[*
前頁][0
目次][#
次頁]
(c)Eriko Kawaguchi 2012-07-13
北海道には、金曜から日曜まで滞在し、日曜の午後の便で羽田に戻る。この時一緒に、母・妹、母の妹とその娘さん(晃の従妹)の4人が同じ便で羽田に来た。晃の従妹は「可愛らしい晃お姉様の花嫁姿を見なくちゃ」などと言って、先月の段階では来る予定が無かったのを急遽来てくれることになったのである。
そして翌24日・月曜日、ふたりは朝から一緒に婚姻届けを出しに行った。双方の母に証人の署名をしてもらった。ふたりはこの日から来週の火曜日(2月1日)まで仕事は休む予定である。
結婚式を挙げるのは明日なので、その日は特にすることは無いはずと思っていたのに、何だかんだで、その日は忙殺されてしまった。婚姻届けを出した後は一緒に美容室に行き、ふたりとも髪をセットする。晃は内村さんに、小夜子は店長にしてもらった。そのあとお昼はふたりで一緒に伊勢丹の中華の店で食べたが、その後はバラバラの行動になり、ふたりとも夕方かなりへばった状態で自宅に戻る。
その日の夕方は、小夜子の家に晃の母と妹だけ来て、5人で内輪の祝杯を挙げることにしていた。晃と小夜子も忙殺されていたが、五十鈴も親戚やお友だちからの問い合わせに対応したりでかなり忙しく、料理を作る時間がなかったので、晃がお寿司を買ってきて、小夜子もケンタッキーを買ってきた。しかし結果的には気合い入れて料理を作るよりもアットホームな雰囲気になった。晃の妹が北海道から「千歳鶴・吉翔」という日本酒を持ってきていたので開けて飲む。フルーティーで、なかなか美味しいお酒だった。
この日は晃も小夜子も普及品の型押しの振袖を着ていた。「きれーい」と言った妹にも適当なのをチョイスして着せてあげたら喜んでいた。3人並んで記念写真を撮ったりする。晃の母と小夜子の母はすっかり打ち解けて仲良くなってしまった。
明日は大変だしということで、19時でお開きにする。晃の母と妹はホテルに戻り、小夜子と晃は交代でお風呂に入ってから20時半には部屋に引き籠もった。
「さて、私たちの結婚初夜だよ」
「でもあまり遅くならないようにしようよ。明日がきつい」
「じゃ、3回で勘弁してあげる」
「あはは」
晃は小夜子にキスして一緒にベッドに入る。まずはシックスナインで小夜子を逝かせてから騎乗位で小夜子の征服欲を満足させる。愛撫でしばらく遊んでから対面座位で結合し抱き合ってしばし至福の時間をすごした。それから一休みして最後は正常位で一緒にクライマックスに到達した。
「おやすみー」と言って寝ようとしたら小夜子が「まだ2回しかしてない」と言う。
「え?4回もしたよ。シックスナイン、騎乗位、座位、正常位」
「でもアッキーが射精したのは騎乗位と正常位だけ」
「射精してないけど、シックスナインと座位でもボクは逝ったよ。サーヤも逝ったと思ったけど」
「もう一度射精しよう」
「タンクが空だよー」
「なせばなる」
そういう訳で最後にもう一度バックでしてから寝た。結局寝たのは12時過ぎだった。
「おしまい!もう立たない」
「男の子って不便ね」
翌25日は朝から貸衣装屋さんに行き、服を受け取る。昼は小夜子と晃は通りがかりのインド料理店で辛〜いカレーを食べた。
「でも香辛料ってエネルギー出てくる気がするね」
「一種のドーピングだろうけどね」
「アッキーは女性ホルモンのドーピングしてないの?」
「・・・・買ったことはあるけど飲まなかった」
「ふーん。買ったことはあったんだ?」
「男を辞める決断できなかったから。でもそのお陰でサーヤと結婚できた」
「あら、私はアッキーがもう女の子になってしまっていても、結婚したいと思ったと思うな」
「でも子供作れなかったけどね」
「まあ、それは仕方ないね」
運転手付きのマイクロバスを午後貸し切りにしていたので、自宅前まで来てもらって小夜子たち3人が乗り、ホテルに寄って晃の親族を乗せ、更に浦和駅に集結していた小夜子の親族を乗せ、それから着付け・メイクをしてくれることになっている美容室の同僚、内村さん・篠崎さんを乗せて、一緒にE市のH神社に行く。
挙式をする神社内の会館に入った。小夜子は白無垢、晃は黒引きを着た。今日は小夜子は篠崎さんの担当、晃は内村さんの担当ということにしている。
