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■春始(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-02-26
 
2015年10月10日(土)。
 
青葉たちT高校合唱軽音部の一行は早朝の新幹線で東京に出てきた。この日行われる合唱コンクールの全国大会に参加するためである。一行は部員40名と顧問の今鏡先生、そして教頭先生である。。
 
中学の時には2年生と3年生でこの大会に参加した青葉だが、中学の参加校は24校あったが、高校ではその約半分の13校である。
 
北海道1・東北2・関東甲信越3・中部2・近畿2・中国1・四国1・九州1の代表校が出てきている。
 
そしてその東北から出てきた学校のひとつが、柚女が在籍する岩手県T高校であった。
 
「やっとここで会えたね」
と会場のロビーで遭遇した時、柚女は言った。ふたりは硬い握手を交わした。
 
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「うん。3年生になってやっとここまで来られた」
と青葉は言った。
 
「こちらも3年生になってやっと来れた」
と柚女も言う。
 
柚女の学校は一昨年は東北大会にも進出できず、昨年は東北大会までは来たものの3位で出場できなかった。今年は1位で文句なしの全国大会出場を果たした。
 
「1年生の時は県大会まで、2年生でブロック大会までというのは、こちらと同じだね」
と青葉は言う。
 
「うん。部を育てるのにそれだけ時間が掛かったんだよ」
と柚女は言う。
 
柚女が入った高校は元々合唱には定評のある学校だったのだが、柚女が加入するまでは、だいたい県内で2〜3位に付けていることが多く、ブロック大会まで行ってもだいたい下位にいた。今年初めて全国大会に出てきたのである。
 
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「こちらは最初入った時は新入生7人を入れて11人しか居なかったから」
「よく、そこからここまで育てたね!」
 
中学の時は、青葉の学校も柚女たちの学校も2年の時と3年の時に全国大会に出てきている。2年の時は青葉たちが9位で柚女や椿妃たちは6位、3年の時は青葉たちが3位、柚女たちは7位(椿妃たちは5位)だった。
 

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しかし高校の部は中学の部とは別世界だなと青葉は思った。
 
技術力のアピールをしようという学校が多い。最初に出てきた私立女子校は無伴奏でかなり難解な曲を演奏した。あまりにも難解すぎたためか拍手はまばらだったが、近くの席に居た美滝が「この人たち凄い」と言っていたので、多分凄い演奏だったのだろうと青葉は思った。
 
2番目に出てきた学校も無調音楽っぽい曲を歌ったが、青葉の耳にはただの騒音にしか聞こえなかった。この曲も美滝は「結構良いね」などと言っていた。3番目に出てきた九州の学校は一転して民謡をアレンジした曲を歌い、青葉は何だかホッとする思いであった。会場の拍手も物凄かった。
 
この学校は自由曲では会場のピアノを使わず持参の電子キーボードで伴奏者は伴奏をしていた。
 
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「ギターとか使うなら分かるけど、キーボードで伴奏するのなら、なんでピアノ使わないのかな?」
と近くで須美が訊く。
 
「音階が違うから」
と青葉と公子が言った。
 
「え?」
「あのキーボードは日本音階に調律してあるんだよ」
「日本音階ってなんか違うの?」
「ピタゴラス音階に近い。ピアノは1オクターブを12等分する平均律で調律されているけど、それだと本来は完全五度となるべきドとソでも響き合わない。日本音階は音と音の周波数を整数比率にしているから、完全に響き合うんだよ」
 
と公子が説明するが
 
「うーん。数学苦手」
などと須美は言っていた。
 
その次に登場したのが柚女たちの岩手T高校で、難曲として知られる「花をさがす少女」を歌った。結構現代っぽい作品ではあるが、先頭の2校が歌った曲などに比べると充分な調性を持つ曲であり、青葉の音楽的感覚の許容範囲だと思った。合唱をする人の間では比較的よく知られている曲でもあるので、まあまあの拍手をもらっていた。
 
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青葉たちは最後の方、9番目に登場する。
 
「えー、緊張してる人?」
と青葉がみんなに訊くと、ぱらぱらと手を挙げる子がいる。
 
「まあここまで聴いての通り、何だか別世界という感じで、私たちみたいに調性音楽やる学校がもしかしたら少数派なのかも知れないけど、敵地で大暴れするつもりで、マイペースで歌おう」
 
