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■春対(2)

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「わあ、だったら、私、あれ相談してみようかなあ」
などと愛奈は言い出した。この時点で愛奈はもう彪志とデートすることを彪志の母から頼まれていたことはほとんど忘れていた。
 
「何か問題があるの?」
と青葉は訊く。
 
「私が住んでいるアパート自体では何も起きてないのよ。でも最近周辺のアパートで随分幽霊騒ぎが起きていて」
 
「へー」
 
「夜中に何か人影を見たというので、最初は変質者ではと言ってたのよね。この界隈のアパートはほとんどが女子学生なんだ。女子大が近くにあるから、そこの学生さんが多いし」
「それは痴漢とかが寄ってきそうだね」
 
「実際に痴漢が捕まったこともあるのよ。でも今回のはどうも人間では無さそうだという話になっていて」
「というと?」
 
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「夜中に帰宅した女子学生が階段を登る男の人の姿を見たんだって。誰かのボーイフレンドかなと思って、その人がどこかの部屋に入ってしまうまで待とうと思っていたら、その男の人が階段の途中でスーっと消えたんだって」
 
「わっ」
と声を出したのは彪志である。
 
「その子腰抜かして。とてもその階段を登る気になれなくて、ファミレスで一晩明かしたらしい」
と愛奈。
 
「賢明な対応だと思う」
と青葉は言う。
 
「他にも自転車に乗って走っていた男の人が自転車ごと消えるとか」
「ああ」
 
「極めつけがこれで。2階の住人が夜中に窓がノックされるの聞いて。痴漢が外壁をよじ登ってきたかと思って無視してたんだけど、いつまでもしつこくノックしてるから怖くなって、隣の部屋に女子学生として大学には通っているけど戸籍上は男の子って子がいたんで、その子を呼んできて懐中電灯とモップとか持って『せーの』で窓を開けたら、うつろな目をした男が空中に浮かんでいたんだって」
 
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「ひゃー」
と声を挙げたのはまたしても彪志である。
 
「その隣の住人の男の娘がたまたま持ってた、お清めの塩をそこに向かって投げつけたら、すっと消えたというのよね」
と愛奈。
 
「完璧に幽霊ですね。でも勇気あるなあ」
と青葉。
 
「私も思った!」
 
「愛奈さんの住んでいる棟では目撃されていないのね?」
「そうなの。でも、周囲であれだけ起きていたら、うちの棟でも出るんじゃないかと、隣に住んでいる子たちと話していたのよね」
 

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「ちょっと地図で場所を示してもらえる?」
と言って青葉は自分のAquosを開く。
 
それで愛奈は青葉のスマホを操作して、その場所を示した。
 
「この一帯で幽霊騒ぎが起きているんだけど、私のアパートはこれ」
と愛奈は示す。
 
「この地図と実際の地形とで何か違う所ある?」
「あ、うん。ここの道が地図上では、ここで曲がっているようになっているけど、最近線形改良されて。ここに表示されている靴屋さんが立ち退いたあと、ここはまっすぐの道になったのよ」
 
と言ってから
「もしかして、その工事のせい?」
と青葉に尋ねる。
 
「時期的にはどう?」
「記憶が曖昧だけど、幽霊騒ぎはこの道路の形が変わった後という気がする」
 
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「だったら可能性はあるね。一度行ってみたいけど」
 
「でも青葉、受験で忙しいのでは?」
と彪志が心配する。
 
青葉は手帳を見る。
 
「今月下旬の連休にだったら行ってもいい」
と青葉。
「大丈夫?」
と彪志は本当に心配そうである。
 
「多分受験前最後の東北行きになると思う」
と青葉は言った。
 

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その後、彪志がアテンザを運転し(青葉は助手席)、アクアトンネルを越えて車は川崎市に入る。
 
