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■春対(8)

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それでふたりで八重洲地下街のレストランに入る。
 
「実は先月22日にうちの弟が亡くなってね」
「あらぁ。それは大変でしたね」
 
「昨日が十日祭だったんで、それまで出てから帰ってきた」
「ああ、神葬祭ですか」
「そそ。うちの集落は坊主じゃなくて神主呼んで葬式する家が多いんだよ」
「へー」
 
「まあ奈良の田舎町のまた山の中の集落でさ、うちの実家はそこで温泉のある一軒宿を経営しているんだけど、親父とお袋は経営的なセンスが全くなくて、旅館にも全くタッチせず畑耕して暮らしてる。その農産物を旅館に納入しているだけ」
 
「はい」
 
「一応80歳の祖母がまだしっかりしているんで、会長の肩書きで、女将として睨みを利かせているんだけど、実際の切り盛りはほとんど社長の肩書きを持っていた弟がしていたんだよ。実は俺も名前だけの専務でね。何も仕事はしてなかったけど」
 
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「その弟さんが亡くなったのは辛いですね」
 
「当面は30年来務めている番頭さんが、頑張って運営をしていくと言っている。俺が東京でこんなことしてるし、妹も東京の大学で今大学院に行っているんだけど、数年以内に俺か妹かどちらかが田舎に戻って、後を継いでくれないかと祖母からは言われた」
 
「大変ですね。でも相沢さんに辞められたらKARIONは困りますよ」
と青葉は言う。
 
「うちの女房も行きたくないと行っている。でも妹も、東京の生活に慣れちゃってるのもあって、もうあの閉鎖的な田舎には帰りたくないと言っているんだよね。戻ると番頭さんの息子と結婚させられそうなのも嫌がっているみたいだし。あの息子はちょっと問題あって。今はおとなしくしているみたいだけど10代の頃は何度か暴力事件や恐喝で補導されたこともあるんだよ」
 
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「うーん・・・」
 
「それに今、妹は博士課程に在籍していて、将来的には大学か企業の研究室に入りたいと言っているし」
 
「それなら帰りたくないでしょうね。特に田舎では女は抑圧されるもん。博士課程までいくほどの人なら、なおさらですよ」
 
「うん。だから俺と妹の考えとしては、もう旅館を閉めるか誰か適当な人に売却してもいいんじゃないかと思っている」
 
「その番頭さんに買い取ってもらう訳には?」
「それは大きな選択肢なんだけど、何か引っかかる所があってさ」
「引っかかる所?」
 
「実はそれが何か分からないんだけど、俺は何かとんでもない見落としをしている気がしてならなくて。でもそれが何か見当も付かないんだよ。それで俺は帰ってくる途中、大阪で街の占い師に見てもらった」
 
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「はい」
 
「するとだね。その占い師がエキとかいうんだっけ? あの竹の棒みたいなのをじゃらじゃらさせる奴」
「はい。易ですね」
「それでサンライイってのが出たと言われたんだ」
「山雷頤ですか」
「どういう意味だっけ? その占い師は、食事に気をつけろ。旅館を経営しているんだっら衛生管理を徹底して、食中毒に気をつけろと言っていたんだけど、どうも的外れのことを言われてる気がしてさ」
 
「山雷頤というのはこういう形です」
と言って青葉は紙に易卦(えきか)の形を書いた。
 
━━━
━ ━
━ ━
━ ━
━ ━
━━━
 
「上と下に陽爻(ようこう)━━━があり、真ん中の4本は陰爻(いんこう)━ ━です。陽爻は陰茎の形、陰爻は陰裂の形とも言われます」
 
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「エロいね」
「陰陽の世界ですから」
「なるほど」
 
「その占い師さんが食事に気をつけろと言ったのは、この卦の形が人の口に似ているので、食事関係を表すことがあるからです。真ん中の穴の連続が口を開けている所ですよね。でもこの卦は別の見方をすると外側がしっかりしているのに内部が空洞になっている形にも見えます。つまりですね」
 
と言ってから青葉は一呼吸置いた上で相沢さんに言った。
 
「これ、旅館の経理に問題が生じている可能性がありますよ」
 
「やはりそれか!」
 
やはりという言葉を使ったということは、相沢さんも漠然と疑いを持っていたのであろう。
 
「相沢さん」
「うん」
「誰かが継ぐ形になるにせよ、また売却するにせよ、きちんとした経理監査をしてみた方がいいと思います」
 
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「そうしよう。地元の税理士とかにやらせたら情実に流されるかも知れんし奈良市か場合によっては大阪から専門家を呼ぶか」
 
「それがいいかもですね」
 

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相沢さんはまた相談するかも知れないが、とりあえずの見料と言って青葉に3万円を払っていった。
 
