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■春対(6)

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「でも私も受験勉強で忙しいんだけど」
「うん。でも受験勉強の気分転換にこういうのちょっとやってみるのもいいじゃん。受けてくれたら明日朝1番に25万プラス消費税振り込むからさ」
「う・・・・」
 
「これはただの作曲御礼だから。実際の印税・著作権使用料はふつうに払う。東郷誠一さん名義の照海作品の場合、8割をこちらにもらえる。今回は私が通常受け取っている分の全額を青葉に渡す。結果的に売上金額の2.88%になるから400円が100万件売れたとして1152万円」
「凄い」
 
青葉はアクアの3枚目のシングル用に曲を提供しているが、その発売は明後日11月25日である。それでアクアの曲を書くとそんなとんでもないお金がもらえるということを青葉はこれまで全く意識していなかった。
 
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「美味しいでしょ?アクアの曲はテレビ・ラジオ・有線でも流れるしカラオケでも歌われるからその後の副次的な収入も凄まじい。編曲はあまり凝らなくてもいいから。エレメントガードってゴールデンシックスと違ってあまり演奏の技術力が高くないから、実際難しい伴奏はできないんだよ」
 
「エレメントガードって何だっけ?」
 
「アクアの新しいバックバンド。ゴールデンシックスも忙しいから、アクアの音楽活動もこれから増えて行くことが予想されるし、専任バックバンドを作ることにしたんだよ」
「へー!」
 
「だから今下川工房で、アクアの過去の楽曲をエレメントガード向けに少しやさしい伴奏に書き換えているところ」
 
「大変だね。でもゴールデンシックスってそんなに難しい伴奏してたっけ?だって毎回メンバーが違っても行けるようにしてあると聞いたのに」
「リノンとカノンが演奏する部分だけはレベルが高かったのさ」
「なるほどー」
「カノンは歌に専念していることも多いけど、そういう時は私や麻里愛とかがキーボード弾いてたんだよ。リードギターはリノン以外が弾くことはめったに無い」
「そうだったのか」
 
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千里と15分ほど車内で話している内に、青葉はいつの間にか自分がアクアの曲を受けることを前提で話が進んでいることに気づき「しまったぁ」と思った。
 
えーん。せっかく受験で忙しいからと4曲目は他の人にお願いしますと言ってケイさんが引き受けてくれたのに。結局また書くことになるなんて!と青葉は思った。どこの時点でこういう方向に話が来てしまったんだっけ??
 
それで歌詞がメールで送られてきたので、青葉は帰りの車中でずっと楽曲の構想を練っていた。
 
そして24日朝、ほんとうに青葉の口座に27万円が振り込まれてきたので、すげーと思った。千里はふだんは結構ぐずぐずしているものの、戦闘モードになっている時は、行動が物凄く速いのである。
 
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青葉に楽曲を1つ押しつけた千里は、この時期実際には社会人選手権を終えて東京に戻った後、毎日バスケ漬けの日々を送っていた。
 
レッドインパルスが9月以降ずっと冬のリーグ戦をしていたので、千里は2軍選手扱いではあるが、1軍の練習相手として毎日かなりマジな実戦練習をしていたし、40 minutesの方でもオールジャパンに向けて連日みんなを指導していたので、朝から晩までひたすらバスケをしており、時々千里B(きーちゃん)から『ちょっとこちらに来て』と言われても『忙しいからパス、そちらで何とかして』と言っていた。
 
結局千里(千里A)は11-12月はJソフトの方には1度も顔を出していない。
 
10月までは40 minutesの練習は火木土のみだったのでまだ良かったのだが、専用体育館を借りて毎日練習できるようになって、張り切って本当に毎日出てくるメンツが何人かいるので、千里も3月で退団する意向を表明しているがゆえに尚更、毎日出て行ってみんなの指導をせざるを得なかった。
 
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40 minutesを始めて最初の半年くらいは千里は純粋に「選手」だったのだが、その後は実質的にチームのヘッドコーチのような位置付けになっている。監督とアシスタントコーチの2人は別途仕事を持っているので、大会の時以外はほとんど顔を見せていない。今年春からレッドインパルスやW大学の練習に参加したのは、自分自身が練習できる場所を確保したかったのもあった。
 