「知る人ぞ知る場所を見せてあげるよ」
と言って青葉は助手席からカーナビを操作する。その案内に従って彪志が運転した車は川崎市郊外の某電機メーカーに到達する。
 
「ここで何するの?」
「まあ待ってて」
 
門の所で、青葉は彪志に「助手席に移って」と言って、いったん車を降り、守衛の人に何か話すと守衛さんはパソコンで何か確認した上で頷く。それで青葉は入退出者票に名前を書き運転席に戻る。青葉の運転で車は構内の倉庫のような建物に辿り着く。
 
青葉が車を降りて入口の所に行く。彪志と愛奈も続く。入口の所に居る職員さんに青葉は
 
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「こんにちは。門の所で連絡させて頂いた村山ですが、見学させて頂いていいですか?」
と声を掛ける。
 
「はい、どうぞ。ご案内しますね」
と言って職員さんは3人を中に入れた。
 
(苗字が異なると面倒なので青葉は門の所で『村山青葉』と署名した)
 

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「わあ・・・これは・・・」
 
「改修中のT美術館の所蔵品を、管理システムの受注をした関係でここで舞通が預かっているんだよ。実は誰でも言えば見学できるんだけど、ここにあるということはあまり知られていない」
と青葉が言う。
 
「情報は公開していますが、あまり来られるとこちらのスタッフが対応できないので積極的には宣伝してないんですよ。舞通のこのエリアに勤務している人なら多くが知っていますけどね」
と職員さん。
 
「青葉よく知ってたね」
と彪志が感心する。
 
「ちー姉の練習を見学に来た時に、その話を聞いてたから一度見てみたいと思ってたんだよね」
と青葉。
 
「あ、お姉さんこちらの選手なんですか?」
「そうそう」
 
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その問題は説明しようとすると複雑になるので、取り敢えずそういうことにしておいた(実は青葉もよくは分かっていない)。
 

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美術館の収蔵物を見学した後は、青葉は車を日の出埠頭に回し、東京湾クルーズのランチタイムクルーズに申し込む。
 
「あ、心配しないで。私が3人分おごるから」
と言って青葉がチケットを買う。
 
「ひぇー!お一人様12,300円もする!」
と彪志が悲鳴をあげている。
 
「大丈夫だよ。10月末にちょうど収入があったところだし」
と青葉。
「私高校生におごってもらっていいのかしら」
と愛奈。
「それは気にしなくていいよ。こいつ高額納税者だし」
と彪志が言う。
 
「わあ、やはり霊能者って収入も大きいんですかね」
「相手の懐具合次第ですけどね。庶民からはささやかな御礼を受け取り、お金持ちからはどーんともらうから」
「なるほどー」
 
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高額の料金を払っただけあって、窓際の席なので景色も良かったし、お食事もとても美味しく、愛奈が
 
「ディズニーランドで長い列待って大したことないご飯に高いお金払うより、こちらの方があの値段払っても満足度は高いですねー」
と言っていた。
 
「その内、彼氏ができたらねだってみるといいですよ」
と青葉。
「ねだるのはいいけど、その後が少し怖い気もする」
と愛奈。
「俺は既にこの後が怖い」
と彪志。
 

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クルーズが終わった後はお台場に行き、Fテレビを見学する。見学コースに沿って歩き、ショップなど見ていたら、ざわめくような声がする。ふとそちらを見るとレッドブロッサムの幣原咲子さんである。
 
「誰かタレントさんだっけ?」
と愛奈が小声で訊くので、青葉は
「南藤由梨奈のバッグバンド、レッドブロッサムのドラムスの幣原咲子さんだよ」
と教えてあげる。
 
「よくそんな人の顔まで覚えてるね!」
と愛奈が言っていたら、その咲子がこちらを認めてしまった。それで青葉が会釈すると寄ってきた。仕方ないので挨拶する。
 
「おはようございます、幣原さん」
「おはようございます、川上さん」
 
その「タレントさん」が青葉の名前を知っているので、愛奈が驚いている。なお「おはようございます」と言っているが、時刻は14時くらいである。
 
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「ね、今時間ある?」
と咲子が訊く。
「何か?」
「ちょっと来て」
 
