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■夏の日の想い出・振袖の勧め(11)

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「あらためて明けましておめでとうございます。ライブ最後まで一気に走り抜けましょう。でも観客のみなさんは座って聴いていてくださいね。立って踊って汗を掻いてしまうと、この寒い中風邪ひいちゃいますから。健康のため座って拍手だけよろしく。では次の曲は『門出』です」
 
拍手があり、スターキッズの伴奏が始まる。
 
私は歌い始める前にふと視線を感じて右を見ると舞台袖で千里がじっとこちらを見つめていた。彼女の燃えるような視線を受け止めて私は心の中からエネルギーが湧き上がってくる感覚を覚えた。
 
鴨乃清見の渾身の作だ。
 
私の声域のいちばん下から一番上まで全部使い切っている。ギターの近藤さんやサックスの七星さんにかなり無茶なプレイを強いているのでふたりはちゃんと演奏できるようになるまで練習に丸2日掛かっている。
 
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千里が2015年「鴨乃清見」の名前で発表した曲はRC大賞を取った『白い足跡』とこの曲を含めて3曲しか無い。その1曲を私たちにくれたのは、どういう意図であったかは分からないが、彼女はまるで私たちが年内にCDを発売することになるのを知っていたかのように、東堂千一夜先生の御自宅から帰宅して、ひたすら睡眠をむさぼって起き、夕飯でも食べようなどと言っていた時に唐突に私たちのマンションを訪れ、この曲の譜面とMIDIを置いて行ったのである。
 
曲の内容は恋の迷いの森の中から、抜け出して新たな1歩を踏み出すというものだが、新年にふさわしい曲だ。一見恋の終わりの歌のようにも見えるのに、歌詞をよくよく読むと、恋を成就させたかも?と思わせるものがあり、実は恋の結果自体は分からない。しかしこの詩の読み手自身は何かを決意したかのようである。
 
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それは千里自身の今の心境なのかもという気がした。
 

終わると同時に凄まじい拍手が返ってきた。
 
まだ最新シングルを買っていない客も結構いたようで「すげー!」という声が客席から聞こえてきた。
 
続けて会場のモニターにボーイング787が飛行している映像が映し出され、『夜間飛行』の演奏が始まる。
 
普段は航空機のエンジン音の効果音を流したりしているのだが、深夜なのでそれを避けて代わりに映像を表示した。
 
この曲の後、『月下会話:ムーンライト・トーク』を歌ってから私は観客に向かって言う。
 
「ここまでローズ+リリーのニューイヤー・カウントダウン・ライブにお付き合いくださいましてありがとうございます。いよいよ最後の曲になってしまいました」
 
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え〜〜!?という声が返ってくる。
 

「声援ありがとう!それでは最後の曲、『ピンザンティン』」
 
大きな拍手がある。もう待ちきれないようにお玉を取り出して振っている客もいる。
 
伴奏が始まり、私たちも川崎ゆりこが渡してくれたお玉を持ってこの楽しい食の讃歌を歌った。
 
「サラダを〜作ろう、ピンザンティン、素敵なサラダを」
「サラダを〜食べよう、ピンザンティン、美味しいサラダを」
 
私たちもお玉を振り、客席でも多くのお玉が振られている。歓声も大きい。そしてやがて終曲。
 
お玉を振っていた手が拍手に変わり、たくさんの歓声もあがっている中、私たちは舞台下手に退場した。スターキッズも一緒に退場する。
 

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が、観客の拍手はタンタンタンタンというアンコールを求める拍手に変わる。
 
私たちは舞台袖で暖かいコーヒーを飲んだり、マリは温めたいなり寿司を5個!食べコーンスープを飲み、ほんの1分ほどでまたステージに出て行く。
 
私たちがマイクの前に立つといったん拍手が停まる。
 
「アンコールありがとうございます。それでは深夜で、あまり遅くまでやっては迷惑なので、2曲一気に行ってそれで本当に終わりにしたいと思います。聴いてください。この夜にふさわしい曲『雪の恋人たち』。これは私とマリが初めて一緒に録音した曲でもあります。そしてその後、本当に本当に最後の曲は私とマリが初めて一緒に作った曲『あの夏の日』」
 
「それってケイが私の前で初めて女の子の格好になっている所を見せた日でもあるよね」
とマリが茶々を入れると、笑い声が起きる。
 
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私たちがしゃべっている間にスターキッズも入って来てスタンバイしている。
 
