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■夏の日の想い出・若葉の頃(2)
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4月からΨΨテレビで「スター発掘し隊」という番組が始まった。司会は昨年「コーラ吹くぞ」という決めぜりふがうけて流行語大賞までもらった女性お笑いコンビのデンチュー(殿山憂佳・昼村恋子)、番組のプロデューサーは2000年代にアイドルユニット《マリンシスタ》を生み出した番組「鈴輪隣」を担当した森原泰造というスタッフである。
番組は様々なオーディションをおこなっていくということで、当面2種類のオーディションが行われることになる。
1つは「街角からテレビへ」というオーディション。
全国各地の市街地に繰り出して道行く若い女の子を呼び止めてはその場で何か一言言わせる(歌を歌ってもよい)ということをして番組の前半でピックアップした10人にデジタル放送のdボタンを使った投票で優勝者を決め、優勝した人は次週から番組に呼んで、とりあえず番組のアシスタントをしてもらい歌と踊りのレッスンを受けさせて、歌手デビューを目指す、というのが流れである。1980年代に《おニャン子クラブ》を生み出した『アイドルを探せ』に似た方式である。
もうひとつは本格的な女性歌手を発掘するオーディションということで放送局のネットを利用して全国26箇所で1人3分間のビデオ撮影によるオーディションを実施。これを通った60人ほどを東京のホールに集めてステージ上でパフォーマンスをさせ10人程度に絞り込む。ここからオーディション合宿を経て、最終的な合格者を発表するということで1990年代に《モーニング娘。》を生み出した『ASAYAN』の手法に似ている。
楽曲は2000年代に爆発的な人気を誇ったバンド・ラララグーンのボーカルと事実上作詞を担当していたソウ∽こと水下荘児さんが詩を書き、曲はコンペで募集するということで、こちらもあわせて番組内でコンペ参加者を募っていた。
日程的には番組内で告知した上で4月10日(日)に全国各地でのオーディション、24日(日)に東京都内のホールでステージオーディションをしてゴールデン・ウィークに合宿。5月第2週に合格者発表、5月中旬に曲を渡されて音源制作、6月中旬デビューという流れである。
この番組の企画をしたのが★★レコードの村上専務直属・製品開発室の滝口史苑室長であった。彼女は以前KARIONの担当をしていたが、元々は1997年から2003年までPCレコードという会社で多数のアイドルを売り出した実績がある。★★レコードでもKARIONを担当する以前に数人のアイドルを売り出してそこそこの営業成績をあげている。2014年8月にKARIONの担当を外れた後は村上専務直属の戦略的音楽開発室という選抜チームに所属していて、4月発足の製品開発室はこのチームが模様替えしてスタッフを30人に増員したものである。
「最近男の子の服が見当たらなくて困ってるんです」
とその日、川崎ゆりこと一緒にマンションに来たアクアは言った。
「最近、アクアちゃん女装で出歩くことが多いんだっけ?」
とマリが質問する。
「そんなことないですよー。学校にはちゃんと学生服で行っているし、スタジオにはたいてい学校からそのまま入るんです。これも学生服着ていきますし」
「セーラー服で行くこともあるんでしょ?」
とマリが訊くが
「あれはあの日1回だけなんですよー。それしっかり写真に撮られているんだもん」
とアクア。
「まあアクアは毎日10枚くらいは盗撮されているだろうね」
「そんな気もします。でもスカート穿いて歩いている程度の写真は流通しませんね」
「多分アクアがスカート穿いているくらいではニュース価値が無いと思われているんだよ」
「なんか僕、性的な傾向を誤解されてますよねー」
「うーん。ファンの認識の方が正しかったりしてね」
「でもそんなんで、そもそもいつも制服でばかり出歩くから、私服が極端に少ないんですよねー。それでファンの人から大量に女の子の服を送ってくるし、ふと気づくと、男の子の服を着て出ようと思っても、見つけきれないんです」
「なるほどー」
「アクアちゃんタンスは?」
「ビニールのロッカー2つ、衣装ケースが4段の引き出しのが今6個かな。ロッカー1つ、衣装ケース1つは男の子用の服を入れていたつもりがそこまで女の子の服であふれかえっていて」
「ああ」
