広告:椿姫彩菜フォトブック C'est ma vie
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■春対(7)

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え!?
 
と思ってバックミラーで京平の様子を見ようとした貴司は、後ろから凄いスピードで迫ってくるコンパクトカーがあるのに気づく。
 
嘘!?
 
貴司はとっさに右後方を確認して右側の車線後方に車が居ないのを見るとアクセルを思いっきり踏むと同時に急ハンドルで右側の車線に逃げる。
 
急激な動きに阿倍子が「きゃっ」と声を挙げる。
 
しかし後ろから突っ込んできた車の勢いが凄くて、貴司の車は後ろから追突され、貴司が思いっきりアクセルを踏んだこともあり、そのまま中央分離帯まで行ってしまった。
 

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ガチャッ、バリンッ。
 
という音が二連発か三連発で起きた気がする。
 
後ろから凄い勢いで突っ込んできた車は貴司の車にいったん追突した後、貴司の車が右側に抜けた後、そのままトラックに激突した。
 
貴司の車も中央分離帯に半分乗り上げる形で停まる。
 
貴司は一瞬意識が飛んだ気がした。エンジンは停止している。停まったのか自分で停めたのか、分からなかった。
 
貴司は
「阿倍子、大丈夫か?」
と呼びかける。
 
「うん。何とか。・・・・京平も大丈夫みたい」
と阿倍子が返事するのでホッとする。
 
人が集まってくる。
 
「大丈夫ですか?」
と声を掛けてくれる人がある。
 
「はい、何とか」
「助手席、誰も乗ってなかったんだね」
「ええ」
「良かったね。これ当たってたら死んでたね」
 
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と言われて貴司は初めて気がついた。そしてゾッとした。
 
中央分離帯で何か工事でも行われていたのだろうか。鋼材が積み上げられていたのの1本が車に突き刺さる形になっていて、その先が助手席の所に達していたのである。
 

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貴司から電話で事故の話を聞いて、千里も肝を潰した。
 
「誰も怪我が無くて良かったよ」
 
「うん。病院に連れて行ってもらって診察受けたけど、僕も阿倍子も京平も異常なし。追突されたから鞭打ちとか出たら怖かったんだけど、僕がアクセル踏んで逃げたので、追突のショックは最小限で済んだみたい」
 
「良かった」
 
「でも京平をもしベビーシッターとかに預けて阿倍子と2人で出ていたら阿倍子は助手席に乗っていたと思うんだ。京平を連れていたから阿倍子は後部座席に乗っていた。それで助かったよ」
 
「やっぱり阿倍子さん、運が強いんだよ。私も今阿倍子さんにそんな形で死なれたら夢見悪いからさ」
 
「そうだね。でもあの時京平が泣いてなかったら、凄い速度で追突されていて、それで3人とも大怪我していたと思う」
 
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千里はさっすが京平と思った。泣くことによって危機を貴司に伝えたのだろう。
 
「そのトラックに突っ込んだ車は?」
「居眠り運転だったんじゃないかなあ。ドライバーは重傷。命には別状無いけど、足とか肩の骨折で全治6ヶ月くらいじゃないかという話」
 
「きゃー。よく助かったね」
 
「それも思った。実際そちらの車は前がほとんど潰れていた。サバイバルゾーンも半分くらい潰れていた。でも、いったん僕の車にぶつかったことでトラックに衝突する時の勢いが少し小さくなったのでは、と保険屋さんは言ってた」
 
「なるほどー。貴司の車のお陰でその人も助かったんだ。トラックの運転手さんは?」
「無傷」
「それも良かった。やはりトラックは頑丈だからね」
 
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「そうそう。でもアウディは廃車だよ。前も後ろも傷が酷い。特に前はかなり変形してる」
 
「まあ仕方ないね。でもアウディじゃなかったら、それで済んでないかもよ」
 
「思った。軽とかだったら、あの鋼材が後部座席まで達していた可能性もある。そもそもクラッシャブルゾーンが小さいからね」
 
「やわな車だと鋼材の山に突っ込んだだけでもたぶん全員怪我してるよ」
「うん。その可能性もある」
 

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「それ事故の責任はどうなるの?」
「事故の様子を見ていた人が何人か証言してくれて、責任は突っ込んできた車に全てあるということになった。本人も自分の過失を認めたから、それで処理されると思う」
「貴司の責任は?」
「問われなくて済むみたい。鋼材も工事の責任者が保管の仕方が悪かったってんで始末書を書いたみたいだし」
「それはちょっと気の毒かも」
 

