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■夏の日の想い出・若葉の頃(11)

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「あのぉ、なぜ金墨さんが、このようなことを私たちに伝達なさるのでしょう?」
 
ここで、これまでずっと背中を見せていた人物がカメラの方を振り向く。
 
「いや、ガラでもないことするもんじゃないですねー」
などと頭を掻きながら言ったのは、番組アシスタントの金墨円香であった。
 
「実はデビューに至るまでのスケジュール等については、このオーディションのプロデュースをして下さることになっている大先生が提示する予定だったのですが、全員不合格となったので、放送局内で話合った結果、今の段階では先生にご足労いただくのもということになったので、私が今日の所は代行させてもらいました。でも今のメッセージはその先生から直接私がいただいてきたんですよ」
 
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と円香は笑顔でカメラに向かって説明する。
 
「まあそういう訳だけど、あんたたち、それに挑戦してみる?」
「やります!」
と3人は声をそろえて言った。
 
「3万枚売れたら歌手デビュー。売れなかったら性転換ね」
「それ、雪丘さんだけじゃないんですか?」
「連帯責任で3人とも女をやめてもらう」
「え〜〜〜!?」
「おっぱい無くしたくなかったら頑張ろう」
 
「ユニット名とかあるんですか?」
「その内変更するかもしれないけど、とりあえずの仮の名前はドライで」
「乾燥?」
「ドイツ語で3の意味。3人だから」
「へー」
「3ってスリーかと思った」
「それは英語でしょ!」
 
最後のやりとりはジョークなのか天然なのか、ネットでも意見が割れていた。
 
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3日ほど時を戻して、9日月曜日の午後、私は送ってもらった地図を頼りに横浜市内のあるアパートまで行った。が地図を再度見て、それから目の前にあるアパートを見て首をひねる。
 
私は自分のスマホから電話をかけた。
 
「お世話になっております。唐本冬子と申しますが」
「あ、こんにちは。毛利五郎です」
「頂いた地図を頼りにかなり近くまで来たつもりなのですが、どうしても場所がわからなくて」
「ああ、都会って難しいよね。今居る所から何が見える?」
「えっと左手に高いマンションが見えます。30階建てくらいかな。後ろには高速道路が通っていて、目の前に今にも崩壊しそうな廃屋っぽいアパートがあるのですが」
 
「あ、えっとその崩壊しそうなアパートが俺んち」
「え〜〜〜〜!? これ人が住めるんですか?」
「俺は住んでるんだけど。2階の真ん中の部屋ね」
「はあ・・・」
 
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それで階段を登って2階に行くが、この階段崩れ落ちないよね?と私は不安であった。真ん中の部屋で呼び鈴を鳴らそうとしたらドアが開く。
 
「あ、いらっしゃい、散らかっているけど、どうぞ」
「失礼します」
 
と言って中に入るが「うっ」と思う。
 
入った所は台所であるが、シンクに山盛りの食器が重なっている。その付近にカップ麺のからが多数転がっている。一方の壁際には週刊誌をとりあえず紐で縛ったものが高く積まれている。目の前をゴキブリが数匹走っていった。
 
ひぇー!
 
男の人の家ってこんなもんだっけ?
 
私はそういえば男性の一人暮らしの家って行ったこと無いなと思った。正望はお母さんと一緒に暮らしているし、佐野君の所はいつも麻央が出入りしている。麻央もずいぶん男っぽい性格ではあるものの、まあ一応女の子の端くれだろう。雨宮先生の家は定期的に三宅先生が大掃除をしているようだ。中学時代にオーケストラの関係で訪問して、私をレイプしかけた男の子がいたけど、あの人もお母さんと一緒に暮らしていた。
 
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できるだけその散らかった状態を見ないようにして奥の居室に入る。
 
「まあ適当に座って」
と言われる。
 
テーブルのそばに何だか灰色の物質?がうずたかく積まれている。
 
「あのぉ、これ何でしょうか?」
「あ、それ座布団の中身なんだよ」
「中身!?」
「座布団の皮が破けちゃってさ。それで中身が飛び出してしまったんで、仕方無く、その上に座っているんだよ」
 
