広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■夏の日の想い出・新入生の秋(6)

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初日の録音は「長丁場だから最初から無理するのはやめよう」ということで18時で終了し、解散となった。
 
私と政子がミュージシャンの人たちに「お疲れ様でした」と挨拶をしてスタジオを出ようとしていた時、出口のところでひとりの男性とあわやぶつかりそうになった。
「あ、ごめんなさい」「ごめん」
「あら?」「あれ?」
 
それはスカイヤーズのYamYamであった。
「おはようございます。レコーディングですか?」
「うん。おはよう。君たちも」
「はい。今日から始めました。2週間ほどの予定ですが」
「こちらは今追い込みで。本当は明日までに終わらせる予定だったんだけど。無理。あと3日はかかるな」
「わあ、お疲れ様です」
 
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「君たち、もしかして帰るところ?」
「はい。初日から無理するのはやめようということで」
「じゃ、時間があるよね」
「え?」
「ちょっと、こちらのスタジオに来ない?」
「えー!?」
 
私たちは6階のGraceDollというスタジオを使っていたのだが、スカイヤーズは12階のAngelDanceというスタジオを使っていた。ここのスタジオの名前は上のほうの階にあるものから、AngelDance, BeatMama, CrownRing, ... という感じでアルファベット順に名前が付けられている。12階から6階までは1フロアをひとつのスタジオが占有して基本的な機材とシステムが揃っておりプロ用、5階以下は複数のチームが共用する形のセミプロ用である。上の階ほどいい機材が置いてあり、要するに料金も高く、下の階ほど安い。スカイヤーズはいちばんいいフロアを使用し、私たちはいちばん安いフロアを使用していた。
 
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「なんか、ここは内装も素敵だなあ」と政子。
「君たちもすぐここ使えるようになるよ」とYamYam。
 
中に入ると、疲れ切った表情のスカイヤーズの面々がいた。
 
「おーい。きれい所を連れてきたぞ。みんな、あと一息頑張ろう」
「あ、ケイちゃんじゃん。おはよう」とChou-ya。
「おはようございます。こちら相棒のマリです」
「おはようございます。初めまして。マリです」
 
「ね、ね、『彼女のお尻に一撃』に、この子たちのコーラス入れない?」とYamYam。「ああ。イイネ!」とリーダーのPow-eru。
「なんか凄いタイトルを聞いた気が・・・・」と政子。
「乗りだよ、乗り」とBunBun。
私たちは顔を見合わせる。
「ちょっとマネージャーに連絡して歌っていいかを・・・」と言いかけるが「硬いこと言わない。コーラスだし」とYamYam。
「その辺は俺が話つけとく」とスカイヤーズのマネージャー、飯倉さん。
「分かりました」
 
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「君たちの声域は?」とPow-eru。
「私がG3からA5, マリはF3からC5です」
「よし。そのパート書く」
 
Pow-eru は五線紙を取り出すと、その場でギターを弾きながら曲にコーラスのパートを書き入れた。
 
「よし、これ歌って」
「あ、はい」
 
私たちは取り敢えず現時点での仮ミクシングされた楽曲を聴かせてもらい、次いで、政子が指定されたメロディーを正しく歌えるようにするため、キーボードを借りて、そのパートを私が弾いた。
その演奏を聴きながら、政子が歌う。私も一緒に自分のパートを歌う。2回練習させてもらってから録音した。
 
早速、私たちの歌を重ねたミクシングを聴いてみた。
 
「おお、いい感じだ」とスカイヤーズの面々。
「ケイちゃんの歌がうまいのは分かってたけど、マリちゃんだってうまいじゃん」
「なんか高校の時から大バージョンアップしたね」
「最近、私そればかり言われる。昔の歌がいかにひどかったかだな」と政子。
「努力を褒められてるんだよ」
 
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「でも、これ凄い歌詞ですね」
「マリちゃんには書けない歌詞だよね、たぶん」
「書けません」と政子。
「これは男の人でないと書けない歌詞です」と私は笑って言った。
 
「ねー。他の曲にもコーラス入れない?」とChou-yaさんが言いだし、
「よし、行ってみよう」
とPow-eruさんが言って、結局、その日あと2本、コーラスを吹き込んだ。
 
「よし、今日はこれで上がり」
「明日もまたよろしくねー」
「えー!?」
 
結局、翌日、須藤さんと飯倉さんの話し合いで、とりあえず3日間、私たちは18時から23時まで、できたら22時までという時間帯で、スカイヤーズの録音に参加することになった。ギャラは適当な額を支払うことで話がまとまった。
 
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「なんか結局全部の曲に私たちのコーラス入れるんですね」
「そういうこと。アルバムのクレジットに協力;ローズ+リリーって入れとくね」
「ありがとうございます」
 