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そんな中、千里は11月3日の朝に着想を得て書いた『門出』を、新島さんから回ってくる作曲依頼をこなしながら、夜間や移動中の矢鳴さんの運転する車の後部座席などで少しずつまとめあげていた。それが11月11日夜に何とか完成したので、翌12日夕方、川崎市のレッドインパルスの練習場所から江東区の40 minutesの練習場所に移動する途中、恵比寿の冬子のマンションに寄り
 
「これ良かったらローズ+リリーで歌って」
と言って譜面とMIDI, Cubaseのプロジェクトデータの入ったUSBメモリーを置いて来る。
 
その件で11月16日(月)の朝、冬子から電話が掛かってきた。
 
「あの『門出』凄い曲だね。さすが鴨乃清見レーベルと思った。なんでこんな凄い曲をくれるの?」
「大西典香が引退して、こういうのを歌える歌手がいないんだよ」
「あぁ」
「青葉に見せたら、冬子さんなら歌えますよと言うからさ」
「青葉のせいか。でも実は凄く助かる。ハイクォリティの楽曲CDを作りたいと思っていたんだよ」
 
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「それは良かった」
「それで音源制作にも協力してくれないかなと思って」
「うーん。今忙しいけど、時間帯によっては協力できるかも」
 
「千里今どの時間帯が空いてるんだっけ?」
「平日の12時から17時まではレッドインパルスの練習に出ないといけないから、ここは動かせない。それ以外の時間帯なら程度次第。あと11月22日日曜日は動かせない予定が入っているから勘弁して」
 
「分かった。それでこの『門出』ともうひとつ、私が書いた『振袖』という曲に参加して欲しい」
「それはどういう曲?」
「高校生の時に書いた曲なんだけどね、これを書いた時にその場に鮎川ゆまが居てさ」
「ふーん。女湯で書いたのか」
 
「何でそんなのが分かるの!?」
「今冬子の話を聞いていて、そのシーンが浮かんだ。若葉ちゃんも居たね」
 
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「さっすが!若葉の件も正解。それでゆまがその時、この曲に入れる龍笛の吹き手として千里を推薦すると言ってたんだよ」
 
「ああ、ゆまさんの推薦か」
 
「実際、私は千里以上の龍笛を聴いたことがない。ぜひお願いしたい」
「青葉や天津子ちゃんにはかなわないよ」
 
「あの子たちのは破壊力はあるけど、まだ味が足りない。人生経験の量が千里とは違う」
「そうだなあ。同じ相手に5回も振られたら深みも出るかもね」
 
「細川さんとの件については私は何も言わないよ。ただ千里がやがては幸福をつかめることを祈っているだけ」
「ありがとう」
 
「この『振袖』に関しては実は笙を今田七美花に頼んだ」
「それ、私の龍笛と合わせると、天変地異が起きるよ」
「天津子ちゃんに龍笛を吹かせたら地球が爆発するかもね」
「あり得る、あり得る」
 
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「だけど大西典香が引退して作品発表の場が無いということならさ」
と冬子は言う。
「うん」
「大西典香並みの歌唱力を持つ子を募集するオーディションでもしない?」
「それ冬が主宰するの?」
「鈴木さんにさせるよ。ちょっと話持って行ってみる」
「うん、それは歓迎」
と千里も答える。
 
「千里、来年はどのあたりなら時間ある?」
「春先からオリンピックまではほとんど時間無いと思う。でも今鴨乃清見用のストックが10曲くらいあるから、それで乗り切れると思うよ。あとオールジャパンがあるから、今の時期から年明けまでもあまり時間が取れない」
「了解」
 
「一応こないだも言ったように私来年4月からはレッドインパルスに移籍することになったから、その場合、Wリーグは9月中旬から3月中旬までがレギュラーシーズンなんだよね。でもその時期の忙しさはふだん通りから問題無い」
 
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「ほんとに千里って忙しいね」
「それでも冬子の忙しさには足下にも及ばないよ。マジ過労死しないでね。辛いと思ったら、青葉とか花野子とかエリゼさんとかに適当に押しつけて」
 
「千里じゃなくて、青葉なんだ!」
 

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そういう訳で、ローズ+リリーの音源制作に参加することになって、いよいよ時間が取れなくなった千里は、楽曲制作に多大な手間と時間の掛かるアクア向けの作品は、青葉に押しつけてしまったのであった!
 