「なるほどー」
 
それで私はやれやれと思いながらもその「かつて座布団であったもの」の上に腰を下ろす。
 
すると毛利さんは何だか感動したように言った。
 
「それに座ってくれたのは君が2人目だよ」
「へ?」
 
「みんなそれを避けて座るんだ。鮎川ゆまなんか、これを蹴散らかして、後でまとめ直すのに苦労して苦労して」
 
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「あはは」
 

「前に座ったのって誰なんですか?」
 
入れてもらった(ほとんどコーヒーの味がしない)インスタントコーヒーを湯飲みで飲みながら尋ねる。
 
「醍醐春海君だよ。ユニークな座布団ですね、と言いつつ座ってくれた。もう結婚してもいいくらい感動したよ」
「へー」
 
「でも私は彼氏がいるからと断られちゃった」
「あはは。ちなみに私も婚約の約束をしている人がいますから」
 
「婚約の約束って、結婚の約束じゃなくて?」
「ええ。その内婚約しようと言ってます」
「よくわからん!」
 

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「まあそれで、電話でお話したユニットの件、実質毛利さんに引き受けてもらえないだろうかという蔵田さんの要望なんですよ」
 
「なんで蔵田君が出てきて、そこからケイちゃんが出てくる訳?」
 
「今回のオーディションは★★レコード製品開発室の滝口さんがやっていたのですが、本人が癌で緊急入院させられて、明日手術なんです」
 
「あらま」
「それで合格者無し。不合格者の中から3人ピックアップしてユニットを組み、半年くらい鍛えてからメジャーデビューさせようという線で、滝口さんの上司の村上専務、このプロジェクトを統括することになった佐田常務、私、滝口さんの実質後任の明智室長代理、そして加藤次長の5人の会議で決めました。今週の番組で発表します」
 
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「なんかモー娘。作った時っぽいね。ケイちゃんが関わった経緯は?」
「通りがかりです」
 
「何とまあ!」
「でもこの世界、割とこれあると思いません?」
 
「言えてる、言えてる」
 

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「それで合格者の方はいいけど、実は誰がプロデュースするかとかも全く決まっていなかったんですよ」
 
「なんで?」
「当初の予定では、合格者を決めて卍卍プロに丸投げしてデビューさせる予定だったらしいです」
 
「なぜわざわざ、あんなプロダクションに」
「ね?」
 
私も全く毛利さんの意見に同意である。
 
「でも卍卍プロ側は、合格者なら引き受けるけど、不合格で半年鍛えてからというのでは引き受けられないと言ってきて。それと加藤次長が、卍卍プロには関わらない方がいいと主張して」
 
「それがいいよ。あそこのプロダクションに関わった人はろくな目に遭わない」
と毛利さんは言っている。
 
「それじゃ誰に任せようかという話をしていた時に、ちょうど蔵田さんが通り掛かりまして」
 
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「また通りがかりかい!」
 
「それで蔵田さんが、こないだアクアのアルバムの制作をした、雨宮の弟子の毛利君にやらせるといい。あいつはこれまでたくさんのアイドルを手がけていると言いまして」
 
「へー。蔵田君が俺を覚えていてくれたんだ?」
 
「それでそんな人がいるならぜひと佐田常務が言って、加藤次長も毛利さんなら安心ですよと言って、それで私にその話をしてこいと蔵田さんから言われまして。雨宮先生にも連絡したら、ぜひ使ってやってということだったので」
 
「それでわざわざ俺のうちまで来てくれたの?いや、ありがたい」
 

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「最初どこかレストランか何かででもと言っていたのですが、いろいろ内密の話をしないといけないから、毛利さんのご自宅に行って話した方がいいと言われまして」
 
「まあいいけどね」
 
「それで2つ課題があるんですよ」
「うん?」
 
「ひとつは3人の女の子、シオン・コトリ・ヤマトでユニットを構成することにしたのですが、制作側の意図としては、最年少のヤマト中心。彼女をメインボーカルにして、あとの2人はバックコーラス主体ということにするんですよ」
 
