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■春対(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-03-06
 
12月14日からK大学法学類の推薦入試の出願期間が始まったので青葉はすぐに願書を提出した。
 
しかしこの時期、推薦入試組では、既に合格を決めている子もいる。凉乃が茨城県のTS大学に推薦で12月9日に合格を決めた。今年の国立合格者第一号であった。その前に純美礼が東京の私立、□□大学の推薦合格を11月27日に決めている。純美礼は高校3年間テニスに明け暮れていたが、結果的にはそのテニスでの活動が評価されて、合格に至ったようである。
 
「えーん、純美礼って私のお仲間かと思ってたのに〜」
などと、そもそも大学というものに行けるのかどうかも微妙な美由紀が羨ましそうに言っていた。
 
徳代は東大文一を受けるということで、ここは推薦は無いので一般入試でのチャレンジである。
 
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理数科の方では、ヒロミは青葉と同じK大学の医学類を受験するのでまずは推薦で受験し、それで落ちたら一般入試で再チャレンジするということであった。彼女も12月14日に推薦の願書を提出した。
 
「ヒロミは大学から事前面接とかされなかった?」
「されてない」
「ヒロミは願書の性別はどうしたの?」
「戸籍通りじゃないとまずいかなと思って男に○付けた」
「センター試験の願書は?」
「そちらも男にしておいた」
「ヒロミ、試験は男装して受けるの?」
「私、もう男装しようにも男物の服を持ってないよ!」
 
「それって絶対試験場で揉めるよね」
「うんうん。性別詐称の詐欺罪で逮捕されたりして」
「え〜〜〜!?」
 
空帆は東京工業大学を受けるということで、12月15-17日が推薦の願書出願期間ということで願書を提出したが、推薦は枠が小さいから難しいかもと言っていた。彼女も推薦で落ちたら一般入試を受けることにしている。
 
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美津穂は富山市のT大学志望だが、推薦の条件を満たしていないということで一般入試での挑戦である。明日香と世梨奈は金沢の私立H大学、須美と真梨奈はやはり金沢の私立S大学と言っていた。
 
「青葉、K大学まで車で通学するなら乗せてってよ」
と明日香と世梨奈は言った。
 
「杜の里までは乗せて行けるけど、その先は道が違うよ」
「その先はバスかな」
「ああ、それならいいよ」
「自転車で行くことも考えたけど、あの坂を見て諦めた」
「あの坂を毎日自転車で上がっていたら、スポーツ選手になれるかも」
「それに冬の間は自転車無理だよね」
「うん。北陸の冬は自転車もバイクも無理」
 
「でも青葉のお姉さん、太股も凄いよね」
「ちー姉ならあの坂を自転車で楽々上がれるだろうな」
「やはり元男の子だから足が太いの?」
「男の子時代は凄く細かったみたいだよ。女みたいな奴だなと言われていたと」
「ふむふむ」
 
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「ちー姉は女の子になった後で、無茶苦茶身体を鍛えて筋肉を付けたんだよ。それで男にも負けない身体を獲得した」
 
「それは別の意味で凄い」
 
「でもお陰で繰り返し何度も何度も性別検査をされたみたい」
「ああ、それも大変そう」
 
「実は睾丸をこっそり体内のどこかに温存していないかと疑われたみたいだよ」
「なるほどー」
「でも医学的な検査をすれば頭の先から足の先までMRI取っても睾丸なんてどこにも無いし、そもそも骨格が女の骨格だし、脂肪の付き方とかが明かに女の付き方だから」
 
「いや、青葉のお姉さん、どう見ても生まれながらの女にしか見えないもん」
「それ私もそちらの方を疑いたくなる感じなんだけどねー。実は天然女だってことはないかって」
 
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千里がその「全身くまなく」MRIで検査され身体のどこにも睾丸は温存されていないことを確認されたのは2009年、つまり千里が大学1年生の夏のことらしい。つまり、その時点では間違いなく千里は性転換済みであったことが確実である。
 

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紡希は第1希望が京都大学で、落ちた場合は後期の神戸大学を受けるが、その他、滑り止めに立命館を受けると言っていた。いづれも一般入試での挑戦である。関西に出て行きたいということのようだが、彼女はお母さんとうまく行っていない様子なので、親元から離れたいのだろうと青葉は想像していた。
 
日香理は何年にもわたる交渉でとうとう親を説得し、東京外国語大学の受験を認めてもらったが、ここは推薦枠が(実質)無いので、一般入試でのチャレンジとなる。一応模試ではB判定である。万一落ちた場合は金沢のK大学の後期試験を受けるということで、お母さんとの妥協が成立している。経済的な問題で私立は考えられないので、彼女は東京に出て行くためには前期試験でしっかり合格する必要がある。
 
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「ねえ、青葉、万一K大学に行くことになったら、通学の時、青葉の車に乗せてよ。私も頑張って免許取るから交代で運転できるようにするし」
 
