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■春影(11)

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「やり方はそなたが今おおまかに考えている方法で良いと思う。その時にこれを使いなさい」
と言って、天狗様は青葉に大きな巻物を渡した。
 
「見ていいですか?」
「うん」
 
見ると真っ白である。
 
「これは・・・」
「ふつうの人には見えない。しかし、そなたなら読み取れるはず」
 
青葉は精神を集中して、その巻物に書かれているものを読み取ろうとした。
 
「あっ、読める」
 
「それは普通の文字で書き写して、神職にでも奏上させるとよい」
「そうします!」
 
「そなたはお寺体質だからな。そなたが読むより神職が読んだ方がよい。そなたの姉なら神社体質だから、直接本人が読めるのだが」
 
あっ・・・さっき、天狗様が言った「千里姉ならできる」というのは、神社系かお寺系かという系統の問題か!ということに思い至った。
 
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千里姉は般若心経を読んでも祝詞になっちゃうからな〜、と青葉は思う。確かに青葉の場合は、祝詞も読めないことはないが、祝詞よりお経の方が得意である。
 
青葉はその場で巻物に書かれている祝詞を普通の紙に鉛筆で書き写させてもらった。ここは気圧が750hPa程度しかなく、気温も氷点下10度以下なので、毛筆やボールペンなどは使用できない。結局鉛筆が良いのである。
 
「ちゃんと書き写せたかな?」
と青葉は独り言のように言ったが
 
「正確に書き写されたな。優秀優秀」
と天狗様が褒めてくれた。しかし天狗様は少し付け加えた。
 
「まあ今のそなたのレベルではそれでも良いであろう。その祝詞でも今回の事件は収められるはず」
 
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むむむ。そうか。この巻物は読む人(のレベル)によって違う祝詞が見えるんだ!と思い至った。
 
「その巻物本体も儀式には持って行くこと」
「分かりました。ありがとうございました」
 
青葉は天狗様によくよく御礼を言ってから下山する。お酒でブーストしているせいか、思ったより早く下山することができて、室堂から美女平に戻る最終バス(15:30-16:20)にギリギリで間に合った。ケーブルカーで立山駅まで降りて地鉄に乗り継ぎ、高岡に帰還した。
 
美女平16:27-16:34立山17:24-18:28富山18:42-19:00高岡
 
高岡駅からは氷見線の連絡が悪いので母に迎えに来てもらった。
 
「でもあんた立山のどこまで行ったの?」
「・・・頂上だよ」
「こんな真冬に!?」
「でも今日はあまり雪は無かったよ」
 
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「それにしても・・・そんな危険なことするんなら先に言っておきなさい」
「ごめーん。でも解決の方法が分かったから、あとは現地に行って、“ルート”を作るだけ」
「ああ、今関わっている事件なのね」
「うん」
 

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青葉は翌週の土曜日、電車とタクシーを使って再度N市H地区を訪れた。
 
この地区の中心神社であるB神社を訪れておきたかったので、長い石段を歩いて登っていたら、草刈り機で草を刈っていた70代くらいの作務衣姿の男性が
 
「もしかしてうちの神社に用事?」
と訊いた。
 
「あ、いえ、単にお参りするだけですから」
と言う。
 
「それならいいか」
「宮司さんですか?」
「そうそう」
「作業大変そうですね」
「夏の間に随分伸びたのを人手がないから放置してたんだけど、やはり年末までには何とかしなくちゃと思ってね」
 
「息子さんとかおられないんですか?」
「富山市内の神社に奉職してるんだよ」
「あら、そうでしたか。でもそれなら将来はここの神社を継いでくれそうですか?」
「本人は宮司ではなく巫女になりたいと言っているのだが」
「・・・女性になりたいんですか?」
「あいつが女装した所は見たことないから、冗談だと思うけどね」
 
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どうもよく分からない話だ。
 
「でも石段長いし、ほんと大変そうですね」
「今年はまだマシかな。数年前にホントに草刈りが大変な年があったよ。あの年は外来植物でも進入したのか、町中雑草がはびこって、草刈りが例年の倍大変だとみんな言ってた。1年くらいで落ち着いたけどね」
 