「ファンの方からの贈り物で、オリーブデオリーブとかウィーゴーみたいな手頃な価格帯のものは、だいたいそのまま児童養護施設とかに贈っているんですよ。手作りのものは悪いけど廃棄させてもらって、高額なものは一部だけもらって他は事務所に寄付して衣装などとして使わせてもらって、微妙なものはだいたい僕がもらっているんですけど、それが増殖していくんですよね」
「男の子の服も送ってくるの?」
「見たことないです」
「なるほどね〜」
「マジで探しきれなくて仕方なくレディスセーターにスカートとかで結構出歩いているんだけど、そういう所の写真がネットに投稿されたことはないみたい」
「それアクアちゃんの普通の格好だからだろうね」
「あまり男の子の服が無いから、こないだ買いに出たんですよ。川南さんが選んであげるよと言ってくれたから」
「あぁぁぁぁ」
「でも気づいたら可愛い女の子の服ばかり買ってたんです」
「そりゃ川南ちゃんと一緒に行けばそうなる」
「女性ホルモン剤も大量に送られてくるんですけどね〜。あれって譲渡したりすると法的に問題があるみたいだから、廃棄するしかないんですよね」
「飲めばいいのに」
とマリが唆す。
「僕別に女の子になりたい訳じゃないから」
「でも去勢くらいしてもいいと思っているでしょ?」
「思いません。あのサイトの署名、やっと止まったみたいですね」
「署名は75万人に達したよ。アクアちゃんが去勢手術を受けることに賛成してくれる人がそんなにたくさんいるんだよ」
「去勢は嫌ですー」
「本当は去勢したいくせに。でもアクアも中学3年生になったし、そろそろおっぱいくらいは大きくしようよ」
「大きくしません!」
「まあそれで5枚目のCDを作ったばかりで慌ただしいのですが、6枚目のCDを続けて行こうということで」
と川崎ゆりこが言った。
「青葉今少し忙しそうだね」
「そうみたいです。水泳部に入られたようですが、8月の全国公、9月のインカレに向けて練習があるし、まだ大学に入ったばかりだから、ペースがつかめるまでは勉強に集中したいということで。それにどうも霊的なお仕事の方もお忙しいみたいで」
「そうみたいね。じゃ今度は私が書くよ」
「すみません。よろしくお願いします」
アクアの1枚目のCDは上島・東郷、2枚目はマリ&ケイ・東郷、3枚目は青葉・東郷、4枚目はマリ&ケイ・東郷、5枚目は青葉・東郷と来て、次がまたマリ&ケイ・東郷となると、私と青葉が1回交代で書いている感じになる。
「このまま大宮先生とケイ先生で1回交代というパターンで定着させてもいい気もするのですが。ファンはそういう流れと思っているようですし」
「まあそれでもいいけどねー」
■アクアのこれまでのCDシングル
2015.03.04『白い情熱』霧島鮎子・上島雷太/ゆきみすず・東郷誠一(醍醐春海)
2015.08.12『ぼくのコーヒーカップ』マリ&ケイ/加糖珈琲・東郷誠一(照海)
2015.11.25『冬模様』岡崎天音・大宮万葉/加糖珈琲・東郷誠一(照海)
2016.02.24『桃色の予感』マリ&ケイ/加糖珈琲・東郷誠一(葵照子・大宮万葉)
2016.04.27『眠る少年』岡崎天音・大宮万葉/加糖珈琲・東郷誠一(照海)
※括弧内は本当に書いた人(照海=葵照子+醍醐春海)
4月20日(水)、ローズクォーツの18枚目のシングルが発売された。今回は代理ボーカルがミルクチョコレートからアンミルに引き継がれたので、5曲のうち1曲をミルクチョコレートが、3曲をアンミルが歌っている(1曲は私が多重録音で2パート歌っている)。
そしてこのシングルのPVが随分話題になったのである。
例によってタカは女装させられている。今回のタカの衣装は春らしく白いブラウスにピンクのプリーツスカート、しっかりとメイクの専門家にメイクをしてもらっていて、むしろ普通に女性ギタリストに見えてしまう。
タカもさんざん女装させられて、女物の服を可愛く着こなせるようになっている。眉はいつも細くしているので、むしろ男装してても女性と間違われることがあるらしい。
そういう訳でタカの女装はもういつものことで良いのだが、問題はボーカルのアンミルである。
ふたりはビキニの水着を着て踊りながら歌っているのである(さすがに歌は別録り)。
そして小さくテロップで「アンミルは男性デュオです」という説明まで入っている。ローズクォーツの公式サイトにはわざわざFAQまで付けてあった。
「アンナとミルカのバストサイズを教えて下さい」
「ふたりとも男なので胸はありません」
「アンナとミルカは男性器は除去していますよね?」
「ふたりとも男なので、おちんちんもタマタマも存在します」
「アンナとミルカはお風呂は女湯に入りますか?」
「ふたりとも男なので当然男湯に入ります」
「このPVは合成あるいはCGですか?」
「実写です。画像加工は一切していません。ただし歌唱だけは踊らずに歌唱した音声で置き換えてあります」
