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■春影(6)

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やがて11時が近くなるので、子供たちはお世話係の人にお願いして結婚式場に移動する。千里はむろん貴司と並んで歩いて行く。その時千里は新婦側の親族の中に冬子(ローズ+リリーのケイ)がいるのにびっくりする。向こうはこちらに気付いていないようである。
 
そういえば新婦は民謡の家元の家系と言っていたが、冬子の伯母が民謡の一派の主宰者だったなというのを思い起こす。冬子も名取りさんだが、むろん彼女は民謡家になる意志は全く無い。それでもローズクォーツの初期のシングルには随分民謡が吹き込まれていたので、冬子の趣味なんだろうなと千里は理解していた。
 
巫女さんに先導されて真っ赤な色に満ちた式場内に入る。千里は本職の巫女だけあってこういう仕様の結婚式場も過去に見ているが、結構驚いている人や戸惑っている人もあるようだ。冬子はその驚いている組のようで、しばし見とれていたが、やがて何かを探している感じだ。
 
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千里は近くに居た美姫に頼んだ。
 
「あそこの青い東京友禅の振袖着ている女の子にさ、これを渡してきてくれない?」
と言って、五線紙とボールペン(サラサ・クリップ)を渡す。
 
「あれ・・・ローズ+リリーのケイさん?」
「そうそう。曲を書きたがっているみたいだけど、あの人五線紙を自分では持ち歩かない癖があるんだよ。誰かに紙をもらって書くのがスタイル」
「へー」
と言って、美姫はその紙とボールペンを持って行き、
「どうぞ」
と言って笑顔で差し出す。冬子はびっくりしていたようだが、御礼を言うと紙とペンを受け取り、一心に何かを書き出したようである。
 

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3分くらいして、祭主を務める神職が入場し、2人の巫女に先導された新郎・新婦が入場して結婚式は始まる。
 
結婚式は厳かであった。舞も笛も充分うまい人がしている。
 
三三九度も最近多い略式ではなく、ちゃんと本則通りに行われる。ただ事前に千里はその話を聞いていたのだが、新婦が妊娠4ヶ月らしく、お酒が飲めないので、新婦は全部口を付けるだけで中身は全部新郎が飲んでいた。おかげで最後には新郎の足がややふらついていた。三三九度のお酒を全部ひとりで飲むと2-3合になるはずで、これを短時間に飲むのは結構利くはずだ。
 
出席者が多いので、親族固めの杯では杯とお酒を全員に配るのにけっこう時間が掛かっていた。新郎新婦が一緒に誓いの言葉を述べ、祭主の言葉があってお開きとなる。退場した後、広い部屋に行き、記念撮影をしてから、男女別の控室に入る。京平が「おっぱいだめだよね?」などと言うので、別室に連れて行って少し飲ませたら、満足したような顔をしていた。
 
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男性用控室に行き貴司を呼び出して指のサイズを再度測定した。今度は62mmであった。また夕方測定することにする。
 
女性用控室に戻る。京平はすっかり仲良くなった絵里と遊んでいる。千里は手帳を見ながら、大分にいる《すーちゃん》と少しリモートで話していたのだが、そこに冬子がこちらに気付いたようで寄ってくる。
 
「千里? もしかして布施さんの親戚?」
「冬が琴岡さんの親戚とは知らなかった」
 
「しかし千里と親戚になるのも悪くない」
と言って千里と冬子は握手した。
 

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「でもそっちはどういうつながり?」
と千里が訊くと
 
「私と花嫁は従姉妹なんだよ。母同士が姉妹。そちらは?」
と冬子。
 
若山鶴乃(荒川都留子)の5人の娘が若山鶴音(水野乙女:現在の鶴派主宰者)・若山鶴風(田淵風帆)・若山鶴声(和代清香)・若山鶴里(琴岡里美)・若山鶴絵(唐本春絵)で、冬子は五女・春絵の次女(元長男)、新婦の純奈は四女・里美の長女である。
 
「花婿と貴司が従兄弟なんだよ。花婿のお母さんと貴司のお父さんが実の姉弟。戸籍上は腹違いの姉弟ということになっているけど、本当は実の姉弟」
と千里は少し面倒な説明をした。
 
実は晴子を産んだとき、淑子はまだ高校生だったので、出産がバレたら高校を退学になるというので、正妻の貞子さんが産んだことにしたのである。実際には貞子さんは当時病床にあり、淑子さんに後事を託して亡くなっていった。しかし、冬子はその面倒な説明より、もっと根本的な問題に当惑したようである。
 
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「千里、もしかして貴司さんの親戚の結婚式に出席してるの〜?」
と冬子が本当に困惑したような顔で訊く。
 
