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■春始(8)

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そんな感じで理歌に励まされはしたものの、やはり貴司が結婚してしまったという喪失感は大きく、千里はしばらくボーっとした日々を過ごしていた。心ここにあらずという雰囲気の千里を見て、桃香は「気分転換も兼ねて、うちの実家に来ない?」と誘い、ふたりは高岡の桃香の家にしばらく滞在することになった。
 
そんな中、青葉が関わった案件でクライアントが持っていた様々な「怪しげなグッズ」を高野山で処分することになり、青葉は千里に高野山まで車を運転して欲しいと言った。しかし千里はまだ貴司の結婚のショックから立ち直っておらず「運転に自信が無い」と言ったので、車(朋子のヴィッツ)は結局桃香と無免許の青葉が交代で運転し、千里は助手席に座っていた。
 
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高野山から帰ろうとしていた時、貴司からのメールが着信する。ちなみに着メロは岡村靖幸の『バスケットボール』に変更してある。歌詞の内容は「友だちじゃなくて恋人になろうよ」というものなので、これを知られていると結構やばいのだが、洋楽しか聴かない桃香はまさかこの曲の歌詞は知るまいと思って千里はこの曲を貴司からのメール着信に設定している。
 
《話が面倒なので電話で直接話したい》
とある。
 
仕方ないので千里は青葉と桃香から少し離れて電話を掛ける。桃香が嫉妬の目でこちらを見ている。
 
「実は例のヴァイオリンを引き取って欲しいんだ」
「うーん。いいけど、何で?」
「いや、阿倍子にヴァイオリンを見られて弾くのかと言われるんで、もう長いこと弾いてないから弾けないと言って。それで話している内に、つい最近まで千里が持っていたことを言っちゃって」
 
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ああ、貴司って適当な嘘つくの下手だもんな、と千里は思う。
 
「それで彼女からもらったものをここに置いて欲しくないというからさ」
「いいよ。じゃ引き取りに行くよ」
 

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それで千里は、自分はちょっと大阪に寄って帰りたいから桃香と青葉は先に帰っておいてと言ったのだが、桃香が
 
「千里が大阪に寄るなら自分も同行する」
などと言い出す。
 
千里はそれって結果的に自分にとっても都合が良いなと思った。
 
それで結局大阪までヴィッツで一緒に出た後、青葉はサンダーバードに乗せて帰して、千里と桃香の2人で千里(せんり)の貴司のマンションを訪れる。桃香が車でマンションの車庫口に付けてから、千里が貴司に電話すると貴司が入口のシャッターを上げてくれるので中に入る。
 
「来客用駐車場はどこかなぁ」
「確か入って右手奥の方にあった気がする」
 
などと言いながら少し場内を回っていて、やがて見つけたのでそこに桃香が駐める。それでエレベータで33階まであがり、3331号室の外で再度携帯に掛けると、貴司がドアを開けてくれたが、桃香も一緒なので驚いているよう。
 
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千里と桃香は
「お邪魔しまーす」
と言って中に入っていった。阿倍子が千里の顔を認めて厳しい顔をするが、千里はポーカーフェイスである。
 

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「中学のバスケ部の先輩なんだよ」
と千里は桃香に説明した。
 
「へー。バスケットしてたんですか?」
と桃香が阿倍子に訊くので
 
「いえ、私はスポーツは何も・・・」
と阿倍子。
 
「私の先輩は貴司さんの方だよ。奥さんが男子バスケ部に入る訳ない」
と千里。
 
「あ、そうか。時々、千里が元は男だったことを忘れてしまう」
と桃香が言うが、それで阿倍子はびっくりしたようにして
 
「うっそー!? あなた男性だったんですか?」
などと阿倍子。
 
「ええ。ですから私、高校時代はバスケのために髪は五分刈りにしてたんですよ」
と千里が言うと
「そういえば、そんな話は聞いていた」
と桃香も言う。
 
「中学は同じだったんですけど、高校は別の所になって。インターハイの道予選の決勝でぶつかったんですよね」
と千里は言う。
 
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「へー」
と桃香は感心している。阿倍子も
「そんなことがあったんですか」
と言っている。
 
「結果は貴司さんの勝ちで、貴司さんたちの学校がインターハイに出場しました」
と千里。
 
「まああの試合は既に代表は1校決まっていて、僕たちのチームと千里のチームで勝ったほうが2番目の代表校になれるという試合だったからね」
と貴司も言っている。
 

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「このヴァイオリンは、元々僕が小学生の頃に弾いていたものでさ、千里がヴァイオリン弾くのに楽器持ってないと言ってたから、自分はもう弾かないからあげるよと言ってあげたものなんだよね。でもその後、何度か色々な経緯で僕の所に来たり、千里の所に行ったりしていたんだけどね」
 
と貴司は説明する。
 
「だから、これは僕と千里の友情の印みたいなものかな。僕と千里の関係は基本的にはバスケの先輩・後輩の間柄だから。まあ千里が女になってしまったから、会って話したりしてると、たまに誤解する人もあるみたいだけどね」
 
