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■春影(7)
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14:00から試合になるが、レッドインパルスは終始ブリリアント・バニーズを圧倒し、50-73の大差でレッドインパルスが勝つ。千里は昨日はスリー6本を含む32点を取ったが、今日もスリー7本を含む34点を取った。
試合終了後、ミーティングを経て、16時すぎにレセプション会場へ移動する。千里はこの時点で福岡に転送してもらうことにする。
《千里》大分←→東京《きーちゃん》
まず東京の自分のアパートに転送してもらって、いったんシャワーを浴び、用意してもらっていた服に着替える。それで福岡に転送してもらおうと思った時、青葉から電話が掛かってきた。
「ふーん。じゃ、その町の地図をこちらにFAXしてくれない?」
「いいけど、ちー姉、今どこに居るの?」
「用賀のアパート。ここの電話番号知ってたっけ?」
「あ、分かるはず」
「じゃ、よろしく〜。そちらのFAX番号は?」
「FAXの中に書いておく」
千里は送られて来た地図を見ると、しばらく眺めていたが、やがてその地図上のあるポイントに★印を付け、19:57という時刻も記入した上で、送られて来た番号に返送した。
現在の時刻を見ると17:02だ。ああ、結構時間取ったかなと思うが、ここで福岡に転送してもらう。結果的に大分に居る《きーちゃん》はレセプションの会場に入り、市長さんや当地の体育連盟の会長さんなどのお話を聞く所まで千里の代理を務めた。
《すーちゃん》福岡←→大分《きーちゃん》
《千里》東京←→福岡《きーちゃん》
《きーちゃん》はもしかして料理食べる所まで行くかなと思ったのを直前で交替になったので、ぶつぶつ言いながら、渋谷に出て少し贅沢なごはんを食べることにした。
大分に来た《すーちゃん》はレッドインパルスのメンバーと一緒にレセプションの食事をした後、大分で1泊して、翌日の午前中に東京に戻った。
そして千里は結婚式の二次会に出席する!
《きーちゃん》が選んでくれた服は、和実に勧められて買ったホワイトロリータのドレスである。結婚指輪を填めてから二次会会場になっているカフェに入っていく。すると京平が千里を見つけて
「おかあちゃん、かわいい」
と言うので、千里は思わず顔がほころんだ。
京平は結局冬子に遊んでもらっていたらしい。
「ふゆおねえさん、おもしろいよ」
「そう、良かった、良かった」
「試合どうだった?」
「勝ったよ。まあ負けるような相手ではなかったんだけどね」
お昼を食べ損ねた後で試合をして、ともかくもお腹が空いているので、店員さんをつかまえて、茄子とベーコンのスパゲティ、クラブハウスサンドイッチ、粗挽き和風ハンバーグ、たっぷりオニオンのホットドッグ、クロックマダム、と頼むと冬子がびっくりしていた。店員さんは数人分のオーダーと思ったようだが、むろん千里1人で食べる!