「だって私、貴司の妻だし」
と言って千里は昨夜保志絵さんから渡された結婚指輪をした左手薬指を見せた。
 

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そこに京平が駆け寄ってくる。
「おかあさーん、しっこした」
「はいはい」
「もらさずにできたよ」
「よしよし。おむつ卒業できる日も近いね」
「うん。ぼくがんばる」
 
杏梨が京平に訊いている。
「京平君、おしっこは立ってするの?」
「たってするの、うまくできないから、すわってしてる」
「うん、小さい内はそれでいいだろうね」
 
桜花がからかう。
「女の子になるなら、ずっと座ってしててもいいよ」
「おんなのこにはならないよ!」
「京平ちゃん、可愛いから女の子になってもいいと思うのに」
「ちんちん、なくしたくないもん」
 
京平を見て、冬子は更に戸惑っている。
 
「その子は?」
「京平だよ。この子が生まれる時は冬にも助けてもらったね。京平、お前が生まれる時に、このお姉さんに助けてもらったんだよ」
 
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「おねえさん、ありがとう」
と京平。
「ううん。いいんだよ」
と冬子は答えながらも、本当に困惑しきっている。
 

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そこに理歌と美姫が寄ってくる。
 
「ごぶさたしてます。冬子さん」
と理歌が冬子に挨拶する。理歌は京平が生まれた時に大阪で冬子と会っている。
「どもども」
と美姫も挨拶(?)している。
 
「こちら、貴司の妹の理歌ちゃんと美姫ちゃんね」
「どうも。さっきはありがとうございました」
 
千里は冬子の疑問を解決するために今回こうなってしまった経緯を説明する。
 
「実は昨日の朝、私は大分県の中津市で試合があるんで、新幹線で移動していたんだよ。そしたら大阪で貴司と京平が乗ってきてさ」
「へー」
 
「『あかあさんだ!』と京平が言うから、キャプテンの許可もらって、小倉まで一緒にいたんだよ」
「ああ・・・」
「それで試合終わってから、こちらに来た。だから私は実は京平のお世話係。今日もさっき言ったように後少ししたら試合会場に移動する」
 
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「そういうことだったのか」
と冬子はやっと納得したように言った。
 
「阿部子さんは身体が弱いから、こういう長距離の旅行ができないしね」
「あの人、新幹線で福岡まで来るだけでもダメなの?」
 
「買物に出ただけでも途中で気分が悪くなってしまったりする人だから。最近はコンビニまで行くのも怖がっているみたい。実際コンビニの店内で倒れたこともあるんだよ。だから買物に行かなくても何とかなるように貴司に言ってオイシックス契約させた」
 
「それ、どこか身体が悪いのでは?」
 
「私も心配で、この夏に1度人間ドックに行かせたんだけど、人間ドックでは虚弱体質ではあるけど、どこかに病気があるという訳では無いということだった」
 
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「千里が行かせたんだ?」
「だって貴司は、こういうの考えてくれるような人じゃないからさ」
「うーん・・・・」
 
冬子は、もしかして貴司さんと阿倍子さんの家庭って、千里が維持してあげているのでは?という不思議な認識をし始めていた。
 

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「でも私たちも好都合でした。私たちや母とかも、貴司兄のお嫁さんは千里さんだと思っていますから」
と理歌が言う。
 
理歌は披露宴・二次会の席次表に細川貴司・千里・京平とあるのも指さしてみせる。冬子はそれにも驚いている。まさかそんなに堂々と「貴司の妻」を演じているとは思いもよらなかったようだ。
 
「千里集合写真に写った?」
「写ったよ」
「それ阿部子さんが見たら何か思わない?」
「それは貴司が見せる訳無いから平気」
「うーん・・・・」
と今日の冬子は悩んでばかりである。
 
「実際問題として、親戚はみんなそもそも貴司兄さんの奥さんは千里さんだと思ってますよ。元々千里姉さんは昔から親戚関係の集まりに兄さんの奥さんとして出ていたし。兄さんと阿倍子さんの結婚式にはこちらの親族は誰も出席
 
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してないし、結婚の通知も連名の年賀状も親戚関係には出してないし」
と理歌は言う。
 
「そうなの!?」
と冬子は驚いている。
 
「母が禁止しましたから」
「うむむむ」
 
「ですから兄から親戚への年賀状はずっと兄の単独名義ですね。それも千里姉さんが代筆しているし」
「え〜!?」
 
「私、貴司がチームや会社の関係者に配った貴司と阿倍子さんの連名の結婚通知や年賀状も代筆したよ」
と千里は言っている。
 
「平気だったの〜?」
と冬子は少し呆れている。
 
「平気な訳ないけどさ。貴司が、他に頼める人いないからと泣きついてくるし。阿倍子さんは凄い悪筆なんだよね。貴司の字は問題外だし」
と千里。
 
「私だったらふざけるな!と言って蹴りを入れると思うけど、千里姉さんは凄いです。包容力があるというか」
と理歌。
 
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「高校生の頃、私、貴司に言ったんだよね。貴司が例えば子供を作りたいからと言って、他の女性と結婚したいと言ったら認めてあげる。そして貴司が誰かを法的な妻にしたとしても、私はずっと貴司の妻であり続ける。何人legal wifeを作ったとしても、私は貴司のarch wife(*2)であり続けるとね。まさか本当に他の女と結婚するとは思わなかったけどね」
 