それで咲子は買物をレジで精算した上で、青葉を連れて店を出る。彪志と愛奈も一緒に付いて行く。「関係者以外立入禁止」と書かれた札の立っている所を通過、業務用のエレベータであがって、スタジオのあるフロアに来る。
 
行くと、鮎川ゆま・鈴木和幸・貝田茂というレッドブロッサムの他のメンツも居る。
 
「おはようございます」
と青葉が挨拶すると
「おお、サックス奏者が来た」
とゆまが言う。
 
「えっと・・・・」
「青葉良い所に来た。これから南藤由梨奈のステージあるんだけど、サックス、私の代わりに吹いて」
とゆまが言う。
 
「はあ!?」
 
そして青葉の顔を認めた顔見知りのディレクターさんが
「南藤のバックのサックス代理演奏者、確保しました」
と大きな声で他のスタッフに伝達している。
 
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私「確保」されたの〜?
 

話を聞くと、なんでもあと少しで生放送の本番というのに、ゆまが突き指をしてしまったらしい。それで慌てて誰かサックスを吹ける人を探していたという。
 
「今日はセルマーとヤマハと持って来てたのよ。私がセルマー持って吹いてる振りするから、青葉はヤマハ持ってかげで実際に吹いてくれたらいいかと。これ、予備の新品マウスピース」
とゆまが言う。
 
「分かりました、先生」
 
と青葉は返事して、スコアを見せてもらう。急いで自分のパートを読む。上島雷太さんが書いた曲だ。結構シンプルな流れ。難しい曲ではない。これなら何とかなるかな。
 
15分ほどで出番となる。南藤由梨奈とレッドブロッサムがカメラの前に出て行く。演奏が始まる。しかしゆまはサックスを吹いているふりだけして実際には吹いていない。それがバレないようにカメラはゆまの指を映さないように気をつけている。そして実際にはカメラに映らない場所で青葉がサックスを吹いている。
 
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曲は放送用に3分ほどにまとめられたショートバージョンだったが、ほとんど初見に近かったので、青葉は緊張の3分間であった。
 

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「お疲れ様でした」
「ありがとう、川上さん。助かりました」
とディレクターさんが青葉に直接お礼を言ってくれた。
 
「ゆまのお弟子さんだけあって、吹き方がゆまと似てたから、これなら熱心なファン以外には代理演奏がバレなかったと思う」
と鈴木さんが言っていた。
 
「でもその子、可愛いね。高校生?」
とプロデューサーさんが訊く。
 
「高校3年生ですよー」
とゆまが代わって答える。
 
「3年生か。年誤魔化して高校1年ってことにして歌手デビューとかする気無い?ちなみに歌はうまいかな?」
「この子、4オクターブの声域持ってますよ」
 
「それは凄い。君、マジでアイドルとかになる気無い?あるいはそんなに歌えるなら、シンガーソングライターということにしてもいいけど」
とプロデューサーさん。
 
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「でも実は私男なんですよー」
「え?ほんと。でも君くらい可愛かったら男でも問題無いよ。アクアみたいな子だっているし。何なら性転換手術しちゃえばいいし」
 
「すみませーん。取り敢えず遠慮しておきます」
と青葉は言い、あとは逃げるようにスタジオを出た。
 

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「いや、まじでめったに見られないものを見られた」
と愛奈が喜んでいた。
 
「まあ公開収録番組とか以外は、ふつう一般人は立ち寄れないからね」
と青葉。
 
「テレビ局の人とか、鮎川ゆまさんが青葉ちゃんを知ってたね」
と愛奈。幣原咲子は知らなくても、鮎川ゆまは知っていたようだ。
 
「私、ゆま先生にサックスを習っているんですよ」
「へー!」
 
「それで一時期は毎月2回くらい東京に出てきてたね」
「そうそう。なかなか大変だった」
「あ、その時、彪志君と東京でデートしてたの?」
「1日中練習してたからデートする時間無かったね」
「うん。だから青葉が帰りの新幹線に乗るのを俺が越後湯沢とかまで一緒に乗ってつかの間の1時間とかを過ごしていたんだよ」
 
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「なんかVIP並みの付き合いかたしてるな」
 

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