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■夏の日の想い出・瑞々しい季節(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-06-25
 
2016年6月下旬。私は政子と一緒に旭川空港に飛び、近くの町にあるラベンダー園に赴いた。
 
「来月くらいが見頃なんですよねー」
と残念そうにスタッフの人が言いながら私たちを案内してくれたが、それでも紫色の花を咲かせている一角もある。
 
「でも咲いているのもあるね」
と政子。
 
「ええ。あの品種は早咲きなんですよ。2〜3日前から咲き出したんです」
「取り敢えず咲いているのが見られて良かった」
 
私たちは咲いているラベンダーの一群のそばまで寄り、その強烈な香りを楽しみながら、しばらく眺めていた。写真も撮っておくが、写真よりもやはり現地でこうやって花の咲いている所を自分の体に記憶させることが大切だ。またこの強烈な匂いを体験しておく必要もある。
 
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ファーム内のカフェに入り、景色を眺めつつ、ラベンダー・ティーを飲みつつ、政子は詩を書いている。
 
「ねぇ、やはり少女にしようよぉ」
「少年でお願いしますという発注なんだから仕方無い」
「もう。やはりアクアは早々に性転換させるべきだな」
 

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2016年6月23日(木)。★★レコードの株主総会が行われ、役員人事に関する案件が賛成多数で承認され一部の取締役が交代した。続いて行われた取締役会で、松前社長が会長に退き、村上専務が社長(代表取締役)に、佐田常務が副社長に、町添取締役が制作部長のまま専務取締役に、平田取締役も総務部長のまま常務取締役に選任する決議が採択された。
 
平田さんは以前は鉄鋼会社に居たのを須丸前社長にヘッドハンティングされて★★レコードに移ってきた人で、社内では中間派とみなされている。ハーバードのMBAを持っている。
 
なお今回の株主総会では取締役2人の退任と3人の新任が決定され★★レコードの取締役は12人になった。内創業者グループ系が松前・町添・似鳥・須賀の4人、MM系が村上・佐田・板居・形原・島長の5人。残る平田・紙矢・吉馬の3人が中間派というバランスになっている。
 
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創業者系は制作部・営業部・人事部という重要部門を押さえているとはいえ、その上に立つ社長・副社長がMM系で取締役会にもMM系が5人いる状態では創業者系には厳しい社内状況となる。また似鳥さんは営業マンとしては優秀でも争いごとは苦手であり、町添さんを守れる人は須賀人事部長くらいという構図になる。
 
なお、吉馬さんは大手酒造会社に所属する社外取締役である。弁護士の資格を持つ紙矢法務部長と共に、会社の良識のお目付役という感じだ。
 

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その週の週末、6月25日(土)にはアイドルフェスタ・ロックフェスタが行われた。私はその1ヶ月ほど前に某FM局に呼ばれて、そのアイドルフェスタに出場する歌手(ユニット)の選考にも参加させてもらった。
 
今年も選考会場で会ったスイートヴァニラズのEliseに「ロックフェスタの方はどういう人たちが選考しているんですかね?」と小声で尋ねると
 
「全国のFM局のDJさんたちの投票で決められているという噂を聞いたことある」
「なるほどー!」
「無記名投票にして情実が入りにくいようにしているらしいよ」
「評価厳しそう〜」
「うん。いちばん旬の音楽を聴いている人たちだからね」
 
なおロックフェスタの方はすでに選考が終わり、2月には出場の打診が来てOKしておいた。年齢の高いアーティストは早めにスケジュールを押さえないと確保できないということで早い時期の選考になっているようである。
 
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今年もアイドルフェスタは千葉の幕張メッセ、ロックフェスタは大阪の夢舞メッセである。
 
今回ロックフェスタの出場者はハイライトセブンスターズ、ゴールデンシックス、ラビット4、ステラジオ、スイートヴァニラズ、AYA、川崎ゆりこ、貝瀬日南、丸山アイ、福留彰、などなど16組のアーティストが出演する。
 
KARIONは今年も入っていないが、昨年入っていたXANFUSも今年は落選である。結構シビアな選考をしているなと私は思った。
 
昨年は夜間移動しようとしていて途中で自動車事故を起こしてしまったこともあり(事故を起こしたのは川崎ゆりこだが)、加藤次長からの要請で今年は私とマリは新幹線で前日の午後に移動して大阪市内で前泊した。
 