と青葉が言う。
 
すると
「調性って何ですか?」
という質問。
 
「気持ち良く歌うってことだよ」
と空帆が言った。
 
「まあ歌うと気持ちいいよね」
と日香理が言う。
 
「要するに自己陶酔して歌えばいいのかな」
「入賞する訳もないし、自分たちの歌を歌おう。ここまで聴いた他の学校の演奏は忘れて」
「しゃぶしゃぶがどこかに飛んで行く」
「モスバーガーくらいなら、私がみんなにおごってもいいよ」
 
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「おお!!」
 
「よし、思いっきり歌って青葉さんのおごりでモスバーガーを食べよう」
 
「よし、行くぞ」
 

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そんな雰囲気で青葉たちは出て行き、整列した。今日は譜面を指揮台に置いてくるのはメゾソプラノの公子がした。
 
まずは課題曲を歌う。何だか凄いのか凄くないのか全然分からない演奏が多かったこともあり、良い具合にみんな自分たちの世界に入り込んで歌うことができた。青葉はこれ結構良い感じの演奏ではなかろうかと思った。
 
希が琵琶を取ってくる。さすがに会場がざわめく。
 
パラーン、パララーンという強烈な琵琶の音に続いて翼のピアノ、そして歌唱が続く。ここまでの演奏曲目には無かった、リズミカルな曲である。ここまで物凄く緊張感のあった会場の空気が突然やわらいだような感覚があった。会場の中で誰かが手拍子をし始め、それが伝染して、青葉たちはまるでポップス系コンサートのように、大きな手拍子を聴きながら歌った。手拍子が来たことでメンバーたちの気持ちのノリが更に良くなった。
 
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終曲。
 
手拍子が拍手に変わり、会場内が一種の歓喜に包まれた。
 
青葉たちは会場の参加者たちに向かって大きく礼をしてから下がった。
 

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「でも女声合唱なのに男子が入っていたのは変に思われなかったかな」
などと吉田君が言っている。
 
「何を今更」
と多くの声。
 
「性転換したと思われたかもね」
という声もある。
 
「それって男子が女子に性転換したから女性として参加しているのか、女子が男子に性転換したから男子制服を着ているのか」
「うーん。よく分からない話だ」
 
その後、メンデルスゾーンの曲を合唱に編曲した学校が歌い、これも大きな拍手をもらっていた。やはり聴いている側は調性のある曲に反応が良いように青葉は思った。
 
そして最後の学校は無調音楽だったのだが、無調でもこの学校の演奏は素晴らしいと青葉でさえ感じる、とても素敵な演奏をしてくれた。ここは昨年準優勝だった学校らしい。
 
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13校全ての演奏が終わり、審議に入る。
 
審議は10分ほどで終わって審査員長が壇上に上がった。最初に総評を述べるが審査員長さんは、世の中には色々な音楽があっていいんだということを言っていた。調性音楽も無調音楽もそれぞれ良い所があるし、西洋音楽も日本音楽もそれぞれの魅力がある。クラシックも美しいしポップスも楽しい。自分の心を柔軟にして、いろいろな音楽を楽しんで欲しいといったことを述べた。
 
そして成績発表と表彰に入る。
 
1位は最後に歌った学校であった。これにはみんな納得する思いだった。無調音楽に抵抗感のある青葉にさえ、この学校の演奏は素敵に聞こえた。
 
そして2位は九州代表の民謡をアレンジした学校であった。この学校は課題曲はちゃんと西洋音階で歌い、民謡はちゃんと日本音階で歌っていたのだが、そのあたりの技術的なものも評価されたかなと青葉は思った。
 
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「そして3位です。中部地区代表、富山県のT高校」
 
青葉の周囲で「きゃー」という声が上がる。隣に座っていた空帆が「やった!」と言って、いきなり青葉にキスする。青葉はその空帆を連れて席を立ち、美滝や公子に美津穂たちとも握手して前に出て行き、壇に登る。3位の賞状を青葉が、そして銅色の楯を空帆が受け取った。
 
青葉と空帆で握手し、賞状と楯を掲げて喜びを表現した。
 

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席に戻ってくると
「これでしゃぶしゃぶ食べられるね」
などと須美が言っている。
 
「あ、そういえばそうだったね」
「今日がモスバーガーで、連休明けにしゃぶしゃぶかな」
 
あはは・・・・。私が言ったモスバーガーというのも有効なのか!?
 

