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■春影(8)

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「でも折江さんは、よくこちらにおいでになるんですか?」
と青葉は訊いた。
 
「よく来てたけど、今年は色々しばらく立て込んでたから、春に亡くなった友だちの葬式とかに出られなかったんで、線香あげようと思って」
 
青葉はハッとした。
 
「それまさか春のお祭りで亡くなった方じゃないですよね?」
「うん、そうだけど・・・」
 
「ああ、さすがですね。もうその事件のことはキャッチなさいましたか」
と飛鳥は言った。
 

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「私はしばらく奥に居ますから用事がある時は呼んで下さい」
と言って美代さんが下がった後、私たちは話し始めた。
 
「春の祭で亡くなった隆守なんだけど、私と折江と彼は東京時代の知り合いだったんですよ」
「そうだったんですか!」
 
「彼も若い頃は随分女装してたんだけど『普通の男の娘に戻りたい』と言ってナイトクラブの女装パーティーとかには出てこなくなって、その内結婚したというから『相手は男の子?女の子?男の娘?』なんて言ったら『女の子』とかいうから『それはおめでとう!頑張れよ』とか言って。それでその後子供も2人作ったから男性機能を捨ててなかったのか!って、またまた驚いたんですよ。女装すると凄い美人だったし、おっぱいも大きくしていたし」
 
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「女性ホルモンはしてなかったんでしょうね」
 
「そういうことだと思う。おっぱいも多分シリコン入れてたのを抜いたんじゃないかな。実は私がこの町に流れて来たのも、彼から誘われたからなのよ。都会から来てここに10年住んだら家と土地をあげるという制度があるんだけどと言われて。私の仕事は場所を選ばないから。電話とメールさえできたら、どこに居てもいいのよ」
 
「なるほど」
 
「祭の燈籠の絵とかも、彼から誘われて私も描くようになったのよね」
「そういう経緯だったんですか。実は昨日、飛鳥さんが祭の燈籠の絵を描いていたと聞いて、亡くなった方と、もしかして一緒だったのかなと思ったのですが。それでその方のことを少しお伺いできないかとも思ってたんですよ」
 
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「やはり、隆守と幽霊バイクが関係あると思った?」
と飛鳥は訊いた。
 
「分かりません。可能性はひとつずつ検討して潰して行くだけです」
と青葉は答える。
 
「実は町では、この幽霊バイクって、あいつの幽霊なんじゃないかという噂も立っているのよ」
と飛鳥。
 
「あいつが死んだ後から怪異が始まっていることと、あいつもバイク好きだったことがあって」
 
「バイクに乗っておられたんですか?」
「ああ、そこまではまだ調べてなかったか」
「どういうバイクに乗られていたんですか?」
「ヤマハのFJR1300AS」
「1300というと、かなり大きなバイクですかね?」
「見てみる?」
「あ、はい?」
 

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それで美代さんを呼び出して、お会計をしてもらう。それで店の外に出たが、青葉は外に出るなり
 
「わっ」
と声をあげた。
 
「凄いバイクでしょ?」
と飛鳥が言う。
 
「ゴールドウィングですか!」
「うん。ホンダ Goldwing GL1800 SC68。日本国内生産に移行した初号機。個人的には世界最高のツーリングマシンだと思っている」
と折江は言っている。
 
「ハーレーですか?と言われなかったね」
と飛鳥が笑って言っている。
 
「へ?」
 
「そうなのよ。これに乗ってて道の駅とかに駐めると、人が寄ってくるんだけどさ、『凄いハーレーですね』と言われるのよ」
と折江。
 
「それ、大型バイク=ハーレーダビッドソンと思っている人たちでは?」
と青葉が言う。
 
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「そうそう。そういう層がいるみたいなのよね」
 
先日バイクのこと勉強してゴールドウィングのことも知ってて良かった!と青葉は思った。
 

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このゴールドウィングに予備のヘルメットも用意されていたので、それを飛鳥が借りてGL1800に同乗。青葉のYZF-R25がそれに続く形で、亡くなった穴川さんのご自宅まで行った。
 
「こんにちは〜。恵子ちゃん、いる〜?」
などと言いながら、勝手に上がり込んでいる!
 