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夕食を取りにレストランに降りていくと、ちょうどゴールデンシックスの6人と一緒になる。手を振り合って一緒の席に着く。
 
「しっかしゴールデンシックスって本当に見る度にメンツが違うよね」
 
「去年はGt.リノン KB.カノン B.ナル Dr.キョウ Pf.コー Fl.フルル だったかな。今年はベースがノノ、ドラムスがカーナ、ピアノがホッシーだ」
とリノンが言う。
 
「よくそんなの覚えてるね」
とホッシーことスリーピーマイスの穂津美が言う。
 
「春美さんがゴールデンシックスと愉快な仲間たちのメンツとは知らなかった」
と私は言う。
 
「カーナに引きずり込まれた」
と穂津美は言っている。
 
「あ、苗字が同じだし、もしかして従姉妹か何かですか?」
「実は姉妹だったりして」
「知らなかった!」
 
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「カーナはゴールデンシックスの初期メンバーだし」
「2年間だけやったんだけどね」
「へー」
「ピアノでは姉貴にどうやっても勝てないから私は打楽器で頑張ってみた」
「そんなこと言いつつ、香奈絵は音楽教諭の免許とピアノ講師の資格を持ってる。だいたい私は私立の無名短大出だけど、香奈絵は国立大学卒だし」
「うーん。まぐれで入れてまぐれで取れたというか」
 

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「あ、そうだ。あれ聞いてきましたよ」
とフルルこと大波布留子さんは私と政子に言った。
 
「何でしたっけ?」
「私が子供の頃、龍に逢った場所です」
「ああ。どこでした?」
「それがですね・・・」
 
と言って大波さんは話し始めた。
 

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それは半年ほど前の2015年11月であった。
 
ローズ+リリーのアルバム『The City』の制作を何とか終えた私と政子は休日、大阪に来ていた。1泊した後、ちょっと奈良方面に足を伸ばして古いお寺などを見てから帰ろうかなどと言いつつホテルをチェックアウトする。そして地下鉄でいったん難波に出てから、なぜか(?)地下街で飲食店を物色していた。
 
そこでばったりと大波布留子さんに遭遇したのであった。
 
「こんにちは。このあたりでしたっけ?」
「こんにちは。私は滋賀県なんですけどね。今日は試合で大阪に来てたんですよ」
「そうか。今バスケはシーズンですからね。勝ちました?」
 
「勝ちました」
「それは良かった。じゃ、今の時期は土日はずっと試合ですか?」
 
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「土曜か日曜かどちらかは試合になることが多いですね。平日も、今くらいの時期は会社の仕事はほとんどせずに、ひたすらバスケしてます」
 
「実業団でしたっけ?」
「です。でもなかなか上位の壁は大きいです。9月の全日本実業団競技大会には出たんですけど、1回戦で負けて帰って来ました」
「あらら」
 
「初戦の相手がジョイフルゴールドで」
「あそこは実質プロですからね!」
 
「なんですよ。本来Wリーグに居ていいような選手がごろごろいるもん。日本代表に名前を連ねている選手まで何人か入っているし」
 

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立ち話も何だしということで、結局わりと本格的な食事の店に入る。政子はメンチカツとお好み焼きにラーメンのセットなどというヘビーなものを頼んでいる。つられて私と大波さんも定食を注文してしまった。
 
「どのくらいお仕事するかって、そのチームというか企業によって結構違うみたいですね」
と私は尋ねる。
 
「ええ。かなりまともに仕事した上で、バスケは余暇に近い扱いの所から練習時間を勤務時間に読み替えてくれて、ほとんどバスケだけしていられる所まで千差万別という感じ」
 
「なるほど」
「うちは10-11月はバスケにほぼ専念できます。ただし12月は業務の方がむちゃくちゃ忙しいので、そちらで死ねる感じです」
 
「金融機関は年末年始凄いでしょうね」
 
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「そうだ。お二方、定期預金とか作ったりしませんよね?」
と大波さんは言った。
 
「ああ!この時期はノルマが大変なんでしょ?」
「いやあ、ノルマという訳じゃないんですけど、微妙な圧力のようなものを感じるもので。1万円でもいいんですけど」
と彼女は頭を掻きながら言っている。
 