実際の冬子たちの音源制作は11月の19-21日に『振袖』、25-27日に『門出』を収録した。『振袖』では今田七美花の笙と合わせたのだが、この時はスタジオ機器にトラブルが多発して大変だった。データも途中で2度飛び
 
「バックアップの大切さというものがよく分かった」
などと録音作業をしていた冬子の旧友の技師・町田有咲さんが言っていた。
 

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「ところで前から思ってたけど、有咲さんって冬と以前何かあったんだっけ?」
と音源制作で遅くなって冬子のマンションに泊まった時、千里は冬子に訊いた。(政子は既に熟睡していた)
 
「まあ千里だから言うけど、有咲は私の性転換時期が少なくとも中学3年秋よりは後であることを証言可能な数少ない子のひとり」
「ほほお。恋人だったの?」
「まさか。私が女の子に恋愛感情持つ訳無い」
「うん。そうだとは思ったけどね」
 
「ただ有咲とはどこまで行ったのか実は私自身は記憶無いんだよ。当時失恋してそのショックで茫然自失だった時期でさ。有咲にさり気なく訊いても笑っているんだよね。たぶんセックスまではしてないんじゃないかとは思うんだけど、自信がない」
 
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「冬、セックスしようにも立たないでしょ。女性ホルモンはもう幼稚園の頃からしてたんでしょ?」
「さすがに幼稚園の時には女性ホルモンは飲んでない」
「怪しい気がするけどなあ」
「その言葉はそのまま千里に返す」
 

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「それにさ。実はここだけの話、政子と1回だけ私が男役でしたことあるんだよ。最初で最後の経験。でも政子はそれ本当に私のものを入れたのかって疑問を抱いている感じ。私のってほんっとに立たなかったからね」
 
すると千里は懐かしむような顔をして言った。
「私も実は桃香と1度だけそういうセックスしたことある。でも桃香も信じてくれないんだよね。あれが私の本物を入れたということを。桃香はその時期私は既に性転換済みだったのではと疑っている」
 
「なんか事情が似ている気がするなあ」
 

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「そういえば情報源は明かせないけど、かなり信頼できる筋からの話で、青葉は小学6年生頃までは立ってたみたいね」
「ほほお。それは面白い話を聞いた」
 
「和実は本人は大学1年生の途中頃まで立っていたと主張しているけど、それは怪しい気がする」
「あの子もかなり早い時期から女性ホルモンのシャワーに身体を曝していると思うよ。だって骨格が女の子だもん」
「だよねー」
 
「女性ホルモンを摂っていると最初はとにかく男の機能が消失していくんだよね。その後で、女性の身体的特徴が発達し始める」
「そのいったん男でも女でもない状態になっている時期が精神的に辛いんだよね」
 
「精神的にも不安定になるよね。結構トランスする人の中には、女性の身体的特徴を獲得しつつ、男性機能は保持したい、みたいに思っている人いるけど、そうはならないもんね」
 
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「じゃ雨宮先生って奇跡だね」
「あ、それは思ったことある」
 

12月初旬の日曜日。
 
この日試合が無かった貴司は阿倍子に言われておむつやトイレットペーパー、ミネラルウォーターに粉ミルク、それに先日ふたが壊れてしまった圧力鍋の代わりの新しいのなど、かさばるものを買いに一緒に買物に出かけた。
 
後部座席・運転席後ろにセットしたベビーシートに京平を乗せ、阿倍子がその隣(助手席の後ろ)、貴司が運転席に座ってAudi A4 Avantで6kmほど離れたイオンモールまで出かける。
 
駐車場で貴司が京平を見ている間に阿倍子がモールの中に何度か入って買物をしては荷物を車に積むというのを繰り返す。実際には貴司はほとんど寝ていたものの、京平はご機嫌だったようである。貴司は「この子、よく誰かと話しているかのように声を出しているなあ」と夢うつつに思っていた。
 
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だいたい買物が終わった所で、貴司がスリングで京平を抱いて3人で一緒にフードコートに行き、お昼を食べた。貴司が大盛りのラーメン、阿倍子はハンバーグランチを食べ、京平はミルクである。
 
一休みしてから晩御飯の材料を買って車に戻る。子供連れでもあり左車線を制限速度ちょうどくらいの速度で走っていたのだが、少し前の車との車間距離を開けていたら、そこに右車線から大型トラックが入って来た。
 
「前が見えないわね」
「でも道は分かってるから大丈夫だよ」
 
そのままの状態で200-300m行った時、(多分)信号でトラックが停まるので貴司のアウディもブレーキを踏んで停まろうとする。
 
その時
 
京平が
「ぎゃー!」
 
と物凄い声で泣いた。
 
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