拍手の中、伴奏が始まる。
 
私たちはこの2008年2月に作った曲を歌った。あの山形・白湯温泉の夜は8年前である。あの時の自分に今の自分は想像もつかないよなあと思う。10年一昔というが、まだ10年経ってないのに、自分の人生は4〜5回くらい変わったような気さえする。
 

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演奏が終わって拍手があり、私たちはお辞儀をする。スターキッズが退場し、ステージにグランドピアノが運び込まれてくる。
 
この時、もし雪が降っていたら本物のグランドピアノを使うのはあきらめる予定だったのだが、幸いにもこの時間帯、雪はやんでいたので、本物を使うことになった。
 
このピアノもサマーガールズ出版の備品YAMAHA CFX コンサートグランドで、普段は国分寺市内のサマーガールズ出版の事務所に置いている。風花の普段の執務場所で半分は楽器倉庫を兼ねているオフィスである。今回はライブ使用後の再調整が必須なので迷惑を掛けないように自前のピアノを使用した。現地で午後に調律師の人に一度調整してもらっている。
 
私がピアノの椅子に座り、マリはいつものように私の左に立つ。
 
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そして私のピアノ伴奏のみで『あの夏の日』を演奏する。
 
伊豆のキャンプ場を思い浮かべる。
 
そこでローズ+リリーは2度生まれたのである。
 
最初はこの曲を作った2007年8月。私たちが曲作りを一緒にするようになった、ローズ+リリーの本当の誕生日だ。そしてもう1度は2009年1月。私の性別に関する週刊誌報道をきっかけに、私たちの契約上の問題が発覚してローズ+リリーが活動停止に追い込まれた後、秋月さんの車で連れて来てもらってキャンプ場で2人だけで一晩過ごし、ローズ+リリーが再生した日である。
 
私は当時のことに思いをはせている内に涙が出てきた。私のその涙をマリが見て少し不思議そうな顔をした。
 
そして間奏の時、マリは私にキスをした。
 
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「きゃー!」
という悲鳴のような声が聞こえる。
 
しかし私は笑顔になって曲の後半の演奏をしていく。
 
そしてやがて終曲。
 

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私たちは立ち上がり、ステージ前面にならんで観客の声援と拍手に応えるべく私の右手とマリの左手を斜め上にあげ(私の左手とマリの右手は繋いでいる)、そして一緒に深くお辞儀をしてから下手に下がった。
 
川崎ゆりこが
「これにて今夜の2015-2016ローズ+リリー・ニューイヤーカウントダウンライブは全て終了しました。みなさん、係員の指示に従い、順序よく退場してください。各温泉行き・高崎市内や前橋市内など行きのバスは観客がはけるまで何便でも出しますので慌てずゆっくりと退場してください。係員の指示があるまでは席を立たないでください」
 
と終了のアナウンスに続いて注意事項を述べる。
 
ライブが終わったのは0:30であるが観客が全員退場したのは1時すぎであった。3万人の観客を30分で送り出したのも凄いが、これは元々同じ温泉地行きの観客を同じブロックにまとめて座席を割り当てたりしていたのも大きかった。会場内に直接バスを乗り入れて、どんどん乗せたのである。
 
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なお、私たち出演者は、先に帰っていたスリファーズや最初の数曲だけに出演してもらった和楽器奏者さんたち、『影たちの夜』に出た覆面ダンサーさんたちを除いて、0:40頃出演者専用のバスに乗り、伊香保温泉内の宿に入った。
 
取り敢えず宴会場に入って乾杯して打ち上げをしたが、元日の試合がある千里を含めて早く休みたいという人たちは乾杯のみで自分の部屋に引き上げた。実際にはお風呂に入った後で寝たようである。
 

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私と政子は1月1日夜まで伊香保温泉で過ごし、1月2日、東京に戻った。
 
12月30-31日に流れていた§§プロの「今年は大変お世話になりました」のCMは、1月1-3日は同じメンツで「明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします」という挨拶になった。
 
西宮ネオン以外は振袖なので、一見同じパターンに見えるが、全員年末のものとは違う振袖を着ていることが、録画したものを確認した人によりネットに拡散した。更によくよく見ると川崎ゆりこが弾いているピアノまで別のものを使用しているのである。年末のものはカワイ製だったのが新年のはヤマハ製になっていた。またコスモスが持つ指揮棒も、年末のは青いものだったのが新年のは黒い指揮棒になっていた。
 