「アキちゃん、何だか完全に女の人の身体っぽいんだけど。実は手術してたの?」
と内村さんが訊く。
「してないよー。これは色々誤魔化してるの。女湯にも入れるかもって状態にしてるよ」
「おお、今度みんなで温泉にでも行こう」
「ああ、それはいいね」
「逮捕されても知らないよ−」と横から小夜子が声を掛ける。
今日は篠崎さんがまだ着付けの経験が浅く少し不安だということで、手伝えるように新郎新婦が同じ控え室で着替えている。
婚礼衣装を着て廊下に出て行くと、廊下で立ち話をしていた小夜子の叔母から
「晃ちゃんの黒い振袖はタキシードの代わりの黒だね」
などと言われた。
やがて式場に入場する。
巫女さんの先導で、最初に新郎新婦、それから親族と内村さんたちが続いた。真っ赤な内装の式場が厳かな雰囲気だった。晃の親族が少ないので内村さんたちはそちらに並んだ。
全員入って着席したところで祭主が入場する。祭主は最初に祓え言葉を唱えてお祓いをした。
続けて全員起立して祭主が結婚の祝詞を奏上する。祝詞の中では「○○が長男晃と○○が長女小夜子、婚嫁礼(とつぎのいやわざ)執り行わんとす」としっかり、男女の婚礼であることを読み上げられていた。
そして祝詞が終わると結婚式のクライマックス、三三九度である。
最初に一の杯にお酒が注がれ杯が黒引き振袖を着ている晃に渡される。これを一口飲んで巫女さんに返すと巫女さんは白無垢を着ている小夜子に渡す。小夜子は(妊娠中なので)これを口を閉じたままお酒に付け飲む振りをして巫女さんに返す。晃が残りを飲み干す。
次に二の杯にお酒が注がれ白無垢の小夜子に渡される。小夜子は飲む振りだけして巫女さんに返し、巫女さんは晃に渡す。それを晃がほとんど飲み、少しだけ残して巫女さんに返す。その少しだけ残った酒を小夜子が飲む。
最後に三の杯にたっぷりお酒が注がれ、晃が半分くらい飲んで、小夜子は口を付けるだけにして、最後晃が残りを飲み干す。
小夜子が妊娠中なので二の杯のお酒をちょっとだけ飲むことにして、他は晃が飲むということを神職さんとも話し合って決めたのだが、さすがにこれだけの酒をひとりで飲むと晃はクラクラとする気分だった。
三三九度の後、お酒が親族にも注がれて一緒にそれを飲む。その後、新郎新婦が玉串を捧げ、神職さんの太鼓と巫女さんの笛、もうひとりの巫女さんの舞で神楽が奉納され、それから結婚指輪の交換をした後、新郎新婦が結婚の誓詞を一緒に読み上げる。
最後に祭主さんがお祝いの言葉を述べて、式は終了する。祭主が退場し、その後巫女さんの先導で、新郎新婦に続いて親族が退場した。
会館の中の記念撮影場で神社出入りの写真館の人に記念写真を撮ってもらう。出席していた親族にもたくさん記念写真を撮ってもらった。
そのあと新郎新婦はいったん服を脱いで、全員で小夜子の叔母のビストロに移動した。
披露宴の出席者は結局30人。ビストロの定員いっぱいである。オーナーも出席者なので料理は全部先に作っておき、ドレスを着て席についた。披露宴は平日会社が終わってから来る人もいるので夕方18時半から始まった。小夜子の会社の同期の同僚で3月に結婚予定の井深寿子さんが司会をしてくれた。
みんなが席についた所で新郎新婦が入場する。みんなが拍手で迎えてくれる。今度はふたりとも振袖である。お正月に着たのと同じ組合せで、小夜子が加賀友禅の『雅の鳥』、晃は京友禅の『春花』を着ている。指には小夜子はマリッジリングとエンゲージリングを重ねて付け、晃もマリッジリングを付けている。
メインテーブルにはきれいなお花が活けてある。昨夜小夜子が活けたものである。小夜子はお花の先生の免状を持っている。
最初に司会の寿子が挨拶する。
「えー。司会を仰せつかりました、新婦の同僚で井深と申します。新郎も新婦も花嫁姿なので、どちらが新郎でどちらが新婦か分かりにくいですが、鳥の模様の超豪華な振袖を着ている方が新婦、お花の模様で金色の刺繍が華やかな振袖を着ている方が新郎です」
と「新郎と新婦の見分け方」を解説する。一瞬笑いかけた人もあったものの性別のことをあまり言うのはよくないのかな?という雰囲気で笑わずに留まる。
司会者の挨拶が少々長く続く。