青葉はそれを聞いた瞬間、この事件のどうしてもパズルのつながらっていなかった所がきれいにつながってしまった。
 
「宮司さん、それ正確に何年か分かりませんか?」
「・・・あんた誰?」
 
「失礼しました。実はこの町でここのところ毎晩発生している幽霊バイクの件を調査しているんです」
と言って、青葉は自分の名刺を出した。そしてこれまで調べたことをかいつまんで説明した。
 
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「あんた、しっかりしてるね!」
と宮司さんは言った。
「そうですか?」
 
「前来た霊能者さんたちは、大して調べもせずに適当に祈祷して帰ったよ。一番よく調べた人も町の中を一周しただけ。結局5人とも何の効果も無かったけど」
 
荒木さんは3人と言っていたが実は5人だったのか。あまり多くてもと思ってきっと少し控えめに言ったのだろう。またその町内一周した人が“この”カスミ網みたいな仕掛けを置いていったんだろうなと青葉は思った。たぶんそれまでの幽霊バイクの出現報告書を作ったのもその時なのだろう。
 
彼女?(雰囲気から女性霊能者だと思った)が作った仕掛けは妖怪を排除している。しかし今回の事件は妖怪のせいではないのである。
 
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「その人の仕掛けは魔除けとして利いていますが、この幽霊には効果は無いようです。実は私の前に何人か霊能者さんが入っていると聞いて、変な霊的な仕掛けなどがあったら面倒だぞと思ったのですが、邪魔になるようなものは無かったので安心しました」
と青葉は言っておく。
 
「なるほど!」
と言って宮司さんは笑っていた。
 
「ちょっと社務所まで来ない?確認するよ」
「はい」
 

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それで草刈りは中断したまま、社務所に入り、お茶まで頂いた。宮司さんは書類をいろいろ調べていたようだ。
 
「分かったよ。それは2011年のことだよ。東日本大震災があったので自粛して祭を1ヶ月伸ばしたんだ」
 
「もしかして、**さんが亡くなった年では?」
 
宮司はしばらく考えていて言った。
 
「確かにそうだ。そしてそうだ!雑草はあの祭の後から急に増えたんだよ」
 
「やはりそうでしたか」
と青葉は頷くように言った。
 
「もしかして・・・幽霊バイクの件の件も祭が中断したことに原因がある?」
「宮司さん、ちゃんと原因が分かっておられるじゃないですか」
 
「だったら対策は・・・」
「中断した後の祭りの続きをするんです」
「おぉ!」
 
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宮司さんが、過去の燈籠の写真なら川尻さんが持っているはずと言ったので、連絡をしてもらった。最初に怪異に遭った人物でもある。彼は美術系の大学を出ており、燈籠の絵の制作者のひとりでもあったし、毎年全ての燈籠、およびその燈籠を掲げた舁山の写真を撮っていた。
 
飛鳥およびもうひとりの燈籠絵制作者である辻口さんも集まって、その川尻さんが撮っていた毎年の燈籠の写真を見せてもらった。
 
5年前に人が亡くなった時の燈籠の絵の中に「草薙剣(くさなぎのつるぎ)で草を薙ぎ払うヤマトタケルノミコト」の絵があり、また、今年の燈籠の絵の中には「バイクで疾走する月光仮面」の絵があったことが判明する。この月光仮面の絵は実は飛鳥が撮ってくれた写真には無かったものである。
 
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「もしかしてこの燈籠は破損しました?」
「そうでした!舁山が倒れた時に壊れたんですよ」
 
と飛鳥は言っているが、それを自分に伝えなかったのは意図的だなと青葉は思った。
 
「月光仮面のバイクって何でしたっけ?」
「あれはホンダのドリームC70。神社仏閣バイクと呼ばれていた」
「月光菩薩のイメージを下敷きにした月光仮面にはピッタリですね!」
「そうそう」
 
