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■夏の日の想い出・振袖の勧め(4)

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12月23日(水)、ローズ+リリーの22枚目のCD『振袖』が発売された。
 
このタイミングでこういうCDが発売されるというのは、ほんの2週間ほど前、12月11日(金)になって告知され、テレビや動画サイトでPVが流れ始めた。このCD制作が決まったのは、実に11月中旬になってからであった。
 

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11月11日の水曜日、私と政子は東堂千一夜先生に突然呼ばれ、氷川さんと一緒に御自宅を訪問した。
 
私たちが奥さんに導かれて応接室に入っていくと、先生はいきなり私とマリと更に氷川さんにも譜面を渡した。
 
「氷川君、確かピアノ弾けたよね?」
「一応中学3年までは習っていました」
「じゃ、それ初見で弾いて。ケイ君とマリ君は初見で歌って」
 
「すみません。譜読みしていいですか?」
「ダメ。譜読み無し」
 
私たちは顔を見合わせたが、氷川さんは取り敢えず部屋の中に置かれているアップライトピアノの前に座り、最初椅子の位置を調整している。ゆっくりとした動作でピアノのふたを開ける。そして譜面立てに今渡された譜面を置くが位置が気に入らないのか数回、位置を直した。
 
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私とマリは先生から「譜読み無し」と言われた次の瞬間、氷川さんが私たちに視線を送ったことで、とにかく読める範囲で譜面を読んだ。もっともページをめくる訳にはいかないので、とにかく最初のページだけである。
 
氷川さんは更に数回「コホン」と軽い咳までしてみせた上で「では行きます」と言ってからおもむろに指を鍵盤の上に置き、3秒くらい置いてからテンポ60くらいで前奏を弾き始めた。
 
譜面にはAndanteと書かれている。だいたいテンポ65〜76くらいのはずだが、氷川さんはわざとゆっくり弾きだしたようである。やがて前奏が終わり、私とマリが歌い始める。マリは最初の音を間違えたものの、私の音を聞いてすぐにその3度下の音に修正した。
 
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ところが4小節歌った所で東堂先生のだめ出しが入る。
 
「遅すぎる。アンダンテなんだからこのくらい。トントントントン。続けて」
と先生は実際にビートを口で言って見せる。
 
「済みませんでした」
と言って氷川さんは、最初から弾き直す! 続けてと言われたのにそのことに気づかなかったふりをして最初に戻ってしまったのだ。
 
これには東堂先生が苦笑していた。
 
それで今度は東堂先生が示したテンポ(72くらい)で氷川さんの前奏は進み、私たちが歌い出す。今度はマリは正しい音で歌い出すことができた。
 
私は初見は得意だが、マリが初見でどの程度歌えるかかなり心配だった。しかしマリは譜面で私のパートとマリのパートが何度離れているかだけを見て、私の音を頼りにきれいに歌っていった。
 
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3度や5度離れる所、またスケールで上下する所はかなり正確に歌ったものの、私と4度離れる所や変化記号のある所、また私とマリの音を出すタイミングが違う所では少しピッチを間違えた。しかしそれ以外ではあまり大きな破綻も無く、転調するサビの所も何とか切り抜けて最後まで辿り着いた。
 
私たちが歌い終わり、氷川さんがコーダを弾き終わると、先生は拍手をしてくれた。同席している奥さんも一緒に拍手をしてくれる。
 

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「ありがとうございます」
と私とマリは声を揃えて言った。
 
「歌えたね。だったらその曲あげるから、12月23日に発売して」
と東堂先生は言った。
 
私たちはびっくりした。
 
「次のローズ+リリーのCDは4月に発売する予定だったのですが」
と氷川さんが言う。
 
「でも出せるでしょ?」
と東堂先生。
「はい、出します」
と氷川さんは決意したかのように言った。
 
「よろしい」
と東堂先生は満足そうである。
 
この曲のタイトルは『トップランナー』である。作詞は室蘭氷渡海さんの名前が入っている。
 

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奥さんがお茶を入れてくれて、お菓子も出してくれて、私たちはソファに座って先生とお話しした。
 
「僕としては3年ぶりくらいの名曲だと思うんだよ。それでこの曲を誰に渡そうかと考えた。それで今いちばん勢いのある歌手に渡そうと思った」
と先生は言う。
 
3年前の名曲というのは2012年のRC大賞を取った春川典子『竿灯祭りの夜』だろうなと私は思った。
 
「ケイ君、今ローズ+リリーのライバルは誰だと思う?」
 
私は少し考えて言う。
 
「私たちに凄い対抗意識を持っているのはステラジオです。あの子たちは今はまだそれほどのセールスではないですが、ファン層が確実に広がりつつあります。彼女たち、私たちと同じ場に居ても絶対に目を合わせないんですよ。かなりピリピリしてますね」
 
