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■夏の日の想い出・瑞々しい季節(7)
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会場内最前列に並んでいる報道陣からの質問に和泉が主として答える。
内容は主として曲自体に関するものや、今回の「実質的にミニアルバム」の編集コンセプトなど、またKARIONの今後の活動予定などであったが、海香さんにも質問が入った。
「海香さん、性転換おめでとうございます」
「ありがとうございます。女の身体はいいですね。記者さんも性転換してみませんか?」
「20年くらいしたら考えてみます」
と軽いジャブを交わした上で
「ご実家の旅館はいろいろ改修をなさっているようですね」
と尋ねられる。
「おかげさまで。話題になったことから引き合いが多くて、予約が大量に入っているんですよ。それでまずは自家発電の設備を設置しましたし、それに続いて現在太陽光パネルの設置も進めている所です。また電話会社および自治体と話し合って高速無線回線の中継基地を建てることになり、これは年内には完成する予定ですので冬には間に合います」
「大量に予約が入って、さばききれないということは?」
「新館を建ててますので大丈夫のはずです」
「新館はいつできるんですか?」
「8月1日(月)引き渡し予定です。役所の検査を受けて8月5日(金)から使える予定です」
実際には一週間前の7月25日引き渡し予定である。何かあったらまずいので一週間の余裕を見て8月5日以降の宿泊客の分から予約を受け付けている。実は大阪の学習塾から8月5日(金)〜14日(日)という日程で合宿の予約が入っている。確かにこんな山の中だと遊ぶ場所もないので、勉強に集中するしか無い。新館は全室個室バス付きなので、大浴場が苦手な現代っ子にも助かる。
「ずいぶん早い建設ですね」
「ユニット工法ですから。それに基礎工事は実は数年前に行われていて、その時は建築会社が倒産したので、工事が中断してしまったんですよ」
またKARIONの楽曲の方に戻っていくつか質問が出た後、2曲目に行く。
2曲目は櫛紀香さんが詩を書き、SHINが曲を付けた『雨のメグミ』である。自転車を片付けて、代わりにまたパーソナルカラーの傘を持って歌う。バックスクリーンに雨が降る様子を後ろ側から投影する。
また、ステージ中央に小さい小屋があり、この曲の間奏の間にKARIONのメンバーがひとりずつその小屋の中に入ってはドレスに着替えて出てくるという演出をした。そのため、今日のこの曲の間奏は通常バージョンよりかなり長いものになっていた。
なお、この曲はダブルミーニングになっていて、櫛紀香さんが福島県田村市で農業をしながら書いた、まさに雨の恵みで作物が育つとともに、明記はしていないものの放射能も洗い流してくれることを示唆している一方で、雨の日にメグミという名前の女性に会って心をときめかしている様子も歌われているのである。
この曲のPVでは実際に櫛さんが農作業をしている様子の映像も入っているが、雨の中を歩く後ろ姿の女性の姿も映っている。
歌い終わった後の記者からの質問で
「あの女性は誰ですか?」
というのが出てくるが
「元Parking Serviceのテルミさんです」
と和泉は答える。
テルミさんには2014年夏のKARIONツアーにも参加してもらっている。Parking Serviceを辞めた後は一時引退していたのだが、2年前のそのツアーをきっかけに、ぼちぼちと活動を再開し、最近は全国各地のライブハウスを回るツアーなどもしているようである。
「ただし」
と和泉は言った。
「1カットだけ、櫛紀香さんご自身の女装があります」
この発言に「え〜〜〜!?」という声が会場からあがる。
「DVDを買った方はよくよく見てくださいね」
と和泉は笑顔で付け加えた。
「ちなみに紀香さんに『女装好きでしょ?』と言ったら『あまり唆さないでください』と言っていました」
櫛紀香の女装写真は大学生時代に友人に乗せられて女装したものが流出したことがあるものの、酷い女装写真で、あれは黒歴史にしてくれと本人は言っていた。今回はスタイリストさんに服を選んでもらっているし、そもそも後ろ向きである!
