広告:國崎出雲の事情-8-少年サンデーコミックス-ひらかわ-あや
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■春対(3)

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テレビ局を出た後は、青葉は★★レコードの入っている青山ヒルズに向かった。車を地下の駐車場に駐め、いったん★★レコードのフロアまであがる。制作部で大宮万葉の名刺を出して氷川主任かどなたか、と言ったら八雲礼朗さんが出てきてくれた。
 
「おはようございます、大宮さん」
「おはようございます、八雲さん」
と挨拶を交わした上で、青葉がビルの展望所で夜景を楽しみたいのでパスを出してもらえないかと頼む。
 
「ああ、OKですよ。今発行してきますね」
と言って、彼は中に戻ると、5分ほどで3人分のパスを持って来てくれた。
 
「ありがとうございます」
「あ、八雲さん」
「はい?」
「ちょっとそこに座りません?」
「ん?」
 
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「あそこが炎症起きてますよ」
「あんた、なんでそんなこと分かる?」
「ヒーリングしていいですか?」
「よく分からないけど、いいよ」
 
それで青葉が椅子に座っている八雲さんのお股の付近の上に手をかざして5分くらいじっとしていた。
 
「何か凄く楽になった」
「このお仕事してたら仕方ないですけど、しっかり睡眠取ってくださいね。どうしても生活の乱れがあちこち身体にも出るんですよ。特に人工的に加工している部分はトラブル起きやすいから」
 
「君のお姉さんにもそれ言われたことある」
 
「ああ、姉にお会いになったことがありますか?」
「あれ?僕が性転換していること、お姉さんから聞いたんじゃないの?」
と八雲さんが言うと
 
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「え〜!?あなた、まさか元女性なんですか?」
と愛奈がびっくりしたように言う。
 
「そこ、そういう話を大きな声で言わないように」
と青葉は愛奈に注意した上で
「誰からも聞いてませんが、見れば分かりますよ」
と青葉は笑顔で言った。
 
「そういえば君のお姉さんからも見れば分かると言われた気がする。確か波動がどうのと」
「姉なら波動が分かりますからね」
「その波動って、性転換手術すると変わるものなの?」
「すぐ変わる人、少し置いてから変わる人、と居ますが、概ね2〜3ヶ月以内には変わりますよ。自分の新しい身体を心に受け入れられた時に波動は落ち着くんです。それまでは混乱していたりしますね」
 
「ああ、何となく分かる」
と八雲さんは言った。
 
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「僕のっていまだに乱れているでしょ?」
と八雲さんが訊くので青葉は
「その内落ち着いていくと思いますよ」
と笑顔で答えた。
 

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それで八雲さんと別れてエレベータで30階に上がる。
 
「声出しちゃってごめんなさい。でも女性としても美人だったと思うのに男になっちゃうなんて、もったいないね」
と愛奈。
 
「愛奈さん、逆ですよ。あの人は男から女になったんですよ」
「嘘!? だったらどうして男装してるの?」
「実質性転換しているけど、世間体とか親族との関係とか、そして仕事の絡みで社会生活上の性別を移行できずにいる人って結構あるんですよ」
 
「ああ。じゃ、あの人、会社が女社員として勤務することを認めてくれないから男装でお仕事してるんですかね?」
「うーん。あの人の場合は、そういうことではなくて、何か複雑な事情があるみたいな気がしましたね」
 
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患者の取り違えで性転換手術されちゃった、などというのはさすがの青葉にも想像できない話であった。その件については青葉は八雲さんの結婚式の時に初めて聞くことになる。
 

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展望所では、ひとり1枚ずつパスを持ち、自動改札機を通って中に入った。
 
「ここは出ようと思ったら外にも出られるのよね。一応普段は鍵が掛けてあるけど。それもあって一般には開放してなくて、ビル内に入っている企業から招待された人のみが入れるようになっている。でもおかげで、のんびりと夜景が楽しめるんだよね」
 
外はちょうど日が落ちてしまい、夕闇が迫る時刻である。
 
「きれーい」
と愛奈が声をあげた。
 
「ここの美しさは東京の夜景ベスト5に入ると知り合いの人が言ってたよ」
「すごーい」
 
自販機があるので彪志が暖かい缶コーヒーを3つ買ってくる。
 
「なんか食べ物の自販機もあるね」
「うん。長時間滞在できるようにね」
「そのホットチキン食べてみようかな。あ、私が3人分出すよ。今日はおごられてばかりだし」
と言って愛奈がホットチキンを3個自販機で買った。冷凍されたものが電子レンジで加熱されて出てくるタイプのようであった。
 