「うんうん」
「そのことを年長のシオンとコトリに通告して納得させる必要があります」
 
「その手の説得だったら任せて。俺、そういう話はこれまで何十件もしてきた」
「心強いです」
 
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ここで毛利さんが実際のその子たちの映像か何か見たいと言うので自分のスマホで再生させてみた所、毛利さんも
 
「うん。この3人を組ませるなら、ヤマトを中心にすべき」
という意見であった。
 

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「それともうひとつ、毛利さんのプライドを傷つけることは承知でなのですが」
「何?」
 
「毛利さんの実績は評価するという人が多数なのですが、何しろ一般の視聴者とかに知名度が無いので。あ、すみません」
 
「いやいや。知名度が無いのは認識してるし、気にしないよ。知名度があったら、こんなボロアパートに住んでないし」
 
「まあそれで、番組では名前の売れている作詞家の馬佳祥先生を名目上のプロデューサーに立てる方針を固めまして」
 
「あの人、もう引退したのかと思った」
 
「引退しています。それで午前中に馬佳祥先生とお話してきたのですが、自分は名前だけのプロデューサーでよいし、ギャラも要らないから、本当のプロデューサーになるであろう人に全部任せてあげてとおっしゃってました。何か交渉事とかには遠慮無く呼び出してくれたら出て行くからともおっしゃって」
 
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「ああ、そういうのもかまわないよ。これまでもいくつもそういう仕事の仕方してるから」
 
「じゃとりあえず一度、馬佳祥先生と会っていただけますか? 意志の疎通はしておかないとまずいですし」
 
「OKOK」
 
「では都合の良い日の候補を打診してご連絡しますね」
「あ、俺の方はいつでもいいよ。今実質失業状態なんで」
「了解しました」
 

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その時、アパートのドアをドンドンとやや乱暴にノックする音がある。
 
「あ、やばい。静かにしてて」
と毛利さんは言ったが、外にいた人物は合い鍵?を使ってドアを開けてしまった。
 
「毛利さん、あんたもう1年も家賃を滞納していて。困るんだけど」
「すみませーん、大家さん。もう少ししたら印税が少し入るはずなので、それで払いますから」
 
「あんた、そんなこと3月にも言っててって、あれお客さん?」
 
「あ、どうも。お初にお目に掛かります。毛利の婚約者です」
と私は笑顔で言った。
 
「あんた婚約したんだ!」
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」
 
「毛利さん、あんた結婚するんなら、もっとしっかり仕事しなきゃ」
「すみませーん」
 
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「でも婚約者さんなら、もし良かったら2〜3ヶ月分だけでも家賃入れてもらえないかね?」
「あ、おいくらたまってます?」
「今12ヶ月分、12万円溜まっているんだけど」
 
「でしたら溜まっている分と、このあと半年分で18万円お支払いしますね」
と言って私はバッグから現金を出して、大家さんに渡した。
 
「ありがとう! 毛利さん、良さそうな娘さんじゃん。ほんとにマジに仕事探しなよ」
「はい、すみません」
 
それで大家さんは領収証を書いて帰って行った。
 

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「ケイちゃん、ごめーん」
「このくらいはいいですよ。この仕事の契約料の一部ということで」
 
「すまーん」
「でも家賃1万円って凄いですね」
「うん。なかなかこういうアパートは無い」
「でも毛利さん、実際毎年結構な印税収入がありません?」
「それ醍醐さんにも新島にも言われるんだけど、俺何でこんなにお金が無いのかなあ」
 
「ほんとに結婚して奥さんに財布の管理任せた方がいいかも」
「結婚してくれる女がいるかどうかが問題で」
「まあ女とは限りませんけどね」
「そうだなあ。実は俺、これまで惚れられた相手がみんな男の娘なんだ」
「男の娘でもいいと思いますよ」
「でも男の娘とうまくやっていく自信が無い」
「3日で慣れますよ」
「そういうもんかなあ」
「ちょっとあそこの形が違うだけですから大したことないですよ」
「いや、それは大したことある気がする」
 
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