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むろん、アクアは当然振袖姿である。
 

アクアはお正月の特番にもたくさん出演していた。年末はこの子、学校に行く時間も無かったのではと私は思った。しかし見ているとお笑い芸人さんの投げた言葉のボールを絶妙に受けて投げ返したりするので、この子センスがいいなと思う。
 
『ときめき病院物語』に出演していた役者さんが
「アクアちゃんって凄く機転が利くんだよね。相手役がうっかりセリフ間違ったのをうまくカバーして、破綻無く元の話に戻してしまうから、監督もNG出さずにそのまま生かしたことも何度かあったんですよ」
と言っていた。
 
ところでやはり世間ではアクアの「男の娘」疑惑がくすぶっている。ある番組ではダイレクトに聞かれる。
 
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「あんた女の子になりたいんだよね?」
「別になりたくないですー。ボク普通の男の子ですよー」
「いや、絶対普通ではない」
 
ということで、彼を病院に連れて行き、心理テストを受けさせていた。
 
「男の子の中ではやや女性的な部分もあるにはありますが、普通の男の子の範囲ですね。特に女性指向は見られません」
と診断した心理療法士さんは言っていた。
 
更に「女性ホルモン疑惑」についても追及されたので、血液検査を受けさせられていたものの、
「男性ホルモンの濃度が低いですが、思春期男子の正常値から若干外れる程度で大きな問題はありません。女性ホルモンの濃度がやや高いですが、そちらは思春期男子の正常値の範囲です」
とお医者さんは言う。
 
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「男子の正常値ですか? 女子の正常値ではなくて?」
「男子のです。ちょっと胸も見せてもらいましたが、特に膨らんだりもしていませんし、乳首も普通の男の子の乳首ですよ」
 
と先生は言っていた。
 
そのあたりの診断を聞いて、政子が「うーん。残念だ」などと言っていたがネットでも「残念」という書き込みは大量にあった。
 

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2016年1月4日(月)夕方17時、「ねらわれた学園」の1時間スペシャル版が放送された。
 
今回の放送で最初のテーマ曲(品川ありさが歌う『海嘯』)が流れる中出演者のクレジットが流れるが、最初に「関耕児/アクア」「楠本和美/元原マミ」、と流れた後「高見沢みちる/???」という表示が出てネットに「クレジット来たぁ!!」という書き込みが多数出た。
 
(なお「京極/大林亮平」がクレジットのラスト、そのひとつ前が「山形先生/倉橋礼次郎」である。倉橋は昨年春に俳優デビューしたばかりなので若くても10年のキャリアがある大林亮平の方が重い扱いになる)
 
ちなみに今回初めて「青山玲子 今井葉月」という名前も生徒たちの名前が複数並列されている所のいちばん下に出たので
 
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「おお、せいこちゃんの名前が出てる」
と政子が喜んでいた。
 
また今日のオープニングでは普段は歌声だけの出演である品川ありさがセーラー服を着て歌っているシーンが数秒間映り、「やはり品川=高見沢で桶?」などという書き込みも大量に出ていた。
 

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スペシャル版なので、ここまでの回を見ていなかった人へのサービスも兼ねて前回までのストーリーのあらすじが5分ほどで紹介された後、シーンはパトロール委員が吉田一郎(鈴本信彦)を告発するので、処分を学級会で決めるよう関耕児(アクア)に要求する所がリプレイされる。
 
「こんなことで告発するのか?」と激高した一郎がパトロール委員に殴りかかろうとした所で彼は実際には地面に叩き付けられてしまう。
 
ここまでが前回の放送で流れたシーンである。
 
一郎が地面に叩き付けられたのを見て、耕児は駆け寄って介抱するが、パトロール委員は「あ、会長!」と言い、耕児も「高見沢みちるか!」と声をあげた。テレビの画面には、こちらを向いた耕児と一郎、パトロール委員の2人と、背中を向けた高見沢みちるが映る。
 
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「オーバーフェンスしただけではなく、暴力沙汰とは救えない人ですね。こんな極悪人には重大な罰が与えられるのが当然でしょうね、代表委員さん」
と向こうを向いたままの高見沢みちるが言うが
 
「2年3組のことは2年3組で決める」
と断固とした表情で耕児はこちらを向いて、みちるに言った。
 
「後悔しても知りませんよ」
「脅迫にも超能力にもめげない」
「超能力? 何のことでしょうね」
 
耕児(アクア)は高見沢みちると睨み合うようにして立っていた。
 

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夏の日の想い出・振袖の勧め(11)

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