「ふつうの男の身体でこんなビキニ姿になれるの〜〜!?」
というので反響が凄まじく、それが話題になってこのCDは初動こそ3万枚しか無かったものの、1週間後までに20万枚を突破した。売れたものの大半がDVDとのセットものである。
大宮副社長と森元課長の「悪ノリ」が美事に当たり、やや埋没しかけていた《代理ボーカル制》と新代理ボーカルのアンミルを売り込む作戦が成功した感であった。
この週は他に大きなアーティストの発売が無かったためローズクォーツは売上ランキングの1位も獲得した。ローズクォーツの発売日1位および発売週1位獲得は実はどちらもローズクォーツ結成以来初めてのことであった。
4月27日(水)、アクアの5枚目のシングルCDが発売された。収録曲は岡崎天音(政子)作詞・大宮万葉(青葉)作曲の『眠る少年』と、加糖珈琲(蓮菜)作詞・東郷誠一(実は千里)作曲の『ナイスなナースになるっす』である。後者は4月放送開始の『ときめき病院物語II』のエンディングテーマにもなっており、CDの発売に先行してテレビで流れている(実は放送開始の2日前にバタバタと録音したものである)。
『眠る少年』のPVでは、ベッドですやすやと寝ているアクアの映像が出ている。これは撮影で「目を瞑って寝ているふりをして」と言われたアクアを疲れがたまっているので本当に眠ってしまったのを撮影している。もっとも
「眠る少女に見えるよね」
というのが大方の意見であった。
『ナイスなナースになるっす』のPVでは、『ときめき病院物語II』に看護師役で出演している女優さんたちにナース服姿で踊ってもらっている。看護師役ではないものの馬仲敦美と元原マミまで入っている。
「アクアちゃんもナース服を着てここに入れば良かったのに」
というのがまた大方の意見であった。
発表記者会見は例によって会見場があふれる感じであったが、その記者たちを前にして、アクアはエレメントガードの生演奏に合わせて生歌唱を披露して、拍手をもらっていた。
同日、ローズ+リリーの23枚目のシングル『ちゃんぽん』も発売された。記者会見はアクアの記者会見を17時から、ローズ+リリーの記者会見を18時半からしたので、アクアの記者会見に来た記者さんたちがローズ+リリーの記者会見にもそのまま残ってくれた感があり、ローズ+リリーの発売記者会見としてはこれまでの最高ではないかと思われるほどの人数がいた。
私たちもスターキッズの生演奏をバックに私とマリが生歌唱したが
「凄い」
「さすがローズ+リリー」
と言ってもらった。
ローズ+リリーとアクアのCDが同日発売になったのは新しく営業部次長になった鬼柳さんの考えによる所が多い。鬼柳さんはこう氷川さんや私たちに説明した。
どちらもセールスを考えると、給料日の後でもありゴールデンウィーク前、そしてツアー直前(アクアもゴールデンウィークにツアーをする)の4月27日までには発売したい。ここで日程をずらしてどちらかを4月20日にする場合を考える。
その場合、アクアのスケジュールが厳しいことからアクアの4月20日リリースは困難であり、ローズ+リリーを4月20日にすることになる(実際アクアの音源と映像の制作は録音と撮影自体が学校が始まる直前の4月7日までずれ込み編集まで終わったのは4月11日であった)。
その場合、翌週にアクアの発売が控えているとローズ+リリーとアクアの双方を買おうと思っている人は「来週アクアのCDを買いに行くし、その時一緒にローズ+リリーも買えばいい」と思ってしまう。
その結果買いに行くのを忘れる人が出てくる。アクアのファンは10代が圧倒的なので行動力があるがローズ+リリーのファンの主力は20代なのでやや反応が遅い。そうなると本来買うつもりでいたのに結果的に買いそびれてしまう人が結構出る。両方を同日発売にすればこの問題を回避できる。
更に同日発売となるとセールスランキングでも競うことになる。するとローズ+リリーの熱心なファンがアクアに負けてたまるかとちゃんと発売日に買いに行くか通販で予約する(多くは発売日の前日に到着するように発送される)。結果的にローズ+リリーのセールスを押し上げる。
「どうしても10代は瞬間湯沸かし機型、20代はヤカン型になりますから」
などと鬼柳さんは言っていた。
「30代は?」
と私が訊くと
「30代はシャトルシェフ、40代は日なたに放置したコップかな」
と鬼柳さんは言う。
「いや日なたに置いたコップは結構熱くなりますよ」
「そうなんです。だから40代以上を勢いつかせたアーティストは物凄いことになります」
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