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■Les amies 結婚式は最高!(9)

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(c)Eriko Kawaguchi 2012-07-14
 
3月9日11時45分。東北地方をM7.2の地震が襲った。東京でも震度3揺れたので小夜子はすぐに寿子に電話を入れた。上手い具合にすぐつながった。
 
「今の地震、大丈夫?」
「ああ、平気平気。今被害状況を調査中だけど、お客さんも残ってない時間帯だったしね。いくつか使えない部屋が出るかも知れないけど、明後日みんなを泊める部屋は意地でも確保するから、心配しないで」
「怪我が無かったのなら良かった」
「ああ、私って運が強いから、こういうのは大丈夫だよ。これまで車を3回大破させたけど、無傷だったしね」
「いや、それは運というか、3回も大破させる方に問題があるというか」
 
結局後でメールで入ったのでは、古い建物なので天井の板が落ちたりして使えなくなった部屋が5つ出たらしいが、客の少ない時期なので、みんなを泊めるには全然問題無いということだった。ガス設備なども専門家にきちんとチェックしてもらったらしい。
 
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そしてその2日後、3月11日。社長や専務、小夜子たちは夕方から東北に行くので区切りがうまくつくように仕事を進めていた。小夜子自身は現在13週目で結構つわりが来ていたが、今のところ比較的軽く済んでいた。「つわりが軽いなら男の子かもね」などと周囲からは言われたが、小夜子はむしろ女の子のような気がしていた。
 
そんな14時46分過ぎ。営業で客先にいた小夜子も、美容室でお客さんの髪をカットしている最中だった晃も、震度5の地震に驚愕する。晃は椅子から滑り落ちてしまったお客さんを反射的に受け止める形で床に座り込んだ。
 
小夜子は妊娠中というのを気遣ってくれた客先の社長さんがかばってくれて、棚から落ちてきた箱などが身体に当たらずに済んだ。
 
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どこも大混乱であった。
 
晃は大きな声で「みんな落ち着いて!」と叫ぶ。店長が晃の所に寄ってきて「これ、避難させた方がいいと思う?」と訊く。
「まだ余震来ますよ。下手に避難すると、物が上から落ちてくるかも。こんな大きなビルは簡単には倒れません。たぶん、ここにいた方が安全」
店長も頷く。
 
そこで店長が
「みなさん、このビルは震度6強の地震に耐えられる耐震設計がされています。このビルが倒れることはまずありません。でも不安な方はすぐお帰りになってもいいと思いますが、落下物に注意してください。今日はお代はよいですから。カットやパーマが中途になっている方は、取り敢えず区切りのいい所までしてから、退出なさいませんか?」
と呼びかけた。
 
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パーマ途中だった客が1人、帰りたいと言ったので、スティックを外して送り出す。他の客は区切りのいい所まで、あるいは最後までやって欲しいと希望したので、施術を再開し、できるだけ素早く作業を進めた。
 
店内にラジオの放送を流す。
 
「震源地が宮城沖!?」
「うっそー! それでなんでこんなに揺れるの??」
 
たいていの客が10分以内に終了し、最後のひとりのパーマを掛けている最中に最初の余震が来た。これも大きい!
 
しかしこのお客さんは肝が据わっていて、その余震の後も作業を続けてもらい最後まで終わった直後に2度目の余震が来た。
 
「なんか凄いですね。私、逆に外に出るのが怖いので、もうしばらくここにいてもいいですか?」
などというので、控室にスタッフと一緒に入ってテレビの報道を見る。
 
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この時点でスタッフにも帰りたい人は帰って良い旨を告げたが、誰も帰らない。やはり帰る方が怖いとみんな漏らしていた。みんな家族などと連絡を取ろうとしていたが、携帯の通話ができないし、メールも全然届かない雰囲気だった。晃も小夜子と連絡を取りたかったが、送ったメールに返信は来ない。ただ無事を祈るだけだった。
 

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小夜子はかばってくれた社長さんによくよくお礼を言い、取り敢えず帰宅を試みることにした。この状況では会社に出て行ってもどうにもならないし、向こうは社長や専務が何とかしてくれるだろう。たぶん帰れる人は帰りなさいということになっているのではないかと考える。
 
