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■夏の日の想い出・振袖の勧め(8)

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12月31日(木)。
 
私と政子は昼前に自宅マンションを出て丸の内の国際パティオに入った。和泉・小風と合流する。美空は花恋が同伴してこちらに向かっている最中ということであった。
 
「あの子の寝坊は治らないね」
「やはり起こし係が居ないとどうにもならない感じ」
 
カウントダウンライブに参加する他のアーティストとも顔を合わせては挨拶する。スイート・ヴァニラズ、サウザンズ、スカイヤーズ、バインディング・スクリュー、タブラ・ラーサといった実力派バンドのほか、Rainbow Flute Bands, 蓬莱男爵、など若手バンドの姿も見た。チェリーツイン、プリマヴェーラ、XANFUS、線香花火など私たちと同世代のパフォーマーもいるし、青島リンナ、粟島宇美子、東山三六九などのベテラン歌手も来ている。
 
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一部今日大晦日の国民的歌番組と掛け持ちの人もいるが向こうには出てない人が多い。しかしたぶん総売上ではこちらの方が大きい。一応このイベントは全てがストリーミング配信される。有料会員優先だが無料会員でもサーバーに余裕があれば試聴できる。
 
イベントは昼12:00に始まって、1月1日の朝6;00まで18時間、36組のアーティストが出演する。トップバッターはレレイホトー。まだビッグヒットは無いものの、ここ数年着実にパワーアップしファン層も広がってきているバンドであるが、私たちが会場に到着した時は既に演奏は終わっていた。
 
私たちが到着した直後に演奏が始まったのがラビット4であった。私と政子は事前にこのバンドのことを結構研究していたので、しっかりとモニターを見ながら聴いていたが、予備知識が無かった風の和泉が途中から
 
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「なんかこの人たち凄いね」
と言って、私の横に座った。
 
「ここ数年、★★レコードは集団アイドルを抱えたKGレコードに次ぐセールスをあげてきたけど、経営方針を間違えば2年後には∂∂レコードがトップの座に就くだろうね」
と私は言った。和泉もかなり厳しい表情で彼らの演奏を見つめていた。
 

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チェリーツインは14:00からの演奏で、今日は「歌わないボーカル」気良星子・気良虹子姉妹も、普段は樹木とかドラム缶等に擬態させられている「顔出しNGの代理歌唱者」少女X・少女Yも、更にドラムスの桃川春美さんも振袖を着ている。少女X・少女Yは今日は振袖を着たまま顔だけアイスホッケーのマスクで隠している。
 
後から少女Yと親しいらしい美空から聞いたのでは、紅ゆたか・紅さやかの2人まで振袖を着せられそうになったのを何とか逃げたらしい。
 
「まああの2人の女装は見たことあるけど笑うしかないから」
などと美空は言っていた。
 
チェリーツインの7人は本業(?)が北海道の牧場のお仕事なので、夕方の便で北海道に戻り新年はその牧場内で迎えるということであった。
 
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ゴールデンシックスは15:00からの演奏で今日の演奏者はリノン(Gt1)・カノン(KB)の他は、マノン(Gt2,佐小田真乃)・キョウ(Dr,橋口京子)・ノノ(B,橋川希美)・タイカ(Vn,長尾泰華)という6人構成であった。泰華さんが参加していたのには驚いたが、千里に引っ張り出されたと言っていた。
 
ゴールデンシックスは今夜の安中榛名でのローズ+リリー・カウントダウンライブにゲスト出演してくれるので、こちらのステージが終わったら移動するということであった。ただこちらのライブに出たメンバーと安中榛名に行くメンバーはまた違うらしい。このバンドは正式メンバーはカノンとリノンの2人だけで、残りは「ゴールデンシックスと愉快な仲間たち」の中から適宜都合のつく人が参加するという方式である。過去にやったツアーでも日によってメンバーが違っていたらしい。「愉快な仲間たち」の人数はファンサイトの分析によると50人を越すようである。むろん美空もその1人だ。
 
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「じゃ先に行って待ってますから。それと今夜のカウントダウンライブの後半は私たちが演奏するからよろしく〜」
などとリーダーの花野子(カノン)は言っていた。
 
ゲストタイムのラストでは私と花野子がカラオケ対決をして勝った方が後半のステージをやるということになっている。むろん勝負はガチである。
 

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KARIONのステージは17:00に始まる。
 
直前に演奏していたのはリダンダンシー・リダンジョッシー(略称リダン♂♀:これで「リダンリダン」と読む)というバンドで、その演奏が16:55に終了。正確には演奏自体の終了は16:54で、そのあと歓声に応えたりして16:55に退場完了する。ステージ設営スタッフが出て行く。
 