その後、東京駅の総武線ホームで彪志と落ち合うのだが、その前に青葉は駅のトイレで制服を普段着に着替えておいた。そして彪志に会うといきなり
 
「ホテルに行こうよ」
と言った。
 
彪志はストレートに言われてドキッとした顔をしていたが、むろん断ることはない。山手線で移動して、ふたりで五反田駅の近くのファッションホテルに行った。
 
11月3日に会った時はホテルには行ったものの1時間ほどしか時間が取れなかったし、11月21-23日に会った時も、22日までは事件中で潔斎しておかねばならなくてセックスはもってのほかだったし、解決した後で一緒に泊まりはしたものの、行程がハードだったので、お互い何もせずに眠ってしまっていた。それで、この日は実は半年ぶりのゆっくりとした愛の確認時間となった。
 
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「やっと青葉とちゃんと出来た」
と彪志にも言われた。
 
「まあ夢の中では毎月1度してたけどね」
「うん。あれも気持ちいいけど、やはりリアルですると、青葉とのつながりを確認できる」
「そうだね。物理的にもつながるし」
 
彪志がむせる。
 
「青葉、けっこう大胆なこと言うよな」
「まあ、生娘じゃないし」
 
「青葉、エンゲージリング買ってあげようか?。俺貯金額が50万に達したからさ」
「えらーい。でも無理しないで。就職する時に色々お金かかるよ。引越代とかも掛かる可能性あるでしょ?」
「うん」
「指輪とか無くても、もう私は彪志の奥さんのつもりだから」
「じゃ、俺のアパートに来た時は『ただいま』と言ってくれ」
「うん。そう言うことにしようかな」
 
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「でも彪志って、誰かふつうの女の子とセックスしたことは無いの?」
「青葉以外とはしたことないよ」
「してみたいとは思わない?天然の女の子の感触はどうかとか」
「別に関心は無い。俺は青葉だけで充分だから。それに俺は青葉とのセックスで充分に気持ち良くなっているよ」
 
「うん、気持ち良さそうにしてるね」
「青葉も気持ちいい?」
「気持ちいいよ。お互い気持ちよくなれるのがいいよね」
 
「男と女のピークのカーブが違うというから、だいたい前戯をたっぷり目にするようにしているんだけど、それでいいのかな」
 
「私も自分のピークカーブが本当にふつうの女の子のカーブと同じかどうかは自信無いんだけどね。あれこれ読んでみると、少なくとも男の子のカーブとは違うなあという気がする」
 
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「たぶん青葉は男として発達し始める前に去勢しちゃったから、男のカーブにはならなかったんだよ」
「あ、それはそうかも知れない気はする」
 
「いったん男として発達してしまった後で性転換した人の場合、結構演技しているという話もあるよな」
「うん。でも実はふつうの女でもけっこう演技している人は多い」
 
「ああ、それはそんな気がする」
 
「でも多分物理的に快感を感じなくても、精神的な充足が大きいんだよ。だから女は演技するんじゃないかな」
「セックスって心のコミュニケーションだもんな」
 

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青葉と彪志は14時くらいから16時半くらいまでホテルに滞在、その後山手線で有楽町駅に移動し、和実が店長兼チーフメイドを務めるエヴォン銀座店に行った。お店は夕食時で混んでいるかなと思ったものの、それほどでもない。
 
「今日は割と空いてるね」
と青葉が言うと
 
「朝10時くらいから16時くらいまでは結構混むけど、その後はそれほどでも無いんだよ。まあ19時から20時くらいは多少混むけど、今の時間帯はやや少ない」
と和実は言った。
 
「そうか、ここって日中が混むのか」
「そうそう。ここで打ち合わせとかするビジネス客が多いんだよ。ここってまじめなメイドカフェだから、下心のある客は来ないし」
 
それでも店内はテーブルの7〜8割が埋まっている感じである。税込み3000円の「震災復興ディナー」を頼んで、食べながら、ピアノの生演奏を背景に彪志とおしゃべりしながら店内の様子を何となく眺めている内に、青葉はひとりの若い男性に目を留めた。
 
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彪志がその視線に気付いて青葉を咎める。
 
「どうしたの?あの男って青葉の好み?美形ではあるけど」
「そんなんじゃないよー。あの人、和実の知り合いみたいだなと思って」
「へー」
 
「和実が通りがかりに結構声を掛けているんだよね。何度か立ち止まって話していたけど、和実のその時の様子が面白い」
「面白い?」
「きっとあの人、和実の元憧れの人だよ」
 
「憧れの人?恋人なの?」
「恋人だったことはないと思う。恋人になれなかった人って気がする」
「へー!」
 

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青葉たちが行った17時半くらいはまだ混んでいなかったのだが、18時半すぎになるとやや店内が混み出す。
 