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青葉は千里から頼まれた「東郷誠一」名義のアクア向け楽曲を受験勉強の合間を縫って何とか11月29日(日)に書き上げ、Cubaseのプロジェクトの形で千里に送信した。
 
ホッとしていた12月1日(火)、教頭先生から呼ばれて職員室に行くと
 
「△△△大学が、願書受付前に、君に一度会っておきたいと言っているのだけど」
と言われる。
 
「私の性別問題ですか?」
と青葉は尋ねる。
「うん。そうだと思う。君の取り扱いについて、実際に本人を見てから判断したいんだと思う」
と教頭。
 
「でも私、あまりこの大学に行く気は無いんですけど」
「その件は一応向こうにも言ったけど、それでも合格した場合に入学する可能性があるのであれば、実際の本人を見ておきたいと思うんだよね」
 
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「なるほどですね」
「それで申し訳ないけど、今週中に一度東京まで行ってきてくれない?交通費と宿泊費は向こうが出してくれるらしい」
 
「まあ旅費付きなら行ってきましょうかね」
 

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それで教頭先生に向こうに連絡を取ってもらった上で、青葉は翌日12月2日(水)朝から新幹線で東京に出た。(新高岡6:25-9:20東京)
 
10時すぎに△△△大学の法学部を訪れ、1階事務所で来訪の趣旨を言うと、応接室に通され、女性の教授が応対してくれた。
 
「あの、失礼ですが、あなた本当に男の子だったんですか?」
「ええ、そうです。中学3年生の時に性転換手術を受けました」
「声も女の子の声ですね」
「声変わり前に去勢してしまいましたから」
「それは凄い。ご両親に随分理解してもらえたんですね」
「いえ。親は私も姉もネグレクトして食事も作ってもらえなかったんで、自分たちで勝手にご飯作って食べていた状態で」
「え〜〜!?」
「食料とかは親戚や知人から援助してもらっていたんですよ」
「よくそれで生きて来ましたね」
「後からそう思いました。私は岩手県に住んでいたのですが、東日本大震災でその両親も姉も失って、その後、縁があって、今のお母さんに後見人になってもらって富山県で暮らしています」
 
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「ああ、それで保護者の苗字が違うんですね」
「ええ。養子にはなっていないので。まあ、それで親に放置されているのをいいことに、私はずっと女の子の格好で小さい頃から暮らしていたし、小学4年生の時から、女性ホルモンを勝手に調達して飲んでいて、5年生の頃には睾丸の機能も停止してしまったんです。それで声変わりもしていません」
 
このあたりの話は先日千里に注意されたので、ホルモン剤を飲んでいたことにしたのである。
 
「なるほど、それでそんなに自然に女の子なんですね」
「私は自分が男だなんて思ったことは1度もありません。ただ戸籍だけが男になっているので、本当に困っているのですが。これ20歳になるまで変更できないんですよね。高校1年の修学旅行でヨーロッパに行った時もあちこちで大変でした」
「ああ。苦労するよね」
 
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どうも青葉を一目見ただけで、向こうの「用事」は済んでしまったようで、その後はほとんど雑談になってしまった。
 
青葉は自分を保護してくれて、そして13年間親の愛を知らずに育った自分をほんとに優しくして愛してくれている今のお母さんに恩を感じているので、富山県からは移動したくないと思っていること、こちらの大学は進路指導の先生から言われて、やむを得ず受けることにしただけで実際には進学の意志は無いことも伝えた。
 
「でももし国立に落ちてしまったら、こちらに来ますよね?」
「まあ、来る可能性はあると思います」
「法学部を受けるということですが、弁護士志望ですか?」
「いえ。法律全般の勉強をして、放送局に勤めたいと思っています」
「なるほど、公共政策コースですね」
 
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「はい。弁護士になったら、私、被告人の弁護より真実の追究に燃えちゃいそうだから、あまり弁護士に向かないです」
「あら、だったら、検察官になる手もあるわよ」
「そしたらたぶん私、回ってきた被疑者を全員、起訴猶予にしちゃいますよ」
「それは困った検察官だ」
 
