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■夏の日の想い出・振袖の勧め(3)

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その日織絵(XANFUSの音羽)は2014年に私がXANFUSに貸した3億5千万のうち取り敢えず2億円を返したいと言ってマンションに来訪し、口座を確認の上その場で振り込んでくれた。この日、美来(光帆)は二日酔いでダウンしていると言っていた。
 
「年明けたら全額も返せるんだけど、アルバム制作資金を留保しておきたいから、残りは来年末くらいにさせて」
 
「うん。それでいいよ。でも全部自分たちで出すと、結構お金が掛かるでしょ?」
「掛かる掛かる。でも代わりに自由があるからね」
「今年のXANFUSのアルバムは品質が良かったと思う」
「まあ霧(みすと:スリーピーマイスのティリー)さんのお陰だけどね」
「あの人は割と初期の頃からXANFUSに関わってたんでしょ?」
「そうそう。最初のアルバムの時からね。私たちの出世作『Down Storm』もあの人が『これいい』と言ってくれて麗子(スリーピーマイスのレイシー)さんがアレンジしてくれたんだよね」
 
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「いいプロデューサーさんを得るのは大きいね」
「ローズ+リリーも雨宮先生との出会いが大きいでしょ?」
「うん。雨宮先生がいなかったらローズ+リリーは誕生していなかったし、ここまで来られなかった。あくまで『影の仕掛け人』だけどね」
 

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「ところでさ、冬、アクアと丸山アイとフェイについて議論してみたい」
などと音羽は言った。
 
「アクアは普通の男の子、丸山アイは多分手術済のMTF、フェイは不確かだけど両性半陰陽だと思う」
と私は現時点での想像混じりの予測を言う。
 
「アクアって男の娘じゃないの?絶対女性ホルモンやってるとにらんでるんだけど」
「アクアは性的な発達に関する外来を定期的に受診しているよ。男性ホルモンの投与を勧められているけど拒否している。そもそもやはり小さい頃の大病のせいで性的な発達が遅れている。でも今の自分の状態、性的なモラトリアムをもうしばらくむさぼっていたいんだよ。女になりたい訳ではないけど、まだしばらく男にもなりたくないんだな」
 
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「難しいな。丸山アイって手術済のFTMなんじゃないの?」
 
「氷川さんが彼女と女湯で遭遇しているんだよね。つまり女の身体なんだと思う。本人は女から男への性転換手術を受けたなんて主張しているけど、反対なのではないかと想像している」
「性転換手術してるんなら、そうだろうね。あの子、普通の女には見えないんだ」
「そもそも性別曖昧だよね。だからMTFよりMTXに近いんだと思う」
「そのあたりか。フェイが半陰陽という根拠は?」
 
「青葉があの子の性別は分からないと言うんだよね」
「それっていわゆるチャクラの回転方向が曖昧ということ?」
「そうなんだと思う。私たちみたいなMTFにはしばしば回転が混乱している人がいる。あと女子スポーツ選手で凄く強い人には男性型回転が混入している人がいる。それでもたいていはどちらかが優勢なんだけど、霊能者が見て判断が付かないというのは、半々に近いんだと思う。すると両性半陰陽の可能性もある」
 
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「あの子の性別情報はほんってに分からないんだよね。男の子ですよ、という話と女の子ですよ、という話をほぼ半々に聞くし」
 
「私もそうなんだよねー」
 

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「そういえば少し古い話だけどさ」
と音羽は言った。
 
「去年2014年のサマーロックフェスティバルの打ち上げの後でさ、あの宴会に出ていた中に性転換者が何人居たかって話したじゃん」
 
「うんうん。あれ私もずっと気になっていて」
と私も答える。
 
「あれ醍醐春海さんと何気なく話していて、彼女が5人と言ったんだよね」
「あの子って、天性の巫女だから、そういう時ってどこからか降りてきた言葉を言っているんだよね。だから私も醍醐に訊いてみたけど本人にも分からないと言っていた。ただ、これはあくまで男性から女性に変わった人数だと言っていた。だから女性から男性に変わった八重垣さんは含まない」
と私は言う。
 