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「うーん。ステラジオね〜。君たちの二番煎じにすぎん」
と先生はおっしゃる。
 
「正直怖いと思っているのはアクアです。あの子はデビュー曲がいきなりミリオンセラーになり、夏に出した2作目も連続ミリオン。夏にやったツアーではチケットの競争率が20倍を超えていますし、そのライブビデオも売れに売れて、来月発売予定のアルバムもかなりのセールスが期待できますし、恐らく今年の★★レコードのアーティスト別売り上げで、ローズ+リリーに次ぐ数字が出るのではないかと思います」
と私は言った。
 
「アクア?問題外でしょ。まさかまだチンポコも生えてないような中学生ごときに本気で負けると思ってないよね?ケイ君、そろそろ当てないと怒るよ」
と先生。
 
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「先生、ちんちんは生えてくるものではありません」
と氷川さんが言う。
 
マリがなんだかワクワク・テカテカした目をしている。
 
「で、ここだけの話、あの子、付いてるの?」
と先生が小さい声で訊くので
「付いてますよー。ちゃんと医師の診断書でペニスも睾丸も存在するというのが出てますから」
と氷川さん。
「女房と話してたんだよ。あれ絶対もう取ってるよね?いやそもそもまだ生えてきてないということは?って」
 
そういう会話を聞きながら、私はため息をついた。氷川さんはアクアに関する与太話をすることで私に考える時間をくれたのだ。
 
「ラビット4です」
と私は答えた。
 
「分かってるじゃないか。分かってるなら最初から言いなさい」
と先生はおっしゃった。
 
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これにはマリと氷川さんまで驚いている様子だ。マリが私に訊く。
 
「ラビット4って何?」
 
「今年の春に結成されたユニット。男性4人組で楽器演奏しながら全員で歌う。楽器編成はギター・ベース・ドラムス・篠笛」
 
「篠笛は歌えないのでは?」
「笛を吹いてない時に歌う」
「なるほど」
「元々ギターの人と篠笛の人が数年前からライブハウスとかで歌っていた。自分達で伴奏音源を作っておいて演奏の時はそれを再生しながら歌っていたんだけど、今年の春に2人加わって生演奏ができるようになった。インディーズでCD2枚出してるけど凄く良い。たぶんセールスが1万枚越えていると思う」
 
「そんなに?」
と政子が驚いているが、どうも氷川さんも知らないようである。
 
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「近いうちに∂∂レコードからメジャーデビュー予定。凄くいい曲を作っているし、演奏も歌もうまい。マリも聴いたら好きになると思うよ。インディーズで出したCD2枚はうちにあるから後で聴いてみるといい」
と私は説明する。
 
「よし聴いてみよう」
とマリ。
 
さすがに立場上何も言わないが、氷川さんもそれを聴きたそうである。
 

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「まあそれで僕もこの曲をラビット4とローズ+リリーのどちらにあげるか悩んだんだよ。それでサイコロを振ってみた」
 
「サイコロですか!」
 
「奇数が出たらラビット4、偶数が出たらローズ+リリーと思った。どうしてそうしたか分かる?」
と先生がなぞなぞのように出してくるので私は答える。
 
「中国の陰陽思想で奇数は陽、偶数は陰です。ですから奇数なら陽だから男性アーティストのラビット4、偶数なら陰だから女性アーティストのローズ+リリーということでしょうか」
 
「正解正解。サイコロは2が出たからローズ+リリーをここに呼んでみた。それで初見で歌えなかったら落選ね」
と東堂先生。
 
氷川さんが頷いている。
 
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「ケイちゃんの性別で若干悩んだけど、まあ陰でいいだろうし」
「ケイは間違いなく女の子です。生まれてすぐ性転換したみたいだし」
などとマリは言っている。
 
「うん。たぶん僕とセックス可能な気がするなと思ったから」
と東堂先生はおっしゃったが、その次の瞬間、隣に居た奥さんが、そばにあったお盆で強烈に先生の頭を殴った!
 