「この燈籠に描かれているバイクはそのドリームC70ですか?」
 
と青葉が訊くと、飛鳥は
 
「ホンダだけど、ドリームC70ではなくシャドウだと思う」
と厳しい顔で答えた。
 
「この絵を描いたのは誰でしょう?」
と青葉は訊いたが
 
「それは詮索しないでもらえる?」
と飛鳥は言った。辻口も頷いている。
 
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「そうですね。誰が描いたのでも構いませんね」
と青葉は笑顔で言った。
 

その日の夕方、最初に事件のことを依頼しに来た、荒木さんと東山さん、そして燈籠の絵を制作した川尻さん・辻口さん・飛鳥、そして祭礼委員長の宮下さんが集まり、B神社など町内3つの神社の宮司も集まって、青葉の説明を聞いた。
 
「要するにこの怪異は、お祭りが中断されてしまったことで、舁山に宿っていた荒々しい神様の霊が暴れていることから来たものと考えられます。5年前に死者が出て祭を中断した後も、雑草が大量に発生するという怪異がありましたよね」
 
と青葉が言うと
 
「あれは怪異だったのか!」
という声があがった。
 
「じゃ、祭の続きをすればいいんですか?」
と荒木さんが言う。
 
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「それは私と川上さんとで話し合い、このようなことをしてみようということになりました」
とB神社の宮司は言った。
 
「各町の若者頭、あるいはそれを代行できる人が集まってですね。燈籠を持って中断した川渡りの所から続きをしてはどうかというのです」
 
「舁山を運行するなら大変だけど、燈籠だけなら何とかなりそうですね」
 

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青葉は高岡の自宅に帰宅した翌日、彪志に電話した。(青葉はその日は自分のバイクで走って高岡に戻った)
 
「ねえ、今週忙しい?」
「何かあるの?」
「私の仕事をちょっと手伝って欲しいんだけど」
「わざわざ青葉が電話して頼むのって、凄く怖い気がする。命の危険は無いよね?」
 
「うーん。たぶん大丈夫だとは思うんだけどな〜。本来やるべき人が怖がっててさあ。それである程度霊的な力のある人に代行してもらいたいのよね。私ができたらいいんだけど、男の人でないとできないのよ」
 
「やっぱり危ない仕事なんだ!」
「彪志、泳げたよね?」
「一応クロールはできるけど」
「何メートルくらい泳げる?」
「400-500mくらいは泳げると思う」
「オープンウォーターで80mの往復、合計160m泳げる?」
「オープンウォーターでもそのくらいの距離は大丈夫」
「だったらいいね。交通費は私が出すけど、報酬は霊的な処理の都合で渡せないけどいい?」
「それは構わないって、なんか俺、いつの間にか青葉に協力することにされてない?」
 
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「それは当然協力してくれるものと思っているよ。私の愛している彪志だもん」
「はいはい」
 

青葉が宮司や荒木たちと話し合った翌日の日曜日、町内会連合委員の緊急総会が開かれ、宮司が提案した方針が承認された。23日勤労感謝の日(新嘗祭)に“祭の続き”が行われことになる。できるだけ各町の今年の祭の若者頭が参加することにしたが、若者頭が都会に住んでいたりして、参加できない場合、町内会長の息子など代行できる人が出ることにした。
 
全員祭の時と同じ衣装で各々の燈籠を持って集まる。問題の破損した燈籠は飛鳥が描き直してくれたが、バイクは型式が曖昧な感じにした。新しい燈籠は特別にいったん組み立てたその町の舁山に一度掲げ、宮司さんから神下ろしの儀式もしてもらっている。
 
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しかしこの月光仮面の燈籠をここの町内の若者頭さん(彼は山が倒れた時に彼自身も軽傷を負っている)が持つ自信が無いと言ったので、青葉は東京から彪志を呼び出し、彪志にこれを持たせたのである。彪志はその町の町内会長さんから「名誉町民に認定し、わが町の若者頭に任命する」という辞令?をもらい、若者頭の印である桃色のたすきを受け取っている。
 
「この格好はずかしい」
 
と彪志が言う。締め込みに法被、頭には捻り鉢巻きという格好なのである。それに若者頭の印である桃色のたすきをしている。
 
「気にしない。役目しっかりね。女の私には実行できない仕事だし」
と青葉は言う。
「女にはこの格好はできないだろうね!」
と彪志。
 
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