大急ぎでセッティング作業が行われる。ドラムスは揃えられた状態で板の上に乗せられているので、信号線だけ外し4人で板ごと抱える方式でリダン♂♀のドラムスを僅か30秒で撤去。そのあとトラベリング・ベルズのドラムスを1分でセットし音出し確認する。キーボードやギター・ベースの電気・信号線の接続も確認する。
 
作業は主催者側のチームが12人がかりでやっているが、この手の作業に慣れている人ばかりでひじょうに手際が良かった。
 
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16:58には演奏可能な状態になるので、すぐにトラベリング・ベルズおよび追加伴奏者がステージに上がる。彼らの手で音出し確認を再度する。17:00ジャスト。ステージ下手から、美空・私・和泉・小風の順でステージに出て行く。
 
歓声があがる。
笑顔で手を振る。
 
SHINさんの合図で琵琶奏者がパラーン、パララーン、パラン・パラン・パランと強烈な琵琶の音を鳴らし始め、やがてDAIさんのドラムスがビートを刻み始める。他の演奏者の音も始まる。
 
そして私たちは『黄金の琵琶』を歌った。
 
今年のYS大賞優秀賞を頂いた曲である。ひじょうにクォリティの高い曲だと審査員の先生も言っていた。曲を書いたのは青葉で彼女の渾身の作品であるが、それ以上に神がかった琵琶の音が物凄いのである。風帆伯母は「これは神様が演奏したような音だ」とも言っていた。今回お願いしている琵琶奏者さんも最初にCD音源を聴いてから、恥ずかしくない演奏をできるようになるため1ヶ月必死で練習したと言っていた。
 
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なおCDに収録した琵琶の音は、青葉の友人・空帆のお祖母さんが演奏してくれた「仮音源」をそのまま最終作品に残したものである。誰にもそれ以上の演奏ができなかったからである(本人にも二度とできないらしい)。
 

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今日のKARIONの演奏時間は24分なので演奏できる曲目は5曲が限界である。他のアーティストはMCを入れて3〜4曲構成にしていたが、私たちはMCを短めにして5曲詰め込んだ。
 
『黄金の琵琶』で和楽器を多用したので、そのままやはり和楽器をフィーチャーして『アメノウズメ』、それから和楽器の人たちが退場して代わりにコーラス隊を入れ『たんぽぽの思い』、この時期にぴったりの大ヒット曲『雪うさぎたち』と演奏し、最後は『Crystal Tunes』で美しく締めた。
 

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17:25に出番が終わると、すぐに移動開始である。舞台衣装の上にそのままジーンズとトレーナーを着込み、ダウンコートも着て、スタンバイしてくれていたバイク4台の後部座席に1人ずつまたがり、600mほど離れた東京駅に急行する。そして17:40発のあさま621に無事乗ることが出来た。
 
政子とお目付役の甲斐窓香(UTP)は先に東京駅に入って新幹線ホームで待機していたので、6人でグランクラスの席(横3席)2列を占有して座る。
 
「おお、ローズ+リリーのおかげで私たちまでいい席に座れる」
などと美空が喜んでいた。
 
ふだんKARIONは普通のグリーン席である。
 
なお国際パティオのKARIONの出番に最後まで付き合っていた花恋およびトラベリングベルズのメンバーはひとつ遅い便で安中榛名に向かうことになっている(東京18:40→19:43安中榛名)。
 
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KARIONの4人はみんな汗を掻いた服を着替えずに来ていたので、新幹線の車内で下着から交換した(着替えは窓香が持って来てくれている)。
 

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18:44に安中榛名に到着する。氷川さんがエスティマを持って来ているので、それに6人で乗り込み会場に向かう。
 
「お疲れ様でした」
と氷川さんが声を掛けるが
 
「いや、バイクで駅に急行して、そのあと新幹線のグランクラスに乗るとか、VIPになった気分」
と美空が言う。
 
「KARIONも売れたらいつもそういう待遇になりますよ」
と氷川さん。
「だったら蘭子にいい曲書いてもらわないと」
と小風。
 
私は頭を掻いていた。
 

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会場入りしたのが19時前である。観客は7割くらい入っている。前座をしてくれるムーンサークルがもう準備完了している。彼女たちはお昼過ぎ会場に入って軽くリハーサルしていたらしい。早い観客は12時頃から並んでいたというが彼女たちのリハーサルが終わった15時に会場を開けた。外で長時間待つのはとても辛い(男性客が立ち小便などしないようにスタッフが見ていて、適宜仮設トイレに誘導していたという)。
 