と千里は言った。
 
冬子はその言葉を聞くと意識が少し飛びかけた状態で何か考えているようだった。
 
「五線紙要る?」
と言って五線紙を取り出す。
 
「ちょうだい」
と言って、冬子は何か曲を書き始めた。
 

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(*2) archは上位のという意味で、arch-angelは大天使。arch-fiendは大悪魔。RPG関係ではしばしば親玉の魔物にarchという接頭辞を付けたりしている。ギリシャ語のarkhos(指導者)が語源。
 
archは母音の前では「アーク」、子音の前では「アーチ」と読むのでarchmasterは本来「アーチマスター」だが、日本の漫画などでは「アークマスター」という表現も見られる。
 
archは接頭辞以外で使われることもある。monarchなどがその例。これはmono(1人)+arch(主たる)で「君主」の意味になる。
 
一方、ラテン語のarcus(弓)を語源とするarch(アーチ)もあり、主として建築物の上辺が弓状になっているものを指す。
 
「アーチ(arch)」と「アーク(arc)」はしばしば混同されており、ホームランのことを日本では「アーチ」と言うが、あれは和製英語であり、英語ではarc(アーク.円弧)という。arc sin, arc tan などの「逆三角関数」のarcと同じ。arcの語源も↑と同じラテン語のarcusである。
 
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もっともホームランの軌跡は円弧ではなく放物線(パラボラ parabola)である!
 

やがて12時半になったので、千里は着ている色留袖を脱ぎ出す。
 
「披露宴は洋装で出席?」
と冬子が訊く。
 
「いや。私は試合があるから、そろそろ行く」
「あっそう言ってた!」
「京平、また夕方会いに来るから、お昼は理歌お姉さんや美姫お姉さんの言うこと聞いて良い子してろよ」
「うん。おかあさん、いってらっしゃい」
 
千里が色留袖・長襦袢を脱ぐと、下にレッドインパルスのユニフォームを着ているので
 
「そういう構造になっていたのか!」
と驚いている人たちがいる。
 
「その格好で会場まで行くの?」
「平気だよ」
「会場はどこ?」
「大分市のコンパルホール」
「大分!?試合は何時から?」
「2時からだけど」
「間に合うの〜!?」
「大丈夫、大丈夫。じゃね」
 
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と言って、千里は京平にキスした後で控室を出た。
 

そのまま《きーちゃん》に転送してもらって《すーちゃん》と入れ替わる。
 
《すーちゃん》大分←→東京《きーちゃん》
《千里》福岡←→大分《きーちゃん》
《すーちゃん》東京←→福岡《きーちゃん》
 
《すーちゃん》はすぐに不可視状態になり、例によっていつも京平に付いている伏見の人に挨拶した上で、京平のガードに入った。
 
また《きーちゃん》には「体調が良くないので」と言って早退してもらう。そして用賀のアパートに入って、二次会用の適当な服を選んでおいてくれるよう頼んでおいた。
 
一方、千里が大分に来た時、レッドインパルスのメンバーは今ホテルで昼食を終えて会場に向けて出発するところであった。
 
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しまったぁ!私お昼食べてない!と思うものの、仕方ない。
 
そのまま会場に入る。移動のバスの中で千里は結婚指輪を外し、携帯と一緒にポーチに入れた。このポーチはベンチにも持ち込む。また常時《たいちゃん》に見ておいてもらう。会場に着くので、観客に手を振って挨拶した上で、地元の小中学生にバスケの指導をする。その後スリーポイント合戦をする。
 
ブリリアント・バニーズから田代三智子(PG) 大秋メイ(SF) 桑名依子(SG)の3人、レッドインパルスからは広川妙子(SF) 渡辺純子(SF)に千里(SG)の3人が出て、1人ずつ60秒以内にスリーポイントライン上の5ヶ所から5個ずつボールをシュートし、入ったらオレンジボール1点、カラーボール2点の合計30点で点数を計算する。
 
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田代は7本入れて8点、妙子は8本入れて9点、大秋は10本入れて10点、純子は9本入れて12点、桑名は14本入れて16点と来た所で千里が25本全部入れて30点となるので、会場がどよめく。観客席から凄い拍手が送られた。
 
「今千里さんのファンが100人はできましたね」
 
と結果的に3位になった渡辺純子が笑顔で言った。純子はメイより入れた数は少なかったものの、カラーボールを3個入れているので点数では上回っている。メイはカラーボールがひとつも入ってない。
 

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