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■Les amies 結婚式は最高!(10)

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その日は仙台市内のホテルに泊まった。宿泊事情が悪いので本来シングルの部屋にエクストラベッドを入れて2人泊まる。晃は篠崎さんと同室になった。晃はそもそも「女性美容師」としてこのボランティアに参加している。しかしさすがに女性と同室になるのはマズいかと思い、責任者の人に自分の性別問題を説明して、分けてもらおうと思ったが、篠崎さんの方が「私、知らない人と一緒になるより、アキさんと一緒の方がいいです」などというので、そのままにした。
 
取り敢えず部屋の中のコンセントに電気が来ていたので、持参の3個口テーブルタップで分岐して、ふたりの携帯電話の充電をした。
 
充電しながら晃は小夜子に電話をする。被災地の状況を聞かれるのでできるだけソフトに説明する。あまり精神的なショックを与えてはいけない。しばらく通話していた時、メールをしていた篠崎さんが携帯のふたを閉じた。その音が伝わる。
 
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「あれ?誰かと同室?」
「あ、えっと篠崎さんとね」
「ああ! でもアッキーは男の人と同室にはなれないもんね。ね、ちょっと代わってくれる?」
「うん」
 
篠崎さんは電話を替わってと言われて「え!?」と言ったものの小夜子と知らない間柄でも無いので代わって「もしもし。お世話になります」と話す。
 
「こないだ、私の結婚式の時は着付けしてもらって、ありがとうね」と小夜子。「いえいえ。こちらこそ不慣れで面倒掛けました」と篠崎さん。
「晃は戸籍上は男でも無害だから今夜は心配いらないよ。晃の胸を触ってみて」
「あ、それは触りました。バスト大きいです」
「じゃ、晃のお股を触ってみて」
「えー!?」
「私が許可するから」
 
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傍で聞いていた晃も笑って、篠崎さんの手を取り自分のお股にスカートの上から触らせる。篠崎さんが驚いたような顔をする。
 
「何も付いてないです!」
「ね? だから安心してね。でも着替える時やお風呂入るときは目を瞑るように言っておくと良いよ」
「はい、そうします。でも晃さん、もう女の身体になっちゃってたんですね!」
 
晃はそう言われて頭を掻いていた。
 

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震災直後の関東は日々の「無計画停電」で大混乱していたが、日が経つにつれ少しずつ日常の生活が戻って来た。続く余震にも多くの人が慣れていった。
 
そんな連休明けの3月22日。この日は本来は小夜子と晃の結婚式だった。自分が妊娠して晃が「それならすぐにも結婚しよう」と言い出さなかったら、自分たちは結婚式を挙げられたのだろうか、と疑問に思った。
 
各地で様々なイベントが中止になっている。仕事の上でもキャンセルや延期の申し入れが相次ぎ、社長も頭を抱えていた。仕事での移動中にラジオなど聴いていると、結婚式を延期したという話も多数出ていたし、中には仙台の人から当日結婚式の予定で友人が仙台市内に集まってくれていたのに、その友人の中でまだ連絡が取れない人がいるなどという投稿まであった。全然他人事では無かった。
 
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その日も朝から小夜子は、頼むことにしていた仕事をいったん延期させて欲しいという申し入れがあり対応をしていた。延期させて欲しいというのにあれこれ言えないが、こちらはそれに向けてバイトのオペレータを3人雇うことになっていた。社長とその子たちをどうするか話し合ったが、社長もこの一週間こういう話ばかりで少し疲れている感じだった。
 
社長、専務、小夜子の3人で人員問題を近くのレストランの個室で話し合い、3人がオフィスに戻ったとき、そこに意外な人物がいた。
 
「トシちゃん!?」
「ごめーん。専務。婚約解消して戻って来た。退職金返すから復職させて」
「はぁ!?」
「婚約解消!?」
 

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会議室に4人で入り、事情を聴く。
 
「お腹空いた〜!」などというので、おやつを出して来て、徹夜作業する時のためにストックしているレトルトカレーとサトウのごはんをチンして食べさせる。
 
「人心地付いた!まあ、とんでもない災害に遭った上に、避難所でストレスが大きいのもあったんだろうね。小さい揉め事はあったんだけど初七日まではこちらも我慢してたんだよね」
 