私たちは思わず口に手を当てて驚いたが、東堂先生は一瞬脳震盪でも起こしたのではという感じではあったものの、すぐ復帰して
 
「まあそれは冗談として、これローズ+リリーにあげるから」
とおっしゃる。
 
「それでラビット4のデビュー曲が12月23日発売なんだよ。だからその発売にぶつけて、あちらのランキング1位を阻止してみてよ」
 
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と先生はおっしゃった。その言葉で私はこの曲は最初から私たちにくださるつもりだったんだということを確信した。
 

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氷川さんが加藤課長にその場で電話し、東堂千一夜先生がローズ+リリーに曲をくださり、12月23日に発売して欲しいとおっしゃっているので、発売させて下さい、と伝えた。加藤課長も驚いていたようだが、やはり東堂先生という名前が効いたのだろう。加藤さんもその場でOKを出した。
 
私はこの曲を歌うのにこちらで編曲させてくださいと先生に申し入れ、その件は快諾してもらった。
 
その後は例によって、東堂千一夜先生による「音楽談義」が始まる。私たちもこれを聞くことになるのは覚悟で来ていたのだが、先生は今回は翌朝!までひたすらビートルズ論を語った。ビートルズの音楽史上での位置づけについて熱く語る。先生に言わせると、セールス的にもっと売れたユニットはいくつもあるかも知れないが、20世紀のポピュラー作曲家を全部束にしても、レノン・マッカートニーにはかなわない、そのくらい彼らは凄いしなにより音楽構造的に革命だったと言う。
 
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先生の話は半分が音楽理論上の話、半分は録音技術の話で、ビートルズの多様な曲名と小節番号!が出てきて「ここでsus4が出てくるんだけど」などとおっしゃるので、私や氷川さんは何とか付いてこれても、今日の話にはマリはほとんど付いて来れなかったようであった。
 
それでも奥さんや途中で交代したお嬢さんが色々差し入れの食事やおやつを持って来てくださるので、マリはどちらかという食べる方専門で頑張って?いたようであった。
 
結局翌日の朝、約20時間の先生の講義の末に私たちは解放されたが、その後、私とマリは夕方までマンションで寝ていた。
 

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この新しいCDの音源制作のため、またまた私は11月後半はKARIONのアルバム制作を休むことになり、和泉から文句を言われたのだが、11月22日に和泉から電話が掛かってきて
 
「どっちみちこのあと月末までお休み」
と言われた。
 
「何かあったの?」
「相沢さんの弟さんが亡くなったんだよ」
「あらぁ・・・。事故か何か?」
「癌の一種らしい。白血病に似てるけど、白血病ではないと言っていた。血液の病気らしいんだけどね」
「そうだったんだ?」
 
「先月末に骨髄移植したらしいんだよ」
「わぁ・・・」
「でも造血細胞がうまく定着してくれなかったみたいで」
「骨髄移植は博打だからなあ。幾つだっけ?」
 
「弟さんは29歳だったらしい」
「若いのに」
「若いだけに進行が早かったみたいね」
 
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骨髄移植に踏み切ったというのは、それ以外の治療法が尽きてしまっていたということでもある。
 
「お葬式は?」
「今日は友引だから明日23日にお通夜で24日が葬式。場所は奈良県の山奥の町らしいんだよ」
「私も行った方がいいかな?」
 
「冬は今時間取れないでしょ? 電車おりてから更に数時間車で走らないといけないらしくて。行くのも帰るのも1日掛かるから、今日東京を発っても到着するのは夜になる。それで23-24日の通夜と葬式に出て25日の朝向こうを発って東京に戻れるのは25日夜」
「うーん。。。4日も潰れるのは困る」
「東堂千一夜さんから言われた発売日は死守しないとやばいよ」
 
「うん。発売日を守るためには29日までに録音作業を完了しないといけないから、全く余裕が無い」
 
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「KARIONはラジオ番組とかのスケジュールもあるんだよね。それで相沢さんと社長とで話し合って、トラベリング・ベルズは全員行くけど、KARIONは私が代表して行ってくることにした。社長も行く。番組は小風と美空で何とかしてもらう」
 
「ごめーん」
「美空だけなら心配だけど小風がいれば大丈夫だよ。それに古い言葉だけど、芸人は仕事があれば自分の親の死に目にも会えないんだというからね。冬は香典だけよろしく」
 
「分かった」
「相沢さんも12月1日までは向こうに滞在しないといけないみたいだからKARIONの作業再開は12月3日」
「了解」
 

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それで相沢さんには申し訳無かったのだが、私は弔電と香典だけで失礼させてもらってローズ+リリーの音源制作に専念した。無事11月29日までに録音は完了。その後のマスタリングは有咲と麻布先生と七星さんにお任せし、PVの制作は氷川さんとマリと雨宮先生!に丸投げして、私は11月30日は休ませてもらって12月1日は翌日発売のローズ+リリーのアルバムの発表記者会見の準備に追われ、私も結局12月3日にKARIONのアルバム制作に戻った。
 
 
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■夏の日の想い出・振袖の勧め(4)

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