そんな感じでコーラスを入れていったのだが、礼儀正しい人の多い、自分たちのアルバムの録音チームに比べて、スカイヤーズはみんな野性的で、私たちがいる前でも平気で、かなり露骨な下ネタなど言うので、政子などYamYamをどついたりしていた。YamYamもそういう政子の反応を楽しんでいるかのようであった。
 
3日目。その日も18時から12階に上がり、コーラスを2曲歌ったところで、「じゃ、これで最後」と言って、譜面を渡されたのだが。。。。。
 
「これ、コーラスじゃないですよね?」
「うん。ケイちゃんがメインボーカル、マリちゃんがハモり、BunBunはオブリガードって感じかな」
「えー?」
 
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「済みません。そういうことなら、これちょっとうちの社長に相談させてください」
と私はいうと、自分の携帯で須藤さんに電話を掛け、Pow-eruさんと須藤さんで話し合ってもらった。微妙な問題があったようで、Pow-eruさんはいったん部屋の外に出て話していたが、5分ほどで戻って来て、OK のサイン。電話を代わってといわれるので、須藤さんと話す。
 
「いろいろお世話になってるし、これは友情出演みたいなもの、ということで」
「了解です」
「更に、ついでに、だいぶ協力してもらったから、スカイヤーズもこちらの録音に協力してくれるって」
「わあ」
 
そういう訳で、1時間ほど掛けて、最初は練習で4回歌い、多少の指示をPow-eruさんから受ける。そして本番録音となるが、リテイクして3回録音した。しかし最終的に2回目の録音を採用することにした。
 
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「いや、2回目のでパーフェクトと思ったんだけど、念のため再度お願いした」
とPow-eruさんは言った。
 
この曲『略奪宣言』は、11月に発売されたスカイヤーズのこのアルバムのボーナストラックになっていた。そのため、ローズ+リリーのファンでこれが目的でこのアルバムをまるごとダウンロードする人も結構あったようである。他の曲にもケイとマリのコーラスが入っているので、ローズ+リリーのファンには結構嬉しいアルバムだった。
 
スカイヤーズの録音の最終日は22時前に終わったので
「23時までには解放するという約束だから1時間だけ打ち上げに付き合ってよ」
と言われ、付き合うことにした。炉端焼きの店を借り切っての打ち上げであった。
 
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「まま、いっぱいぐいっと」
「未成年なのでウーロン茶で」
「硬いなあ」
「未成年飲酒、社長にバレたらクビですから」と私。
「あの人そのあたりが厳しいんだよね。以前中学生の女の子4人のユニットをプロデュース兼マネージングしてたことあるけど、その時も厳しかったみたいだよ。ほとんどノートラブルだったしね」と飯倉さん。
 
「へー。そういう経験が。須藤さん、そういう昔のこと何も話さないんですよね」
「話すと、守秘義務に微妙なことが出てくるからでしょ」
「あ、そうか」
 
「お酒やたばことか、こういう仕事してるとどうしても誘惑されやすいから、そのあたり締めるのと、中学生だから恋愛禁止にして、服装規定も厳しくて」
「私たちは恋愛禁止って言われてないね」と政子。
「そりゃ、君たちの場合、禁止する必要ないしね」とYamYam。
「え?」と言って私たちは顔を見合わせた。
「しらばっくれてもダメだよ」
「えっと・・・」
 
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「でも服装は万一写真週刊誌とかに撮られても恥ずかしくない格好だけしてろと言われてるくらいかな」
「パジャマでコンビニに行ったりするなとかね」
「あとパンダメイク禁止とか言われたね」
「服装規定というと、ケイは男の子の格好で仕事場とか放送局とかの近くをうろつくななんてのがあったね、高校時代」
「あれ、服装規定になるのかな?」
「なるなる」
「そうだったのか!」
 
「ケイちゃん、身体改造したみたいだけど、どこまでやったの?」
「あり、あり、なし、です」と私。
「なるほど」とYamYam。
「何?どういう意味?」とPow-eru。
「男の子はなし、あり、あり。女の子はあり、なし、なし、ですよ」と私。
「・・・・ああ、分かった」
「じゃ、7割くらい改造完了か」
「そんな感じです」
「ケイはよく7割って人に言ってますが、私の見解では9割女の子です」と政子。
「おお」
 
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「完全な女の子になるのもそう遠くないのかな?」
「1〜2年以内にはやるつもりですが」と私。
「さっさとやっちゃえばいいのに、って煽ってるんですけどね」と政子。
 

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スカイヤーズのアルバムの録音作業が終わった翌日、スカイヤーズの面々が6階のGraceDollスタジオを訪れた。私たちはまだ手つかずであった『Spell On You』
を彼らに演奏してもらうことにした。Aug7♭9とか+9とか+13とか、ふだんあまり使わないようなコードを多用している上に転調部分もあるので「これ、どう弾くんだっけ?」などと指を確認していたが、3回合わせたところでいい感じになったので、それで収録した。信号音は使用せずにテンポはChou-yaさんのドラムに全部お任せした。そして、その演奏を聴きながら、私たちの歌を収録する。
 