などと彼女は言っていた。
 
「それはいいけど、前期試験頑張りなよ」
「うん。頑張って頑張って頑張って、最後は運頼みだけどね」
「グッドラック」
「サンクス」
 

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千里たち40 mintesは12月の土日は、東京都クラブバスケット選手権に参加していた。この大会は12月6,13日に1回戦が行われたが、40 minutesも江戸娘もシードされているので12月20日(日)の準々決勝から参加した。どちらも順当に勝ち上がり、12月23日(祝)の午前中の準決勝にも快勝して、13:00からの決勝はこの2チームで争われることになった。
 
なお、この両チームはどちらもお正月のオールジャパンの出場を決めている。40 minutesは11月1日に社会人選手権で準優勝して出場権を取ったが、江戸娘はその社会人選手権では上位に入れなかったものの、直後に行われた11月3日のオールジャパン東京都予選で優勝、更に11月21-22日に横浜で行われた関東総合選手権でも優勝して、オールジャパン初出場を決めたのである(40 minutesも初出場)。
 
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両者のここ1年ほどの対戦成績は拮抗している。
 
2014.10 オールジャパン東京都予選・決勝 江戸娘の勝ち
2014.12 東京都クラブ選手権・決勝 江戸娘の勝ち
2015.02 関東クラブ選手権・決勝 40 minutesの勝ち
2015.03 全日本クラブ選手権・準決勝 40 minutesの勝ち
2015.07 東京都夏季選手権・決勝 江戸娘の勝ち
 
(今年のオールジャパン東京都予選は40 minutesが先にオールジャパン出場を決め準決勝を辞退したので、両者の対戦は発生しなかった)
 
こういういつも競っている相手だけに、江戸娘のテンションは無茶苦茶高かった。特に7月に江戸娘が勝った時は千里と雪子がユニバーシアード代表の活動で欠場しており、フルメンバーの40 minutesが江戸娘と対戦するのは3月の全日本クラブ選手権の準決勝以来なので、ここで勝って東京No.1をアピールしておきたいところだ。
 
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しかしこの日の千里は凄すぎた。江戸娘のメンバーは誰も千里を止めきれない。マーカーを付けていても千里はほとんどフリーに近い状態で動き回る。そしてどんどんスリーを放り込む。更に司令塔の雪子も10月以来修士論文を書く以外は「バスケ専業」になって練習時間が大幅に増えたこともあり一皮剥けたプレイをする。
 
結果はまさかのダブルスコアで40 minutesが優勝した。
 
「強ぇ〜!さすが実業団1位と接戦をするだけのことがある」
と江戸娘キャプテンの青山さんは完敗の弁であった。
 
「でも千里は3月までだから」
と40 minutes次期キャプテンの星乃が明かす。
 
「あれ、どうして?性転換して男にでもなる?」
「いや、Wリーグのチームに移籍しちゃうんですよ」
「ああ、これだけ強かったら行けるだろうね。じゃ来年度は江戸娘の天下だな」
「4月からは私がキャプテンやれと言われてるから、きっと40 minutesはお笑いチームになるから期待してて」
 
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「お笑いって何やるの?」
「そうだなあ。例えば逆立ちしてシュートするとか」
「それで入ったらマジ凄いね」
 
なお、この大会は2位以上が関東クラブ選手権に出場するので江戸娘も40 minutesも1月末さいたま市で行われる関東クラブ選手権に行くことができる。
 

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さて、千里が東京都クラブ選手権に出たのは12月20日の準々決勝と23日の準決勝および決勝である。その合間の12月22日(火)、千里は朝から新幹線で大阪に入った。
 
新大阪から御堂筋線で千里中央に入る。駅前で貴司と落ち合う。
 
一応周囲に人がいるのでキスは自粛してハイタッチした上で貴司が
「そうそう。今年も年賀状ありがとね」
と言う。
「まあ毎年の行事だからね。自分の年賀状も書かないといけないし、ついでだよ」
と千里。
 

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千里は実は2011年の年賀状(2010年末に発送)以降毎年貴司の年賀状の宛名書きをしてあげている。貴司も悪筆だし、阿倍子も悪筆だが、バスケ関係者への年賀状は表裏両面ともを印刷して配るのが禁止らしいのである。それで貴司は裏面だけ印刷した年賀状を千里に渡して千里が宛名を書いているのである。裏面に少し加筆する場合もある。
 
ただ、貴司も千里も年賀状を送っている留萌S中学のバスケ部顧問をしていた伊藤先生(現在は道内の別の中学でバスケ部顧問をしている)などは
「君たちの年賀状は同じ字で書いてあるね」
などと指摘していた。他にも数人これに気づいている人がいる。
 
千里として辛かったのは婚約破棄された後の2013年の年賀状(2012年末に発送)だったが、2012年12月22日の「結婚式になるはずだった日」に貴司と会った時、貴司に土下座して頼まれて書いてあげた。千里としてはかえって2014年の年賀状で結婚報告を兼ねる文面になっていたものの方がまだ気楽だった。婚約破棄以降、更に阿倍子との結婚以降も貴司と千里のデートは毎月続いていたことが千里の心を支えていた。
 