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それで3人で窓際のテーブルに座り、チキンを食べつつ、コーヒーを飲みつつ、光の加減が刻々と変わっていく外の景色を眺めていた。その日は青葉たち以外には27-28歳くらいのカップルと、接待らしき4人組が来ただけで、みんなあまり騒がずに夜景を楽しんでいたので、青葉たちも良い雰囲気の中で時を過ごすことができた。
 

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夜景を楽しんだ後、青葉は愛奈をしゃぶしゃぶに誘ったが
 
「これだけデートを邪魔しておいて、これ以上邪魔したら悪いから私帰るね」
と言って、結局東京駅で別れた。
 
「彪志君の彼女が彪志君にはもったいないほど素敵だってのが分かったから、私、ふたりを応援するよ」
などとも愛奈は言っていた。
 
愛奈と別れてから彪志は青葉に謝った。
「御免。あれ多分うちのお袋に頼まれて俺を誘惑しに来たんだと思う」
 
「お母さん、私のこと気に入ってない?」
と青葉は尋ねる。
 
「青葉自身のことは気に入っているよ。いい子だと思っていると思う。ただ息子の嫁に、元男の子である女の子を迎えることに、お袋自身、心の決着を付けられないんだと思う。親父は結構受け入れてくれているんだけどね」
 
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「私、彪志と別れた方がいい?」
と青葉が訊くと
 
「2度とそんなこと言うな」
と彪志は言った。
 

青葉は愛奈と別れた後
「でもほんとお腹がすいたね。彪志のおごりでしゃぶしゃぶが食べたい」
と言ったのだが、彪志は
「俺は牛肉より青葉が食べたい」
と言った。
 
それでふたりで一緒にファッションホテルに行き、1時間ほど束の間の熱い時間を過ごした上で、青葉は最終新幹線で高岡に戻った。
 

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2015年11月22日(日)。連休の中日。大阪。
 
「こんにちは。カンガルー協会から参りました」
と言ってマンションのエントランスで来訪を告げたのは40代の庶民的な雰囲気の女性だった。阿倍子はエントランスをアンロックしてあがってもらった。
 
「ベビーシッターお願いするの初めてなんで、あまりよく分かってないのですが」
「お子さんは何人ですか?」
「1人です。こちらで今寝ているのですが」
 
と言って阿倍子は京平のベビーベッドに案内する。
「可愛いお嬢さんですね!」
「あ、いえ。男の子なんですが」
「あら、ごめんなさい! 凄く優しい顔しているから」
 
阿倍子は搾乳ボトルの場所を示し、解凍は湯煎でして欲しいこと、それに使用する鍋とIHヒーターの使い方、空きボトルはそのままシンクに置いておいてよいこと、おむつの場所と捨て場所、好きなおもちゃ(ガラガラ)なども伝えておく。
 
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「緊急連絡先ですが、お母様の携帯番号はこちらでいいですか?」
「ええ。その番号です」
「他に連絡できる方はありませんか?」
「一応こちらが夫の携帯ですが、今日は取引先の人と会うようなことを言っていたので多分つながらないと思います」
「他の親族とかお友達とかは?」
「母がいるのですが、名古屋に住んでいるのであまり役に立たないかと。私、頼れるような人がいないんですよ。それでベビーシッターをお願いした所で」
「分かりました。何かあった場合は、お母様とお父様にとりあえずCメールを送りますね」
 
「あ、できたら私の携帯だけに」
「分かりました。では取り敢えずそれで様子見て、どうしても連絡が取れない場合は、お父様の携帯に連絡しますね」
「はい、それでお願いします」
 
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それで阿倍子は京平をベビーシッターさんに託して出かけた。
 
ひとりで出かけるのって何だか久しぶり! 妊娠中はひとりではあってもお腹に京平が入っていたし、それまで考えると純粋な一人での外出は1年以上していなかったなと思った。
 
貴司は昨夜から何だかそわそわしていた。それが今朝、会社から緊急の呼び出しの電話があった時に貴司は「すぐ行きます。でもこれ何時頃終わりますかね?」とエンドを気にしていた。「あ、11時くらいには終わりますか。じゃいいな」と貴司は言った。
 
しかし貴司は出かける時「たぶん帰りは夕方になると思う」と言った。要するに11時に会社の仕事が終わった後、誰かと会い、夕方まで過ごすということだ。どう見ても浮気である。貴司はよく浮気するくせに、こういうのを誤魔化すのが下手なのである。
 