京平が
「それおいしそう」
と言うので、ハンバーグを少しとホットドッグを少し分けてあげた。
千里は貴司がかなり酔っていることに気付く。
「なぜここまで飲んだ?」
「いや、挨拶回りしてたら大量に飲むことになって」
などと貴司は言い訳している。
「これでは危なくて京平を預けられないなあ」
「ごめーん」
千里は近くに居る理歌に頼んだ。
「理歌ちゃん、悪いけど、京平を千里(せんり)のマンションまで連れて行ってくれない?チケットはこのカードで買って」
と言って、千里は貴司のVISAカードを理歌に渡した。
「うん。OKOK」
と言って、理歌もそのカードを受け取る。
「飲んべえさんはそこら辺に放置しといていいから」
「当然」
「千里、そのカードはいつも千里が持ってるの?」
と冬子が千里に尋ねる。
「こないだ貴司はちょっと悪いことしたから、変なことができないように、キャッシュカードもクレカも全部私が預かっている」
「えー!?」
「阿倍子さんの口座には日常の食費・生活費用に月15万円入れているけど貴司は1日500円のお小遣い制」
「厳しー」
「千里、せめて千円にしてよ」
などと貴司は言っている。
「年明けたら再検討してもいいよ。あとリーグ戦は優勝してよね。それとも、ちんちん預かってた方がいい?」
「ちんちん無いと立っておしっこできなくて不便だから、それは勘弁して」
と貴司。
「別におしっこなんて座ってすればいいし」
と千里。
「ああ、それ取り上げるのがいいかも」
などと理歌が言う。
そんなことを言っていたら、京平が訊く。
「パパ、ちんちんなくなったの?」
「今の所は付いてるよ」
「なくなったらこまるよね?」
「おお、ここに理解者がひとり居た」
「じゃ京平に免じて、ちんちんは勘弁してやろう」
「よかった。前取り上げられた時は本当に困った」
などと貴司が言っているので、冬子が首をひねっていた。
「じゃ用事が済んだらこのカードは千里姉さんに送ればいい?」
と理歌が訊く。
「淑子おばあちゃんに預けといて。また近い内に京平を会わせに行くから、その時に回収するよ」
「了解了解」
千里が京平をしばしば淑子に会わせに行っているのは保志絵には言っていないが、理歌と美姫は承知である。むしろその2人に協力者になってもらっている。ついでにビットキャッシュのお土産付きである。淑子が最近どんどん体力を回復させてきているのは、京平と遊ぶという目的があるためである。
N市に行ってきた翌日の日曜日、青葉は精力的にN市関連の情報を検索していたが、やはりネットで調べるには限度があると感じた。アクアで出かけようかとも思ったのだが、あの車は目立ち過ぎる!それに・・・
「お母さん、ちょっとバイクで出かけたいんだけど」
と母に相談する。
青葉はバイク絡みの事件なので、バイクの視線で調べてみたいという趣旨を説明した。
「あんた、ここまで何km走った?」
「1500kmくらい」
「結構走ったね!」
「毎晩練習してたから」
「だったら、今日は特別にOKするけど、ほんとに慎重にね。周囲をよく見て、無理せずに。できるだけ交通量の少ない所を走って」
「うん。気をつけて行ってくる」
それで、青葉は地図や水筒、筆記具などをリュックに入れると、ライダースーツに身を包み、YZF-R25をスタートさせた。高岡市内の安いGSで満タン給油してから、国道を走りN市まで行く。N市中心部を過ぎてから番号の大きな細い国道をかなり走り、H地区に入る。
例のGSの所まで行って問題の通路と崖を見る。その後、少し手前に戻って旧道を走ってみる。こちらが昔は国道だったのだが、道が細いので、40年くらい前に町並みの背面に大きな道が作られてそちらが国道になり、こちらは市道に格下げされている。もっとも現在は国道沿いに多くの住宅・商店ができており、旧道側は少しずつ寂れてきて、空き家も目立つという。
見ていると、家と家の間にちょうど1〜2軒分の空き地があったりする。昔はそこにも家が建っていたのだろう。中には家の基礎部分のコンクリートがそのまま残っているような所もあった。
青葉は例の網倉庫の表側にも行ってみた。見上げてみるが、何の変哲もない倉庫である。特に怪しい雰囲気もない。