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「でも私たちも大胆だね。こういう場所で待ち合わせするなんて」
と千里は言う。
「阿倍子は今日は神戸の実家に行っているから」
と貴司。
 
貴司は今日は有休を取っている。ふたりは駅を出て歩きながら話した。
 
「神戸の実家って、結局今誰が住んでいるんだっけ?」
「誰も住んでない。実質空き家になっている」
「親戚と揉めてると言ってた?」
 
「そうなんだよ。その話し合いで今日も行っているんだよ。あの家の名義は阿倍子が『お祖父さん』と呼んでいた龍造さんという人の名義になっていたんだけど、龍造さんは一度も結婚していないし子供も居なかった」
「うん」
 
「阿倍子のお母さんは、龍造さんの妹の子供なんだけど、その妹さんが子供を残して失踪してしまったことから、ずっと小さい頃から龍造さんに育てられている。ところが龍造さんには実は他に養女にしていた女性がいて、その人は確かに養女にはしたんだけど、龍造さんと折り合いが悪くて早い時期に家を出て、もう長いこと音信不通になっていた」
 
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「ややこしいね」
 
「龍造さんは亡くなる時、阿倍子のお母さんに遺産は全て譲るという遺言書を残していた。でも養女さんは龍造さんが亡くなった後で連絡してきて、自分にも取り分があるはずと主張した。確かに遺留分は主張できるよね。更にその遺言書は本物か?とイチャモン付けてきた」
 
「それで揉めている訳か」
「他にもいろいろ積年の恨みみたいなのもあるみたいで、正直関わり合いになりたくない気分」
「ああ、貴司って面倒な話が嫌いだもんね」
 

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20分ほど歩いてふたりが辿り着いたのはトヨペットのお店である。
 
先日貴司のアウディが事故に遭って廃車になってしまったので、新しい車を買うことにしたのである。
 
「でもやはり車って丈夫なものでないといけないと思ったよ」
と貴司は言う。
 
「あの事故、軽とかだったら、貴司たち大怪我してたかもね」
「うん。さすがアウディと思った」
 
実際には京平と「京平を守っている存在」が貴司と阿倍子まで守ってくれたのもあるのではないかと千里は想像している。京平の近くにはいつも千里の眷属の誰かが付いているものの、それ以外にも京平のそばにどうも「誰か」が付いている雰囲気なのである。千里は伏見の香りを感じていた。
 
「でも今度はトヨタにするんだ?」
 
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「やはりさあ、外車はメンテに金がかかるんだよ」
「それはいえるね」
 

そういう訳で貴司は新しい車を買うことにしたのだが、その車選びで阿倍子は車とか全然分からないと言ったので、ひとりで決めると見落としがあるかもといって千里が呼び出されたのである。
 
貴司はアウディに450万円の車両保険を掛けていて、そこまでは保険で出るのでそれに少し足して600万円程度までが許容範囲かなあ、などと言っていた。(車の時価額までは向こうの保険で出て、差額はこちらの保険で出るが、この場合、こちらの等級は下がらない)
 
ふたりがお店に入っていき、車を選びに来たと言うと、
「新型が発売されたばかりのプリウスはいかがですか?」
と勧められる。
 
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しかし貴司は「あの形がどうにもむずかゆくて嫌い」と言い、千里は「CVT車は嫌い」と言って、まず除外する。
 
「私別にあの形は嫌いじゃないけど」
と千里。
「そう?僕はエスティマの曲線も嫌い」
と貴司。
「エスティマ可愛いのに」
「うーん。意見が一致しないな」
 
「CVTがお嫌いでしたら、ATでしょうか?」
とお店の人が訊く。
 
「私はMTが好き」
と千里は言うが
「僕はATが良い」
と貴司は言って、またまたふたりの意見は一致しない。
 
「ATなんて女の車だよ。男はMTだよ」
と千里は言う。
「千里、女じゃないの?」
と貴司。
 
「確かめてみる?」
「確かめてみたい。でも千里が男だったら世界中が大騒動になるぞ」
「貴司は女なんだっけ?」
「僕が女だったら千里が一番困ると思うけど、確かめてみるかい?」
 
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お店の人が困っているようなので千里が
「あ、すみません。ATかMTならいいです」
と告げる。
 
「分かりました。CVT以外でしたら、アルファード、86、マークX、ラッシュ、ランドクルーザー、ランドクルーザー・プラドといった所ですね」
 
CVTが除外されたことで車種はぐっと絞られてしまった。
 
「ラッシュはさすがに小さすぎる」
「86は楽しいけど実用性が低いよね」
「セダンは使い勝手が悪い。荷物の出し入れ考えると荷室と居室は一体化していて欲しい」
 
とふたりは言い、あっという間に対象はアルファード、ランドクルーザー、ランドクルーザー・プラドの3つに絞られてしまった。
 

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