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■春対(5)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-03-05
 
青葉は愛奈との約束通り、2015年11月下旬の連休、新幹線を大宮乗り継ぎで仙台まで行った。大宮から先は彪志も同行した。
 
青葉は実際に幽霊が出るような時間帯にそこに行きたいと言ったので、仙台に到着したのが11月21日(土)の夕方である。仙台駅で愛奈と合流し、仙石線、そしてバスで愛奈のアパートの界隈に到達する。
 
「愛奈さんのアパートはその2番目の横にピンクのラパンが駐まっている棟?」
と青葉は訊いた。
 
「ええ。そうです」
と愛奈。
「愛奈さんは右端の部屋かな?」
と青葉。
「なんで分かるの〜?」
と愛奈が訊くと
 
「そこは安全地帯だから」
と彪志が言った。
 
「彪志でも分かるよね、これ」
「うん。そこだけ他と空気が違う」
「うむむ」
「愛奈ちゃん、守護霊が強いから、危ない場所を自動的に避けられるんだよ」
と彪志。
 
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「私の守護霊ってどんな人?」
と愛奈が訊くので、青葉は
 
「上品な女の人だよ。私の目には平安調の袿(うちき)みたいな服を着ているように見える」
「へー!」
 
と言ってから愛奈は尋ねる。
「女の子の守護霊は女の人で、男の子の守護霊は男の人?」
「うーん。それはあまり関係無い気がするけど」
「男の守護霊が付いてる女性はたくましく、女の守護霊が付いてる男性は優しくなったりする?」
「そういう説は聞いたことがない。愛奈ちゃん研究してみて」
「研究しようにも私には守護霊は見えない」
 
「でも以前男の娘の守護霊が付いてる男の娘を見たと青葉言ってたね」
「うん。あれは面白かった。適切な指導ができると思う」
「それは凄い」
 
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青葉はこの状況が起きている原因を探るようにその界隈を歩き回る。彪志と愛奈がそれに続く。
 
「ああ、これかな」
と言って青葉は道ばたに立っている不思議なモニュメントの前で立ち止まる。
 
「何これ?」
と彪志が言っている。
 
「震災復興を祈って町のあちこちにこんな感じの芸術作品が設置されてるんだよ。全国の美術学生さんが制作したものなんだって。でもこれ何を表しているのか全然分からないよね」
と愛奈。
 
「私も抽象芸術は苦手だなあ」
「でもこれがお守りになってるの?」
「なってる。お地蔵さんみたいな役割を果たしている」
「これがお地蔵さんなのか」
「現代的デザインのお地蔵さんかも」
 
青葉は羅盤で方位を確認したが、このモニュメントは愛奈の部屋からちょうど北東にあることが分かる。つまり北東から来るものを、このモニュメントが止めてしまうのだろう。
 
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この状況は、(多分ちー姉が作り上げた)桃姉とちー姉が住んでいた千葉のアパートの環境に似ているなと青葉は思った。
 
靴屋さんのあった所が立ち退いて道路の線形改良がされた場所も見た。確かにここに大きな建物があれば、あの界隈は守られていたろうと青葉は思った。道路の流れはよくなったが、幽霊の流れも良くなってしまったようだ。
 

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「じゃ、私の部屋は大丈夫としても、このあたりの幽霊騒ぎはどうにもならないのかな?」
 
「そうだなあ」
と青葉は考える。
 
問題は「どの程度の期間」もたせるかだ。
 
「愛奈さん、今2年生だっけ?」
「うん」
「じゃ、取り敢えず2年ちょっともたせればいいか」
「ああ。ずっと出ないようにするのは難しいんだ?」
「難しいというよりお金が掛かるというか」
「うむむ」
「市とか県とか動かさないといけないし」
「ひゃー」
「思ったけど、アパートの北側に街路樹とか植えたら、かなり変わるよね?」
と彪志が訊く。
 
「うん。根本的な対策はそれしかないと思う。まあ3000万円くらいあれば」
と青葉。
「それはさすがに無理だな」
と愛奈。
 
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青葉は悩んでいた。
 
個人の住宅であれば、その敷地内でいろいろ仕掛けを作ることにより防御態勢を作ることができる。しかし共同住宅で、どう考えてもその管理者の協力などは望めない状況で、どこまでやれるか。
 
自分たちが不動産屋さんに行って、幽霊騒ぎを抑えるために、こういうものを作って欲しいとか言っても、頭のおかしな人と思われるだけだ。
 
青葉は唐突に千里の顔が頭に浮かんだ。
 
ちー姉なら、こういう場面でも何か手を打つはずだ。ちー姉ならどうする?
 