最初依頼を受けた時に心配した「先に来た霊能者がやった変な操作」に関しては全く心配無かった。多少の「跡」はあるものの、全く利いていないので放置していても構わない。1つだけ妖怪を排除する仕掛けがしてあって、この人凄いじゃんと思ったが、幽霊バイクには利いていないようである。つまり、これで妖怪のしわざという可能性が排除される。(ただしこの仕掛けはせいぜい1年程度しか持ちそうにない)
青葉は報告書にあった幽霊の出入りしたポイント全てをバイクで走り回り、全ヶ所デジカメとスマホで撮影した。青葉はこういう撮影の時は必ずこの2つのカメラで撮影する。デジカメはCCD, スマホはCMOSなので、しばしば両者は霊的なものに対する反応が異なる。そのため、どちらか片方だけに怪しいものが写っていることがよくあるのである。
3時間ほど掛けて全ての撮影を終えて少し疲れたなと思い、旧道沿いにある**飯店と書かれた食堂に入る。店の前にバイクを駐め、ヘルメットはワイヤーで留める。グローブも脱いでお店の中に入っていく。
「いらっしゃいませ」
という明るい声がする。こういう店で即反応があるのは凄い・・・と思ったら先客があった。それで店頭に出ていたわけだ。
「あら、川上さんじゃないの?」
と声を掛けた先客は昨日バイクに同乗させたくれた繰影さんである。
「こんにちは、繰影さん」
と青葉も挨拶して隣に座る。
「ちょっと詰まっちゃってね。ここで半分ボーっとしてアイデア考えてた」
「ごめんなさい!だったら邪魔ですよね?」
「平気平気。人とおしゃべりするのもアイデアの元」
「飛鳥さんって、中華丼食べながらエッチな話を考えたりするんですよ」
とお店の女の子が言っている。24-25歳くらいであろうか。
「そうそう。天津丼とか、ちゃんぽんとかから、壮絶テクニカルな体位を思いついたりする」
と本人。
「いや、創作の舞台裏ってそういうものですよ」
と青葉も言う。
繰影さんお勧めの天津丼を頼んだが、これが絶品だった。半熟の卵が素晴らしいし、味付けがまた天然の魚介系の出汁を使っているようで穏やかな美味しさである。
「美代さんでしたっけ?凄い美味しいです、これ。どこで覚えられたんですか?」
と青葉は訊いた。
「出汁はうちのお父ちゃんが作ってストックしているのよ。卵の加熱の仕方はむしろお母ちゃんから仕込まれた」
「へー」
「ふたりとも夜になったら出てくるけど、日中は私の担当」
「なるほどー」
その美代さんと繰影さんと3人でしばらくおしゃべりしていたら、繰影さんのスマホに着信がある。
「今大丈夫だよ。**飯店に居るから」
と言っている。
「お友達ですか?」
「うん。東京時代の友だち」
「へー」
やがて、大きなバイクのエンジン音がして店の前に駐まると、
「こんにちは〜」
という野太い声がして、身長170cmくらいの女性(?)が入ってくる。
「いらっしゃい、折江さん」
と美代ちゃんが声を掛ける。
青葉はその人を見てびっくりした。向こうもこちらを認識したようである。
「あら、川上さん、その節はどうも」
「こんにちは、月見里(やまなし)さん」
と青葉も笑顔で返事する。
「知り合い?」
と繰影さんが訊く。
「死人が10人以上出た、凄い呪いの事件をこの人、解決したのよ」
と月見里折江。
「え〜!?そんな凄い人だったのか」
と繰影飛鳥は驚いていた。
話を聞くと、2人は20年ほど前、東京の女装者が多く集まるナイトクラブの常連で、一時期バンドを組んでライブハウスのステージに出たこともあるという。
「どういう担当だったんですか?」
「折江がギターで、私がベース。銀子って子がドラムスで」
「へー」
「でも問題はボーカルだったのよね〜」
と折江が言っている。
「20年前って、女の子の声出せるニューハーフなんて、ほとんど居なかったのよ」
「そうでしょうね。女声で話せるニューハーフさんがこんなに増えたのはごく最近ですよ」
「あんた詳しいね。それで私が裏声で歌っていたんだけど、問題は私は音痴だということで」
と飛鳥は言っている。
「うーん・・・」
「折江は歌がうまいけど、高音が全く出せない」
「だいぶ練習したけど、いまだに出ない」
と折江は言っている。
「まあそれであまり受けなくて、数回出演しただけで自然消滅しちゃったね」
「いや、音楽業界はそもそも多くのバンドが生まれては消えて行きますから」
「うん。元々そういう世界だよね」
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