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■夏の日の想い出・若葉の頃(12)

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このオーディション番組に関しては、番組に映される映像上では、いかにももったいぶっているかのように装っていて、実際の舞台裏では、私や加藤次長などがあちこち走り回り、大急ぎで態勢を整えていった。
 
そして、このユニットのレコード会社側の担当者としてプロジェクトを統括する佐田常務が起用した人の名前を聞いて私は驚いた。
 
「いや、社内では佐田さんやる〜って評価されたみたいだし、本人も物凄く張り切っているみたいね」
 
とその日マンションに遊びに来ていた織絵(XANFUSの音羽)は言った。
 
「村上さんは不愉快だろうけどね」
「佐田さんとしては自分は村上さんの手下ではないという線を打ち出したのかもね」
 
ドライの担当A&Rとして起用された日吉さんというのが、3月の騒動の時に村上専務との「女装結合写真」を撮られて、その後村上専務から100万円やるからと言われて辞表を書かされ、地方のイベンターに押しつけられていた人だったのである。村上専務はその写真がマスコミに掲載されないように個人的に数百万の金を使ったという噂も一部では流れていた。しかし、日吉さんはこれまで何人かのアイドルを売り出した実績があり、その実績を佐田さんが買って復職させたのである。
 
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本人は当然佐田さんに恩義を感じ、必死でドライを売り出すのに努力するだろう。
 
しかも彼は以前毛利さんと組んでアイドルを1人売り出したこともあり、毛利さんも彼とならやりやすいと言った。
 
「まあ創業者グループ側にしても実際は松前派と町添派は必ずしも一体ではないけど、今は自分たちに不利な風が吹いているから団結している。それに対して取り敢えず次期社長確定として動いているMM系は村上派と佐田派が緊張を持った関係で進むことが確定という感じかな」
 

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「しっかし、キャッツファイブも運が無いと思わない?」
と織絵は楽しそうに言った。
 
「織絵たちの後輩が頑張ったね」
「まあ妹分が元気なのはいいことだ」
 
5月11日にキャッツファイブの2枚目のシングルが発売された。昨年夏に結成されたキャッツファイブは、秋口にインディーズから1枚シングルを出した後番組でかなり前宣伝を盛り上げて12月にメジャーデビュー・シングルを出したものの、当日はローズ+リリー・福留彰・ラビット4と強力すぎるアーティストの発売と重なり、初日16万枚と十分な営業成績をあげたにも関わらずランキング4位であった。
 
そして今回発売した2枚目のシングルで、当日はそんなに大きなアーティストの発売は無いから今度こそ1位を獲れるだろうと言っていたら、この日に発売されたHanacleのシングルが30万枚を売る大健闘で、更にキャッツファイブと同じ◎◎レコードからこの日デビューした無名の新人奈川サフィーが23万枚を売る大誤算(?)で、20万枚のセールスをあげたキャッツファイブは3位に留まったのである。
 
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「同じ◎◎レコード内のアーティストに抜かれたというのは、岩瀬部長も面目丸潰れだね」
 
「◎◎レコードって、第1営業部から第6営業部までがお互いに完全縦割り、全く情報も流さず、人事交流さえ無い、ほとんど別会社のような状態で競争しているからね。社内で顔を合わせてもお互い挨拶もしないくらい徹底しているというから。1970年代には第1営業部の小林江梨と第2営業部の柳沢恭子が熾烈な競争していた」
 
第1営業部は昭和初期の「流行歌」の時代から続いている伝統的な部門、第2営業部は戦前は(現代の演歌とは別物の当時の)演歌とか芸者さんの歌うお座敷歌のようなものに民謡などを取り扱っていたが、戦後はどちらも扱うジャンルがかなりダブるようになった。第3営業部はクラシックでここは特別。第4営業部はロックのために創設された部門だが現在はポップスやフォークも扱っている。第5営業部は洋楽が主だったが最近は韓流歌手などまで扱っていてボーダーレスになってきている。第6営業部は特殊なアーティストを売り出す部門で、お笑いタレントやスポーツ選手のCDなどを出したりしている。「色物」アーティストを得意としている。
 
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岩瀬部長は第4営業部の部長で、キャッツファイブやその母体ユニットのホワイト▽キャッツはここの担当である。私も岩瀬さんやその部下の林葉課長とは昔からかなり関わり合いになっている。
 
これに対して奈川サフィーを売り出したのは第6営業部で、統括しているのは案ノ浦部長である。奈川は、実は「鴨乃清見の曲を歌う歌手募集」という事実上のオーディションの準優勝者で、鴨乃ではなく吉原揚巻さんの曲を歌うことになった。近い内にデビューさせるという話は聞いていたのだが彼女のデビューが明らかになったのは実際の発売日のわずか1週間前である。
 
その日発売された写真週刊誌に
 
「近々鮮烈デビュー予定の超美人《男の娘》4オクターブ歌手を激写」
 
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などという記事が載り、扇動的なタイトルにこの週の雑誌は無茶苦茶売れたらしい。雑誌に掲載された写真は、自身もMTFというメイクアップアーティスト小林マユミさんが2時間掛けてメイクしたという、ナチュラルなのに物凄く可愛い写真であった。本人が当事者なので、男の娘の骨格や目鼻位置のカバーの仕方に熟知している感じでもあったようだ。
 
「俺、道を誤ることにした」
「男でもこれだけ可愛かったら結婚したい」
 
などという書き込みが大量にネットにあふれた。
 
そしてその週刊誌の出た翌日からテレビでPVがヘビーローテーションされる。ネットにも大量のバナーが貼られる。それで物凄い数の予約が入り、いきなりプラチナディスクになったのであった(初日が23万枚だが一週間で40万枚に達し、週間ランキングではHanacleを抜いて1位になった)。
 
