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■夏の日の想い出・瑞々しい季節(4)

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「私の事件は結局病気のせいだということになって、今wikipediaをはじめとする多くのメディアには私の名前は出ていませんけど、当初は実名報道されていたから、深川・旭川界隈で私の元の名前を知らない人はいません」
 
「ああ、改名したんですか?」
 
「ええ。更正のためにはその方がいいだろうと言われて」
 
「運気があがったと思うよ。元の名前は占い師さんに見てもらったら最悪の名前だと言われた」
「あれ、お父ちゃんが画数を数え間違っていたらしい」
「ああ、それはありがち」
 
「でも実際、あれ控訴して高裁まで争っていたら無罪だったかもしれないですよ」
と私は言う。
 
「自分が悪かったんだから、それを病気のせいにはしたくないと思ったんです。その考え方を妹たちも支持してくれたから」
と本人。
 
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「統合失調症か何かですか?」
と政子が訊くが
「ドレヌムス症候群と言って、卵巣に腫瘍ができる病気なんだよ」
と私が答える。
 
「腫瘍が放火と関係あるわけ?」
「この腫瘍は幻覚を生じさせるんだ」
「そんなことあるの?」
 
「うん。そういう病気はいくつかある。抗NMDA受容体抗体脳炎が割と有名だけど、この病気もそれと似たメカニズムで起きるみたいなんだよ」
 
「その名前も知らない」
「エクソシスト・腫瘍とかで検索してごらんよ」
「後でやってみよう」
 
「だから腫瘍を手術で摘出したことで幻覚は消えた。でも幻覚で唆されたにしても、責任能力はあると裁判所は判断したんだよね」
と私。
 
「微妙な判決だなあ」
と政子。
 
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「でもそのあたりの経緯、よくご存じですね」
と陽子が言う。
 
「すみません。情報源は話せませんが、ある人から教えてもらいました」
と私。
 
「まああの子だろうな」
と陽子は苦笑している。
 
「それと実はこの病気になった原因が実は呪いではないかという説もあって」
と私は言う。
 
「へ!?」
とこれは陽子や功実の方が驚いている。
 
「ひじょうに危険なスポットに功実さんが接触したために呪いに掛かり、そのためにその病気になったのではないかと。ある霊能者からの情報なんですよ。その問題のスポットはその人がもう浄化してしまっています」
 
「うっそー!?」
「全然そんな話は知らなかった」
「実は浄化作業の瞬間がテレビカメラに納められているんですよね〜。放送はされてないですが」
「え〜〜〜!?」
 
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「放送されてないものをなぜ知ってる?」
と政子が訊くが
「内緒」
と私は答える。
 

「でも刑期を終えられた後のことは聞いていなかった」
と私は言う。
 
「懲役5年の判決だったのですが、刑期の3分の2が過ぎた2011年3月3日に仮釈放してもらいまして」
 
「なるほど」
「それでいったん陽子が勤めている牧場に居候させてもらって、牧場のオーナーさんも、暖かく迎えてくださったんですが、一週間ほどそこで牛の世話などをしていた時に、東日本大震災が起きて」
 
「あああ」
 
「それで私、オーナーさんにお願いしたんです。この震災で被害にあった人たちを助けるためボランティアに行きたいと」
「おぉ」
 
「それで私、保護観察中だから所在も明らかにしておかないといけないし、身元引受人から離れられないからというので、牧場のオーナーの妹さんが付き添ってくださったんですよ。それと話を聞いた私の母も来てくれました」
 
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「わぁ」
「最初父が来ると言っていたのですが、男女混成だといろいろ不都合も起きるので女性だけの方がいいということで」
 
「確かにそれはあります。寝場所の問題もある」
 
「福島方面で最初の頃は行方不明者捜しをずいぶんやりました。現地の尼寺に寝泊まりさせてもらって」
 
「尼寺という時点でお父さんはアウトですね」
「です。来たかったら性転換してよねと言っておきました」
「性転換もいいよね」
 

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「行方不明者の捜索では何十人もの遺体発見の現場に立ち会いました」
「ひゃー」
「それでそれを見ている内に簡単なお経だけでも覚えたいと思って。取り敢えず般若心経を覚えました」
「偉い!」
 
「そのうち私、そこのお寺の住職さんに頼んで得度させてもらって」
「凄い」
「福島での作業は、最初の頃は遺体捜索、それからライフラインの復旧作業とかをして。除染作業もやりましたよ。もっともあれは1人の人が長期間はできないんですよ」
 
「でしょうね」
 
「女性のボランティアは被災者のお世話とかやってた人が多いですけど、私は主として力仕事ばかりやってました。あんた丈夫そうだしと言われて」
 
「元々体力あったんですか?」
「高校時代までは勉強の虫でした。でもそれで精神的に行き詰まって放火とか馬鹿なことしちゃったんじゃないかという気がします。その反省から身体を鍛えようと思って、腫瘍の治療が終わった頃から、日々運動をするようになったんですよ」
 
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「ああ」
 
「それで1年間ボランティアやってそれが落ち着いた所で、名古屋の正法寺という所に行きまして」
 
「女性専用の修行寺ですか!」
「よくご存じですね。そこで1年間、修行をして住職の資格も取りました」
「頑張りますね!」
 
「それで最初はどこか東北地方のお寺に入って、震災で亡くなった人たちの菩提を弔いたいと思っていたんですよ。でも、修行中にお話する機会があった大本山の貫首様に言われたんです。あんたはまだ若い。菩提を弔うのもいいかもしれないけど、若いあんたしかできないこともあるのではないか、と」
 