彼のお父さんは結局遺体で見つかったらしい。また従業員もふたり亡くなっていた。旅館は全壊で跡形も無し。残ったのはがれきで埋まった土地と4億円の借金のみ、ということだった。彼はこうなった以上、もう会社を清算して事業廃止するしかない、と言ったらしいが、お母さんは何とか銀行からお金を借りて旅館を再建したいと主張したらしい。
 
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「それで銀行からお金を借りるのに、私や私の親とかに保証人になって欲しいと言われたのよね。でも、この地震の後に建てるならかなり建築基準が厳しくなるでしょ?多分3億は掛かると私は踏んだ。借金が既に4億あるのに更に3億なんて無茶。それに売り物の海水浴場もがれきで埋まってる。復旧に2-3年は掛かるよ。これだけ地震が続いてたら観光客も来ない。経営が成り立つ訳無い」
「確かに厳しそうだね」
 
「だから私は断った。それなら結婚させないと言われた」
「あぁ」
「それで私、お母さんと口論になって」
「じゃ、それでお母さんと対立して婚約解消になっちゃったの?」
 
「お母さんとの口論はまだいいんだよ。問題は私とお母さんが揉めてるのに彼が何も言ってくれないんだよね」
「ふたりの口論が凄すぎて口が出せなかったのでは?」
「トシちゃん手が早いし」
「ああ、殴り合いはしたけどね」
「ひゃー」
 
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「偶然避難所に巡回してきていたおまわりさんに喧嘩は停められたんだけどね。それでもう帰ると言って、向こうももう来るなと言うし、避難所飛び出してヒッチハイクで東京まで戻ってきた」
「わあ・・・・」
 
「一応、避難所出る前に自分の親には連絡した。それならもう帰っておいでと言われた。迎えに行くよと言われたんだけど、あまり長くそこに居たくなかったから、何とかすると言って国道まで歩いて行って、あとは南に行く車に乗せてもらって。最初の人が郡山まで、次の人が宇都宮まで乗せてくれて、3台目の人が北千住まで乗せてくれたから、その後ここまで歩いてきた。宇都宮まで乗せてくれた人が、おにぎり分けてくれた」
「良かったね」
 
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「とりあえずどうするの?」
「私、今無一文なのよ。キャッシュカードとかも津波で流されちゃって。誰か少しお金貸して。カード再発行されたら返すから」
「これあげる。返さなくていい」
と言って、専務が財布から3万円出して渡した。
「ありがとうございます」
 
「でも取り敢えずどこに泊まるの?お兄さんとこ?」と小夜子。
「あそこ、2DKに夫婦と子供3人住んでるからなあ。親のとこじゃ通勤辛いし」
 
寿子の実家は木更津である。ここまで3時間近くかかるはずだ。
 
「私のうちに泊まりなよ」と社長。
「部屋の空きあるよ。私、一応独身だしさ」
「ありがとうございます。助かるかも」
「夜が寂しかったら、彼氏貸してもいいし」
「ああ、借りたい気分」
 
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そういう訳で寿子は取り敢えず「臨時雇い」のまま運用部長で復帰した。震災の影響で仕事のキャンセル・中断・延期も相次ぎ少し意気消沈していた社内に明るい寿子の存在があると、みんな少し元気が出る感じであった。
 

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晃の被災地ボランティアは、1度目は3月16日から19日までの4日間行われた。本来は6日間やる予定だったのだが、参加者の消耗が激しいので4日で切り上げたのである。その次の週は最初から4日間の計画となって、23日から26日まで内村さんが行ってきた。そして30日から4月2日まで再度晃が行った(篠崎さんは前回が辛かったのでパスした)。
 
4月2日の土曜日、お昼を同じ班の美容師さんたちと一緒に仙台市内のファミレスで食べていたら
「あれ? もしかして、松阪さんの・・・・奥さん?」
と声を掛ける人がいる。
「あ、はい?」
と晃は返事したが、見覚えが無い。でもそうか!自分は結婚している女性だから『奥さん』なんだ! 晃はちょっと新しい発見をした思いだった。
 
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「あ、すみません。私、松阪さんの同僚の井深の婚約者です」
「ああ!」
 
彼が少し話したがっている感じだったので、晃は他の美容師さんたちに断って彼と同じテーブルに移った。
 
「こちらへは何かのお仕事ですか?」と彼。
「私、美容師をしていて、避難所の方々の洗髪とヘアカットのボランティアに来てるんですよ」
「ああ、それはご苦労様です」
「そちらはどうですか」
 