仮ミクシングして聴いてみると、ひじょうにノリの良いナンバーに仕上がっていた。
 
「さすがですね。ほんとに聴いててノリが良くて気持ちいい」
と近藤さんが感心したように言っていた。
「シンコペーションがいい感じですよね。一発録りっぽいし、踊り出したくなる」
と宝珠さんも頷いている。
 
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その近藤さんは、Chou-yaさんとは旧知の仲のようで、「よっ、コン*ーム、お久。元気そうだな」などと言われていた。そう言われた近藤さんも「直腸君も詰まらずに調子良さそうじゃん」などと返している。Chou-yaさんの本名が「胡蝶直哉」であることに引っかけたアダ名らしい。宝珠さんが「あんたたち、どういう感覚なのよ?」と呆れるように言っていた。Chou-yaさんはスカイヤーズを結成する前、近藤さんと同じバンドに在籍していたことがあったらしい。宝珠さんもスカイヤーズのコンサートでサックスを吹いたことがあるらしく、スカイヤーズの面々と握手していた。
 
「でもこれで呆れられてるし、宝珠ちゃんを何と呼んでいたか言ったりしたらやばいだろうね」とChou-ya。
 
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「なんとなく想像付きますけど、それ言ったらセクハラで裁判にしますよ」
と宝珠さん。
 
「ほんとに裁判起こされそうだから、やめておこう」
 

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今回の録音作業は9月25日の土曜日まで15日間続けられた。ただし平日は私たちは学校が終わってからの参加になったし、またミュージシャンの人たちも全員毎日は出て来れないので、出て来ている人のパートを順次録音する方式で進められた。
 
レコーディングが半ばまで進んだ18日(土)のお昼、楽器の人たちの収録作業をしている間に、私と政子は昼食を食べに、スタジオの隣にあるファミレスに行った。忙しい時間なのでフロアスタッフさんが寄ってこない。空いている席が見えるので、勝手に座ってようということで、そちらに行きかけた時、途中の席に見覚えのある女の子がいるのに気付いた。
 
「あれ?」「あ!」
「お久しぶりです」と私。
「あ、覚えてました?」
「もちろんです。デビューの時、私たちハグしてもらったから落ち着いて歌うことできましたし」
 
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それはローズ+リリーのメジャーデビューの日、参加したイベントのトリを務めた女の子4人組のユニット、ELFILIESのひとりであった。
 
「それでローズ+リリーが順調にスタート切れたのだったら私も嬉しい」
「ハルカさんでしたよね?」と私。
「わあ、ちゃんと名前まで覚えてくれてたのね」
「でも私ハルカさんに謝っておかないと。あの時、私自分の性別をちゃんと言ってなかったから」
「でも、ケイさん、いつかラジオで自分は心は女の子って言ってたよね」
「わあ、あれ聞いてました?確かに自分では自分のこと女の子だと思ってます」
「だったら問題無いじゃん」
「ありがとうございます」
 
「もしかしてELFILIESもレコーディングですか?」と政子。
「あ、そちらもレコーディング?」
「はい」
 
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「実は今、ELFILIESは実質休養中なのよ。このまま自然消滅かも」
「えー、もったいない」
「すごくノリが良かったのに」
「3年間やってて大きなヒット曲が出なかったからなあ。一番売れたので3万枚。維持費も大変みたいだし」
「うーん。あのユニットは売れる要素けっこう高いと思ったけどなあ」
 
「それで取り敢えずソロでやってみないかって言われて、そのレコーディングを今日から始めた所なの」
「わあ、それは頑張ってください」
「でもね・・・」
「どうしました?」
「なんか渡された楽曲見ても、全然売れそうに見えないのよ」
「ああ・・・」
 
「作詞者作曲者の名前見ても知らない人だったから、どういう方ですか?って訊いたら、私も知らないって、プロデューサーに」
「ひどーい」
「午前中歌ってみたけど、こんな曲ならいっそ自分で書きたいと思った」
「あ、ハルカさん、作曲するんだ?」
「音楽の授業レベルだけどね」
「それ未満の歌ってことか!」
 
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「義理があるから取り敢えずこの歌までは歌ってCD発売して、多分売れないだろうから、その辺りで私も辞めさせてもらおうかなとも思ってるんだけどね。ヌード写真集を出さないかなんて話もあったけど、お断りしたから、潮時感じてたし。アイドルなんて20歳すぎたらお祓い箱なのかなあ・・・・・他の3人はどうも年内一杯で解雇されそうな雰囲気だし。4人仲良しだから、アマチュアに戻ってユニット名変えて、音源の自主制作するのもいいかな、とか」
「うーん。。。」
 
「あ、そろそろ戻らなくちゃ」とハルカ。
「うん。また会おうよ」
と言って、私はハルカと携帯の番号とアドレスを交換した。
 

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■夏の日の想い出・新入生の秋(6)

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