いいのか?と思いながら青葉もそれに続いた。台所で慌てて水を停めてこちらに出てきたのは40代くらいの女性である。
 
「お邪魔します」
と青葉は挨拶した。
 
「取り敢えずお線香あげていい?」
と飛鳥。
「はい、どうぞ。お願いします」
と言って、恵子と呼ばれた女性は3人を仏間に案内した。
 
折江が香典の袋を置き、ロウソクに火を点け、線香を3本取ってロウソクの火に当てて線香に火を点ける。手で扇いで火を消し、線香立てに立てる。鈴(りん)をチーンと鳴らして合掌する。飛鳥と青葉もそれに合わせて合掌した。
 
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あ・・・。
 
その瞬間、青葉はこの事件解決の大きなヒントを得たのであった。
 

居間の方に移る。恵子さんがお茶を入れてくれた。娘さん2人は今図書館に行っているらしい。この家に初顔である青葉を飛鳥が紹介する。
 
「こちら凄腕の霊能者の先生で川上さん。実は春頃からこの町で起きている幽霊バイクの件を調べておられるんですかよ」
と飛鳥が言うと、恵子の顔がこわばる。
 
「恵子ちゃんが警戒するのは無理もないと思うけど、川上先生はまだニュートラルの状態のようなんだ。だから、私たちでちょっとこの件を話し合わない?」
 
「取り敢えず話をお伺いしたいですし、私の分かる範囲のことでしたら、お答えすることもできると思います」
と恵子は言った。
 
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「それで話を始める前に、隆守が乗っていたバイクをちょっと見せてもらえない?」
「いいですよ」
 
それで全員でガレージに見に行く。ガレージにはトヨタ・ウィッシュが置かれているが、その後方に大型のバイクが置かれている。青葉は傍に寄らせてもらって、その青いボディのバイクをじっくり観察した。
 
「きれいなバイクですね」
と青葉は言った。
 
「あの人、乗っている時間よりこのバイクを磨いたりメンテしたりしている時間のほうが長かったと思います」
と恵子。
 
「プログラマーなんて忙しいから、だいたい常時寝不足だし。寝不足状態では絶対に乗らないと決めていたからさ、あいつ。だから乗りたくても乗れなかったんだよ」
と折江が言う。
 
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「だからそれ走行距離も大したことないと思う」
「オドメーター見ていいですか?」
「はい。ちょっと待って下さい」
と言って恵子はバイクのキーを取ってきた。飛鳥がキーを借りてエンジンを掛ける。それで情報ディスプレイにオドメーターを表示させた。
 
「51961kmか」
「このバイクはいつ購入なさったんですか?」
「2008年だったと思う。新車で買っている」
「じゃ8年間で5万kmですか」
 
「私なんか年間3万km走っているのに」
などと折江が言う。
 
「恵子ちゃん、このバイクどうするの?」
「最初は1周忌まで取っておいて、そのあと処分しようかと思っていたんです。ところが今、娘の学資が厳しくて」
 
「ああ、大学入試だもんな」
「奨学金は受ける方向で申し込みなどもしたのですが、入学時にどうしてもある程度の現金を用意しないといけないんですよ。それで奨学金は入学した後にしか出ないし」
 
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「じゃ、このバイクを売ってその資金を作る?」
「そうしようかと思って、バイク屋さんに来て見積もりしてもらったのですが、35万くらいにしかならないと言われて」
「あぁ・・・」
「それでちょっと保留にしているんです」
「その程度じゃ足りないんでしょ?」
「そうなんですよ。どうしても150万くらい来年の2月か3月の時点で必要で」
 
「このバイクの定価はいくらくらいですか?」
「160万くらいだったと思う」
「しかし8年経っているからなあ」
「年式が古いことで評価が低くなるんだろうね」
「メンテがいいから、実際には2〜3年乗ったバイク並みだと思うんだけどね」
 

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居間に戻る。恵子さんはお煎餅を出して来た。それを頂く。
 
飛鳥が状況を解説する。
 
「この春の祭で隆守が亡くなった。そしてその祭の終わった直後くらいから幽霊オートバイの怪異が始まっている。それで、この町の中には、あの幽霊バイクの正体は隆守なんじゃないかと噂している人がある。みんな隆守がバイク好きで大型のバイクに乗ってたのを知ってるからさ。でも私はそれはあり得ないと思っている」
 
と飛鳥は言った。
 
「隆守はそもそもこの町に溶け込んでいたし、祭をとても楽しみにしていた。燈籠の絵を描くのも好きで、腕力が無いから、普段の年は舁き手には参加していなかったけど裏方の仕事とかで協力していた。元々女性の中に溶け込める性格だから、炊き出しにも参加してたよ。そんなに祭を楽しんでいた奴が、祭で死んだからと言って幽霊になって暴れたりする訳が無いんだよ」
と飛鳥は熱く語る。
 