青葉は先日の富山県J市の妖怪騒ぎでは、取り敢えず御札3枚で抑えた上で神社の孫息子さんが春になれば戻って来て、町内の巡回をしてくれることを期待している状況だ。
 
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「愛奈ちゃん、この近所に住んでいるお友達で、地元の子いる?」
「何人かいるけど」
「その中で犬を飼っている人いない?」
 
「晴恵ちゃんが雑種の中型犬を飼ってる。わりと仲の良い子」
「その犬、お散歩させるよね?」
「あ、毎朝晴恵ちゃんがお散歩させ係になってるみたい」
「その子に、この付近まで足を伸ばしてもらえないかな?」
 
「犬で幽霊を追い払うの?」
と愛奈。
「うん。わりと幽霊って犬に弱い」
と青葉。
「へー!」
と愛奈は感心している。
 
「それ結構昔から言われているよね」
と彪志も言った。
 

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それで愛奈が晴恵に連絡した所、彼女もその幽霊騒動には関心を持っていたと言う。時刻は既に19時過ぎだったのだが、愛奈が霊能者さんを連れてきたと言うと、今からでも話を聞きたいということであったので、3人で晴恵の自宅にお邪魔して、愛奈が状況を説明する。更に青葉が地図を示して、靴屋さんの立ち退きで気の流れが変わってしまったことから、この付近に幽霊が出るようになったことを説明し、強い護符を持った人が日々特定のルートを巡回すると、この付近が守られるようになると説明した。すると幸いなことに晴恵はその「幽霊撃退作戦」に興味を持った。
 
「いや、あの付近は私も通学の時に通るから、幽霊が出たら怖いもん。私自身は見たことないんだけど、幽霊が居たって悲鳴上げて逃げてきた子には遭遇したことあるのよ。シロちゃん散歩させるので追い払えるならやりますよ。どうせ散歩は毎日するんだし」
と晴恵。
 
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「晴恵ちゃんが体調悪い時は私に連絡して。代わりにやってもいいよ。自分の住んでる所の幽霊対策だもん」
と愛奈も言う。
 
「その犬の首輪に特殊なお守りを付けさせて欲しいんです。それでこのルートを巡回して欲しいんですよ。そのお守りは明日の夕方、こちらに持って来ますから」
と青葉。
 
「青葉、それどこに取りに行くの?」
「もちろん高野山」
「明日の夕方までに往復するの〜?」
「うん、してくる」
「俺も付いて行くよ」
「交代のドライバーが欲しかった」
 

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青葉は高野山★★院の瞬醒さんに連絡して、これこれこういう仕様のお守りを中型犬の首輪につけられるように作って欲しいと言った。
 
そして青葉は彪志とふたりで仙台駅に戻ると、最終の新幹線でいったん東京まで行く。都内のビジネスホテルで一泊(青葉はネットカフェでいいと言ったが彪志がビジネスホテルを主張した:どっちみち事件対処のため潔斎中なのでセックスはできない)した上で、22日朝1番の新幹線で京都に向かった。
 
駅前で彪志の名前でレンタカーを借りると最初は彪志の運転で京奈和道に乗る。ひたすら奈良県内を南下し、有料道路を出た所で運転は青葉に交代。11時頃に高野山★★院前に到着した。
 
「ここ凄い所だね」
などと彪志が言いながら、お寺の中に入っていくと、瞬醒さん自身が出てきて
「作っといたよ」
と言って、お守りを渡してくれた。
 
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「ありがとうございます。これはちょうどいいサイズです」
「ところでそちらの男の子は青葉ちゃんの彼氏?」
「はい。フィアンセです」
「惜しいな。彼女がいない男の子なら、ぜひうちに入ってもらって100年くらい修行させたいのに」
「私がキープしてるからダメです」
「取り敢えず修行20年か30年でもいいけど」
「済みません。遠慮しておきます」
「お肉食べられないのと、女が居ないことのぞけば、いい所だよ」
「青葉と結婚したいので」
「性欲抑えきれないなら去勢する手もあるし」
「去勢なさっている修行僧の方もあるんですか?」
 
「少なくとも戦後はひとりも出てないな。去勢手術してくれるお医者さん紹介するよと言うと、みんな頑張って性欲を乗り越えますと答える」
と瞬醒さんが言うと
 
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「俗世間は捨てても男は捨てたくないですよ」
と醒春さんが横から言った。
 