「あまり長居しても悪いから出ようか」
 
などと言っていた時、店内に入ってくる女性が居る。青葉と視線が合い、軽く手を振ってきたので、こちらも手を振ったのだが、彼女には店内の常連さんと思われる人たちから
 
「ハミーちゃん、お久〜!」
という声が掛かり、彼女はお客さんたちにもたくさん手を振っていた。
 
「誰だったっけ?」
と彪志が尋ねる。
 
「和実や冬子さんたちと同じ大学に通ってた山吹若葉さん。冬子さんの小学校中学校の時の同級生でもある。そしてエヴォン神田店の元チーフメイドだよ」
 
「へー!」
「ハミーというのは彼女のメイド名。常連さんには結構ファンが多いみたいね」
「なるほどー」
 
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その若葉が店内を見渡していたのだが、和実が寄ってきて、相席でいいかと訊いている。まだ店内には空いたテーブルがいくつかあるものの、まだ客が増えることが予想されるので、身内の人間はどこかに押し込んでおきたいのだろう。青葉はこちらに相席してと言われるかと思ったのだが、和実は若葉をさっき青葉が注目した男性、和実の元憧れの人ではと推測した男性のテーブルの所に案内して、相席を打診していた。
 
すると、男性が
「相席はOKですが、どこかでお会いしましたっけ?」
などと言っている。
「私も会った記憶がある。どこでしたっけ?」
などと若葉も言っている。
 
なんか面白そうな遭遇だなあとは思ったものの、やはり店内が混んでいるからそろそろ出ようということにして、青葉たちはそのままお店を出た。青葉は和実から「妊娠の状況」についても直接聞いておきたかったのだが、まあ後で電話するかと思った。
 
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12月2日に東京まで日帰り往復して△△△大学の事前面談を受けてきた青葉だが、高岡に戻って3日、学校に出て行き教頭に昨日の報告をしたら
 
「実は今度は金沢のK大学と富山のT大学からも、一度会いたいという話が来ているのだけど」
と言われた。それで青葉はその日の内に金沢まで出かけてK大学の法学類の女性の教授と会い、翌12月4日にはT大学の経営法学科の女性の準教授と会い、どちらからも
 
「あなた本当に元は男の子だったんですか?」
「来て下さったら歓迎します」
と言われた。
 
実際問題として、どちらもリアルの青葉を一目見ただけで向こうの用事は済んでしまったようであった。
 
なおK大学の先生には推薦入試を受けたい旨伝えたが、その方がこちらも体制を整えやすいと言われた。学校生活で部活動のことも訊かれたので、合唱で全国3位、インターハイの水泳で7位に入ったことも言うと、
 
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「それは素晴らしい。ぜひ大学でも部活動頑張ってください。もし入部でトラブルがあったらこちらからもひとこと言いますので」
 
などと言われた。
 

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「ところで合格した場合、通学はどうされますか?」
とK大学の先生は訊いた。
 
後から考えてみると、青葉が学生寮に入寮を希望した場合の取り扱いについて学内で検討する必要があったからではと思った。K大学には男子寮が2つと女子寮が1つある。青葉はさすがに男子寮に入れる訳にはいかないものの、戸籍上男性である青葉を女子寮に入れることには、難色を示す関係者が出る可能性もあったろう。
 
「それなんですが、自宅から車で通学しようかと思っています」
「へぇ!」
 
「震災後途方に暮れていた私を保護してもらった恩があるので、私は今の家を出たくないのです。でも公共交通機関で通おうとすると大変なんですよね。今日も高校からここまで来るのに2時間掛かりましたが、公共交通機関で自宅からこちらに来る場合、時刻表を確認すると朝5時半に自宅を出てK大学に着くのは8時半ギリギリなんですよ。乗るのもJR西日本・あいの風とやま鉄道・IRいしかわ鉄道・北鉄バスと4社乗り継ぎになりますし」
 
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「そのあたり新幹線開業で不便になったよね」
「そうなんです。それに冬は雪でバスが遅れる可能性があるので、授業開始に間に合わない事態も想定されます。でも最初から車で走れば自宅からここまで1時間で来ちゃうんですよ」
 
「凄い!」
 
「やはり数年前の津幡北バイパスの開通で高岡と金沢が物凄く近くなったんですよね」
「ああ、その話は結構聞いた」
 
「津幡北バイパス・津幡バイパスから山環(金沢外環状道路の山側部分)に入れば渋滞しやすいエリアを避けてここまで到達できますし」
「うんうん」
 
K大学の現在のキャンパスはその山環から少し入った所にあるのである。金沢市内の交通はこの山環の開通で画期的に改善された。
 
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「それでキャンパス内乗り入れ許可を頂けたら、車で通学しようかなと思っています。するとバスの時刻を気にせず図書館とかも利用できるし、部活動とかも考えられるかなと思うので」
 
「ああ、特に部活動する場合は、公共交通機関は不便だよね」
 
と教授も言った。キャンパス内の乗り入れ許可は出るはずだから、何かあったら自分に言ってくれと先生は言ってくれた。
 
 
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