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大会後の交流会で柚女が言っていた。
 
「結局さ、どんなジャンルの曲を選択するかより、その曲をどこまで深く解釈するかというのが大事なんだろうね」
 
「そういう意味では深みのある曲を選択した方が高得点の可能性が出てくるよね。メンデルスゾーンなんかその可能性があった」
 
「うん。でもあそこの解釈はごく普通だった。10年歌い続けたら深い解釈できたかも知れないけどね」
 
「高校生は3年で卒業しちゃうから」
 
「私たちの曲は少し難しすぎた。私自身もあの曲は難解だと思った」
と柚女は言う。
 
「解釈以前にあの曲は技術的に難しいからね」
と青葉。
 
「うん。だからそれを歌いこなせば評点は高くなるかなという計算もあったんだけど、東北大会までは技術力の評価だけで来られたけど、全国大会ではそれは通用しなかったね」
 
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「私たちの曲なんて技術的には難しい所は無い。最初から解釈勝負」
と青葉は言う。
「でも、その解釈が物凄く深かった。曲の解釈という面で言うと、青葉たちの学校が断トツだったと思うよ」
 

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「柚女は高校卒業後はどうするの?」
「分からないけど大学の女声合唱団とかに入るかも。青葉は?」
「私も全然分からない。中学高校では部活に燃えたけど、大学では部活までする時間の余裕が無いかも知れないという気がして」
 
「大学は何学部行くんだっけ?」
「法学関係」
「邦楽って民謡とか?」
「違う違う。法律とか」
「ああ、そっちか。かなり忙しそうだね。弁護士になるの?」
「霊能者で弁護士ってのもあり得ないかなあという気はする」
 
「そっかー、青葉、霊能者のお仕事が忙しいから」
「実はそうなんだよね。高校在学中は基本的に全部お断りしてたんだけど、それでも年に10件以上は処理している気がする」
 
「たいへんだねー」
「一応法学関係を出た後、どこかの放送局のアナウンサーとかになれないかなと思ってて。だからアナウンススクールとのダブルスクールかな」
 
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「へー」
「柚女は何になるの?」
「お嫁さんかなあ」
「旦那のあては?」
「どこかにいい男落ちてないかな?」
「あまりその辺に落ちているものではないと思うけど」
 

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大会が終わった後、青葉は
「約束だから、全員にモスバーガーおごるよ」
 
と言ったのだが、今鏡先生が
「それひとりじゃ大変だよ」
と言って今鏡先生も五千円出してくれた。教頭先生はみんなにコーラをおごってくれた。
 
「でも教頭先生、私たちはしゃぶしゃぶを楽しみにしています」
「高岡に帰ってからね」
と言って教頭先生は笑っていた。
 
「奥さんに叱られません?」
「大丈夫、大丈夫」
 

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みんなはその日の夕方の新幹線で高岡に戻るのだが、青葉はひとり他の部員とは別れて恵比寿の冬子のマンションに行った。
 
「お疲れ様。どうだった?」
「3位でした」
「おお、おめでとう!」
 
「いや、なんか難しい曲を演奏する所が多くて、場違い感を感じながらも歌ってきましたよ」
 
「技術的なものに走りすぎると、音楽は難解になるよね。私なんかは楽しんでこそ音楽だと思っているから、できるだけ楽しい音作りをしているけど、ひたすら泣かせる歌を追及している人もいるし、人それぞれかもね」
 
「そうそう。審査員長さんも色々な音楽があっていいんだと言っておられたんですよ」
 
「まさにそうだと思うね。音楽って、最低限の技術は必要だけど、そこから先は単なる好みの問題になっていくんだよね」
 
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「そうなんでしょうね」
 
「もっとも今の世の中、その最低限の技術のない音楽家が多すぎるけどね。大衆音楽でもクラシックでもね」
「あぁ・・・」
 

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その後、その日10日の夜から12日夜に掛けてローズ+リリーの『ダブル』という曲の音源制作に参加した。
 
楽器を二重化しており、近藤さんと宮本さんのギター、鷹野さんと香月さんのベース、月丘さんと山森さんのキーボード、秋乃さんと今田七美花さんのフルート、そして七星さんと青葉のサックスである。
 
今田七美花さんは冬子さんの従姪で槇原愛・篠崎マイの妹の高校1年生だが、フルートが物凄くうまかった。以前にも聴いたことはあったのだが、前よりもかなり進化している。
 
「凄いですね〜」
と言っていたら、
「この子サックスも上手い」
と七星さんが言う。それで吹いている所を聴かせてもらったら凄かった。
 
「私、高岡に帰りたくなった」
「まあまあ、そう言わずに」
 
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「でも私、笙(しょう)がいちばん好きなんですよー」
と本人は言うので、それも聴かせてもらったら、本当に凄かった!!
 
「この子の笙をフィーチャーして何か曲を作りたいね」
などと冬子は言っていた。
 

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