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■春影(10)

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千里は理歌に言った。
 
「悪いんだけど、大阪に寄った後でね」
「うん」
「サンダーバードと北陸新幹線でちょっと高岡まで足を伸ばしてもらえないかと思って」
 
「青葉ちゃんに会うの?」
 
理歌は昨年6月、京平誕生の時に青葉とも会っているし、一昨年の秋に音羽が玲羅のアパートに一時滞在していた時にも一度会っている。
 
「うん。これを渡して欲しいんだよ」
「いいよ。富山空港から新千歳に飛ぶよ」
「ありがとう。よろしく〜。英彦山(ひこさん)の長老様からと言っておいて」
と言って、5cmほどのサイズの黒いビロードの袋を渡した。
 
実は昨日《こうちゃん》が中津から博多に飛んだ時、途中の英彦山で呼び止められてこれを授かったのである。しかし《こうちゃん》はそのことを忘れていて!ついさっき思い出して千里に報告した。
 
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「ひこさんね」
「ちなみに中身は見ないでね。死ぬから」
「それは怖い。青葉ちゃんは大丈夫なの?」
「目的の人以外が見たらいけないように仕掛けがしてあるんだよ」
「そういうことか!」
「だから私も見ていない。何だか巻物っぽいけどね」
「うん。そんな感じだね」
 

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貴司・京平・理歌は小倉駅から新幹線に乗って大阪に戻る。
 
小倉19:45-21:59新大阪。
 
千里は京平をギュッと抱きしめて
「またね」
と言って別れた。
 
その様子を見て冬子は、貴司と奥さんの関係はほぼ破綻していて、離婚及び千里との再婚は秒読み段階と思ったようであるが、この時点では千里側にはそういう意図はまだ無かったのである。もっとも千里はこの日ずっと結婚指輪を着けていた。
 
千里と冬子は空港行きのバスに乗り、羽田行き最終に乗ることにする。
 
小倉駅前19:40-20:17北九州空港21:20-22:45羽田
 

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この空港行きのバスに乗っている最中であった。冬子は疲れたので少し仮眠すると言って寝ていて、千里もうとうととしていたのだが、トントンと肩を叩く者がいる。みると、いつも青葉の後ろに“居候”している《ゆう姫》様である。
 
『何か?』
『このままにしておくと後10秒ほどで、青葉が死ぬのだが、どうしたものかと思って』
 
千里はすぐに《ゆう姫》を通して、向こうの様子を見た。青葉は誰かのバイクに同乗して夜道を疾走しているようである。姫様の視線をトレースすると、300mほど先に大きな穴があるのを認識する。
 
千里は《ゆう姫》のチャンネルを勝手に!利用して青葉に呼びかけた。
 
『停まって!!死ぬ!』
 
青葉が運転している人に呼びかけ、バイクは緊急停止した。千里は更に《ゆう姫》のチャンネルを使って《りくちゃん》を現地に転送!して、バイクの運転者と青葉が急ブレーキで投げ出されないように保護させた。
 
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ふたりはバイクから放り出されたりもせず無事だった。
 
実際には青葉の眷属《海坊主》も必死に青葉を支えたので、この作業は《りくちゃん》と《海坊主》の共同作業になった。青葉も飛鳥も無事だったので、《りくちゃん》と《海坊主》は思わず握手したが、《りくちゃん》は青葉に見られないようすぐその場を離れた。むろん《海坊主》はこのことを青葉には話さない。青葉は《海坊主》に助けられた感覚があったので『ありがとうね』と彼に御礼を言った。
 
『姫様、ありがとうございました』
と千里が言った。
 
『そなた・・・神様の力を勝手に使うとは・・・』
 
『緊急事態でしたので。でも姫様が助けてあげれば良かったのに』
『私は青葉の所に居候しているだけで青葉の守護神ではないので、助けるのは主義に反する。ただ、ここはとても居心地がよいから、ここが無くなるのは寂しいと思っただけじゃ』
 
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『でも報せて下さってありがとうございました』
『青葉が50年後くらいに死んだ後は、千里の後ろも面白そうだが、そこに行くと、私はこき使われそうだな』
と《ゆう姫》が言うと、千里の後ろで《くうちゃん》が忍び笑いをしていた。
 

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バスの中で仮眠していたので飛行機の中では起きていた冬子が千里に幾つか質問をした。貴司との関係については
 
「なるようになると思う。ただ貴司が結婚した時、私がタロットを引いたら剣の5が出た。自分が冷静になれる問題じゃないから、その結果はノーカウントではあるけど、たぶん5年以内に破綻すると思った。正直、それを信じなければこの3年間、私はあまりに辛すぎて生きてこられなかったと思う。京平が生まれたことで随分救われたけどね」
と言って千里は涙を浮かべていた。
 