「じゃ私と政子と100万円ずつ定期作りますよ」
「わぁ!そんなに!」
 
それで私は彼女が出してくれた定期預金申し込み書類に記入しながら尋ねる。
 
「まだ呼んでもらえるかどうかは未定なんですけど、来年の6月に大阪でイベントとかある時にもし良かったら伴奏に参加とかお願いできますかね?」
 
「たぶんゴールデンシックスの方で、私カウントされている気がするので、それと時間的に無理が無いようでしたら。まあ向こうも呼んでもらえるかどうかは分かりませんが」
 
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「じゃ、その時はよろしく〜」
 

「でも一度オールジャパンに出るので12月も業務を軽減してください、と言ってみたいですが、実業団競技大会を勝ち上がれないと、オールジャパンは夢のまた夢だから」
 
と大波さんは私たちが書いた定期預金の申し込み書と入金用に渡した小切手をバッグにしまいながら言う。私も預かり証をバッグに入れる。
 
「でもそのお正月にオールジャパンに出る夢を見て頑張っているんでしょ?」
と私が言うと、大波さんはしばらく考えていた。
 
「ほんとだ。その夢を見て頑張ります」
と彼女は自分に言い聞かせるように言った。
 
「うん」
と私もうなずいた。
 

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「そういえば最近はローズ+リリーは年2枚くらいのリリースなんですね」
と何気ない感じで大波さんは言った。
 
「あ、そんなものかな」
と言ってから私は考えてみる。
 
「今年は3月に『不等辺三角関係』、7月に『コーンフレークの花』。次は来年4月の予定(*1)、去年は4月に『幻の少女』、7月に『Heart of Orpheus』。確かに年2枚って感じですね」
 
(*1)この時点では『振袖』を緊急発売することになるとは予想だにしていなかった。
 
「ああ。じゃ、今はその来年春に出すCDに向けての準備、あるいはツアーとかの準備ですか?」
 
「あ、いや。12月に出すアルバムの制作がやっと終わったところで」
 
「あ、ごめんなさい! アルバムの方はフォローしてなかった」
 
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ローズ+リリーのファン層としては、アルバムだけを買う層が多いように感じていたのだが、やはりシングルの方だけ見ている人もいるんだな、と私は改めて認識した。
 
「じゃ今は作業が終わって、束の間の休暇みたいな感じ?」
「まあ、そんなものです。それと今度は来年の末くらいに発売する予定のアルバムの構想を練っているんですけどね」
 
「忙しいですね!」
 

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「まあ、忙しくしていられるのは、この業界ではいいことで」
「ですよね〜。この業界は栄枯盛衰が激しいもん。あれだけたくさんテレビに出て、業界のご意見番みたいな顔していた芹菜リセさんがパタッと出なくなりましたよね」
 
「そうですね」
と私は曖昧なほほえみで答える。
 
「あれ、やはり¶¶プロの山口さんに睨まれて干されたって噂本当ですか?」
「いや、私は特に何も聞いてないですけど」
 
¶¶プロも芸能界では大手の事務所のひとつである。ああいう大手の事務所と揉めると、そこの所属タレントさんと共演できなくなるため、実質的にテレビから追放されてしまう場合もある。特に¶¶プロは傘下の数十のプロダクションに中堅クラスのバラエティ系タレントを多数抱えていて、そこ系のタレントが出ていないバラエティ番組を探す方が難しい。
 
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「他にはワイルズ・オブ・ラブも、もう実質2年以上、CDも出してなければツアーもしてないでしょ? 実は活動休止しているのでは?ってこないだ友達と話してたんですけどね」
 
「さあ、どうなんでしょう。ベテランのアーティストになると、作品の発表間隔が極端にあく人はよくいるから」
「ああ。ですよね〜。あれって、その間はどうやって食いつないでるんですかね?」
 
「過去の作品がぼちぼち売れていればその印税で食いつなげますし、アルバム制作費がレコード会社から出ている場合は、それで何とか生活費までまかなっている場合もあるようですね。それで2〜3年掛けても作品が完成しないとレコード会社と揉めるんですけどね」
 
「ああ、その手の話もよく聞きますよね〜。トライアル&エラーとかも実は解散しているのではという説も聞きましたが」
 
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「さあ、特に聞いてないですけど」
 
実際にはトライアル&エラーは2年前に所属していた事務所との契約を解除されている。杏堂さんと四島さんは各々別名義で音楽活動をしているが、他の人たちは実質引退状態にある。しかし彼らに関する情報は確かに全く出ておらず、引退状態にあること自体、全く報道されていない。
 

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夏の日の想い出・瑞々しい季節(1)

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