「ああ、やはり八重垣さんは入らないのか」
「取り敢えずこの5人かなあというのは最近考えたんだけど、ひとりは実は微妙なんだよね」
と私は言う。
 
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「だったら私も分からないや。実は八重垣さんがFTMだっての最近知って」
「ああ、そうだったんだ」
「なるほどー。これで5人かと思ったんだけど、八重垣さんが入らないならまた振り出しに戻るな」
と織絵は言う。
「へー。織絵も八重垣さん以外で4人見つけたのか」
と私。
 
「あの時、私もすぐ思いついたのが、冬、醍醐さん、近藤うさぎさんの3人」
と織絵。
 
「醍醐は自分の性転換の時期とかをネタにしてたからね」
 
「私、ひとりはチェリーツインの桃川春美さんかと思ったんだ」
と私は言う。
「あの人、性転換者なんだっけ?」
 
「うん。ただあの人、まだヴァギナを作ってないらしい」
「へー」
「そういう訳で桃川さんは人数に入るのかどうか微妙なんだよ」
「ふむふむ」
 
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「ところが最近、ひとり確実に性転換していた人が分かったんだよね」
「へー!」
 
「プライバシーに関わるんで名前出さないけど、あの時出席していたスタッフで完全に性転換していた人がいたんだよね」
と私は言う。
 
「それって伴奏者?」
「ううん。違う」
 
「だったら私が考えた人とは別だ」
と織絵が言った。
 
「伴奏者の中に性転換者が居たの?」
と私は訊く。
 

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「ねえ、ここだけの話ということにしてお互い人には言わない約束で、お互いが考えていた性転換者の名前をここに書き上げない? せーので見せて、その後その紙は確実に廃棄」
と織絵は提案した。
 
「それもいいかもね」
と言いつつ、こうやって秘密って人に伝わっていくんだな、とも思う。
 
私は
 
唐本冬子(ケイ・蘭子)、村山千里(醍醐春海)、近藤幸(近藤うさぎ)、八雲礼朗(女性名:礼江)
 
と書いた。
 
「せーの」
で見せる。
 
織絵の紙には
 
唐本冬子(ケイ・柊洋子)、高園千里(醍醐春海)、近藤うさぎ、黒井由妃(yuki)
 
と書かれていた(織絵は千里が桃香の戸籍に入っているものと思っていたらしい)。
 
「え〜〜〜!? 八雲さんって、女の身体なの?」
と織絵。
「うっそー! yukiちゃんって、元男の子だったの?」
と私。
 
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「八雲さんは会社に入って間もない時期に性転換手術を受けているらしい。その後ずっと仮面男子状態」
「よく会社在職中に性転換できたね」
「有休とって手術受けて、一週間で仕事に復帰したらしいよ」
「すげー! やはり冬みたいな人はいるんだ。冬も性転換手術の1週間後にライブに出たって言ってたよね?」
「1ヶ月後なんだけどなー。どこでそういう話になってるんだろう」
 
「冬が性転換手術を受けたのって2009年1月5日って冬の同級生から聞いたよ。例の騒動で帰国していたマリのお父ちゃんが1月4日にタイに再渡航したから、それに付いていって入院して、翌日手術を受けたんだって? それで1月11日に関東ドームでドリームボーイズのバックで踊っている。だから6日後か」
などと織絵はスマホを見ながら言っている。
 
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そんな話は私も初耳だ!同級生って誰だ!?
 
「私性転換したの2011年4月3日なんだけどー。それで1ヶ月後の5月4日にローズクォーツのライブをふらふらの状態でやって」
「18歳未満で年齢を誤魔化して手術したの隠したいのは分かるけど、今更そんな誰も信じないような嘘は言わない方がいいよ」
と織絵。
「そんなぁ」
 
「もうひとつ美空から聞いた話はまた違ってて、冬は2007年の12月26日に新宿の病院で性転換手術を受けたって。24日と25日にKARIONでクリスマスイベントに参加して、その後少し休ませてと言って26日のイベントには出なかったから、たぶん26日に手術を受けたのではと言ってたんだよね。それで2008年1月4日にKARIONのデビュー記者会見とイベントでピアノとヴァイオリンを演奏しながら歌っているからこの場合、9日後になるな」
と織絵。
 