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それで阿倍子は貴司が出かけた後、雑誌で紹介されていたベビーシッターの会社に子守を頼み、自分も出かけることにした。バレにくいようにやや性別不明っぽい服を着て、帽子をかぶりサングラスをしている。
 
貴司の会社の出入口が見える場所で待つ。10:50、貴司が出てきたのを見て阿倍子は尾行を開始した。
 
貴司は地下鉄とJRを乗り継いで桜ノ宮駅で降りた。少し歩いて帝国ホテルに入って行く。ラウンジに入るので自分も続けて入り、貴司が座った場所から遠く離れた席に座った。
 

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待つこと20分ほど、ラウンジに千里が現れるので、阿倍子は猛烈に嫉妬の感情が沸いた。やはり貴司と千里さんは密会していたのね。
 
ふたりはランチを頼み、オレンジジュースで乾杯している。長期戦になるなと見て阿倍子もランチを頼んだ。
 
向こうをチラリチラリと見ながら食べるが、貴司と千里は何だか楽しそうにおしゃべりしながら食事をしている。何を話しているんだろう。盗聴器でも仕掛けておけば良かった、などと思う。
 
やがて食事が終わって向こうは店を出るようだ。こちらもお釣りの無いようにお金を用意して貴司たちに少し遅れて会計を済ませ、ふたりの後を追う。食事の後は。。。やはり上の客室に行って秘め事をするのか?いやここは高いから、別のホテルに移動するのだろうか。
 
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それで30mほど離れて付いて行くと、結局ホテルを出て行く。橋を渡って桜ノ宮駅に来る。どうも地下鉄で移動するようだ。同じ車両の別の出入口から乗り、向こうの様子をうかがう。やがてふたりは地下鉄を降りる。そしてふたりが入って行ったのは体育館である!
 
阿倍子は拍子抜けする思いだった。
 
バスケットのプロの試合をやっているようだ。阿倍子もチケットを買って中に入った。
 

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いったん見失ったものの、何とか観客席に貴司と千里が並んで座っているのを発見する、その席を斜め方向から見られる位置に自分は座る。やがて試合が始まる。ふたりは何やらけっこう難しい顔をしたり時には笑ったりしながら観戦しているようだ。阿倍子はそういえば自分は貴司の試合を見たことなかったなと思い起こしていた。
 
貴司に出会った時に職業を尋ねて「バスケット選手」と言われて、バスケットで食べていけるのだろうかと疑問を感じたことも思い出していた。やがて試合が終わる。阿倍子は早めに席を立って出入口のそばに行き、ふたりが出てくるのを待った。ふたりはまた地下鉄で移動する。阿倍子の尾行も続く。
 
そしてふたりはまた別の体育館に来た。また何かの試合があるのだろうか?と思ったものの、体育館の玄関まで行くも特に何かのイベントなどは行われていないようだ。ちょうど阿倍子の後ろから入って来た中学生の団体に紛れるようにして阿倍子は中に入り、取り敢えず2階にあがってみた。
 
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フロアを見ても貴司や千里の姿が見えないので、もう出ちゃった?と焦ったものの、ふたりはすぐ姿を現した。ふたりともジャージ姿だ!
 
そしてふたりはバスケットの練習を始めたのである!
 

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1on1というのだろうか。ふたりで攻守を交代しながら、ドリブルで相手の守りを突破する練習をしている。
 
かなりその練習をした後、今度はパスの練習、シュートの練習などをする。
 
しかし、同じフロアに団体さんが居て良かったと阿倍子は思った。他にもその中学生団体の保護者だろうか、けっこうな人数のおとなが2階席に座っている。この中に自分も紛れておくことができる。
 
貴司と千里は結局体育館で2時間ほど練習をしていた。やがて終わったようで、ゴールを折りたたみ、ボールをバッグに入れたりシューズを脱いだりしている。そして出てくるので、今度こそホテルにでも行くのではと思い、また尾行する。きっと練習したあとの汗を流そうとか言ってホテルの中で・・・などと妄想をしてしまう。
 
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ところがふたりが来たのは銭湯である!
 
銭湯は当然出入口が男女で別れている。ふたりは手を振って別々の入口から中に入った。阿倍子は自分も入ろうかとも思ったものの、入ったらさすがに千里に発見されてしまうだろうと思い、結局銭湯の外でふたりを待った。
 
1時間近く経ったところでふたりがほとんど同時に出てくる。同時に出てきたのはたぶん脱衣場でメールなどで連絡を取り合ったのだろうと阿倍子は推測した。
 

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