と貴司は更に言った。
 
しかし阿倍子はその言葉を完全には信用していないようにも見えたし、桃香もまたそれを信用していないように見えた。阿倍子は多分自分が元は男だったということを信じてない感じで、桃香は自分と貴司がただの先輩後輩の関係だということを信じてないようにも見えた。
 
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そういう訳で千里はヴァイオリンを貴司の所から引き取って高岡に戻ったのだが、帰り道は桃香ひとりで運転したので、途中休憩が必要になる。女形谷PAで休憩して桃香が仮眠していた時、千里はそっとヴァイオリンの共鳴胴の中から、1枚の紙を取り出した。
 
読んでみて微笑む。そしてその紙をそっと自分のバッグの内ポケットにしまいこんだ。
 

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9月21-22日、大阪では近畿実業団バスケットボール選手権が行われていた(決勝は10月12-13日)。貴司のチームもこれに出場していたが、千里はこれを観戦に行っていた。そして試合が終わった後、これまでも毎月レストランで会っていた大阪市内のNホテルに行く。
 
「予約していた細川です」
と名乗り、部屋の鍵をもらって上に上がる。貴司も30分もしないうちにやってきた。
 
貴司が部屋の中に入ってくると、千里はいきなり貴司にキスをした。
 
「メッセージに気づいてくれたね」
と貴司が言うので
 
「当然」
と千里は答える。ヴァイオリンの中に入っていた紙には、貴司の書いた下手な(?)短歌と、9.22 17:00という日時だけが入っていたのである。場所は書かれていないものの、いつもふたりが会っているこのホテル以外には考えられなかった。
 
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ちなみにヴァイオリンが千里と貴司の間でやりとりされる度にお互い詩とか短歌とかを書いた紙を入れておくのはふたりの「暗黙の約束」で、実はこれは中学高校の時にずっとやっていた交換日記の続きなのである。
 
「セックスしてもいい?」
といきなり言う貴司に千里は吹き出す。そして通告した。
 
「結婚している人とセックスなんてできません」
 
「え〜〜!?」
 
それで貴司は自分が阿倍子の前ではどうしても立てることも射精もできないことを言う。
 
「ひとりでは出来るの?」
「それもできない」
 
「やはり、男性機能が消失したのね。いっそ性転換手術して女になって」
「その話はもう勘弁してよ」
 
「私とセックスして自分に男性機能があるかどうか確認したいの?」
「それもあるけど、僕は千里が好きだから」
 
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「新婚ほやほやの男性の言葉とは思えないなあ」
と言いつつ、千里は貴司のズボンを下げてしまう。
 
「あ・・・・」
「じゃ男性能力の確認だけしてあげよう」
と言って千里は貴司のそれを握ると手を動かし始めた。
 
「ごめん。痛い。もう少し優しく握って」
「軟弱だなあ。もっと鍛えなよ」
と言いつつも少し握る力を弱くする。
 
実は千里は男性時代にオナニーの経験が無いので、どのくらいの力で握ればいいのか、どのくらいのスピードですればいいのかの見当が付かないのである。
 
貴司は途中で立っていられなくなってベッドに腰掛けた。そして貴司は結局3分ほどで逝ってしまった。
 
「できた。やはり僕はちゃんとできるんだ」
と言って貴司は到達したこと自体を嬉しがっているようだ。
 
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「緋那さんの時もそうだったね。貴司、きっと女性の前では立たないんだよ。もしかしてホモじゃないの?」
 
「男には興味無い」
「ほんとかなあ。昔からそれ怪しいと思ってたけど」
 

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「でも阿倍子さんとセックスしてもらわないと京平が生まれないよ」
と千里は言う。
 
「その件だけど、こないだ7月に会った時はとても言えなかったんだけど」
と言って貴司は、阿倍子が不妊症で、それが原因で前の夫からも離婚されたことを初めて話した。
 
なるほど、京平の母親は阿倍子さんではないかも知れない気はしていたけど、そういうことだったのかと、千里はここで初めて納得した。しかしそれでは困る。阿倍子さんと貴司の結婚を容認したのは、自分の代わりに京平を産んでもらえるならという気持ちがあったのに。
 
「それでさ、阿倍子とは結婚前からそういう話をしていたんだけど、人工授精を試みたいんだよ。でも僕、ひとりでは射精することができなくて」
 
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「まさか、採精するのに、私に手伝ってくれとか言わないよね?」
「いや、まさにそれを頼みたいんだ」
 
「阿倍子さんにおちんちん握ってもらった?」
「それは試したけど、やはり大きくならない」
「困った子だねえ。やはりここはもう役に立たないおちんちんは手術で除去して」
「だからその話は勘弁してよ。とにかく僕の精子を出さないことには人工授精もできない」
 
「まあいいよ。私の子供を作る為だもん」
 

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そういう訳で、結局このあと貴司と千里は毎月1回、このホテルで密会しては千里が手で採精用の容器に出してやるということをするようになったのであった。これは結局妊娠が成功する2014年10月まで1年間続くことになる。ただし受精の方法は、最初精液を阿倍子の子宮に投入する人工授精方式で行っていたものの、途中で試験管内で受精させて受精卵を子宮に投入する体外受精方式に変更された。
 