3曲目和泉・歌月の『紫色のダリア』、4曲目広田・花畑の『恋はスローイン・ファーストアウト』、5曲目の樟南『パンダとペンギン』と進む。
この樟南さんの曲には記者から質問が来た。
「今の曲、パンダとペンギンって唐突にサビで連呼されているだけのように思ったのですが、何か意味があるのでしょうか?」
「パンダ、ペンギンというのはインターネットの検索サイトgoogleで検索用のデータを作る時の、ウェブサイトの評価方法の名前なんだそうです」
と和泉が答える。
「そんな名前が付いているんですか!」
「ですから、自分は男の子たちに評価されてないみたい、というのでペンギンやパンダに恨み言を言っているんですね」
「なるほどー」
「ちなみにパンダというのは、中身を充実させることを要求し、ペンギンというのは、友達が少ないことを評価するらしいですよ」
「少ないのがいいんですか!?」
「誰にでも好かれる人は、中身が無いというのがgoogleの見解だそうで」
「へー!」
実際にはいわゆる「SEO対策」でお金を払ってあちこちのサイトからリンクを張ってもらったサイトが増えすぎたため、目に余る低質リンクの多いサイトの評価を極端に下げたのである。これは世界中のWeb管理者に衝撃を与え、大手のサイトではリンクタグにrel="nofollow"という記述を入れて「このリンクは相手サイトを評価して張っているものではないから評価の計算には入れないでくれ」とgoogleに主張する対応に追われた。対応できずにリンクコーナーをまるごと削除したサイトもあったようである。
「少数精鋭の友人を持つ人が本当に素敵な人ということで。恋愛もそうですね。男の子がいくらでも寄ってくる女の子は、いろいろ問題のある可能性があります。恋愛はただ1人の人に愛してもらえたらいいんですよ」
「それは男でも女でも言えてます!」
最後に演奏したのが阿木結紀作詞作曲『君をずっと見つめていたい』である。
阿木結紀さんは丁寧にトラベリングベルズの構成に合わせたバンドスコアの形まで作って送って来てくれたので、私たちはほとんど修正せずにほぼそのまま演奏することができた(フルートとヴァイオリンのパートだけ追加した)。私や和泉は普通に2オクターブちょっとの声域で歌っているが、小風と美空は各々の声域の最低音から最高音まで使われていて、音源制作の時は小風が
「この曲きつーい」
と言っていた。
「でも出るでしょ?」
「うん。出ることを忘れていた」
美空は最初スコアで指定されていた最低音のG3が出ないと言った。
「A3までしか出ないよぉ」
と本人は言うが
「いや美空は以前歌った『水曜日は焼きそば』でちゃんとG3を歌っていた」
と私は指摘する。
「それ美空が書いた歌じゃん」
「頑張れ」
かなり頑張っていたもののなかなか出ない。
「性転換したら出るようになるかな」
「美空が性転換したら社長とお父さんがショック死すると思う」
「どっちのお父さん?」
「両方!」
「じゃ頑張るか」
結局半日近く頑張って、景気付けに焼きそばを8人前平らげたら出るようになった!と喜んでいた。
「これで性転換しなくても済んだ」
『君をずっと見つめていたい』自体は美しい曲である。MIKAさんのギターが静かにリズムを刻み、SHINのサックスは4人の歌を補うように、長く伸ばす音符の所に装飾音を入れていく。
4人のハーモニーを美しく響かせ、曲の盛り上がりととともに、音程はどんどん高くなっていき、私と和泉はいわゆるHigh-Fを超えるG6の音を一瞬だけ歌う。この間小風が一時的にメロディーを歌うので、この部分は小風が張り切っていた。
最後はSHINのサックスと風花のフルートの掛け合いのコーダを演奏して終了である。
演奏終了後は希望者全員にサインを書いた。来場した人のほぼ全員が希望した!(飛行機などの都合や、子供を保育所に迎えに行く時間などで、どうしても無理だった人もあるようである。理由の明確な人には後日書いたサインを郵送する対応も取った)
今回のサイン会の方法としてはこのようにした。
最初に今回のイベントに応募する段階で登録してもらっていた「誰々さんへ」という宛名を、あらかじめ日付および管理番号と一緒に印刷した色紙を来場者分3000枚用意する。それを会場で受け取って私たち4人の前に並んでもらう。
並ぶ順序もこの色紙に印刷した一連番号順である。トイレで中座しても元の所に戻れるので、実際にはロビーに展示してあるKARIONの過去のライブ写真や歴代のCDジャケット、またPVなどを見学していて、そろそろかなというタイミングで並べばよいということになった。
KARIONの4人は並んでいる人から見て左から小風・和泉・蘭子・美空の順に座っている。例えば和泉の前に並んだ人は最初に和泉に書いてもらい、その色紙が私に渡され、私が自分の分を書き美空に渡す。美空も自分の分を書き、後ろにあるベルトコンベヤに乗せる。それが小風の所に運ばれてきて、小風が最後に自分の分を書き、客と握手して渡す。
つまり、小風と握手したい人は和泉の前に、和泉と握手したい人は私の前、私と握手したい人は美空の前、美空と握手したい人は小風の前に並んでください、という案内をしたのである。
なお、最後のほうの数人は長時間待ってもらったしということで、サービスで全員と握手できた。
希望者が全部はけるのに3時間近く掛かった。1人平均750人と握手したことになるが、握手する側もなかなかの重労働であった。ライブより疲れた!
「疲れた〜。焼肉食べたい」
と美空が言う。
「今日の打ち上げはしゃぶしゃぶのつもりだったんだけど」
と畠山社長が言うと
「しゃぶしゃぶ大好きです!」
と美空は慌てて言っていた。
またこの会場限定で発売した今回のCDの《英語歌詞版》は1人最大2枚までと数量限定にしたものの4000枚も売れた。つまり2枚買った人がどんなに少なく見ても1000人は居たことになる。
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