「それは確かですよ」
「それで私、たくさん建物燃やしちゃったから、木を育てる仕事ができないかなと思って」
 
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「いいことですね」
 
「それで北海道に戻って、何軒か造林会社を回ったんですけど、刑務所出た女で、しかも元放火魔というのでは、なかなか雇ってくれなくて」
 
「うーん・・・」
 
「でもいくつも会社訪問している内に、今の会社の社長さんが、あんたが本当に過去を反省して償いたいと思っているなら、雇ってもいいと言って下さって」
 
「いい人に巡り会いましたね」
「それから3年、ひたすら木を植えてます。お金にはならないけど」
 
「いや功実さんが植えた木が数十年後には北海道の建物になるんだから、一番良い罪滅ぼしですよ」
と私は言う。
 
「うん。お金の方は私が頑張って稼ぐからお姉ちゃんは頑張って木を植えて」
「ありがとう」
 
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「そういえば、クリスマスのイベントでローズ+リリーのおふたりと共演した時、おふたりが歌った歌、あれCDになってませんよね?」
と八雲が尋ねた。
 
「何歌いましたっけ?」
 
「えっとですね・・・冬の内気な少女は夏は元気な少年に変わるとか、そんな歌詞があったので、あっ僕のことみたいと思ったんですよ、あの時」
と八雲。
 
「あ、それは『夏の少年・冬の少女』だ」
と私はその曲のことを思い出した。
 
「DVDには入っているよね?」
「うん。『Rose+Lily 2008&2009』に入っている。でもCD音源はリリースしてないよ」
 
「夏は少年で冬は少女というのは、なんか冬虫夏草みたいで不思議な存在だね。アクアも夏の間は少年でいいけど、冬になったら性転換して少女として過ごしたりしないかなあ」
 
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政子はどうしてもアクアを性転換させたいようだ。
 
「あの曲、もしローズ+リリーで出さないなら、私たちで歌わせてもらえません?」
と八雲は尋ねた。
 
「あ、それでもいいよ。でも譜面どこ行ったかな」
と私は焦る。
 
「冬、DVDに入っているなら、そこから譜面を起こせばいい」
「あ、そうか。それ誰かにやってもらおう」
「うん。冬も風花も七星さんもオーバーフローしてるから、誰か手の空いている人にしてもらえばいいよ」
「そうしよう」
と言いつつ、私は博美の顔を思い浮かべていた。
 

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「でも私、功実さんの話聞いてて感動した。詩を書く」
と政子は宣言すると、さっきここのショップで買ったラベンダーの香り付きレターペーパーに《銀の大地》を使って詩を書き始めた。
 
政子はさっきラベンダー畑を見ながら詩を書いた時は《青い清流》を使っている。
 
《青い清流》が元々高岡さん(ワンティスの元リーダー:アクアの実父)が使っていたもので思索的であるのに対して、私が中学3年の時に入手した《銀の大地》は素直で、思ったもの感じたものを、変に解釈せずストレートに作品に出していく性質がある。
 
マリも結構ボールペンを使い分けているよなと私は思いながら、その創作作業を見ていた。
 

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やがて15分ほどで書き上げた詩には『種を播く人』とある。
 
「わあ、格好いい詩だぁ」
と八雲が言っている。
 
「でもちょっと誤解があるみたい」
と功実さん。
 
「ん?」
 
「木の種を直接山に播くんじゃないんですよ」
「あ?そうなの?」
 
「種は苗畑あるいは苗場という所で育てて、ある程度の大きさの苗木になってから山に植えていくんです」
と功実さん。
 
「そうだったんだ!」
と政子。
 

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「木の種を畑に播いて苗を育てるの?」
 
「それも直播きはしません。それをやると、苗同士の根が絡み合ってしまうので」
「なるほど」
「コンテナというのに播いて育てるんですよ。細長い傘入れがずらっと並んでいるような容器ですね」
「へー」
「すると根が縦にまっすぐ伸びてくれるし、隣のと絡まないから」
「いろいろ工夫しているんですね」
 

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「あれって、挿し木とかじゃなくて種から苗を育てるんですか?」
と私は質問する。
 
「両方ありますよ。でも挿し木で育てた苗は根が弱いんですよ」
「ああ」
「種から育てると、まっすぐの直根ができます。だから斜面とかに植えてもしっかりしているんです」
 
「おぉ」
 
「ただ、挿し木の場合はクローンだから親と同じ性質を持つ。つまり良質の木があったら、そこから挿し木で育てることで、同じように良質の木を作ることができます」
 
「ふむふむ」
 
「種から育てた実生苗(みしょうなえ)の場合は、子供を育てるから必ずしも親と同じ性質にはならない。できのいいのもあるし悪いのもある。できのいい子か悪い子かは数十年育ててみないとわからない」
 
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「人間を育てるのより大変そう」
 
「その代わり実生苗は多様性があるんです」
「ああ!」
 
「だから挿し木で育てた林は病気などでいきなり全滅することもありますが、実生苗はそういうのに強いんですよね」
 
「ほんとに一長一短があるんですね」
 
「ええ。ですからケースバイケースで使い分けるんですよ」
 
「音楽もそうだよね。いいからといって同じような曲ばかり作っていたら、飽きられたら全てを失う。でも多様な曲を書いていると、当たり外れはあるけど長く生き残れる可能性がある」
 
と政子は言う。
 
「うん。そういう話をよく、醍醐や雨宮先生などとは話してるよ」
 
と私は言った。陽子と八雲もうなずいていた。
 
「ここだけの話、紅姉妹の曲って全部似たような感じじゃない?」
と八雲が言う。
 
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「仕方無いよ。多様な曲を生み出すだけの才能が無いんだから」
と陽子。
 
「ああ!そこまで言っていいのか?」
「ここだけの話でしょ?」
 
私は笑ったら失礼かなと思って我慢していたが、功実さんは声までは挙げないものの顔を埋めて笑っていた。
 
 
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