「昨日、裁判所に旅館の破産申請をしました。私と母の個人の破産も同時申請。借金の保証に入ってるから一蓮托生です」
「わあ」
「実は、寿子の様子をご存じないかなと思って。本人と連絡が付かないので1度ご実家の方に電話したのですが、とりあえず前の職場に復帰したということだけは聞いたものの、本人の居場所とか電話番号とかは教えてもらえなかったもので」
 
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「・・・・知人の所に身を寄せてますよ。まあ元気にお仕事しているようですがどこにいるかとか、本人が言いたがらないのを私から教える訳にはいきません」
「そうですよね」
「でも、そちらはその後、どうなったんですか?」
 
「いや、大変でした。活動拠点が無いとどうにもならないので、まずは仙台市内に1Kのアパートを借りて取り敢えずの住居兼臨時事務所にして、中古車を1台東京の友人に買って持って来てもらって。宮城じゃそもそも中古車屋さんが軒並み被災して買うこともできないんですよ」
「ああ」
 
「それで、従業員のいる避難所を回って、当面事業の再開は不可能だから失業保険がもらえるように解雇するということで納得してもらって、3月4月分の給料と退職金を渡してきました。亡くなったふたりの従業員の家族には給料と退職金の他に補償金の暫定額として300万追加で渡して、最終的な金額については後日話し合うことにしました。それから東京の弁護士さんに頼んで破産申請の書類を作ってもらって、やっと出してもらった所です。もうめまぐるしい半月でしたよ」
「ほんとに大変でしたね」
 
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「母を説得して事業廃止を納得させるのに苦労しました。再開しようにもすぐには不可能な状態ですから。営業できない状態で、給料と税金を払っていくのも無理ですし。しかしここ10年赤字続きで借金がかさんでたから単純に清算する訳にはいかなくて。破産するしか選択肢がありませんでした。取り敢えず私と母の二人で取締役会して私を代表取締役に選任してもらい、代表取締役の権限で、とりあえず従業員の給与を渡して解雇することと、破産の申請をすることを決めたんですけどね」
 
「じゃ、今はお母さんと仙台のアパートで2人暮らしですか。お母さんどうです?」
「ええ。でも20歳でお嫁に来て以来30年ずっと旅館の女将として働くだけでその他何もしてなかったから、何をしていいのか分からない感じでぼーっとしてます。かなり落ち込んでて、自分も死ねば良かったとか、亡くなった従業員さんに申し訳無いとか、寿子にも悪いことしちゃった。戻って来てくれないかな、などと昨日など言ってたんですけどね」
 
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「あなたの気持ちはどうなんです?」
「いや、私はなんかずっと忙殺されてて」
「もう寿子さんを愛してないんですか?」
 
彼はハッとしたような顔をした。
「好きです。結婚したいです」
「だったら、それを本人の所に言いに行ったらどうです?」
 

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4月4日。小夜子はふだん通り会社に出て行き、震災直後に仕事の延期や中断を申し入れてきた顧客に様子を伺う電話をしたり、またよく仕事を回してくれるメーカー系の販売店に連絡を取ったりしていた。今月に入ってから外回りをせずに社内で仕事をすることにしていたのだが、5年間営業の仕事をしてきているので、外に出て行かないのは何だか変な気分だ。その分、部下の藤咲さんが飛び回っている。
 
そして11時半頃、会社に男性の訪問者がある。たまたま入口の近くに居た小夜子が応対したが、小夜子はその男性の顔に見覚えがあった。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
向こうも小夜子の顔を知っている。
「あのぉ・・・寿子は居ますでしょうか?」
「待っててね」
 
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と言うと、小夜子は生体認証でオペレーション・ルームに入り、今月入社したばかりの新人の女の子に何か指導していた寿子に声を掛ける。
「井深部長、お客様です」
「誰?」
「行けば分かるよ」
 
寿子は何だろ?という顔をしながらオペレーションルームを出て入口の所へ行く。とたん不機嫌になった。
「何か御用で御座いましょうか?」
「話を聞いて欲しい」
「わたくしはお話しすることなど御座いませんが。それに今多忙ですし」
「トシちゃん、どこかで一緒にお昼でも食べておいでよ。こちらは私がフォローしとくからさ」
 
寿子は不満そうだったが、自分のバッグを取ってくると、彼と一緒に出て行った。
 
奥の席で様子を見ていた専務がやってくる。
「今のがトシちゃんの彼?」
「ええ。うまく行くといいですね」
「ほんとにね!」
 
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