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うん。その話はあちこちで聞いた!どうも美空が言いふらしたようだ。千里や和実までその話、信じているし。
 
「由妃は両親が手術受けるなら早い方がいいと言って、高校1年の夏休みに性転換手術を受けさせてくれたらしいんだよ。16歳になってすぐ」
 
「すごーい。でもやはり性転換手術の下限は16歳なんだね」
「うん。よほどの特殊事情がない限り、ゆるい所でも16歳以上。その手術はロシアで受けたんだって」
「ああ、ゆるい病院がありそう」
 
「私も全然知らなくて。最近になって、え?あんたyukiちゃんが元男の娘だったと知らなかったの?と美来に言われて」
「ふむふむ」
 
「でも早く手術したおかげで高校は3年間女子制服で通えたらしいんだよね。中学の時は由紀夫の名前で、詰襟の学生服で3年間過ごしたから、それがもう苦痛で自殺をはかったこともあったって。それで両親も手術を受けさせてくれたみたい」
 
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「まあ死なれるよりいいよね。息子が娘になってしまっても」
 
「そうそう。でもあの子ってほんとに自己矛盾をいろいろ抱えていたみたい。小さい頃フライト・アテンダント志望だったから、そのためにも早く女の子になりたかったらしいけど、そんなこと言ってた割に英語が全然ダメで」
 
「それは厳しい」
「名前自体が黒井由妃って苗字と名前が矛盾している」
「まあ結婚する時に矛盾しない苗字の人と結婚すれば」
 
「きっと君は赤井さんとか青居さんと結婚するに違いない、とみんなでからかっている」
 
「ああ、ありそう」
 
「でもこれで1年半以来の疑問が解決した」
「私も」
「じゃこの話はお互い忘れるということで」
「OKOK」
 
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それで私は2枚の紙をシュレッダーに掛けてしまった。
 

年末年始の特別番組のため『ねらわれた学園』の放送は12月14日の放送でいったん休止になるが、1月4日には1時間スペシャル(17:00-18:00,普段は17:00-17:30)で「関耕児vs高見沢みちる・2年3組での対決!」が放送されるという予告がなされていた。
 
ここまでの展開では生徒会長に当選した高見沢みちるが代表委員有志によるパトロール隊を結成し、校内の風紀取り締まりを始める。最初はカツアゲをしていた生徒たち、タバコを吸っていた子たちなどがつかまり、特設掲示板と生徒会のホームページに名前を張り出され、当該クラスの学級会で処分を決められた。
 
最初はそのように誰もが「悪いこと」と意識するようなことが摘発されていたものの、パトロール委員の摘発は次第にエスカレートしていく。マニキュアをしていた子、スマホを持ち込んでいた子、廊下でボール遊びをしていた子たちなどが摘発され、また階段の手摺りにまたがって滑っていた子、廊下のポスターに悪戯書きしていた子(今井葉月)なども摘発されていく。但し悪戯書きしていた子はパトロール委員が寄ってくる前にヒロインの楠本和美(元原マミ)がうまく逃がしてやり、処分を免れた。
 
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年内最後の放送では野球部の吉田君(鈴本信彦)がボールを取りに行こうとしてオーバーフェンスしたのをパトロール委員に捕まり、吉田君は学級会議に掛けられることになった。
 
番組の最後に流れた予告編では、次回は関耕児(アクア)が議長を務める2年3組の学級会議でその吉田君の処分が話し合われることになるが、ここに生徒会長・高見沢みちるが臨席して議事を「見守る」ことが、洗脳されているクラスメイト・西沢響子(馬仲敦美)によって語られた。
 
物語中盤の山場である。
 
そしてその予告を見た視聴者の間では「とうとう高見沢みちるがその顔を見せるのでは?」という声が大きく巻き起こったのである。
 
前宣伝としては充分である。
 
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夏の日の想い出・振袖の勧め(3)

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