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案ノ浦部長の作戦勝ちという感じであった。
 
名前は売れているものの爆発的に売れたアーティストを持っていなかった吉原揚巻さんにとっても初のスマッシュヒットとなった。
 
どうも第6営業部では「あいつらに芸能界甘くないってことを思い知らせてやろうぜ」という感じで、極秘でプロジェクトを進めたらしい。
 

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「まあそれでドライって名前はあまり良くないと思いましてね」
 
その日の会合で毛利さんは発言した。
 
この日集まっていたのは、佐田常務、日吉さん、加藤次長、私、毛利さん、それに番組側のプロデューサーの名古尾さんの6人である。
 
「どういう名前にするんです?」
 
「ドライは確かにドイツ語で3 drei ですけど、ドライと聞くと普通英語のドライ dry 乾燥を想像すると思うんです。それはアイドルユニットの名前にはふさわしくない。それで考えていたんですけど、彼女たちの名前って全部『は』と読める文字が入っているんですね」
 
「ほほお」
 
「波歌(しれん)の波、優羽(ことり)の羽、八島(やまと)の八の字が『は』と読めます。それで『三つ葉』、3つの葉っぱという名前はどうでしょう?」
 
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「ああ、可愛いかも」
 
「ひらがなで『三つ葉』、カタカナで『三ツ葉』と悩んでみたのですが、占いのできる友人に聞いてみたら、ひらがなの『三つ葉』は16画で大吉、カタカナの『三ツ葉』は18画で中吉だから、ひらがなの方が良いと」
 
「なるほど」
 
「ちょっとエンブレムも描いてみました」
 
と言って毛利さんがケント紙に色鉛筆で描いたエンブレムを見せる。
 
「格好いいですね」
 
それは3つの葉っぱが放射状に配置され、外周部分でなびくように変形しているちょっと見には風車っぽいエンブレムである。
 
「緑色なんですね」
 
「そうです。若い女の子3人ですから、瑞々しい若葉でなければいけません。赤や黄色だと紅葉になってしまいます」
 
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「だったら緑色がいいですね」
 
「このデザインの衣装を作って着せましょうよ」
 
「ああ、いいですね。たぶんグッズとしても売れますよ」
 
「成功するといいですね」
と加藤次長が言ったのに対して、日吉さんが
 
「絶対成功させますよ」
と自信満々の顔で言った。
 

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「しかし男の娘歌手がずいぶん増えたね」
 
とその日うちのマンションに来た千里は言った。
 
「増えた気はするね。それよりオリンピック代表選出おめでとう」
 
「ありがとう。去年のユニバーシアードが出来過ぎだったからね。実際5月のオーストラリアとの3連戦は3タテくらった。あれが本当に世界のレベルだと思うし、もっともっと鍛えないといけないと思ってる」
 
「うん。頑張ってね」
 
昨年のユニバーシアードでは日本はオーストラリアを倒してBEST4に進出したのである。
 
「結局、今主な男の娘歌手って誰がいるんだっけ?」
と政子が言う。
 
「花村唯香でしょ、鈴鹿美里でしょ、アンミルでしょ、タカ子ちゃんでしょ、Rainbow Flute Bandsのアリスとモニカにフェイ、アクアにFlower Four, キャッツファイブの愛菜、丸山アイ、ローザ+リリン、雨宮先生に、今回出てきた奈川サフィー」
 
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と政子は指折り名前を挙げていく。
 
「それかなり違うのが混じってる」
と私は言う。
 
「タカ子ちゃんやFlower Fourはただのおふざけの女装だし、丸山アイは実態がよくわからないけど、少なくとも『男の娘』という分類ではないと思う。雨宮先生も単に女の服を着ているだけで、ふつうの男性だし」
 
「絶対普通の男性じゃない!」
 
「Rainbow Flute Bandsで男の娘分類はアリスだけだと思う。モニカは早い時期に性転換手術を終えているから、普通の女の子に準じて扱ってあげて欲しい。フェイは正直ほんっとに実態がわからない。フェイと丸山アイが一番わからない」
 
「あとアクアも普通の男の子だよね」
と千里が言う。
 
「うん。私もそう思う」
と私も言う。
 
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「うっそー!? あれこそ典型的な男の娘じゃないの?」
 
「少なくとも本人は自分は男だと思っているし、みんながおもしろがって女装させているけど、積極的に自分から女装している訳ではないし。可愛いからからかっているだけだよ。あれはセクハラだと思うんだけど、本人が寛容だから笑って受け入れているだけで。女物の下着を時々つけてるのだってただのフェチの類いだと思う。思春期の男の子は結構女の下着に興味持ちがちだよ」
 
と千里は言う。
 
「うん。実態はそんなものだと思うね」
 
「そうかなあ。絶対あの子、女の子になりたがっていると思うのに」
と政子は言う。
 
「それは無い。あの子はまだ男に進化することに不安を抱いているだけで、その程度の不安は思春期には男の子でも女の子でもありがちなんだよ。女の子は生理が来て胸が膨らんで、本人の意志と無関係に女になってしまうけど、男の子はそのあたりが曖昧なまま20歳頃まで行っちゃう子が結構いる」
 
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と千里。
 
「まあ高校生にもなれば、いいかげん声変わりも来ちゃうだろうから、そうなると本人も諦めて男になっていくんじゃないかな。女装くらいは乗せられたらしちゃうだろうけど」
 
と私。
 
「よし、アクアの声変わり、絶対阻止しちゃる。取り敢えずエストロゲン、ネットで注文しちゃおう」
 
と政子は張り切って携帯を操作していた。
 
 
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