教授は唐突に法律の条文番号を挙げる。
 
「民法第753条を言えますか?」
「成年擬制ですね。未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす」
 
「それでは16歳で結婚した女性は、お酒を飲んでもいいでしょうか?」
「いけません。民法753条が定める成年擬制は、あくまで民法や商法などの私法における法律行為の主体となるためのものですので、公法上の行為には適用されません。ですからお酒やタバコを飲むことは許されませんし、選挙権も得られません」
 
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「では16歳で結婚した女性が17歳で離婚した後、成年擬制は消えますか?」
「消えません。子供の親権を持たないといけないこともありますので」
 
「あなた法律に結構詳しいみたい」
「一応六法の範囲なら全部条文を暗誦できますよ。コンメンタールも一通り通読していますし」
 
「凄いね。あなた裁判官になるとかは?」
 
青葉は苦笑して自分の「副業」について明かす。
 
「これ言うと、あやしげな人と思われそうで言わなかったんですけど、私はずっといわゆる拝み屋さんをしているんですよ。もう4〜5歳の頃から、拝み屋さんをしてた曾祖母に連れられて」
 
「へー!」
「曾祖母が亡くなった後は、私まだ小学生なのに、あちこちで霊的な相談とか受けていて」
「なるほど」
 
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「そういう相談を受けていると、医学的な知識とか法律上の知識とかも結構要求されるんですよ。そういうのに絡む相談って多いもんだから。病気の相談は多いし、恋愛関係や結婚離婚・子供の養育、親戚や近所同士の遺産や土地の揉め事とかでの相談も多くて」
 
「ああ」
 
「それで医学や法律のことかなり勉強したから、その方面の知識はかなりありますよ」
 
「それだけの知識持っているなら、本当に法律家になってもいいのに」
 
「でも裁判官が『この事件は占いをしてみたら被告人は無罪であることが分かった』なんて言ったら罷免されちゃいますよ」
 
「確かに!」
 

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教授とは最近話題になった幾つかの法律論議でもけっこう盛り上がった。最後の方は法律論からも離れてなぜかAKB48とSUPER☆GiRLSの話をしていた。会談は和気藹々とした雰囲気の中で終了した。
 
教授は青葉の最近の模試の成績表なども見た上で
 
「試験を受けたらふつうに採点するけど、あなたのこの成績と知識量なら多分合格する。それでもし気が向いたらぜひ入学してください。歓迎しますよ」
と言ってくれた。
 
なお、大学側からは「交通費宿泊費です」と言われて、新高岡−東京の新幹線指定席往復運賃と市内交通費相当分750円に宿泊費として15000円が入れられた封筒を受け取った。青葉は明細を見て「日帰りしますから宿泊費は不要です」とその分を返そうとしたのだが
 
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「実際に宿泊するかどうかはそちらの任意ということでいいですよ」
と言われたので、そのままもらっておくことにした。
 
実際問題として大きな組織ではここで金額を変更しようとするとかえって手続きが面倒なのであろうとも考えた。
 

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△△△大学での用事は午前中だけで済んでしまったので、青葉は彪志に今日の都合を訊いてみたら、午後東京に出てくるからデートしようと言われる。ゼミとか大丈夫なのかな?とは思ったものの、やはり先日の愛奈の件もあって青葉としては、彪志とのつながりはしっかり作っておかねばと思った。
 
彪志と東京駅で会うことにしたので、お昼を食べるのも兼ねて自分も東京駅に移動する。それで駅構内を歩いていたら、トラベリング・ベルズの相沢孝郎さんにバッタリ遭遇する。
 
「おはようございます」
「おはようございます」
と挨拶を交わしたのだが、相沢さんが何だか暗い顔をしている。
 
「どうかなさいました?」
「川上さんって、凄い霊能者だって言ってたよね?」
「凄いかどうかは分かりませんが、結構その関係の相談は受けています」
 
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「ちょっと相談に乗ってくれない? 見料というのかな、それはきちんと払うから」
「午後から用事があるので1時間程度で済むなら」
「うん。今日の段階ではとりあえず話を聞いてもらえるだけでもいい」
「はい」
 

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