19:30にムーンサークルの前座が始まる。1980-1999年の各年のヒット曲を1曲ずつ歌うというもので、選曲は次のようになっていた。
 
1980 ダンシング・オールナイト(もんた&ブラザーズ) 
1981 長い夜(松山千春) 
1982 セーラー服と機関銃(薬師丸ひろ子) 
1983 SWEET MEMORIES(松田聖子) 
1984 桃色吐息(高橋真梨子) 
1985 スターダスト・メモリー(小泉今日子) 
1986 フレンズ(REBECCA) 
1987 夢をあきらめないで(岡村孝子) 
1988 乾杯(長渕剛) 
1989 Diamonds(プリンセス・プリンセス) 
〜Break〜(天麩羅岸弾による演奏) 
1990 浪漫飛行(米米CLUB) 
1991 夏祭り(JITTERIN'JINN) 
1992 少年時代(井上陽水) 
1993 渡良瀬橋(森高千里) 
1994 時代(中島みゆき) 
1995 残酷な天使のテーゼ(高橋洋子) 
1996 空も飛べるはず(スピッツ) 
1997 White Love (SPEED)  
1998 Time goes by (Every Little Thing)  
1999 Automatic(宇多田ヒカル) 
 
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(MC:高崎ひろか) 
 
選曲したのは加藤課長である!
 
基本的にはその年だけ大きく売れた歌より後の時代まで歌い継がれている歌、特定の層に売れた歌より広い世代に売れた歌を優先して選んだという本人の弁であった。また歌い手が女性なので、どちらかというと女性歌手のヒット曲を優先している。
 
先頭を今夜の趣旨に合わせて『ダンシング・オールナイト』『長い夜』にし、最後は『Automatic』にすることだけ決めて、加藤さんは選曲していったらしいが、あまりヒット曲の無かった《外れ年》で結構悩んだらしい。
 

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「でもこれ見てみると、物凄く売れた人でも本当のピークってせいぜい3年くらいですよね」
 
と私は最終的に選ばれた曲目リストと、加藤さんが「候補曲」として挙げていた曲目名の作業リストを見ながら言った。
 
「うん。流行歌は歌の寿命も短いけど、歌手の寿命も短い。長く活動している人はいるけど、爆発的なヒットは初期の数年に限定される。何十万枚というセールスを毎回出すアーティストも存在するけど本当に売れているんではなく特定の固定ファンに買い支えられているだけだよ」
 
と加藤さんは言う。
 
「中島みゆきはちょっと変わったアーティストですね。間欠泉型というか」
 
「そうそう。たまにそういう人がいるんだよ。中島みゆきは代表作ともいうべき『時代』は1975年に出た曲だけど、当初はそんなに売れていない。しかし毎年卒業シーズンになると売れるという現象が起き、中島自身が1993年末に新録音を出している。今回1994年に入れたのはそういう事情なんだけどね。彼女は1977年『わかれうた』1981年『悪女』1992年『浅い眠り』と来て1994年『空と君のあいだに』1995年『旅人のうた』だけが連続ヒット。そして2000年に最大のヒット曲ともいうべき『地上の星』が出ている」
 
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「凄いですね! ほんとに何年かに1度突然売れるんだ」
 
「結果的にピークがいつなのかよく分からない人だね。でもそういう売れ方ができるというのは、地道に活動を続けていて、鍛錬も怠っていないからだよ。かつては物凄くうまかったのに、今では歌唱力が衰えまくって、もう聴きたくないという歌手も多い」
 
「日々練習しているかどうかですね」
「うん。マリア・カラスは死ぬ直前まで、物凄い歌唱力を維持していたからね」
 

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ムーンサークルを途中少し休ませるための休憩の間に登場する天麩羅岸弾は性別不明・年齢不明と称する覆面の集団による電気楽器演奏である。名前はもちろんテンプル騎士団をもじったものだが、メンバーは天麩羅の絵の描かれた割烹着を着ている。
 
今回リハーサルのビデオを見せてもらったが、ベンチャーズのDiamond Head, Walk Don't Run(急がば回れ)、アストロノーツのMovin'(太陽の彼方に)、レインボウズのMy Baby Baby Balla Balla と1960年代のエレキ・ロックを演奏していた。
 
みんなしっかりした演奏をしていて良い風情だった。
 

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私と政子は1時間ほど仮眠させてもらい、21時前に起きだした。ムーンサークルの歌は『Time goes by』がもうラスト付近である。あとは『Automatic』を歌ったあと、自分達のデビュー曲を歌って完了となる。
 
そして私たちのステージは22時からである。私はムーンサークルがスイート・ヴァニラズから提供された『マカロニコロッケサンド』を歌い終わった所で政子を起こした。
 
「うーん。よく寝たぁ。おはよう」
「おはよう」
と言ってキスする。
 
ステージではムーンサークルは最後の曲『恋は運まかせ』を歌っている。
 
「あ、これ私たちの曲だ」
「うん。これで前座は終了。今度は私たちの番だよ」
「よし、頑張るか」
「うん。頑張ろう」
と言って再度キスする。
 
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夏の日の想い出・振袖の勧め(8)

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