瞬醒さんによく御礼を言ってから★★院を後にする。
 
京都駅まで戻り、そこから京都14:05-16:23東京17:20-18:52仙台という連絡で仙台に舞い戻った。
 
愛奈・晴恵と仙台駅近くの飲食店で落ち合う。
 
「24時間掛けずに奈良まで往復できるんですね。すごーい」
「日本列島も狭くなったよね」
 
「これを首輪に取り付ければいいのね?」
「はい。お願いできますか」
 
「でもこの地図見ていたんだけど、何か図形を描くようなコースだね」
と愛奈が言う。
 
「うん、図形を描いている」
と青葉は答える。
 
「それって、やはり魔法陣とか反閇(へんばい)とかのようなもの?」
「まさに、それ。だからこれを実行する人は運気が上がると思う」
「おお」
「あのアパートは女学生が多いということで、特に女性を守る形にしてる」
「おお!」
 
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「じゃお兄ちゃんとかお父さんに代わってもらうと、女性化する?」
「うーん。女性化まではしないけど、少し心が優しくなるかも」
「シロも女性化するかなあ」
「シロちゃん、男の子ですか?」
「生まれた時は男の子だったんだけど、取っちゃったから今は中性ですね」
「だったら、女性化しても問題ないですね」
「うん。確かに問題無い!」
 

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「でもこれ御礼(おれい)とか幾らくらい払えばいい?」
と愛奈が訊くので青葉は言った。
 
「こないだの彪志のデート権を私が買い取ったのと相殺で」
「なるほどー」
「要するにお代は彪志だね」
「うん。それでOK」
と愛奈も言った。
 
彪志が複雑な表情をしていたが、晴恵は
「すごーい。人身売買の現場を見てしまった」
などと言っていた。
 
なお青葉と彪志はその日は仙台市内のホテルに泊まり、翌23日ゆっくり千葉と高岡に帰還した。
 

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しかし今回は彪志の「交際問題」の絡みで報酬を受け取らなかったものの、実費が交通費と宿泊費・レンタカー代・ガソリン代・高速代に瞬醒さんに渡した謝礼まで入れて20万円を越している。
 
こないだ上旬にデートした時も高岡との往復の交通費は冬子さんからもらったし、高速代は千里のETCカードを使わせてもらったものの、ガソリン代やランチクルーズの代金などで5万円以上使っている。
 
「まあいいか。12月にはまた印税が入るし」
と青葉は北陸新幹線の車内で今回の旅のレシートを見ながらつぶやいた。
 
本来印税や著作権料の支払いは3,6,9,12月末だが、契約の関係でその月に振り込まれるものと、1ヶ月遅れで振り込まれるものが混在している。実際には1ヶ月遅れのものの方が多いので、実は12月に入金するのは恐らく10万円前後しかない。
 
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それでちょっとため息をつきながらレシートをバッグの内ポケットに再度しまっていたら千里から電話が入る。周囲に他の乗客がいないのを見て座席でそのまま取る。
 
「おはよう、ちー姉」
「グーテン・モルゲン、青葉」
 
ちなみに時刻は既に21時過ぎである。先日幣原さんたちと交わした「おはようございます」は芸能界や歌舞伎界の習慣だが、今日のはただのジョークである!
 
「青葉、ぱーっとお金儲けたくない?」
「うーん。そういう話は何だか怖いけどな」
「即金で25万プラス消費税払うからさ」
「25万!?」
と思わず言って、それだけもらえば今回の仕事の赤字補填ができると青葉はつい考えてしまった。
 
「簡単なお仕事なのよ」
「霊関係?」
「音楽関係」
「そっちか!」
 
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「アクアに渡す、東郷誠一さん名義の曲、今月いっぱいでいいから1曲書いて」
「えーっと・・・」
「アクアに提供している楽曲は1回目は東郷誠一と上島雷太、2回目は東郷誠一とマリ&ケイ、3回目は東郷誠一と大宮万葉、ということで来たんだけど4回目は大宮万葉さんが受験で忙しいというので、東郷誠一と再度マリ&ケイで書くことになっている」
「うん、聞いてる」
 
「でもアクアに提供している東郷誠一名義の曲は実際には一貫して私と蓮菜、つまり葵照子と醍醐春海で書いている。でも今回、私忙しくてとても手が回らないのよ。アクアに提供する曲って、結構力(りき)入れないといけないからさ」
 
「それを私が書くの?」
「歌詞はできてる。だから曲だけ付けてもらえばいい」
 
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