晃とも連絡を取ろうとしたが無理だった。携帯は通じない。メールは送ったものの返信はこない。相当輻輳してるなと思う。社長にもメールしたし、震源が宮城ということで何よりも心配な寿子にもメールした。
 
歩いて駅まで行く途中で余震が来る。近くのビルの中に飛び込んでやり過ごす。駅に着いたところで2度目の余震。そして電車は動いていない。
 
こりゃダメだと思った小夜子は歩いて帰ることにした。幸いにも今日訪問した顧客は北区にある。ここから小夜子の家までたぶん歩いて15kmくらいだと思った。4時間もあれば辿り着くはず。
 
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ただひとつ大きな問題があった。それは小夜子は方向音痴だということだった。
 

一方の晃の美容室でも16時すぎてから、やはり帰宅できそうな人は帰宅しようということになる。店長は「泊まりたい人は泊まってもいいから」と言い、店長が泊まり込むことにする。他に2人が泊まると言い、他のスタッフや最後まで残っていたお客さんは帰ることにする。電車が止まっていて復旧の見込みが立たないというのはテレビの報道で聞いていたので、全員徒歩の覚悟である。店長は、連絡するまで美容室は休みにすることも告げた。
 
晃は自分も泊まった方がいいかなという気もしたものの、やはり女性ばかりで一晩過ごそうというところに、一応女の格好はしているものの、肉体的には男性である自分がいるのは微妙だろうと思ったので帰らせてもらうことにした。
 
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小夜子は今日の夕方から新幹線で宮城に行くことになっていたが、この地震ではどっちみち無理だろうから、たぶん(徒歩で)帰ってくるだろうと踏んだ。今日は赤羽の顧客の所で新しいシステムの打ち合わせをすると言っていた。赤羽からならそんなに時間は掛からないはずだ。ただ、晃は小夜子の方向音痴が心配だった。電話連絡が取れたら誘導できるのだが、この状況ではそれもできない。晃はせめて小夜子が反対方角に歩いていかないことを祈った。
 
取り敢えず美容室のあるビルを出て、近くの駅まで来たが、晃は突然小夜子を迎えに行った方がいいという気になった。もちろん小夜子がどこにいるかなど見当も付かない。しかし東京方面に歩いて行ったら会えないかなと思った。
 
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駅の中の自販機が動いていたので、ペットボトルのお茶を3本買って通勤用のバッグに入れる。そして意を決して南に向かって歩き始めた。
 

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小夜子は赤羽駅から「自分の感覚で」北に向かって歩き出した。しかし30分近く歩いた所で東十条駅に着いてしまった。
 
「あれ?逆だ!」
 
小夜子は今来た道を戻ったが、次の交差点で何も考えずに左折した。
 

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晃たちが住む町から東京方面に行く場合、国道17号を通るルートと産業道路を通るルートがある。産業道路を通った方が近いが、晃は何となく勘で小夜子が国道17号の方を通るような気がした。
 
そして歩き始めて30分ほどしたところでようやく小夜子が震災直後に送った「こちら無事。そちら大丈夫?」というメールを受け取った。良かった。無事は確信していたが、ちゃんとメールを受け取るとホッとする。
 
「こちらも無事。迎えに行く。今どこにいるか番地表示とか目立つ建物とか見たら逐次連絡して」とメールする。
 
10分ほどで返事が返ってくる。「左手に板橋第八小学校ってある」
 
晃は急いでその場所を確認する。うそー、何でそんな場所に!? 赤羽からどういう歩き方をすればそんな場所に行く?
 
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「その道逆に戻って。最初に見た大きな通りを左折してまっすぐ行って」
とメールした。
 
こんなやりとりを30分ほど続けたが、無事小夜子が国道17号を北上し始めたのを確認して晃はホッとした。
 
「今多分荒川かな・・・を渡ってる。右側に新幹線っぽい線路の橋がある」
「順調順調。そのまま歩いて。あと30分くらいで会えるよ。でも疲れたら休んでね」
「うん、さっきから時々休んでる。でも喉渇いた。途中の自販機全部売り切れ。さっき寄ったセブンイレブンも全然飲み物無かった」
「ボクがお茶持ってるから、会ったらあげるよ」
「わーい」
 