「私と新婦は今の会社で社長と専務を除けば最古参になってしまいました。私は昨年夏に結婚を決めてこの3月に結婚・退職する予定になっています。それで新婦も年末に突然結婚を決めて、やはり3月に挙式するというので驚いたのですが、彼女が3月22日、私は3月12日ということで、一応私の方が先だなと思ってたのに、妊娠しちゃったから今月結婚しちゃうと、年明けてから唐突に言われて『サヨリンずるい』などと言っていたところです」
と朗らかに言うので、とうとう会場内から失笑が漏れた。寿子も今日はエンゲージリングを付け、振袖を着ている。成人式の時に着たまま9年間箪笥の中に眠っていたのを引っ張り出してきたと言っていた。
「それでは少し話がずれた所で、新郎の上司・小比類巻店長より、新郎新婦の紹介をお願いします」
黒留袖を着た店長がマイクの所に行きふたりの経歴を簡単に紹介して祝辞を述べた。そして小夜子の叔母と晃の叔母の祝辞を受けて、ケーキカットとなる。
ケーキは前日に晃が(小夜子がお花を活けている間に)頑張って焼いたスポンジケーキである。ふたりでケーキナイフを持ち一緒に入刀すると、たくさんカメラのフラッシュが焚かれ、拍手も起きる。それから小夜子の会社の社長の音頭で乾杯して、食事・歓談タイムとなる。
何人かがスピーチをしてくれる。ふたりの仲をやきもきして見守ってきたという小夜子の高校時代からの親友・愛美(めぐみ)がふたりの馴れ初めから、今まで14年間のふたりの愛について語る。ふたりが最初出会ったのが学校の女子トイレの中だった、などという話をバラすと、何だかみんな納得したような顔をする。小夜子は笑っていたが、晃はその件については少し抗議したい気分だった。
「でも大学出てから少しして会った時に、サヨリンが浜田君と付き合ってると言ってたから、てっきりそのまま結婚するかと思ってたのに、こんなに時間が掛かるとは思ってもみませんでした。このふたりって恋をしている最中に時折長期休暇を入れてる感じですね。もう結婚したんだから愛を休んではダメよ」
などと愛美は言っていた。
小夜子の友人でもあり、また晃とは中学と高校の剣道部で一緒だった望乃(のの)は
「しかしこの披露宴、出席者が美事に全員女性ですね。ついでに新郎新婦もふたりとも女性だし。アキは中学生の頃から、けっこう女性的な雰囲気持ってましたよ。性格はかなり男らしくて、それで美形で優しいから中学の時は剣道部の女子達の間で憧れNo.1だったんですけどねー。でも浮いた噂が一度も無かったし、高校に入ってからサヨリンと親しくなっても友だちという線を越えてなかったから、、私などはひょっとしてホモではと思っていたんですが、こうやって、ちゃんと結婚したからホモではなかったんでしょうね」
などと過激なコメントをする。
もうひとりの高校の時の同級生・美遙(みはる)は
「ふたりは高校時代にも、ただの友だちだって強調してたけど、見た目には凄く仲の良い恋人に見えてました。成績も同じくらいで志望学部も同じということだったから、同じ大学に行くのかな?なんて思ってたら浜田君は茨城県の大学に行くというし、サヨリンは女子大に行くというし、ちょっと呆れてたんですけどね。その後、大学出てから交際復活したと聞いたので、やっとこれで仲が進行するかなと思ったら、1年もしない内に別れたと言うし。それでまたまた去年の秋に復活したというから、じゃ今度こそ結婚するの?と訊いたら、ううんただの友だちとか訳の分からないこと言うし。とにかく、このふたりのんきすぎます」
などと言っていた。
いろいろ余興も入る。晃の美容室の同僚が歌を歌ってくれる。年齢の高い4人が安室奈美恵の「Can you selebrate?」、若い2人が西野カナの「Best Friend」
を歌ってくれた。小夜子の同僚も2つのグループでウルフルズの「バンザイ」、ローズ+リリーの「甘い蜜」を歌う。テーブルにデザートが配られる。そして最後にビストロのオーナーの娘さん(小夜子の従妹)がピアノ弾き語りでMISIAの「EVERYTHING」を歌った。
ここでいったん新郎新婦がお色直しのため退場する。新郎新婦不在の間は、ビストロのオーナーさんが箏で、おめでたい『初鶯』と『春の海』を弾いてみんなを楽しませてくれた。むろん着替えている新郎新婦にも聞こえている。
[*
前頁][0
目次][#
次頁]
Les amies 結婚式は最高!(5)