つまり阿倍子が採卵台に寝て激痛に耐えながら卵子の採取をしている時に貴司は千里との逢瀬で月に1度限定の快楽を味わっていたのであった。
 
受精卵の分裂がすぐ止まってしまうことから阿倍子の卵子に貴司の父や従兄の精子を受精させてみる試みもしたのだが、その時千里は冷凍保存していた自分の精子を持ち込み、これも使ってみてと言った。自分が京平の母親になれないなら、父親になる選択もあるかと思ったのだが、この受精卵は多数試してみた組合せの中で唯一正常に分裂をしてくれた。しかし子宮に投入しても着床してくれなかった。
 
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そしてとうとう貴司たちは阿倍子の卵子を使うことを諦める。それで貴司は千里に頼んだ。
 
「千里の卵子を貸してくれないか? うまい具合に阿倍子も千里もAB型だから、子供が生まれて育った時に親と血液型が合わないことに悩まなくて済むだろ?」
 
その時、突然美鳳が千里の中に入り込んで貴司に言った。
 
「誰かは明かせないけど、阿倍子さんと同じ血液型の女性に提供させる。ただその採卵する時に貴司はその病院には近寄らないで欲しい」
 
千里自身は「へ〜」と思いながら美鳳が自分の身体を借りて言うことばを聞いた。
 
「分かった。それでいい」
と貴司は言った。
 
美鳳がそう貴司に伝えた時、千里はいったい誰の卵子を借りるのだろうと思っていたのだが、美鳳から「あんたが採卵台に寝なさい」と言われた時、千里は驚愕した。
 
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「でも私に卵子がある訳ないじゃないですか?」
「私が寝なさいと言うんだから、そうしなさい。何とかするから」
 
まあ神様が言うのなら何とかなるのだろうと思い、軽い気持ちで千里は採卵台に寝たのだが、あまりの痛さにたまらず声を挙げた。しかも最初は失敗する。
 
「やめますか?」
「いえ、再度してください」
 
と言って2回目からは激痛に耐える。そしてその日は6回目に採卵に成功したものの、最初の体外受精は胚が子宮に着床せず失敗に終わった。
 
翌月もまた採卵をするが、この時、千里は「京平の身体をつくるためだ。自分が頑張らなくてどうする?」と強い覚悟で臨んだ。この時、千里は一度も弱音をはかず、医師が感心していた。この日は4回目に採卵は成功した。
 
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そして育った胚を阿倍子の子宮に投入する時、青葉に頼んで気を送ってもらった。その結果、着床は成功し、胎児が阿倍子の胎内で育って行くことになる。しかし妊娠が成功して以来、千里は自分の体質が変化していることに気づき、美鳳に尋ねた。
 
「まあ細かいことは明かせないけど、京平は実際には阿倍子さんと千里が共同で妊娠しているような状態にある。だからhcgホルモンとか、今千里は凄い高い状態にあるはずだよ。そのhcgの出を調整してくれている青葉も含めると3人で協力して妊娠している状態かな。青葉はホルモン量変化してないけど」
 
「私、バスケしても大丈夫ですか?」
「京平の本体は阿倍子さんの体内にあるから大丈夫だよ。でも水分補給とかしっかりしてね。睡眠も充分に取って。あんたが体調崩すと、それは妊娠に影響するから。今年はふたりとも風邪やインフルエンザにかからないよう、サービスで守ってあげるけどさ」
 
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「よく分かりませんけど。でも採精で男は快楽を味わって、採卵で女は激痛を味わうって絶対不公平ですね」
と千里は言った。
 

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千里はハッとして目が覚めた。
 
京平はお乳を吸いながらこちらを不思議そうな顔で見ている。この子は本当に表情の豊かな子だ。
 
京平に授乳している内に自分が眠ってしまったようだが、時計を見ると10分も経っていない。それにしては長い夢を見ていたなあと思った。貴司は結局阿倍子が不妊症に悩んでいて自殺しそうなのを防ごうとしている内に彼女と結婚したということのようである(貴司の説明)。しかし彼女が不妊症であったがゆえに、千里が子作りに協力することになり、結果的に千里は貴司の実質的な妻の座に復帰してしまった。最近は貴司と阿倍子は寝る部屋も別々だと貴司は言っていた。
 
「離婚して欲しいけど、京平がある程度の年齢になるまでは阿倍子さんも絶対京平を手放さないだろうなあ」
 
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などと独り言を言いながら京平を見つめる。千里の理想としてはふたりが離婚して京平は貴司が引き取るケースであるが、日本では子供が幼い場合、母親が親権を取るケースが圧倒的に多い。京平をこちらに取れないのは困る。千里としてはわりと貴司はどうでもいいから京平だけ欲しいくらいだ。
 
京平は久しぶりに千里からおっぱいをもらってご機嫌な様子でニコニコしている。
 
 
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春始(8)

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