手を振った。
「わあ、お久〜」「ごぶさた〜」
などと言って、私たちはハグしあった。
「電話ではけっこう話してたけど、会ったの久しぶりだね」
「ほんとほんと」
 
「こないだのローズ+リリー特集ではナビゲートありがとう」
「あれは楽しかったよ。今度私の特集があったら、ふたりでナビしてよ」
「あ、それいいかも」
 
「でもケイちゃんと前回ハグした時もふつうに女の子の身体だったはずだと思ってたけど、今ハグしてみても、やっぱり女の子の身体だ」
「この春からけっこう改造したから。以前ゆみちゃんと会った時は改造前だったけど、色々誤魔化してたのよね」
 
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「でも夏フェスにはローズ+リリーも出てくるかなって期待してたのに」
「ごめーん。私がしばらくはステージには立たないなんてワガママ言ってるもんだから。ケイをその分、こきつかって」と政子。
 
「でもAYAはBステージラストだったもんね。来年はAステージ狙えるんじゃない?」
「うーん。Aステージはバンド優先だしね。あるいは大きなヒット曲が出ればとは思うけど、なかなか40万枚の壁を越えられない」
「いやあ、その辺は僕も責任感じてる」と上島先生。
 
AYAはデビュー曲こそ38万枚売ったものの、その後のセールスはだいたい20万枚前後を続けている。今年の5月に出した曲は久々の好セールスで、そのおかげで夏フェスのBステージラストを取ったのだが、それも37万枚ほどで停まりそうである。
 
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「ケイちゃんこそ、ローズクォーツの方ならAステージ狙いやすいんじゃない?」
「うーん。ヒット曲が出ればね。。。とりあえず最初のシングルは6万枚だし」
「今そのくらいだね。でもクォーツの人達がまだ他の仕事との兼業で動けずにキャンペーンとか出来なかった中でそれだけ売ったら偉いと思う」と先生。
「また、何か書いてあげるから」
「ありがとうございます」
 
先生がフィンランドから持ち帰ったという資料はかなりの分量があったが、書籍などは専門家に依頼するものの、サンタクロース人形!とかアクセサリーの類に添えられている短文や、添付されているメモ帳サイズの説明書の類、またポスターに書き込まれている詩のような感じのものなどを、ざっと訳してもらうと嬉しいということだった。政子は頷くとその文章を訳してレポート用紙に書き込んでいき、それをテープで各グッズに貼り付けていっていた。先生はその政子の訳をみながら頷いている。また先生は向こうで撮った写真の整理をしているようだった。
 
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「でも私の訳って、いわゆる『超訳』なんで、専門の翻訳家さんとかが見たら絶句すると思いますけど」と政子が言うが
「いや、翻訳口調の日本語として意味がよく分からないのより超訳の方がいいよ」
と先生は答える。
 
「私、逐語的に訳すのって、うまくできないんですよね。原文読んで頭の中に展開されたイメージを自分の言葉で書き出していくから」
「君の書いた歌詞など見ても、これイメージをそのまま書いたなって思うことあるね」と先生。「『天使に逢えたら』を聴いた時、ほんとに天使が見える気がしたよ。高岡の詩にもそういうの多かったんだよね」
 
高岡というのは、上島先生がバンドを組んで活動していた頃のバンドリーダーで、当時上島先生がキーボード、高岡さんはギターを弾いていた。上島作品の編曲をよく引き受けている下川先生はそのバンドのセカンドピアニストであった。ギター2人、ベース、ドラムス、キーボード2人、サックス、トランペットに女性ボーカル2人という10人編成のバンドでフュージョンやスカを得意としていたがポップス系の曲もけっこうやっていた。
 
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その頃は作詞が高岡さんで、上島先生が作曲だったのだが、高岡さんは25歳の若さで交通事故で亡くなってしまった。リーダーの高岡さんのカリスマ性でもってるバンドだったため、高岡さんの死でバンドも活動停止してしまったのだが、5年ほど前から上島先生は自分で作詞作曲して楽曲を様々なアーティストに提供し、自らそのプロデュースも手がけるようになってきた。そして次第に『上島ファミリー』と呼ばれる人たちが形成されてきていた(この当時は10組ほど)。
 
なお、ローズクォーツもローズ+リリーもプロデュースには先生は関わっていないので、上島ファミリーには分類されておらず、逆にそれで上島先生は気楽にこちらに楽曲を提供してくれている感じであった。
 
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「ケイちゃん車を運転するんでしょ」
「ええ。マリと一緒によくドライブします。この春から既に1万km走りました」
「かなり走ってるね。運転には気をつけてね」
「はい。須藤さんからも絶対安全運転、交通法規遵守、制限速度絶対厳守を言われてます。誓約書も書いたし」
「うん。それがいいよ。それから疲れている時は運転しないようにね」
「はい。きついなとか眠いなと思ったら、最悪道路の脇に駐めても仮眠してます」
「感心感心。高岡は馬鹿やって死んじまったからなあ」
 
高岡さんは愛車のポルシェで中央道を疾走していてカーブを曲がりきれずに防護壁に激突して同乗者の恋人と共に即死した。私はまだ小学生だったが、その時のニュースは覚えている。時速300kmでの激突で死亡した2人の遺体から高濃度のアルコールも検出されたということだったし、高岡さんは新譜のレコーディングでその前3日ほど徹夜していたとのことであった。
 
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「特に同乗者がいる時は慎重にね」と先生は言った。
「はい。同乗者がいると眠気覚ましにはなるけど、注意力もその分取られるから基本動作をしっかり思い起こしながら運転してます」
「しっかり起きていられるように、適宜刺激を与えてます」と政子。
 
「なんか意味深だ」とAYA。
「こないだ、ちょっとうとうとした時はビンタくらったけどね」
「当然。ピンタした後で非常駐車帯に駐めさせて少し仮眠させました」とマリ。
「うん。いいコンビみたいだ」
 
「ああ、でも運転できるっていいなあ。私は運転免許、事務所にとりあげられてるもん」とAYA。
「私はいつもぼーとしてるから運転絶対無理。だから免許取りにも行かない。それにケイがいるから必要な時は呼び出すしね」と政子。
「なんだ。ケイちゃんってマリちゃんの専属ドライバーなんだ」
「そそ」
 
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「免許取ってすぐの頃は何度か運転したのよね」とAYA。「でも駐車場でうっかりRに入れたまま発進して、壁にぶつけちゃって。後ろのバンパーやっただけだったけど、それで免許とりあげられた」
「まあ、人にぶつけなかったからいいんじゃない?」
「それで最近はどうしても運転したい気分の時はゲームセンターに行って、シミュレーターでバーチャル走行なんだよね。よけい自由にぶつけられていい感じもあるけどね」
 
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夏の日の想い出・新入生の秋(10)

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