「京平君って、やはり千里の子供なの?」
「間違い無く私と貴司との間の子供だよ」
と言って千里は微笑んだ。
 
「私も阿倍子さんもRh+AB型なんだよ。だからこれだけではどちらの子供であっても矛盾が無い。それでこれを作ったんだよ。これは私と貴司とが1組ずつ原本を持っている。阿倍子さんには絶対に見せられないけど、冬ならいいよ」
 
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と言って千里は結婚指輪を着けている左手で、バッグの中から封筒を取り出すと、その中にあった書類を冬子に見せた。
 
「DNA鑑定書!?」
「うん」
 
《ムラヤマチサトがホソカワキョウヘイの生物学上の母親である可能性は未鑑定の母親候補(事前の可能性=0.5)と比較して99.999%以上です》
《ホソカワタカシがホソカワキョウヘイの生物学上の父親である可能性は未鑑定の父親候補(事前の可能性=0.5)と比較して99.999%以上です》
《ホソカワアベコがホソカワキョウヘイの生物学上の母親であることは否定されました。親子である可能性は全くありません。0%です》
 
貴司・千里・京平の顔写真と指紋まで添付されている。阿倍子の写真だけ無いのは、おそらく彼女の遺伝子サンプル(唾液か何か)は、本人には言わずに、こっそり採取したのだろう。
 
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「これは公的な証明書になっている。そのまま裁判所に提出することも可能。まあ提出することは無いとは思うけどね」
 
「ほんとに千里の子供だったのか・・・・。しかも母親って」
 
「親子鑑定ではまず母と子の関係を調査する。その上でその母子関係を前提として父と子の関係を調査する。私と京平の母子関係が確認されたから、その結果を利用して京平と貴司のDNAを比較して確かに貴司の子供であることが確認された」
と千里は説明した。
 
「うーん・・・」
と冬子は悩んでいた。
 
この際、千里の遺伝子検査のAMELの欄がX,YではなくXのみになっていることはもう気にしないことにする!(*3)
 
冬子は貴司から、京平の母親は実は千里ではないのかと相談をうけたことがある。あれは昨年の8月頃だった。卵子の採取は誰の卵子かを秘密にしたいという提供者の意向を踏まえ、貴司が立ち会わないことが条件だったらしい。しかしあの後貴司から求められてDNA鑑定をしたのだろうか?
 
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と考えてから、冬子はふと思った。書類は昨年12月の日付になっている。これは千里が『門出』を書いた直後だ。千里はこの鑑定書を作ることで、貴司の“正妻”としての自信を取り戻したのでは?いや逆だ。正妻としての自信を取り戻したから、この鑑定書を作ることに同意したんだ。これは貴司さんと千里の結婚証明書にも等しい書類なんだ。冬子はそう考えた。
 

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(*3)貴司も京平もX,Y双方が検出されている。一般に遺伝子検査では採取したサンプルをPCR法によって大量コピーして数を増やし、検査機や検査薬で調べられる量にするのだが、アメロゲニン検査の場合、男性でもPCRの過程でAMEL-Yが増殖せずにAMEL-Xのみ検出されることがある。つまり、Amelogeninの検査でX,Yの双方が検出されたら確実に男性だが、Xのみ検出された場合、普通は女性だが、ごく希に実は男性である可能性もある。
 

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冬子はまた、千里と京平が毎日会っているという問題についても尋ねた。
 
「そりゃ親子だもん。毎日会っているよ」
「でも千里、試合で全国飛び回っているし、昨年はオーストラリアとか中国、今年は長期間南米に行っていたよね?」
 
「うん。だから現実的な解釈としては夢の中で会っているとでも思っておいて」
と言って千里は苦笑いをしていた。
 
「貴司さんに毎日500円のお小遣いを渡しているという話は?」
「毎朝貴司の枕元に500円玉を置いていく」
「夢で会ってるという話と辻褄が合わないんだけど」
「男なら細かいこと気にしない」
「女だけど」
「そうだね。お互いに」
と千里は苦笑しながら言った。どうも誤魔化されているような気がするなあと冬子は思う。
 
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「まあそういう訳で、今日の結婚式は自分の貴司の妻としての地位と、京平の母親としての自覚を再確認して、自分なりに生きる希望が凄く膨らんだからさ、これを書いたんだよ。アクアに渡す楽曲をコスモスから頼まれていたから、これを渡そうと思う」
 
と言って千里は冬子にスコア譜を見せた。
 
『希望の鼓動』と書いてある。Cubaseで打ち込んでプリントしたもので、日付は間違い無く今日の日付 Sun Nov 13 2016と印刷されている。
 
「これいつの間に入力したの〜!?」
と冬子は呆れるように言った。
 

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青葉は自宅で舁山祭のビデオをずっと見ていて、ふと考えた。それで飛鳥さんに電話する。
 
「今年のお祭りの燈籠ですけど、あれは全部飛鳥さんと穴川(隆守)さんで描いたんですか?」
「お祭りに参加する町が16あるんですよ。それを私と隆守、あと川尻さんという人と辻口さんという人の4人で4つずつ描きましたよ」
 