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ふたりが無事出会ったのは、6時すぎだった。荒川を渡った時から15分。晃がかなり頑張って速く歩いたので早く会えた感じだった。人目を気にせず熱いキスをする。そしてペットボトルのお茶を渡すと一気に1本のみ、2本目も半分くらい飲んだところで落ち着いたようだった。
 
小夜子が疲れているので、道ばたに座りしばし休む。
「お母さんも無事帰宅したみたいだし、ゆっくり帰ろう」
「そうだね」
「宮城のお友だちとは連絡取れた?」
「それが取れないのよ。海岸の近くの旅館なんで津波が心配」
「うーん。無事を祈るしかないね」
「明日の結婚式は延期だよね?」と小夜子。
「これじゃ無理だね」
 
その後ふたりはそこから、ゆっくりゆっくり歩いて、夜の10時頃自宅に帰着した。五十鈴が御飯を作って待っていてくれたのでとりあえず食べてから、その日はひたすら寝た。
 
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翌朝、やっと宮城の寿子と連絡が取れた。避難所から電話をしているということだった。
 
「旅館全壊。私と彼は無事だけど、彼のお父さんが行方不明。旅館にいた全員を地震の後、すぐに避難所になっている公民館に向かわせたんだけど、途中でみんなバラバラになっちゃって。それで私は避難所にたどりつく前に津波に呑まれちゃったんだけど、とりあえず近くにあった発泡スチロールの箱に捉まって川の中で浮いてたら、近くの人が拾い上げてくれた」
「きゃー。でもやっぱりトシって運が強いね!」
 
「自分でもそう思う。ずぶ濡れだったけど、避難所に来て着替えをもらったし。それで、彼は仙台に会合で行っていて無事。お義母さんは間一髪避難所に飛び込んで助かったけど、従業員さんでまだ連絡が取れてない人がいる。お客さんは幸いにもひとりもいなかった。お義父さんは自宅で寝てたのよね。食事とかは自分でできるから昼間は誰もいなくて。彼が昨日の夜自宅まで行ってみたけど跡形も無かったらしい」
 
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「うーん。。。。トシちゃんの親族の方は無事なのね?」
「うん。親戚とかは今日来る予定だったのよ。昨日はうちの両親と兄ちゃんが車で移動中で、もう白石まで来てたんだけど、こちらに来ても仕方ないから帰った方がいいと私が言ったから東京に逆戻り。大渋滞で大変だったみたいだけど。高速も使えないし」
「でも無事なら良かった」
 
「東京のお友だちとかも大半が今日の朝の新幹線で来る予定だったのよね。何人か昨日から来てくれることになってたけど、みんな夕方の新幹線の予定で。移動前だったのが不幸中の幸い」
 
「仙台あたりまで来てたら大変だったね」
「ほんと! 私の結婚式に来て地震や津波にやられたりしたら、その子の両親に私、謝っても謝りきれないよ」
 
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「でもお義父さんとか従業員さんが心配だね」
「うん。今日は彼が市内の遺体安置所を回ってみると言ってた」
「わあ・・・・」
 

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晃の美容室が加入している団体の方から、震災で避難所に泊まり込んでいる被災者の人たちに、シャンプーなどをするボランティアを派遣するという話が来て、晃と篠崎さんが志願した。トップ・スタイリストの内村さんも行きたいと言ったのだが「アキちゃんとシノブちゃんの両方にいなくなられたら、困る」
と店長に言われて、留まることにし、次の機会に今度は内村さんが行くということにした。
 
参加した美容師40人ほどで大型バスに乗り、仙台に入る。そこからワゴン車で数人ずつのグループに分かれ、あちこちの避難所を訪問した。
 
悲惨だった。
 
途中で気分が悪くなり、リタイアする人も相次ぐ。篠崎さんが辛そうにしていたので晃はハグしてあげた。
「辛かったら車の中で休んでいてもいいから。誰も責めないよ」
「ありがとうございます。でも少し落ち着きました。だけど奥さんに悪い」
「女同士のハグは問題無い」
「あ、そうか!男の人と抱き合ったら嫉妬されるんですね」
「うん。まあ、そうかな」
と晃はポリポリと頭を掻いた。
 
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「それとアキさん、胸がありますよね」
「うーん、まあそのあたりは色々あって」
「へー」
晃の「身体の秘密」への興味が、篠崎さんを結果的には元気づけた感もあった。
 

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