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「今年はなぜ舁き手になられたんですか?」
と青葉は尋ねる。
 
「それが今年は人手が少なくてさ。特にここの町では、予定していた若い衆で祭の1日目に間に合わない奴が多くて、それで1日目だけでもいいからと言われて、もう引退していたような年寄りも結構駆り出されたんだよ。それであいつも微力ながら参加したんだと思う。実際1日目の舁き手には女性も5-6人入っていた」
 
「隆守も女のカウントだったりしてね」
と折江。
「うん。そういう気もするよ」
と飛鳥。
 
「そういう舁き手構成だったから、ふらついたとか?」
と青葉は訊く。
 
「うん。根本的な原因はそこだと思うんだよ」
と飛鳥は言う。
 

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「それともうひとつはバイクの問題がある」
「はい?」
 
「あいつが乗っていたバイクは今見てもらった通り、ヤマハのツアラータイプFJR1300。それに対して幽霊バイク野郎が乗っているのは、ホンダのクルーザータイプのシャドウ。あいつがシャドウに乗る訳がないんだよ」
と飛鳥が言う。
 
「すみません。今のお話、もう少し詳しく教えて頂けませんか?」
 
「まずメーカーの話をした方がいい」
と折江が言う。
 
「まず隆守は若い頃からヤマハのファンだったんだよ。最初に乗ったのがヤマハのジョグ(50cc)だった。その後、確かTZR250R, TDM900, そしてこのFJR1300と乗り換えてきた。ひたすらヤマハに乗っていた隆守がなにが悲しくて死んだ後ホンダに乗らないといけないのか?」
と飛鳥が言うと
 
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「なんかホンダ好きな奴に喧嘩売ってるような言い方なんだけど」
と折江が言っている。
 
「それともうひとつバイクのタイプの問題がある。あいつは一貫して取り回しのしやすいバイクを選んでいるんだよ。以前乗ってたバイクもだいたい機動性が高くて乗りやすいタイプ。FJR1300にしても、ひとつ前に乗っていたTDM900にしてもツアラー。それに対してシャドウはクルーザー。好みが違うんだよ」
と飛鳥は説明するが、青葉には理解できない。
 
「このお嬢さんはそのバイクのタイプというのが分かっていないようだ」
と折江が言っている。
 
「えっとね。基本的にオンロードバイク、路上を走るのに特化したバイクには主として、スーパースポーツ型、ツアラー型、クルーザー型、ストリート型、そしてネイキッドというのがある」
と飛鳥は言う。
 
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「まずネイキッドというのは、カウルといってバイク全体を覆うようなカバーが全く付いてないタイプ。いわばバイクの原型だね。スーパースポーツ型というのはオートレース用に開発されたマシンをそのまま一般道でも走れるようにしたような感じのもので昔はレーサーレプリカと言っていた。ストリート型というのは市街地などの走行に適したもの」
 
「そしてツアラーというのはツーリングなど長時間の走行で疲れないタイプ。隆守のFJR1300とか、スズキのパンディッド1200Sとか、ホンダならVFR1200Fとか、あとカワサキのNinja ZZR1400もこれに入れていいかな。まあそういうマシン。基本的に身体を起こした状態で乗ることができるし、ボディが大きいわりに小回りが利く。これに対してクルーザーあるいはアメリカンというのはアメリカによくあるひたすら直線が続くような道で安定して走れるように設計されたバイクで、旋回性を犠牲にして直進の安定性を取っている。概して車高が低いこともあって、細長いバイクという感じになる。ツアラーも結構身体を起こした状態で乗るけど、クルーザーはほぼ直立状態で乗る」
 
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と飛鳥はまだまだ説明が続きそうだったが、青葉は途中で打ち切らせてもらった。
 
「要するに、隆守さんの好みじゃないんですね?」
 
「そういうことなのよ」
と飛鳥は言った。
 
「それで隆守が幽霊バイクの幽霊のはずがないということ納得してもらった?」
と飛鳥は訊くが、青葉としてはまだ判断が出来ない。
 
「お話は承りましたので、色々総合的に判断させて下さい」
と言って、この場での結論は回避させてもらった。
 
 
 
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春影(8)

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