「その燈籠の写真とかどこかに残ってませんか?」
「燈籠は翌年の祭の前夜祭でお焚き上げするんで、今なら神社の倉庫に置いてありますよ。写真撮ってそちらに送りましょうか?」
 
「すみません。お願いします!」
「じゃ夕方くらいまでに送りますよ」
 
「それとですね。5年くらい前にも死者が出たという話でしたね」
「ええ」
「その時は何か異変が起きませんでしたか?」
「うーん・・・・何かあったかなあ。ちょっと考えてみます」
「すみません。それもよろしくお願いします」
 
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11月14日(月)。
 
青葉はK大学構内の食堂で理歌と会った。
「ごぶさた〜」
と言い合う。
 
「それでこれなのよ。千里姉さんが『ひこさんの長老様』から預かったという話だった」
 
「へー。何だろう?」
と言って、青葉が袋から中身を取り出すが、その時、ぼわっと白い煙が出た。
 
「きゃっ」
と思わず理歌が声をあげたが
 
「よくあること、よくあること」
と言って青葉は笑っている。
 
そしてその小さな巻物を広げてみたのだが・・・
 
「うーん」
と言って青葉は悩んでいる。
 
「何て書いてあったの?」
「これ」
と言って、青葉は理歌に巻物の中身を見せた。
 
「私の所に来なさい・・・・私って?」
と理歌は戸惑うように声をあげる。
 
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「誰だろうね〜」
と言って、青葉はバッグの中から筮竹を出すと卦を立てた。
 
「火風鼎の2爻変」
と言って、青葉はスマホで電子易経を見ている。
 
「卦辞。鼎は大いに吉にして亨る。彖に曰く、鼎は象なり。木を以て火に巽れ、亨煮するなり。聖人亨して以て上帝に亨し、而して大いに亨して以て聖賢を養う。巽にして耳目聡明。柔進して上行す、中を得て剛に応ず。是を以て元いに亨る。象に曰く、木の上に火有るは鼎なり。君子は以て位を正し命を凝る」
 
「爻辞。鼎に実有り。我が仇に疾い有り。我に即く能わず。吉。象に曰く、鼎に実有り、之く所を慎まんとするなり。我が仇に疾い有り、終には尤无きなり」
 
「えーっと、日本語で言うと?」
「立山に来いということみたい」
と青葉は言った。
 
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それで青葉は明日香に電話し、明日のアクアでの高岡−金沢往復は明日香が運転して欲しいと言い、また母にも電話して
「明日、ちょっと立山まで行ってくるね」
と言った。
 
理歌はその日結局、青葉の自宅に1泊して、富山湾の海の幸に舌鼓を打った上で、翌日の飛行機で新千歳に帰還した。
 

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一方、青葉は“登山”の装備を用意した上で、早朝伏木の自宅を出ると、JR氷見線・あいの風とやま鉄道・富山地鉄と乗り継いで、立山駅まで行った。
 
伏木5:45-5:59高岡6:42-6:59富山7:06-8:18立山
 
ここからケーブルカーで美女平まで登り、更に立山高原バスに乗り1時間近く揺られて室堂まで登っていく。これは《立山黒部アルペンルート》の一部である。青葉が室堂に到着したのは10時頃であった。美女平が標高977m, 室堂は2450mで、標高差1473mもある。そしてここから頂上へは標高差500mほどの登山道を登らなければならない。立山はもう真冬である。
 
青葉は冬山用の装備を持って来たのだが・・・あれ〜?と思う。雪が無いのである。
 
それで登山靴に取り付けるつもりだったアイゼンはそのままリュックに入れ、登山道を登っていった。アイゼンは結局頂上にかなり近い所まで来てから取り付けることになった。4時間掛かるかもと思っていたのに2時間も掛からずに峰本社の所まで辿り着いた。
 
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雪があまり無いと言っても、むろんこの時期は神社も閉鎖されているし、こんな所まで登ってくる人はまず居ない。空気が薄いので結構呼吸もきつい。しかし鳥居の所まで来ると若い天狗様?が居て
 
「よくここまで来られた」
と言って笑顔で青葉を歓迎してくれた。
 
「疲れたであろう。これを飲まれるがよい」
と言って、ひょうたんをもらう。お酒かな〜?と思いつつも頂く。
 
うっ・・・
 
「なんかこれ物凄くエネルギーが満ちあふれてくる感じです」
「うん。あれは普通の霊能者には収められない。そなたの姉なら何とかするだろうが、そなたは少しパワーアップした方がよいから、ブーストさせてもらう。全部飲むがよい」
 
「ありがとうございます。全部頂きます」
と言いつつ、やはり私は千里姉より下かぁ!と思う。だろうな、だから自分は千里姉の様々な操作とかを認識できないのだろうとも思った。
 
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しかし・・・全部飲むとかなり酔う!
 

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